狼と兎の幸福論【第一部】

舞々

文字の大きさ
26 / 36
第三章 狼の涙が枯れた時

狼視点④

しおりを挟む
 スマホが着信を知らせていた。その音で目が覚める。


 最近ちゃんとした睡眠がとれていない。
 体がどんどんボロボロになってるのがわかる。それ以上にボロボロなのは心だけど……。
 スマホの画面を見れば莉久からの着信で、ズキンズキンと心が痛んだ。
  

 ふと、昨夜莉久は:航(わたる)を抱いたのかな……って思う。そんなこと考えたら、苦しくなるだけなのに。考えずにはいられなかった。


「もしもし」
 唸るような声で電話に出れば、
「ちょっと家に来れるか?話があるんだ」
 すごく真剣な莉久の声が聞こえる。
「わかった……すぐに行く」
 大きく溜め息をついた後、重い体を引きずって莉久の家を目指した。


「おはよう」
 重たい扉を開ければ、莉久が優しく出迎えてくれた。
「おぅ」
 泣き腫らした顔を見られたくなくて、莉久の顔を直視できなかった。


 無意識に航の姿を探してしまい、それに気付いた莉久が「寝室で寝てるから心配するな」って頭をクシャクシャッと撫でてくれた。
「別に、航のことなんか……」
 

 強がって見せたけど、本当は会いたくて、顔が見たくて……今にも走り出したい衝動を必死に堪えた。
  
 
 寝室のドアを開けられ、背中をそっと押されれば、スヤスヤと眠る航を見つけた。
 たった一晩離れていただけなのに、もうずっと会っていなかったような気がする。
 そんだけ、航の傍にいられないことが寂しくて悲しくて仕方なかった。


 傍に行って、航に触れようとした瞬間……少しだけ躊躇ってしまった。
 もしかしたら莉久に……。
 そう考えると全身の力が抜けて、俯いたまま動けなくなってしまった。


「大丈夫だ、昨日俺は航に何もしてない」
 その言葉を聞いて、俺は弾かれたように莉久を見上げた。
「嬉しそうだな」
 莉久が喉の奥でククッて笑った。
「薬のせいなのかな……フェロモンも出てないけど、ああやってずっと寝てる」


 寝ている時は、Ωの悲しみも苦しみもない。
 可愛い可愛い寝顔で眠り続ける航にそっと近寄る。恐る恐る頬に触れれば温かくて……。
 ただそれだけなのに、アホみたいに切なくなった。


 少し前に航が俺に囁いた言葉を思い出す。
 あの時は、あまりにも唐突なその言葉にただ動揺してしまって……ちゃんとその意味を考えることもできなかった。
 でも、今なら。


「莉久……悪いんだけど、航と二人きりにしてくんねぇかな?」


 莉久を振り返り、笑いながらお願いをした。
 そんな俺の笑顔を目を見開いて見つめた後、何かを言いたそうに口を開いたけど、それは言葉にはならなかった。
「わかった……」
 何かあったら呼んでくれよな、って言い残して莉久は部屋を出て行った。
 静まり返った室内に取り残された、俺と航。


『ねぇ、寛太……一緒に死のうか?』


 あまりにも自然に、あまりにも可愛らしく言われた言葉の意味が良くわからなかった。
 だから、キスをすることではぐらかした。
 深く追及したらいけない。そんな気がしたから。


 でも今なら、あの時のお前の気持ちがわかるよ。
 本当に辛かったんだね。死に憧れる程、苦しかったんだね……。
 なんであの時、ちゃんと話を聞いてあげられなかったんだろう、って今更ながら後悔する。


 そっとベッドに乗れば、ギシギシッと軋む。
 俺は航に股がり、そっと首に両手を回した。
  





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とろけてまざる

ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで── 表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

二人のアルファは変異Ωを逃さない!

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
★お気に入り1200⇧(new❤️)ありがとうございます♡とても励みになります! 表紙絵、イラストレーターかな様にお願いしました♡イメージぴったりでびっくりです♡ 途中変異の男らしいツンデレΩと溺愛アルファたちの因縁めいた恋の物語。 修験道で有名な白路山の麓に住む岳は市内の高校へ通っているβの新高校3年生。優等生でクールな岳の悩みは高校に入ってから周囲と比べて成長が止まった様に感じる事だった。最近は身体までだるく感じて山伏の修行もままならない。 βの自分に執着する友人のアルファの叶斗にも、妙な対応をされる様になって気が重い。本人も知らない秘密を抱えたβの岳と、東京の中高一貫校から転校してきたもう一人の謎めいたアルファの高井も岳と距離を詰めてくる。叶斗も高井も、なぜΩでもない岳から目が離せないのか、自分でも不思議でならない。 そんな岳がΩへの変異を開始して…。岳を取り巻く周囲の騒動は収まるどころか増すばかりで、それでも岳はいつもの様に、冷めた態度でマイペースで生きていく!そんな岳にすっかり振り回されていく2人のアルファの困惑と溺愛♡

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

生き急ぐオメガの献身

雨宮里玖
BL
美貌オメガのシノンは、辺境の副将軍ヘリオスのもとに嫁ぐことになった。 実はヘリオスは、昔、番になろうと約束したアルファだ。その約束を果たすべく求婚したのだが、ヘリオスはシノンのことなどまったく相手にしてくれない。 こうなることは最初からわかっていた。 それでもあなたのそばにいさせてほしい。どうせすぐにいなくなる。それまでの間、一緒にいられたら充分だ——。 健気オメガの切ない献身愛ストーリー!

オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました

こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

処理中です...