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妖精国エルフの里へ
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さて、何故か突然ダンジョンボス・ミノタウロスキングと戦うはめになったのだが。
『ブモォォォ!!』
「………何か怒ってない?」
「そりゃあ、鎖で引きずられたら怒るだろうよ」
確かに。
「タクト様!いきますよー?そーれっ!」
言うが早いかフェンがミノタウロスキングを投げ飛ばす。
『ブモォォォ!?』
ドスンっ!
キングは丁度俺とグラン皇帝の目の前に落下した。
「………タクト、お前が剣を使わなかった理由がわかったよ」
「ご理解頂き恐縮です」
苦笑いするグラン皇帝に苦笑いで返す。
「刀匠神にミノタウロスキングを投げる少女、もしかして残りの二人も?」
「はい、御察しの通りです」
「そうか……タクト、我が帝国は全面的にお前達に協力する事を誓う」
突然グラン皇帝の協力を取り付ける事ができた。
「いいんですか?」
「いいに決まっている、お前達を敵に回そうなんて考える奴は居ないだろう」
何か力で支配する感じに成って嫌なんだが。
『ブモォォォ!』
話しに夢中に成っていると、投げられた衝撃でもがいていたキングが起き上がろうとし始めた。
「いかん!タクト早く止めを!」
「ええ?突然言われても……」
さすがに一刀では無理じゃないか?
「タクト様、よろしければ魔石の力を御使い下さい」
「魔石?」
そう言えばそんなもの着いてたな。
「どうやって使うんだ?」
「魔石に触れて頂くだけで大丈夫です」
まぁ、お手軽。
「よし、いくぞ」
魔石に指先を触れる。
『使用者認識、魔刀剣システムエンゲージ』
剣から機械音声が流れる。
「………これどうやって出来てるんだ?」
「おい、平気か?」
謎のシステムに困惑する俺とグラン皇帝。
キュィィン
システムが起動した事により、魔石から魔力が流れ刀身を包み込み魔法の刃ができるのだが。
「………いや、可笑しいだろ?」
形付くられた刃は黒と紫の禍々しい物だった。
「これは勇者じゃなくて魔王が使う様なものでは?」
魔石のせいか禍々しい刀身は迫力がある。
『ブ、ブモォォォ!?』
ミノタウロスキングは魔刀剣を見ると逃げ出し始めた。
「タクト、逃がすな!」
さすがに逃げられると近隣に被害が出るため慌てて追いかける。
「はいっと」
フェンが先回りしてミノタウロスキングにスライディングをする。
「よし、いくぞ!」
剣を振り上げミノタウロスキングに向かって下ろす。
『ぶ、モォ?』
キングは縦に二つに割れ……無かった。
ドオォォン!!
轟音と共に大地に亀裂を作り、ミノタウロスキングは塵一つ残さず消滅した。
この剣は二度と使わない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「改めて、レバイア帝国は勇者タクトに全面協力を約束する」
「ありがとうございますグラン皇帝」
地面の亀裂を兵士さん達が埋めるのを見ながらグラン皇帝はしみじみと言う。
「ついては、これはあくまでも個人としての頼みなのだが……」
「はい」
「……その剣はなるべく使わないでくれ」
昼間とは打って代わり剣を使うなと言うグラン皇帝。
「はい、この剣を二度と使わないように努力します」
せっかくクロノが作ってくれたが少なくとも魔刀剣は封印確定だ。
「………それにしてもなかなか埋まらないな」
「そうですね」
兵士さん達が頑張っているがこれは無理では?
「さて、予定通り野営をするか」
「何か手伝える事はありますか?」
「そうだなぁ……」
料理でも振る舞おうかと考えていると。
「皇帝陛下!何処に居られますか!?火急の用件あり!皇帝陛下!」
慌てた様子で早馬が駆けてきた、ん?あれって………。
「ここだ!何があった!?」
グラン皇帝が声を上げると直ぐに早馬が近づいて来る。
「はっ、エルフの里より伝令有り、魔王の配下を捕らえ、処刑するとのことです」
「何!?」
おいおい、不味いんじゃないか?これから和平をしようって言うのに処刑なんて。
「えっと、失礼ですけど貴女はエルフですよね?」
「はい、ですがわたくしは皇帝陛下に忠誠を誓って下ります」
エルフなのに人間に?
