勇者(クズ)に恋人、幼馴染み、義姉、義妹、全てを奪われたのでとりあえずこれからは一人で生きていきます、だから追いかけて来ないでもらえますか?

カザミドリ

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3.逃走

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あー、今日も長かったなぁ、ようやく半分ってマジかよ。

え?昨日の続き?ってなんだっけ?………わかった、わかったよ、続きな、えーと何処まで話したっけか?ああ、そうそう勇者と別れてからだったな。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 勇者と別れた俺は転移でたどり着いた場所に居た。

「ここがそうか、ククク、本当便利な物だよ」

 ガントラームとウロボロスの腕輪を造った後、残った左手の指の骨で造った物、転移の崩玉。

 アーティファクトの下、レジェンダリー級のただ行きたい所へ転移できると言うだけの物。

「燃費としては圧倒的に転移魔法の方が良いのだが、こいつの強みは、一度も行った事のない所にも行ける所だな」

 俺がその時何処に転移したかと言うと。

「まさか魔王城の前にも転移できるとはな」

 え?だったらさっさと造って勇者を連れていけば良かったって?いや、待て、その為に自分の腕切ったりできるか?無理だろ?そもそもアガートラームとガントラームが有ったからできた芸当な訳で、普通は無理。

「さて、行くか……」

 俺は迷わず古城の中に入る。目指すは古城の主の元。

「む、なんだ貴様」

「邪魔だ」

「ぐはぁ……」

「て、敵襲!敵襲だ!」

「ちっ、ろくに素材に成りそうにない奴等がうじゃうじゃと」

 まぁ、人間が一人乗り込んできたら普通はそうなるよな。でも、俺には全能のガントラームがある。

「はぁ、邪魔くさい」

「な、なんだこの人間!強っ、ぐはぁ」

「さてと、おい、魔王は何処に居る?」

「ふん、誰が貴様に教えるか」

「ふーん、あっそ、じゃあもう用はないな」

「ひっ、待て、ぐぁぁ……」

 ボキンという鈍い音が魔族の首から聞こえた。

「ふぅ、聞くより自分で探した方が早そうだな、アガートラーム検索だ、魔王は何処に居る?」

『ポン、この建造物の最上階に強い生態反応を感知、魔王と断定』

「ほいほい、最上階ね、昇るのめんどくさ」

 魔王城の最上階を目指す。めんどくさいが仕方ない、素材の為だ。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ふぅ、ようやく最上階か」

 魔王城最上階、大きな扉の前、ここに魔王が居る。

「よっこらせっと」

 扉を開けるとそこには。

「………よく来た勇者よ」

 玉座に座る魔王、その周りには無数の魔族達。途中から襲って来ないと思ったら、ここに集まってたのか。

「勇者じゃないんだがな、どうやら歓迎はしてくれるらしい」

「勇者ではない?なら貴様は何者だ?」

「只の錬金術師だよ」

「ククク、よもや只の錬金術師がこの魔王を倒しに来るとはな、よい、相手をしてやろう」

 それから三日三晩魔王と戦い続けた……え?三日は嘘だって?食事?いや、そんなのそこら辺に転がってたよ?ほら、魔族の中には豚に似た奴とか、鶏に似た奴とか居たし。ああ、ちゃんとアガートラームに食って平気か確認したよ。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
さて、三日三晩戦い続けた俺と魔王。お互い満身創痍になりながらようやく決着を迎えた。

「よもや只の錬金術にここまでの力が有ろうとは……見事なり」

 呟き倒れる魔王。

「ああ、しんどい」

 それを見届け、座り込む俺。

「ク、ク、ク………」

「おいおい、まだ笑う余裕が有るのかよ」

「いや……我も……ここまでの……ようだ」

「そりゃ良かった、こっちももう限界なんだ」

 正直かなりきつい、立ち上がれるか?

