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幕間 アニエスの場合
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と、まぁ、そんな感じで俺の逃げる旅が始まった訳なんだが…………え?勇者と別れた後のアニエス達がどうしてたか?いや、それは俺は知らんよ、あっちに聞いてくれ。
ガヤガヤガヤ、ザッザッザッ。
はい?………え?勇者と別れた後の話を聞きたい?そ、それはちょっと………あっちでクロがみんなに話してる?もう!クロまたそんなことを!………カティが言ってきてくれるの?大丈夫?わかったお願いね。
えっと、コホン、クロと別れた後の話くらいですか?ええ、もうクロが話してしまったなら仕方ありません、少しだけですよ?あまり面白くありませんからね?え?他の人も呼ぶんですか?えー、あまりおおっぴらにしたくないんですけど………。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「っ!ま、待ってクロ!お願い待って!」
あと少しで届きそうなのに、クロは消えてしまった、恐らく転移の魔法だろう。
「うっ、うぅっクロぉ……」
思わず泣き崩れてしまう私。
「くっ、うぅ、あぁ、お前の、お前のせいだ!」
「ぐふぁ」
ゴスッと言う鈍い音が聞こえた、カティが勇者を殴った音だった。
「お前のせいでお兄ちゃんは!」
「ぐえぇ」
ドスッと言う音が聞こえた、コレットが勇者の腹を蹴りあげたらしい。
「二人ともやめなさい、それ以上は死んでしまうわよ」
見かねたのかエマさんが二人を止める。
「止めないでよエマ姉!こいつがこいつが居たからお兄ちゃんは、お兄ちゃんはぁ」
目に涙を溜めて勇者を蹴り続けるコレット、気持ちが分かるから私は止めようと思わない。
「彼には相応の罰を受けてもらいます、死ぬより辛い罰を………」
エマさんが冷たく言い放つ、あぁ、そう言うことね。
「アニエス、これからどうするの?」
「これから……」
エマさんから聞かれるが、上手く頭が回らない、どうするんだっけ?えっと、魔王倒して……違う、勇者が居なくなったから……あれ?居なくなったのは勇者だっけ?あ、違う居なくなったのはクロだから……。
パン
考えが纏まらない頭で考えていると、頬に痛みが走った。
「確りしなさい!クロを失って辛いのはあなただけじゃないの!」
……そうだ、まずは王都に戻らなきゃ、それからはどうなるかわからないけど、とにかく動かなきゃ。
「カティとコレットは勇者を縛って、逃がさないようにお願い」
「……わかった」
「……はい」
二人はまだ納得いかないのかしぶしぶ勇者を縛り始める。
「エマさん、王都に帰るだけの食糧はありますか?」
「ギリギリね、できれば近くの村によりたいけど……」
エマさんがちらりと勇者を見る。
「はい、魅了の力があるなら出来るだけ人目は避けなければなりません」
途中で誰かを魅了、もしくは魅了した誰かに会ったらまずい。
「なら、出来るだけ村にはよらず真っ直ぐ王都へ、どうしても無理な場合は、私達のうち誰か一人で村に行って買い出しをしましょう」
「そうね、それが一番かしら」
とりあえずの方針を立て、その夜はテントの外で寝た。え?テントの中じゃなく外で寝た理由ですか?簡単ですよ、あんなテントで寝たく有りません、私達はあのテントで何をしていたか知ってますから。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