「かなり珍しいがな、お陰でエルフ族に間者を送れている」
「なるほど」
「それで、処刑されるのは誰だ?四天王か?」
確かに誰が処刑されるか気になる、それによっては助けに行くべきだろう。
「どうやら魔王の側近サナリだそうです」
「ちっ、そんな大物かよ」
初めて聞く名前だが、二人の反応から余程の重要人物らしい。
「処刑はいつ頃?」
「明日の正午に予定されています」
今は既に夕方、間に合うかどうか。
「いかが致しますかタクト様?」
「ふむ、できれば助けたいな、何故妖精国に魔王の側近が居たのか気になる」
そう、何らかの重要な意味があり居たはず、それが良いことでも、悪いことでも見逃す訳にはいかない。
「畏まりました、では直ぐに移動の準備を始めましょう」
「間に合うか?」
「間に合わせます」
クロノだけではなくメロウ達も頷いていた、なんと頼もしい事か。
「よし、頼んだ」
『はい!』
早速動き出すクロノ達を見送り、グラン皇帝に向き合う。
「と言うわけなんですいません」
「いや構わん、エルフの里に行くならこいつも連れていけ」
グラン皇帝が指差したのは先ほどのエルフさん。
「ネルエルです、エルフの里までご案内致します」
「助かりますお願いします」
しばらくグラン皇帝とネルエルさんを交えて話しているとクロノ達が準備を整え帰って来た。
「タクト様御待たせしました」
「早かった………な?」
クロノの方を向くと馬車?が用意されていた。
「急ぎ用意したので粗末ですが」
粗末と言う割には確りとした荷台、いや、引っかかっているのはそれではない。引く為の馬?である。
「………クロノあれはなんだ?」
「ミノタウロスでございます」
荷台に繋がれていたのは、キングよりは一回り小さいミノタウロス、猿轡を着けられがっちり固定されていた。
「付近を彷徨いていましたので、捕獲しました」
あー、ユニコーンパターンか。あれって本来狩る予定だったやつだよな。
「………まぁ、いいか」
「それで済ませるタクトも大概だぞ」
グラン皇帝が呆れた目を向けてくるが仕方ない、慣れた自分が居ることは認めよう。
「それじゃあ、グラン皇帝」
「ああ、また会おう」
握手を交わして、いざ妖精国フェアリアへ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
レバイア帝国からエルフの里には一直線で行けるらしいのだが。
「国境とかないんですか?」
「迷いの森自体が国境の様な物ですから」
なるほど、誰も通れないならそれはもっとも優れた国境だろう。
「森の抜けかたはこのトーチが教えてくれます」
トーチの中では小さな火がゆらゆら揺れていた。
「この火がエルフの里への道しるべになります」
そう言うと、トーチの蓋を締め切り、小さな小窓だけ開く。
「ほうこれは珍しい、この光に添えばよいのですな?」
小窓からは一直線に光が漏れ出る。
「はい、その先にエルフの里があります」
一直線に光が指すのだが。
「あ、あれ?おかしいな……」
時より点滅して光が消えてしまう事がある。
「あの、大丈夫ですか?」
心配になり聞いてみるが。
「す、すいません、こんな事今まで無かったのに………」
どうやらネルエルさんにも解らない様子。
「………」
「どうしたエニ?」
「ん……なんでもない」
と言うわりにはトーチをずっと見つめているが?
