勇者(クズ)に恋人、幼馴染み、義姉、義妹、全てを奪われたのでとりあえずこれからは一人で生きていきます、だから追いかけて来ないでもらえますか?

カザミドリ

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幕間 アニエスの場合

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と、まぁ、そんな感じで俺の逃げる旅が始まった訳なんだが…………え?勇者と別れた後のアニエス達がどうしてたか?いや、それは俺は知らんよ、あっちに聞いてくれ。

ガヤガヤガヤ、ザッザッザッ。

はい?………え?勇者と別れた後の話を聞きたい?そ、それはちょっと………あっちでクロがみんなに話してる?もう!クロまたそんなことを!………カティが言ってきてくれるの?大丈夫?わかったお願いね。

えっと、コホン、クロと別れた後の話くらいですか?ええ、もうクロが話してしまったなら仕方ありません、少しだけですよ?あまり面白くありませんからね?え?他の人も呼ぶんですか?えー、あまりおおっぴらにしたくないんですけど………。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「っ!ま、待ってクロ!お願い待って!」

  あと少しで届きそうなのに、クロは消えてしまった、恐らく転移の魔法だろう。

「うっ、うぅっクロぉ……」

 思わず泣き崩れてしまう私。

「くっ、うぅ、あぁ、お前の、お前のせいだ!」

「ぐふぁ」

 ゴスッと言う鈍い音が聞こえた、カティが勇者を殴った音だった。

「お前のせいでお兄ちゃんは!」

「ぐえぇ」

 ドスッと言う音が聞こえた、コレットが勇者の腹を蹴りあげたらしい。

「二人ともやめなさい、それ以上は死んでしまうわよ」

 見かねたのかエマさんが二人を止める。

「止めないでよエマ姉!こいつがこいつが居たからお兄ちゃんは、お兄ちゃんはぁ」

 目に涙を溜めて勇者を蹴り続けるコレット、気持ちが分かるから私は止めようと思わない。

「彼には相応の罰を受けてもらいます、死ぬより辛い罰を………」

 エマさんが冷たく言い放つ、あぁ、そう言うことね。

「アニエス、これからどうするの?」

「これから……」

 エマさんから聞かれるが、上手く頭が回らない、どうするんだっけ?えっと、魔王倒して……違う、勇者が居なくなったから……あれ?居なくなったのは勇者だっけ?あ、違う居なくなったのはクロだから……。

パン

 考えが纏まらない頭で考えていると、頬に痛みが走った。

「確りしなさい!クロを失って辛いのはあなただけじゃないの!」

 ……そうだ、まずは王都に戻らなきゃ、それからはどうなるかわからないけど、とにかく動かなきゃ。

「カティとコレットは勇者を縛って、逃がさないようにお願い」

「……わかった」

「……はい」

 二人はまだ納得いかないのかしぶしぶ勇者を縛り始める。

「エマさん、王都に帰るだけの食糧はありますか?」

「ギリギリね、できれば近くの村によりたいけど……」

 エマさんがちらりと勇者を見る。

「はい、魅了の力があるなら出来るだけ人目は避けなければなりません」

 途中で誰かを魅了、もしくは魅了した誰かに会ったらまずい。

「なら、出来るだけ村にはよらず真っ直ぐ王都へ、どうしても無理な場合は、私達のうち誰か一人で村に行って買い出しをしましょう」

「そうね、それが一番かしら」

 とりあえずの方針を立て、その夜はテントの外で寝た。え?テントの中じゃなく外で寝た理由ですか?簡単ですよ、あんなテントで寝たく有りません、私達はあのテントで何をしていたか知ってますから。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 翌朝、私達はテントを燃やして王都に出発しました。

「ほら、早く歩け!」

 後ろから勇者を蹴るカティの声が聞こえます。勇者は手を縛られ、猿轡と目隠しをされて歩かされています。

 その為歩くのが遅くなり縄を持つカティがイライラしています。

「この分だと時間が掛かりそうですね」

「そうね、王都まで二週間って所かしら?」

「………ねぇ、やっぱりお兄ちゃんを探そうよ!」

 それは誰もが思った願望でした。

「………コレットちゃん、それはできないの」

「どうして!?王都に行くよりもお兄ちゃんを探す方が大事でしょ!?」

「探したいけど探せないの、何処に行ったかわからないのよ」

 エマさんの言葉に俯くしかできないコレット。

「…………」

「まずは王都まで行って、情報を集めましょう」

 王都はこの国で一番人が集まる場所、必然的に情報も集まる。ひょっとしたら何処かでクロを見たと言う人が居るかもしれない。

「さあ、行きましょう」

 それから二週間、私達は歩き続けた、王都に着いた頃にはくたくただったが、休んでもいられない。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 王都に着くと直ぐに王城に行き、国王様にお目通りをお願いした、旅立ったはずの勇者が仲間に拘束されているため、事態を重く見た兵士が直ぐに通してくれた。