翌朝、私達はテントを燃やして王都に出発しました。
「ほら、早く歩け!」
後ろから勇者を蹴るカティの声が聞こえます。勇者は手を縛られ、猿轡と目隠しをされて歩かされています。
その為歩くのが遅くなり縄を持つカティがイライラしています。
「この分だと時間が掛かりそうですね」
「そうね、王都まで二週間って所かしら?」
「………ねぇ、やっぱりお兄ちゃんを探そうよ!」
それは誰もが思った願望でした。
「………コレットちゃん、それはできないの」
「どうして!?王都に行くよりもお兄ちゃんを探す方が大事でしょ!?」
「探したいけど探せないの、何処に行ったかわからないのよ」
エマさんの言葉に俯くしかできないコレット。
「…………」
「まずは王都まで行って、情報を集めましょう」
王都はこの国で一番人が集まる場所、必然的に情報も集まる。ひょっとしたら何処かでクロを見たと言う人が居るかもしれない。
「さあ、行きましょう」
それから二週間、私達は歩き続けた、王都に着いた頃にはくたくただったが、休んでもいられない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
王都に着くと直ぐに王城に行き、国王様にお目通りをお願いした、旅立ったはずの勇者が仲間に拘束されているため、事態を重く見た兵士が直ぐに通してくれた。
通されたのは謁見の間ではなく執務室、こちらにとっては都合が良かった。
「おお、聖女アニエス様!よく来られた!」
がっちりとした体型の国王陛下、民衆に称えられる善き国王、戻って来れた安堵からか、少し疲れが出る。
「突然の来訪申し訳ありません陛下」
「いや良い、疲れているだろう?良かったら座りなさい、お茶を出そう」
促されるまま腰掛けるとメイドさんがお茶を出してくれる。
「さて、お話を伺おう、勇者殿のその出で立ちは?錬金術師殿はどちらに?」
「はい、実は………」
私はここまでに起きた事を説明し、陛下は頭を抱えた。
「まさか勇者殿がそんな事を………」
「勇者には厳罰を要求します」
「し、しかし………」
勇者を牢に入れるのは難しいのだろう、だが。
「この勇者を野放しにするのは危険です、今取締らなければ大変な事になります」
「うーむ………わかった、勇者殿には牢に入って頂こう」
陛下は兵士を呼び、勇者は牢に連れていかれた。
「勇者殿がこんな事になるとは………今後については明日改めて話し合いの場を設けよう、今日の所は城でお休み下さい」
陛下に言われるまま、城の客室で休む事にしました、正直無理な移動で限界でしたので有り難いです。
城で一夜を明かし翌朝、城に一報が届きました。
『何者かが魔王倒しその亡骸を持ち去った。魔族一部が新しい魔王になるためにあちこちで暴れまわっている』
正直、この時私は、いえ、私達はクロが魔王を倒したのではと思っていました、しかし確証はなかったので言う事はしません。加えて、今ならクロの居場所が分かるかも知れない、探しに行けるかも知れないと期待しましたが、それは叶いませんでした。
「聖女様!直ぐに対策会議を開きますので会議室までお越しください!」
私達は元とはいえ勇者一行、国の危機に駆り出されるはめになった。
それから二週間後、意味があるのか無いのか分からない会議が続いていた。
「ここはやはり勇者一行に再度立ち上がってもらい……」
何も理解してない大臣が言う。
「いやいや、勇者殿の手を借りずとも我が軍で……」
手柄が欲しい将軍が言う。
「まずは魔族との対話を……」
前線に立った事の無い官僚が言う。
何れもどうでもいい、好きにすれば良い、私がここに居る意味があるのでしょうか?