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
安定しないトーチを頼りに何とか森までたどり着いた。
「もう日も暮れて完全に夜だがどうする?」
「急ぐならこのまま森に入るべきかと」
クロノの意見はもっともなのだが。
「待って下さい、夜に迷いの森へ入るのは危険です!」
地元民のネルエルさんは反対らしい。
「そのこころは?」
「迷いの森には危険な魔物が」
「それはミノタウロスよりもですか?」
ミノタウロスキング以上がゴロゴロ居るなら考えるが。
「いえ、ミノタウロスよりは格下です」
「なら大丈夫では?」
何て言ったって引いているのはミノタウロスだ。
「………トーチの具合も悪いですし」
「ん……道ならエニが解る」
「エニが?」
「ん……あっち」
エニは確りと指差していた。
「トーチは?」
「………同じ方を指しています」
チカチカと頼り無い光も同じ方を指す。
「ネルエルさん、迷いの森で迷ったらどうなるんだ?二度と出られないとか?」
「いえ、入り口に戻されるだけです」
迷ったら奥に行けないだけね。
「よし、じゃあ行くか!」
「し、しかし!」
「少なくとも不良品の具合を待つよりは、エニを信じたほうが可能性が高そうだからな」
「………わかりました」
「よし、エニ頼んだぞ」
「ん………」
ふんすっ!と気合いを入れるエニに案内され森の奥へ進む。
「ん…そこを右、次を左」
森の中は何本も枝分かれした道があり、正しい道以外は魔法で作られた幻で出来ているそうだ。
「で、その正しい道は本来ならトーチしか解らないと」
「はい、このトーチの火は妖精国の中心に有る命の炎から取ってきた物です」
「命の炎?」
「はい、嘗て疫病に侵された里救った炎と言われています、この炎は取り分けると自然と元に戻ろうとします」
「その習性?を利用して道しるべにしているわけか」
「はい」
問題はそれを何故エニが出来るのかだが。まぁ、着けば解るだろう。
「もう間もなく里に着くはずです」
「さすがにミノタウロスを飛ばすと早いな」
ミノタウロスに鞭打ちながら全力で走らせたため直ぐに着いた。
「本当に迷わないなんて、あの子は一体……」
「着いた後はどうするんだ?」
「あ、はい、中に侵入している仲間が宿を用意していますので、今夜はそこで休んでください」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
さて、ここで妖精国について話そう。妖精国フェアリアには街の名前がない、狭い森の中なので街というよりは集落がいくつか有るだけだ、その為呼び方も既に出ているように、エルフの里や湖の里、風の丘、山の下など、抽象的な呼び方をされている。エルフの里は妖精国の謂わば首都に当たるのだ。何が言いたいかと言うと。
「そりゃ警備も厳重だよな」
「貴様ら止まれ!」
そんな警備の中にミノタウロスで突っ込んでいったら目立つは。
「よもや貴方が来るとは、どういうつもりですか?」
そして待ち構えていたのは妖精国の女王、この人苦手なんだよなぁ。
「えーと、魔王の側近?を処刑すると聞きまして……」
「ええ、ですが、貴方には関係ないでしょう?」
「いやぁ、そういう訳には……」
さて、どうしたものかと考えていると。
「あ……エニのしっぽ」
しっぽ?ああ、尻尾ね、ってエニって尻尾有るの?
「な、何ですって?」
エニが指差す方には塔に大事そうに祀られている炎。
「ひょっとしてあれがトーチの?」
「はい、親火です」
で、それを指差してエニが自分の尻尾だと、ふむ、どういう事?いや、大体は解るぞ、これはあれだ、フェンやクロノと同じエニ、いや、フェニックスの所縁の地だな。
「その前にエニ、尻尾あったの?」
「うん……ほら」
そう言ってエニは履いているスカートを少し下げ尾てい骨をさらす。決してやましい気持ちは出さずにそこを見ると。
「………確かに、何かを取った後が有るな」
引きちぎった痛々しい物ではなく、綺麗に切り取った痕。
「し、失礼します!」
ネルエルさんがトーチの蓋を開けて近づけると。
「ん……ちょっと戻った」
火はひとりでに浮き上がりエニの尾てい骨にくっつく。
「そ、そんな……まさか……」
それを呆然と見つめるエルフ達、おい、野郎は目を瞑れよ、潰すぞ。
「エニ、もういいからしまいなさい」
「はい……」
いそいそとスカートを履き直すエニを見届け、妖精国女王に向き直る。
「とりあえず中に入っても?」
「ど、どうぞ」
若干茫然自失の青い顔をした妖精女王に少しにやつきながら、ようやくエルフの里の中へ入る事ができた。
『ブモォォォ!!』
「………何か怒ってない?」
「そりゃあ、鎖で引きずられたら怒るだろうよ」
確かに。
「タクト様!いきますよー?そーれっ!」
言うが早いかフェンがミノタウロスキングを投げ飛ばす。
『ブモォォォ!?』
ドスンっ!