 通されたのは謁見の間ではなく執務室、こちらにとっては都合が良かった。

「おお、聖女アニエス様!よく来られた!」

 がっちりとした体型の国王陛下、民衆に称えられる善き国王、戻って来れた安堵からか、少し疲れが出る。

「突然の来訪申し訳ありません陛下」

「いや良い、疲れているだろう?良かったら座りなさい、お茶を出そう」

 促されるまま腰掛けるとメイドさんがお茶を出してくれる。

「さて、お話を伺おう、勇者殿のその出で立ちは?錬金術師殿はどちらに?」

「はい、実は………」

 私はここまでに起きた事を説明し、陛下は頭を抱えた。

「まさか勇者殿がそんな事を………」

「勇者には厳罰を要求します」

「し、しかし………」

 勇者を牢に入れるのは難しいのだろう、だが。

「この勇者を野放しにするのは危険です、今取締らなければ大変な事になります」

「うーむ………わかった、勇者殿には牢に入って頂こう」

 陛下は兵士を呼び、勇者は牢に連れていかれた。

「勇者殿がこんな事になるとは………今後については明日改めて話し合いの場を設けよう、今日の所は城でお休み下さい」

 陛下に言われるまま、城の客室で休む事にしました、正直無理な移動で限界でしたので有り難いです。


 城で一夜を明かし翌朝、城に一報が届きました。

『何者かが魔王倒しその亡骸を持ち去った。魔族一部が新しい魔王になるためにあちこちで暴れまわっている』

 正直、この時私は、いえ、私達はクロが魔王を倒したのではと思っていました、しかし確証はなかったので言う事はしません。加えて、今ならクロの居場所が分かるかも知れない、探しに行けるかも知れないと期待しましたが、それは叶いませんでした。

「聖女様!直ぐに対策会議を開きますので会議室までお越しください!」

 私達は元とはいえ勇者一行、国の危機に駆り出されるはめになった。

 それから二週間後、意味があるのか無いのか分からない会議が続いていた。

「ここはやはり勇者一行に再度立ち上がってもらい……」

 何も理解してない大臣が言う。

「いやいや、勇者殿の手を借りずとも我が軍で……」

 手柄が欲しい将軍が言う。

「まずは魔族との対話を……」

 前線に立った事の無い官僚が言う。

 何れもどうでもいい、好きにすれば良い、私がここに居る意味があるのでしょうか?

 最初は元勇者一行全員が居たけど、今は私一人、コレット達は早々に会議に参加しなくなった。

「はぁ……」

 溜め息が大きく出てしまう、その事に気付いたのか国王陛下が。

「聖女殿、お疲れですかな?」

 陛下の言葉に全員の視線が私に注がれる。

「え、ええ、申し訳ありません」

「いや、構わない………そうですな、聖女殿御一行にはしばらくお休み頂きましょうか?」

「え?休みですか?」

「うむ、幸い新しい魔王はまだ進行を開始していない、今のうちに英気を養ってもらい、有事に備えて頂きたい」

 願ってもない申し出に私は快く返事をした。

「畏まりました、では、しばらく休暇を頂きます」

 一礼して会議室を出ると、コレット達の借りている客室に向かう。

コンコンコン。

「コレット、私です入りますよ?」

「どうぞー」

 声を確認して中に入ると、カティとエマさんも居ました。

「みんな集まっていたのですね」

「ええ、一人で居ても落ち着かないから……」

「それで、会議は?」

 首を横に振り進展が無いことを伝えます。

「……じゃあまだここに居なきゃいけないのか」

 カティはうんざりしていました。

「いえ、先ほど陛下からお暇を頂きました、しばらくは休暇になります」

「本当!?」

 コレットは嬉しそうに声をあげています。

「はい、ですので、良かったら一度みんなでナガの村に帰りませんか?」

 私は故郷に帰る事を提案しました、しかし。

『………』

 みんなは暗い顔をしていました。

「………ごめんアニエス、あたしは遠慮しとく」

「わ、わたしも……」

「………ごめんなさい」

 みんなから出たのは拒絶の言葉だけでした。

「そ、そうですか、で、では、何かあった際にはギルドに連絡を入れます、定期的に確認して下さい」

 必要事項の確認をすると、みんなバラバラに城を出ました、クロが居なくなった事で、私達の心はバラバラになってしまったのかもしれません。ひょっとしたら私は故郷に帰る事で思い出に浸り、現実から目を背けようとしたのかも知れませんね。