最初は元勇者一行全員が居たけど、今は私一人、コレット達は早々に会議に参加しなくなった。
「はぁ……」
溜め息が大きく出てしまう、その事に気付いたのか国王陛下が。
「聖女殿、お疲れですかな?」
陛下の言葉に全員の視線が私に注がれる。
「え、ええ、申し訳ありません」
「いや、構わない………そうですな、聖女殿御一行にはしばらくお休み頂きましょうか?」
「え?休みですか?」
「うむ、幸い新しい魔王はまだ進行を開始していない、今のうちに英気を養ってもらい、有事に備えて頂きたい」
願ってもない申し出に私は快く返事をした。
「畏まりました、では、しばらく休暇を頂きます」
一礼して会議室を出ると、コレット達の借りている客室に向かう。
コンコンコン。
「コレット、私です入りますよ?」
「どうぞー」
声を確認して中に入ると、カティとエマさんも居ました。
「みんな集まっていたのですね」
「ええ、一人で居ても落ち着かないから……」
「それで、会議は?」
首を横に振り進展が無いことを伝えます。
「……じゃあまだここに居なきゃいけないのか」
カティはうんざりしていました。
「いえ、先ほど陛下からお暇を頂きました、しばらくは休暇になります」
「本当!?」
コレットは嬉しそうに声をあげています。
「はい、ですので、良かったら一度みんなでナガの村に帰りませんか?」
私は故郷に帰る事を提案しました、しかし。
『………』
みんなは暗い顔をしていました。
「………ごめんアニエス、あたしは遠慮しとく」
「わ、わたしも……」
「………ごめんなさい」
みんなから出たのは拒絶の言葉だけでした。
「そ、そうですか、で、では、何かあった際にはギルドに連絡を入れます、定期的に確認して下さい」
必要事項の確認をすると、みんなバラバラに城を出ました、クロが居なくなった事で、私達の心はバラバラになってしまったのかもしれません。ひょっとしたら私は故郷に帰る事で思い出に浸り、現実から目を背けようとしたのかも知れませんね。
城を出て馬車に揺られること五日後、ようやくナガの村に着きました。
「ふぅ、まずは家に行きましょう」
家と言っても私達は孤児ですので、教会が我が家です。
「シスター驚くかな?」
教会に着くと直ぐには入らず、扉を叩いてシスターが出てくるのを待ちます。
コンコンコン。
「はい、どちら様?」
「ただいまシスター」
出てきたシスターに挨拶すると。
「あ、アニエス……」
シスターは驚いた後、泣きそうな顔になりました。
「し、シスター?」
ぎゅっと抱き締められ驚きました。
「アニエス、辛かったわね……」
その言葉にどきっとしました、辛かったが何を示しているか直ぐにわかったからです。それと同時に何故シスターが知っているのか?その答えにたどり着きました。
「クロが帰って来てるんですね!?」
カティ達は村には帰らないと言っていました、なら、答えは一つだけです。
「ええ、でも今は……待ちなさいアニエス!」
「離して下さいシスター!私はクロに」
「今はまだ会わない方がいいわ、あなた達には時間が必要なのよ」
「っ……!」
シスターの静止を振り切り私は駆け出しました。
「待ちなさいアニエス、アニエス!」
シスターの声を遠くに、私は彼の研究所に行きました。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
コンコンコン。
胸の高鳴りを抑えて扉を叩きます。
「はい、誰ですかっと………」
扉の向こうから彼の声が聞こえます。
「ひ、久しぶりクロ……」
「アニエス……」
開かれた扉からは驚きと嫌気が混ざった彼の表情がありました。
「クロも帰って来てたんだね、シスターに聞いてびっくりしちゃった……」
「ああ、まぁ、ね……」
少しだけでもいい彼の声が聞きたい、彼のそばに居たい。
「私もね、休暇を貰って帰って来てたの、また旅に出なきゃ行けないから………」
「そう………」
お願いまだ扉を閉めないで。
「本当はね、カティ達も誘ったんだけど、みんな辛いからって、断られちゃった……」
「…………」
もう少しだけ、あと少しだけ………。
「い、今ね、王都では、すごい騒ぎに」
「もういいかな?忙しいんだ」
拒絶の言葉が胸に刺さります。
「あ、ご、ごめん……」
「じゃあ……」
「あ、あの、明日も来ていいかな?……」
来ていいと言って欲しかった、淡い期待は。
「…………」
バタン。
扉を閉める音に掻き消されました。
泣いちゃダメだ、泣きたかったのはクロなんだから、自分に言い聞かせ、教会へ戻りました。
その夜、やけに部屋の外が明るく、朝陽が登る前に起きました、窓を開けると燃え盛る炎が見えました。
「か、火事?え?でも、あの方向は……」
血の気が引くの感じつつ、寝間着のまま部屋を飛び出しました。
「あ、あぁ、あぁぁ……」
近くに行くと炎の熱気が肌に伝わります、これは夢じゃない、間違いなく燃えている、彼の家が。
彼が師から受け継いだ大切な家が。
いつの日か一緒に暮らそうと言った彼の家が燃えている。
………はっ、そうだ、彼は?クロは何処に?