キングは丁度俺とグラン皇帝の目の前に落下した。
「………タクト、お前が剣を使わなかった理由がわかったよ」
「ご理解頂き恐縮です」
苦笑いするグラン皇帝に苦笑いで返す。
「刀匠神にミノタウロスキングを投げる少女、もしかして残りの二人も?」
「はい、御察しの通りです」
「そうか……タクト、我が帝国は全面的にお前達に協力する事を誓う」
突然グラン皇帝の協力を取り付ける事ができた。
「いいんですか?」
「いいに決まっている、お前達を敵に回そうなんて考える奴は居ないだろう」
何か力で支配する感じに成って嫌なんだが。
『ブモォォォ!』
話しに夢中に成っていると、投げられた衝撃でもがいていたキングが起き上がろうとし始めた。
「いかん!タクト早く止めを!」
「ええ?突然言われても……」
さすがに一刀では無理じゃないか?
「タクト様、よろしければ魔石の力を御使い下さい」
「魔石?」
そう言えばそんなもの着いてたな。
「どうやって使うんだ?」
「魔石に触れて頂くだけで大丈夫です」
まぁ、お手軽。
「よし、いくぞ」
魔石に指先を触れる。
『使用者認識、魔刀剣システムエンゲージ』
剣から機械音声が流れる。
「………これどうやって出来てるんだ?」
「おい、平気か?」
謎のシステムに困惑する俺とグラン皇帝。
キュィィン
システムが起動した事により、魔石から魔力が流れ刀身を包み込み魔法の刃ができるのだが。
「………いや、可笑しいだろ?」
形付くられた刃は黒と紫の禍々しい物だった。
「これは勇者じゃなくて魔王が使う様なものでは?」
魔石のせいか禍々しい刀身は迫力がある。
『ブ、ブモォォォ!?』
ミノタウロスキングは魔刀剣を見ると逃げ出し始めた。
「タクト、逃がすな!」
さすがに逃げられると近隣に被害が出るため慌てて追いかける。
「はいっと」
フェンが先回りしてミノタウロスキングにスライディングをする。
「よし、いくぞ!」
剣を振り上げミノタウロスキングに向かって下ろす。
『ぶ、モォ?』
キングは縦に二つに割れ……無かった。
ドオォォン!!
轟音と共に大地に亀裂を作り、ミノタウロスキングは塵一つ残さず消滅した。
この剣は二度と使わない。
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「改めて、レバイア帝国は勇者タクトに全面協力を約束する」
「ありがとうございますグラン皇帝」
地面の亀裂を兵士さん達が埋めるのを見ながらグラン皇帝はしみじみと言う。
「ついては、これはあくまでも個人としての頼みなのだが……」
「はい」
「……その剣はなるべく使わないでくれ」
昼間とは打って代わり剣を使うなと言うグラン皇帝。
「はい、この剣を二度と使わないように努力します」
せっかくクロノが作ってくれたが少なくとも魔刀剣は封印確定だ。
「………それにしてもなかなか埋まらないな」
「そうですね」
兵士さん達が頑張っているがこれは無理では?
「さて、予定通り野営をするか」
「何か手伝える事はありますか?」
「そうだなぁ……」
料理でも振る舞おうかと考えていると。
「皇帝陛下!何処に居られますか!?火急の用件あり!皇帝陛下!」
慌てた様子で早馬が駆けてきた、ん?あれって………。
「ここだ!何があった!?」
グラン皇帝が声を上げると直ぐに早馬が近づいて来る。
「はっ、エルフの里より伝令有り、魔王の配下を捕らえ、処刑するとのことです」
「何!?」
おいおい、不味いんじゃないか?これから和平をしようって言うのに処刑なんて。
「えっと、失礼ですけど貴女はエルフですよね?」
「はい、ですがわたくしは皇帝陛下に忠誠を誓って下ります」
エルフなのに人間に?