 城を出て馬車に揺られること五日後、ようやくナガの村に着きました。

「ふぅ、まずは家に行きましょう」

 家と言っても私達は孤児ですので、教会が我が家です。

「シスター驚くかな?」

 教会に着くと直ぐには入らず、扉を叩いてシスターが出てくるのを待ちます。

コンコンコン。

「はい、どちら様?」

「ただいまシスター」

 出てきたシスターに挨拶すると。

「あ、アニエス……」

 シスターは驚いた後、泣きそうな顔になりました。

「し、シスター?」

 ぎゅっと抱き締められ驚きました。

「アニエス、辛かったわね……」

 その言葉にどきっとしました、辛かったが何を示しているか直ぐにわかったからです。それと同時に何故シスターが知っているのか?その答えにたどり着きました。

「クロが帰って来てるんですね!?」

 カティ達は村には帰らないと言っていました、なら、答えは一つだけです。

「ええ、でも今は……待ちなさいアニエス!」

「離して下さいシスター!私はクロに」

「今はまだ会わない方がいいわ、あなた達には時間が必要なのよ」

「っ……!」

 シスターの静止を振り切り私は駆け出しました。

「待ちなさいアニエス、アニエス!」

 シスターの声を遠くに、私は彼の研究所に行きました。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 コンコンコン。

 胸の高鳴りを抑えて扉を叩きます。

「はい、誰ですかっと………」
 
 扉の向こうから彼の声が聞こえます。

「ひ、久しぶりクロ……」

「アニエス……」

 開かれた扉からは驚きと嫌気が混ざった彼の表情がありました。

「クロも帰って来てたんだね、シスターに聞いてびっくりしちゃった……」

「ああ、まぁ、ね……」

 少しだけでもいい彼の声が聞きたい、彼のそばに居たい。

「私もね、休暇を貰って帰って来てたの、また旅に出なきゃ行けないから………」

「そう………」

 お願いまだ扉を閉めないで。

「本当はね、カティ達も誘ったんだけど、みんな辛いからって、断られちゃった……」

「…………」

 もう少しだけ、あと少しだけ………。

「い、今ね、王都では、すごい騒ぎに」

「もういいかな?忙しいんだ」

 拒絶の言葉が胸に刺さります。

「あ、ご、ごめん……」

「じゃあ……」

「あ、あの、明日も来ていいかな?……」

 来ていいと言って欲しかった、淡い期待は。

「…………」

バタン。

 扉を閉める音に掻き消されました。

 泣いちゃダメだ、泣きたかったのはクロなんだから、自分に言い聞かせ、教会へ戻りました。

 その夜、やけに部屋の外が明るく、朝陽が登る前に起きました、窓を開けると燃え盛る炎が見えました。

「か、火事?え?でも、あの方向は……」

 血の気が引くの感じつつ、寝間着のまま部屋を飛び出しました。

「あ、あぁ、あぁぁ……」

 近くに行くと炎の熱気が肌に伝わります、これは夢じゃない、間違いなく燃えている、彼の家が。

 彼が師から受け継いだ大切な家が。

 いつの日か一緒に暮らそうと言った彼の家が燃えている。

 ………はっ、そうだ、彼は?クロは何処に?

 慌てて周りを見回しました、住民が騒ぎを聞き付けて集まって居ますが、その中に彼の姿は無かった。

「っ!!クロ!クロぉ!!」

 まだあの中に取り残されているかもしれない、そう思った時私は炎の中に飛び込もうとしました。

「アニエス!」

 炎に駆け出した瞬間シスターに止められました。

「は、離して!クロが!まだ中にクロがぁ!」

「落ち着いてアニエス!」

「いやぁ!クロ!クロぉ!」

「もうクロは居ないわ!クロは村を出ていったの!」

 え??一瞬シスターが何を言ってるか分からなかった。

「クロは?」

「クロはね、もうこの村には帰って来ないの」

 帰って来ない?村に?だから家を?それって………。

「私の、せい?」

「アニエス……」

「また、私が、奪ったの?クロから、家を、帰る場所を?」

 私が会いに来なければ、私が村に帰って来なければ、クロは家を燃やさずに済んだの?帰る場所を、失くさずに済んだの?

「あ、あぁ、うわぁぁぁ!」

 その夜、私は腕に填められている銀の腕輪を抱きしめ、声が渇れるまで泣き続けた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 はい、今日はここまでです、さぁ、皆さん休みましょう!明日に差し支えますよ!………え?続きですか?う、うーん、き、気が乗りましたら、あ、あまり思い出したくないので、本当に気が乗りましたら話します、あっ、ほら、向こうでクロが面白そうな話してますよ、行ってみたらどうでしょう? 

 ………ふぅ、何とか乗りきりました、うぅ、やっぱりこの話は身体に悪いです、エマさんに胃薬を貰いに行きましょう。

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