慌てて周りを見回しました、住民が騒ぎを聞き付けて集まって居ますが、その中に彼の姿は無かった。
「っ!!クロ!クロぉ!!」
まだあの中に取り残されているかもしれない、そう思った時私は炎の中に飛び込もうとしました。
「アニエス!」
炎に駆け出した瞬間シスターに止められました。
「は、離して!クロが!まだ中にクロがぁ!」
「落ち着いてアニエス!」
「いやぁ!クロ!クロぉ!」
「もうクロは居ないわ!クロは村を出ていったの!」
え??一瞬シスターが何を言ってるか分からなかった。
「クロは?」
「クロはね、もうこの村には帰って来ないの」
帰って来ない?村に?だから家を?それって………。
「私の、せい?」
「アニエス……」
「また、私が、奪ったの?クロから、家を、帰る場所を?」
私が会いに来なければ、私が村に帰って来なければ、クロは家を燃やさずに済んだの?帰る場所を、失くさずに済んだの?
「あ、あぁ、うわぁぁぁ!」
その夜、私は腕に填められている銀の腕輪を抱きしめ、声が渇れるまで泣き続けた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
はい、今日はここまでです、さぁ、皆さん休みましょう!明日に差し支えますよ!………え?続きですか?う、うーん、き、気が乗りましたら、あ、あまり思い出したくないので、本当に気が乗りましたら話します、あっ、ほら、向こうでクロが面白そうな話してますよ、行ってみたらどうでしょう?
………ふぅ、何とか乗りきりました、うぅ、やっぱりこの話は身体に悪いです、エマさんに胃薬を貰いに行きましょう。
ガヤガヤガヤ、ザッザッザッ。
はい?………え?勇者と別れた後の話を聞きたい?そ、それはちょっと………あっちでクロがみんなに話してる?もう!クロまたそんなことを!………カティが言ってきてくれるの?大丈夫?わかったお願いね。
えっと、コホン、クロと別れた後の話くらいですか?ええ、もうクロが話してしまったなら仕方ありません、少しだけですよ?あまり面白くありませんからね?え?他の人も呼ぶんですか?えー、あまりおおっぴらにしたくないんですけど………。
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「っ!ま、待ってクロ!お願い待って!」
あと少しで届きそうなのに、クロは消えてしまった、恐らく転移の魔法だろう。
「うっ、うぅっクロぉ……」
思わず泣き崩れてしまう私。
「くっ、うぅ、あぁ、お前の、お前のせいだ!」
「ぐふぁ」
ゴスッと言う鈍い音が聞こえた、カティが勇者を殴った音だった。
「お前のせいでお兄ちゃんは!」
「ぐえぇ」
ドスッと言う音が聞こえた、コレットが勇者の腹を蹴りあげたらしい。
「二人ともやめなさい、それ以上は死んでしまうわよ」
見かねたのかエマさんが二人を止める。
「止めないでよエマ姉!こいつがこいつが居たからお兄ちゃんは、お兄ちゃんはぁ」
目に涙を溜めて勇者を蹴り続けるコレット、気持ちが分かるから私は止めようと思わない。
「彼には相応の罰を受けてもらいます、死ぬより辛い罰を………」
エマさんが冷たく言い放つ、あぁ、そう言うことね。
「アニエス、これからどうするの?」
「これから……」
エマさんから聞かれるが、上手く頭が回らない、どうするんだっけ?えっと、魔王倒して……違う、勇者が居なくなったから……あれ?居なくなったのは勇者だっけ?あ、違う居なくなったのはクロだから……。
パン
考えが纏まらない頭で考えていると、頬に痛みが走った。
「確りしなさい!クロを失って辛いのはあなただけじゃないの!」
……そうだ、まずは王都に戻らなきゃ、それからはどうなるかわからないけど、とにかく動かなきゃ。
「カティとコレットは勇者を縛って、逃がさないようにお願い」
「……わかった」
「……はい」
二人はまだ納得いかないのかしぶしぶ勇者を縛り始める。
「エマさん、王都に帰るだけの食糧はありますか?」
「ギリギリね、できれば近くの村によりたいけど……」
エマさんがちらりと勇者を見る。
「はい、魅了の力があるなら出来るだけ人目は避けなければなりません」
途中で誰かを魅了、もしくは魅了した誰かに会ったらまずい。