「かなり珍しいがな、お陰でエルフ族に間者を送れている」
「なるほど」
「それで、処刑されるのは誰だ?四天王か?」
確かに誰が処刑されるか気になる、それによっては助けに行くべきだろう。
「どうやら魔王の側近サナリだそうです」
「ちっ、そんな大物かよ」
初めて聞く名前だが、二人の反応から余程の重要人物らしい。
「処刑はいつ頃?」
「明日の正午に予定されています」
今は既に夕方、間に合うかどうか。
「いかが致しますかタクト様?」
「ふむ、できれば助けたいな、何故妖精国に魔王の側近が居たのか気になる」
そう、何らかの重要な意味があり居たはず、それが良いことでも、悪いことでも見逃す訳にはいかない。
「畏まりました、では直ぐに移動の準備を始めましょう」
「間に合うか?」
「間に合わせます」
クロノだけではなくメロウ達も頷いていた、なんと頼もしい事か。
「よし、頼んだ」
『はい!』
早速動き出すクロノ達を見送り、グラン皇帝に向き合う。
「と言うわけなんですいません」
「いや構わん、エルフの里に行くならこいつも連れていけ」
グラン皇帝が指差したのは先ほどのエルフさん。
「ネルエルです、エルフの里までご案内致します」
「助かりますお願いします」
しばらくグラン皇帝とネルエルさんを交えて話しているとクロノ達が準備を整え帰って来た。
「タクト様御待たせしました」
「早かった………な?」
クロノの方を向くと馬車?が用意されていた。
「急ぎ用意したので粗末ですが」
粗末と言う割には確りとした荷台、いや、引っかかっているのはそれではない。引く為の馬?である。
「………クロノあれはなんだ?」
「ミノタウロスでございます」
荷台に繋がれていたのは、キングよりは一回り小さいミノタウロス、猿轡を着けられがっちり固定されていた。
「付近を彷徨いていましたので、捕獲しました」
あー、ユニコーンパターンか。あれって本来狩る予定だったやつだよな。
「………まぁ、いいか」
「それで済ませるタクトも大概だぞ」
グラン皇帝が呆れた目を向けてくるが仕方ない、慣れた自分が居ることは認めよう。
「それじゃあ、グラン皇帝」
「ああ、また会おう」
握手を交わして、いざ妖精国フェアリアへ。
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レバイア帝国からエルフの里には一直線で行けるらしいのだが。
「国境とかないんですか?」
「迷いの森自体が国境の様な物ですから」
なるほど、誰も通れないならそれはもっとも優れた国境だろう。
「森の抜けかたはこのトーチが教えてくれます」
トーチの中では小さな火がゆらゆら揺れていた。
「この火がエルフの里への道しるべになります」
そう言うと、トーチの蓋を締め切り、小さな小窓だけ開く。
「ほうこれは珍しい、この光に添えばよいのですな?」
小窓からは一直線に光が漏れ出る。
「はい、その先にエルフの里があります」
一直線に光が指すのだが。
「あ、あれ?おかしいな……」
時より点滅して光が消えてしまう事がある。
「あの、大丈夫ですか?」
心配になり聞いてみるが。
「す、すいません、こんな事今まで無かったのに………」
どうやらネルエルさんにも解らない様子。
「………」
「どうしたエニ?」
「ん……なんでもない」
と言うわりにはトーチをずっと見つめているが?