「神の摂理に……反するものよ……これから……貴様の前には……茨の道……が………」

 わかってるよそんなもん、それでも抗い続けてやる。

 俺は魔王の死体を持ちながら転移の崩玉を使った。

 転移したのは懐かしの故郷、我が家の中。

「けほっけほっ、埃っぽいな、しばらく誰も入って無いから仕方ないけど」

 我が家、正確には師匠が亡くなった時に受け継いだ研究所は、マジックアイテムで入り口を塞いでいるので誰も入れない。

「まずは換気か」

 灯りをつけて窓を開ける。外には懐かしい町並みが見えた、田舎特有の田畑の香り。

「そこの貴方!その家で何してるの!?」

 大きな声が聞こえそちらの方を見ると、一人のシスターの姿が目に入る。

「どうやって中に入ったの?答えなさい!」

「おー、シスター久しぶりー」

「久しぶりも何もわたしは貴方に………」

 シスターが目をパチクリ瞬きする。

「え!?貴方クロなの?」

「そうそう、久しぶりシスター」

「あ、うん、久しぶり、じゃなくてその髪どうしたの?それに腕も?」

「あー、まぁ、色々あってね、それよりくたくたなんだ、何か食べる物ない?」

「えっと、シチューくらいならあるけど」

「シチュー!良いね、シスターのシチュー大好きだよ」

 そのまま外に出て教会に移動する。

 三日ぶりのまともな食事に舌鼓を打っていると。

「クロ、その髪は?」

「ああ、これね……」

 俺はこれまでの事をシスターに話した。旅の様子、アニエス達の様子、勇者の事、右腕を切られた事、左腕を切り落とした事、魔王との戦い。

「…………」

 シスターは黙って最後まで聞いていた、その瞳は悲しそうで………。

「そう、辛かったわね」

 ポツリと呟くだけだった。

「それで、これからどうするの?」

「とりあえずしばらくは研究所に籠るよ、そのあとは………まだ考えてない」

「……何か手伝えることがあったら言うのよ?」

「……うん」

 その後、噂を聞き付けたご近所さん達に挨拶をして、研究所に戻る頃にはくたくたになってベッドにダイブした。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 それから約一ヶ月、俺は魔王の亡骸を使い一通りの研究と錬成を終えた。

 できたのは。

骸の魔丈(アーティファクト)

拒絶の法衣(アーティファクト)

異次元の鞄(レジェンダリー)

転移の指輪(レジェンダリー)

 骸の魔丈は、魔丈に取り込ませた亡骸の魔法が使えるように成るという物、試しに魔王の亡骸の一部を取り込ませたら、魔王の使っていた魔法が使えるようになった、さすがアーティファクト。

 拒絶の法衣、これはあらゆる敵意ある攻撃を弾くことができる、文字通り拒絶する物、但し使用者が敵意を認識しなければならない、つまり突然の暗殺には対応できないと言う事だな、あとは落石などの自然現象にも弱い。

 異次元の鞄、収納数無限、荷物の大きさ無視、まさに異次元の収納能力を持つ鞄。旅に便利だと思い制作した、魔王の亡骸とかめっちゃ重かったしな。

 転移の指輪、何処か転移する度に転移の崩玉を作るのが面倒なので制作、最初からこっち作るべきだったな。

「さてと、研究も一通り終わったか………」

 この後どうするか思いを馳せていると。

コンコンコン。

 誰かがドアを叩く音がした、シスターかな?ここ一ヶ月は研究の合間に、シスターやご近所さんの手伝いをして生活していた。

「はい、誰ですかっと………」

 ドアを開けたその先に立っていたのは。

「ひ、久しぶりクロ……」

「アニエス……」

 名前を呼んだ声に嫌悪感を感じたのか、アニエスは顔を曇らせる。

「クロも帰って来てたんだね、シスターに聞いてびっくりしちゃった……」

「ああ、まぁ、ね……」

 今さらアニエス達とは話したくなかったので、曖昧に答えるしかなかった。

「私もね、休暇を貰って帰って来てたの、また旅に出なきゃ行けないから………」

「そう………」

「本当はね、カティ達も誘ったんだけど、みんな辛いからって、断られちゃった……」

「…………」

 会話を終わらせたくないのか、アニエスは喋り続ける、以前のようにその声を心踊らせて聞く事ができない。

「い、今ね、王都では、すごい騒ぎに」

「もういいかな?忙しいんだ」

 無理矢理会話を終わらせる。

「あ、ご、ごめん……」

「じゃあ……」

 扉を閉めようとすると。

「あ、あの、明日も来ていいかな?……」

バタン

 何も答えず扉を閉める。冗談、明日にはもうここには居ないよ。

「…………」

 俺は手早く村を出る準備をする。このまま誰にも何も言わず出ていこうかとも思ったが、それだとシスターが心配するだろうと思い、シスターにだけは告げる事にした。


 教会に行くと、警戒しながらシスターを探す、ひょっとしたらアニエスにも出くわすかも知れないからな。

「クロ?」

「シスター……アニエスは?」

「………アニエスなら自分の部屋で休んでるわ」

「そう……」

「アニエスに会ったのね?」

「うん、ひょっとしてシスターが?」

 差し向けたのだろうか?

「いいえ、わたしはまだ会わない方が良いと言ったのだけれど………」

「そうか、………シスター、俺は今夜村を出るよ」

「そう、急ね、でも分かったわ村のみんなには上手く言っておくわね」

「………あと、この村には多分もう戻って来ない」

「………分かったわ、元気でね?」

 シスターは少し悲しそうな顔をして、優しく微笑んだ。

「さよならシスター」

 それだけ言って、俺は教会を後にする。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  夜、村が寝静まった頃。

「よし、行くか………」

 研究所を出て扉を閉めると、両手を合わせる。

「ごめん師匠、せっかく貰ったのにこんな事になってしまって本当に申し訳ない………」

 亡き師に謝りつつ、俺は研究所に火を着けた。

「もう、帰って来る事はない、さよなら師匠」

 転移の指輪で少し離れた村の見える丘に移動、燃え行く我が家を見守った。

「………もともと村の離れに作ってあるから、他の家屋に燃え移る事はないけど、一応な」

 燃え盛る炎に気付いたのか村人達が集まって来ていた、その中にはアニエスの姿もあった、かなり慌てていて中に入ろうとして、シスターに止められていた。

「………これなら大丈夫だろう」

 俺は再度転移の指輪を使いその場を離れた。
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