「なら、出来るだけ村にはよらず真っ直ぐ王都へ、どうしても無理な場合は、私達のうち誰か一人で村に行って買い出しをしましょう」
「そうね、それが一番かしら」
とりあえずの方針を立て、その夜はテントの外で寝た。え?テントの中じゃなく外で寝た理由ですか?簡単ですよ、あんなテントで寝たく有りません、私達はあのテントで何をしていたか知ってますから。
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翌朝、私達はテントを燃やして王都に出発しました。
「ほら、早く歩け!」
後ろから勇者を蹴るカティの声が聞こえます。勇者は手を縛られ、猿轡と目隠しをされて歩かされています。
その為歩くのが遅くなり縄を持つカティがイライラしています。
「この分だと時間が掛かりそうですね」
「そうね、王都まで二週間って所かしら?」
「………ねぇ、やっぱりお兄ちゃんを探そうよ!」
それは誰もが思った願望でした。
「………コレットちゃん、それはできないの」
「どうして!?王都に行くよりもお兄ちゃんを探す方が大事でしょ!?」
「探したいけど探せないの、何処に行ったかわからないのよ」
エマさんの言葉に俯くしかできないコレット。
「…………」
「まずは王都まで行って、情報を集めましょう」
王都はこの国で一番人が集まる場所、必然的に情報も集まる。ひょっとしたら何処かでクロを見たと言う人が居るかもしれない。
「さあ、行きましょう」
それから二週間、私達は歩き続けた、王都に着いた頃にはくたくただったが、休んでもいられない。
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王都に着くと直ぐに王城に行き、国王様にお目通りをお願いした、旅立ったはずの勇者が仲間に拘束されているため、事態を重く見た兵士が直ぐに通してくれた。
通されたのは謁見の間ではなく執務室、こちらにとっては都合が良かった。
「おお、聖女アニエス様!よく来られた!」
がっちりとした体型の国王陛下、民衆に称えられる善き国王、戻って来れた安堵からか、少し疲れが出る。
「突然の来訪申し訳ありません陛下」
「いや良い、疲れているだろう?良かったら座りなさい、お茶を出そう」
促されるまま腰掛けるとメイドさんがお茶を出してくれる。
「さて、お話を伺おう、勇者殿のその出で立ちは?錬金術師殿はどちらに?」
「はい、実は………」
私はここまでに起きた事を説明し、陛下は頭を抱えた。
「まさか勇者殿がそんな事を………」
「勇者には厳罰を要求します」
「し、しかし………」
勇者を牢に入れるのは難しいのだろう、だが。
「この勇者を野放しにするのは危険です、今取締らなければ大変な事になります」
「うーむ………わかった、勇者殿には牢に入って頂こう」
陛下は兵士を呼び、勇者は牢に連れていかれた。
「勇者殿がこんな事になるとは………今後については明日改めて話し合いの場を設けよう、今日の所は城でお休み下さい」
陛下に言われるまま、城の客室で休む事にしました、正直無理な移動で限界でしたので有り難いです。
城で一夜を明かし翌朝、城に一報が届きました。
『何者かが魔王倒しその亡骸を持ち去った。魔族一部が新しい魔王になるためにあちこちで暴れまわっている』
正直、この時私は、いえ、私達はクロが魔王を倒したのではと思っていました、しかし確証はなかったので言う事はしません。加えて、今ならクロの居場所が分かるかも知れない、探しに行けるかも知れないと期待しましたが、それは叶いませんでした。
「聖女様!直ぐに対策会議を開きますので会議室までお越しください!」
私達は元とはいえ勇者一行、国の危機に駆り出されるはめになった。
それから二週間後、意味があるのか無いのか分からない会議が続いていた。
「ここはやはり勇者一行に再度立ち上がってもらい……」
何も理解してない大臣が言う。
「いやいや、勇者殿の手を借りずとも我が軍で……」
手柄が欲しい将軍が言う。
「まずは魔族との対話を……」
前線に立った事の無い官僚が言う。
何れもどうでもいい、好きにすれば良い、私がここに居る意味があるのでしょうか?