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安定しないトーチを頼りに何とか森までたどり着いた。
「もう日も暮れて完全に夜だがどうする?」
「急ぐならこのまま森に入るべきかと」
クロノの意見はもっともなのだが。
「待って下さい、夜に迷いの森へ入るのは危険です!」
地元民のネルエルさんは反対らしい。
「そのこころは?」
「迷いの森には危険な魔物が」
「それはミノタウロスよりもですか?」
ミノタウロスキング以上がゴロゴロ居るなら考えるが。
「いえ、ミノタウロスよりは格下です」
「なら大丈夫では?」
何て言ったって引いているのはミノタウロスだ。
「………トーチの具合も悪いですし」
「ん……道ならエニが解る」
「エニが?」
「ん……あっち」
エニは確りと指差していた。
「トーチは?」
「………同じ方を指しています」
チカチカと頼り無い光も同じ方を指す。
「ネルエルさん、迷いの森で迷ったらどうなるんだ?二度と出られないとか?」
「いえ、入り口に戻されるだけです」
迷ったら奥に行けないだけね。
「よし、じゃあ行くか!」
「し、しかし!」
「少なくとも不良品の具合を待つよりは、エニを信じたほうが可能性が高そうだからな」
「………わかりました」
「よし、エニ頼んだぞ」
「ん………」
ふんすっ!と気合いを入れるエニに案内され森の奥へ進む。
「ん…そこを右、次を左」
森の中は何本も枝分かれした道があり、正しい道以外は魔法で作られた幻で出来ているそうだ。
「で、その正しい道は本来ならトーチしか解らないと」
「はい、このトーチの火は妖精国の中心に有る命の炎から取ってきた物です」
「命の炎?」
「はい、嘗て疫病に侵された里救った炎と言われています、この炎は取り分けると自然と元に戻ろうとします」
「その習性?を利用して道しるべにしているわけか」
「はい」
問題はそれを何故エニが出来るのかだが。まぁ、着けば解るだろう。
「もう間もなく里に着くはずです」
「さすがにミノタウロスを飛ばすと早いな」
ミノタウロスに鞭打ちながら全力で走らせたため直ぐに着いた。
「本当に迷わないなんて、あの子は一体……」
「着いた後はどうするんだ?」
「あ、はい、中に侵入している仲間が宿を用意していますので、今夜はそこで休んでください」
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さて、ここで妖精国について話そう。妖精国フェアリアには街の名前がない、狭い森の中なので街というよりは集落がいくつか有るだけだ、その為呼び方も既に出ているように、エルフの里や湖の里、風の丘、山の下など、抽象的な呼び方をされている。エルフの里は妖精国の謂わば首都に当たるのだ。何が言いたいかと言うと。
「そりゃ警備も厳重だよな」
「貴様ら止まれ!」
そんな警備の中にミノタウロスで突っ込んでいったら目立つは。
「よもや貴方が来るとは、どういうつもりですか?」
そして待ち構えていたのは妖精国の女王、この人苦手なんだよなぁ。
「えーと、魔王の側近?を処刑すると聞きまして……」
「ええ、ですが、貴方には関係ないでしょう?」
「いやぁ、そういう訳には……」
さて、どうしたものかと考えていると。
「あ……エニのしっぽ」
しっぽ?ああ、尻尾ね、ってエニって尻尾有るの?
「な、何ですって?」
エニが指差す方には塔に大事そうに祀られている炎。
「ひょっとしてあれがトーチの?」
「はい、親火です」
で、それを指差してエニが自分の尻尾だと、ふむ、どういう事?いや、大体は解るぞ、これはあれだ、フェンやクロノと同じエニ、いや、フェニックスの所縁の地だな。
「その前にエニ、尻尾あったの?」
「うん……ほら」
そう言ってエニは履いているスカートを少し下げ尾てい骨をさらす。決してやましい気持ちは出さずにそこを見ると。
「………確かに、何かを取った後が有るな」
引きちぎった痛々しい物ではなく、綺麗に切り取った痕。
「し、失礼します!」
ネルエルさんがトーチの蓋を開けて近づけると。
「ん……ちょっと戻った」
火はひとりでに浮き上がりエニの尾てい骨にくっつく。
「そ、そんな……まさか……」
それを呆然と見つめるエルフ達、おい、野郎は目を瞑れよ、潰すぞ。
「エニ、もういいからしまいなさい」
「はい……」
いそいそとスカートを履き直すエニを見届け、妖精国女王に向き直る。
「とりあえず中に入っても?」
「ど、どうぞ」
若干茫然自失の青い顔をした妖精女王に少しにやつきながら、ようやくエルフの里の中へ入る事ができた。
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