ショートコントの密室で

草薙ユイリ

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聞き込み地獄

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 喫茶店の中、俺はつい昨日起こった傷害事件の聞き込みを始める。
 相手は小学6年生の少女、佐藤れりあちゃん。
 俺は警部補として、きっちりこの事件を解決してみせる。
「あの……すいません、何があったんですか?」
 まだ小さい彼女には酷だが、被害者のことを色々と聞かなきゃいけない。
 俺はメモ帳を取り出して、彼女に尋ねた。
「お尋ねしたいことがあります。あなたの知り合い、柊由美さんについでです」
「あ、あの!その前にひとつよろしいですか?」
「なんですか?」
 彼女は力を振り絞るように言った。
「何か頼んでもいいですか?」
「……そうですね。何か頼みましょう」
 俺は店員を呼び止め、コーヒーを頼んだ。
 さて、この子は何を頼
「季節限定いちごみるくパフェください」
 え?今なんて?
「はい。季節限定いちごみるくパフェと、ホットコーヒーですね!」
「はい。お願いします」
 えぇ……えぇ?
 いやあの、国民の血税なんですが……
「……よく食べますね。れりあさん」
「いけませんか?」
 いけないに決まってるだろう!
 ……いや待て待て俺。相手は育ち盛りの小学生だぞ?
 ここは落ち着いて、彼女を見守ろう。
「えぇ。では、柊由美さんについて質問させてもらいます」
「……由美さんに、何かあったんですか?」
 ここは正直に答えても問題ない。
「昨日、ナイフで刺されたようです。現在は意識不明ですが、命に別状は」
「……えっ」
 少女の小さな体が、明らかに震えた。
 そりゃそうだろう。事前の調べによれば、被害者とこの子は師弟のような関係だったらしい。
 これくらいのショックを受けるのはとうぜ
「お待たせしました~ホットコーヒーと、いちごみるくパフェです」
「わぁ!美味しそう!」
 いや提供早いな。そんで落ち着くのも早いな。
「……ショックじゃないんですか?れりあさん」
「ショックですけど、食べ物も大切何で」
 あぁそうですか。
 俺はもくもくとパフェの山を切り崩す少女を、半分困惑しながら見ていた。
 ……いや落ち着け俺。ここからが聞き込みの本番だ。
「率直に申します。柊さんの人間関係に、何か変わったところはありませんか?」
「あの、その前にもう一品頼んでもいいですか?」
 は?え、ちょ、は?
「……なぜですか?」
「ちょっと甘すぎるので」
 おいお前いい加減にしとけよ?
 ……いや待て!何をムキになってるんだ俺!
 ちゃんと快く捜査に協力してくれてるんだぞ?パフェごときなんだ!
「どうぞ。もちろん、お金は私が持ちます」
「ありがとうございます!刑事さん!」
 そう言うと、彼女は店員を呼び止めた。
 まぁ、おそらくレモンスカッシュとかを頼むんだろう。
 甘いものには、そういう爽やかなものがにあ
「すいません、からあげポテト下さい!」
 あれ、聞き間違いかな。
「はい、からあげポテトですね!」
 嘘だろ?いやちょっと待て?
 いくら甘すぎるからって食べ物頼む?
「そちらのお客様は……」
「あ、ホットコーヒーもう一杯お願いします」
 なんとなくノリで頼んじまった。
 本当どうしよう。この聞き込みどうすれば。
「……もう一度質問します。柊さんの人間関係に、何か変わったところはありませんか?」
「変わったところ、ですか」
 少女は顎に手を置いて考えだした。
「どんなに些細な事でも」
「お待たせしました!こちら、からあげポテトとホットコーヒーです」
 前回より早くなってない?
 何ここ、タイムアタックでもしてるの?
「……食べましょうか、刑事さん」
「そ、そうですね」
 まだ最初のコーヒーを飲み切ってないんだが、仕方がない。
 俺は新しいコーヒーを手に取って……あれ?
「カップのふちに汚れがついてる」
 速さのために何か大切なものを犠牲にしてるぞこの店。
「汚れてるんだったら言った方がいいですよ。刑事さん」
「えぇいや、まぁこれくらいは」
「ダメです!飲み物もかわいそうです!店員さーん!」
 え?えぇ?
「このカップ汚れてます!」
「あぁ大変申し訳ありません!すぐに代わりの品を!」
 えぇ?え?
「それじゃあ刑事さん、なんでも質問して……あ、パフェのアイス溶けちゃう」
 えぇ……???

◇◇◇

 警察署内、俺は書類を書いていた。
「警部補、やけに疲れてますね」
 俺は自分の部下に話しかけられる。
「あぁ、君か……大丈夫だよ、俺は」
「うーん」
 すると、部下はスマホを俺に見せた。
「じゃあ甘い物食べましょう!これとかどうですか?」
「うん?なんだ?」
 スマホの中には、『季節限定いちごみるくパフェ』と表示されていた。
「どうですか?この店いい感じでしょ?」
「やめとけ」
 俺は即答した。
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