最初は元勇者一行全員が居たけど、今は私一人、コレット達は早々に会議に参加しなくなった。
「はぁ……」
溜め息が大きく出てしまう、その事に気付いたのか国王陛下が。
「聖女殿、お疲れですかな?」
陛下の言葉に全員の視線が私に注がれる。
「え、ええ、申し訳ありません」
「いや、構わない………そうですな、聖女殿御一行にはしばらくお休み頂きましょうか?」
「え?休みですか?」
「うむ、幸い新しい魔王はまだ進行を開始していない、今のうちに英気を養ってもらい、有事に備えて頂きたい」
願ってもない申し出に私は快く返事をした。
「畏まりました、では、しばらく休暇を頂きます」
一礼して会議室を出ると、コレット達の借りている客室に向かう。
コンコンコン。
「コレット、私です入りますよ?」
「どうぞー」
声を確認して中に入ると、カティとエマさんも居ました。
「みんな集まっていたのですね」
「ええ、一人で居ても落ち着かないから……」
「それで、会議は?」
首を横に振り進展が無いことを伝えます。
「……じゃあまだここに居なきゃいけないのか」
カティはうんざりしていました。
「いえ、先ほど陛下からお暇を頂きました、しばらくは休暇になります」
「本当!?」
コレットは嬉しそうに声をあげています。
「はい、ですので、良かったら一度みんなでナガの村に帰りませんか?」
私は故郷に帰る事を提案しました、しかし。
『………』
みんなは暗い顔をしていました。
「………ごめんアニエス、あたしは遠慮しとく」
「わ、わたしも……」
「………ごめんなさい」
みんなから出たのは拒絶の言葉だけでした。
「そ、そうですか、で、では、何かあった際にはギルドに連絡を入れます、定期的に確認して下さい」
必要事項の確認をすると、みんなバラバラに城を出ました、クロが居なくなった事で、私達の心はバラバラになってしまったのかもしれません。ひょっとしたら私は故郷に帰る事で思い出に浸り、現実から目を背けようとしたのかも知れませんね。
城を出て馬車に揺られること五日後、ようやくナガの村に着きました。
「ふぅ、まずは家に行きましょう」
家と言っても私達は孤児ですので、教会が我が家です。
「シスター驚くかな?」
教会に着くと直ぐには入らず、扉を叩いてシスターが出てくるのを待ちます。
コンコンコン。
「はい、どちら様?」
「ただいまシスター」
出てきたシスターに挨拶すると。
「あ、アニエス……」
シスターは驚いた後、泣きそうな顔になりました。
「し、シスター?」
ぎゅっと抱き締められ驚きました。
「アニエス、辛かったわね……」
その言葉にどきっとしました、辛かったが何を示しているか直ぐにわかったからです。それと同時に何故シスターが知っているのか?その答えにたどり着きました。
「クロが帰って来てるんですね!?」
カティ達は村には帰らないと言っていました、なら、答えは一つだけです。
「ええ、でも今は……待ちなさいアニエス!」
「離して下さいシスター!私はクロに」
「今はまだ会わない方がいいわ、あなた達には時間が必要なのよ」
「っ……!」
シスターの静止を振り切り私は駆け出しました。
「待ちなさいアニエス、アニエス!」
シスターの声を遠くに、私は彼の研究所に行きました。
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コンコンコン。
胸の高鳴りを抑えて扉を叩きます。
「はい、誰ですかっと………」
扉の向こうから彼の声が聞こえます。
「ひ、久しぶりクロ……」
「アニエス……」
開かれた扉からは驚きと嫌気が混ざった彼の表情がありました。
「クロも帰って来てたんだね、シスターに聞いてびっくりしちゃった……」
「ああ、まぁ、ね……」
少しだけでもいい彼の声が聞きたい、彼のそばに居たい。
「私もね、休暇を貰って帰って来てたの、また旅に出なきゃ行けないから………」
「そう………」
お願いまだ扉を閉めないで。
「本当はね、カティ達も誘ったんだけど、みんな辛いからって、断られちゃった……」
「…………」
もう少しだけ、あと少しだけ………。
「い、今ね、王都では、すごい騒ぎに」
「もういいかな?忙しいんだ」
拒絶の言葉が胸に刺さります。
「あ、ご、ごめん……」
「じゃあ……」
「あ、あの、明日も来ていいかな?……」
来ていいと言って欲しかった、淡い期待は。
「…………」
バタン。
扉を閉める音に掻き消されました。
泣いちゃダメだ、泣きたかったのはクロなんだから、自分に言い聞かせ、教会へ戻りました。
その夜、やけに部屋の外が明るく、朝陽が登る前に起きました、窓を開けると燃え盛る炎が見えました。
「か、火事?え?でも、あの方向は……」
血の気が引くの感じつつ、寝間着のまま部屋を飛び出しました。
「あ、あぁ、あぁぁ……」
近くに行くと炎の熱気が肌に伝わります、これは夢じゃない、間違いなく燃えている、彼の家が。
彼が師から受け継いだ大切な家が。
いつの日か一緒に暮らそうと言った彼の家が燃えている。
………はっ、そうだ、彼は?クロは何処に?
慌てて周りを見回しました、住民が騒ぎを聞き付けて集まって居ますが、その中に彼の姿は無かった。
「っ!!クロ!クロぉ!!」
まだあの中に取り残されているかもしれない、そう思った時私は炎の中に飛び込もうとしました。
「アニエス!」
炎に駆け出した瞬間シスターに止められました。
「は、離して!クロが!まだ中にクロがぁ!」
「落ち着いてアニエス!」
「いやぁ!クロ!クロぉ!」
「もうクロは居ないわ!クロは村を出ていったの!」
え??一瞬シスターが何を言ってるか分からなかった。
「クロは?」
「クロはね、もうこの村には帰って来ないの」
帰って来ない?村に?だから家を?それって………。
「私の、せい?」
「アニエス……」
「また、私が、奪ったの?クロから、家を、帰る場所を?」
私が会いに来なければ、私が村に帰って来なければ、クロは家を燃やさずに済んだの?帰る場所を、失くさずに済んだの?
「あ、あぁ、うわぁぁぁ!」
その夜、私は腕に填められている銀の腕輪を抱きしめ、声が渇れるまで泣き続けた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
はい、今日はここまでです、さぁ、皆さん休みましょう!明日に差し支えますよ!………え?続きですか?う、うーん、き、気が乗りましたら、あ、あまり思い出したくないので、本当に気が乗りましたら話します、あっ、ほら、向こうでクロが面白そうな話してますよ、行ってみたらどうでしょう?
………ふぅ、何とか乗りきりました、うぅ、やっぱりこの話は身体に悪いです、エマさんに胃薬を貰いに行きましょう。
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父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
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主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
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前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
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