1 / 20
大人になりきれない探偵、それと牛乳アレルギーの謎・I
しおりを挟む
ベンチと自販機だけがある地下鉄のホームを、オレンジ色の電車が素早く横切った。
「乳製品アレルギーなのに牛乳を飲む理由って、ある?」
僕――初道コウは、ベンチの横の男に質問する。
丸メガネをかけ、革のバッグに紺色のスーツ。後赤い装飾が付いたかっこいい腕時計。
社会人・覚道司は、小学校の僕とは違う雰囲気をまとっていた。
「……は?何言ってんだコウ」
「ただの質問だよ。そんな人を前に見たから」
司はブックカバーのついた本をバッグから取り出すと、そのまま読み始める。
「知らねーよ。ただそいつがおかしくなったか、アレルギーがマシになったからじゃないのか?」
「その人は3日前まで牛乳をまったく飲まなかった。なのに一昨日急に牛乳を飲んだんだ。500ミリリットルもだよ?」
僕がそう言っても、司は本をめくるのをやめようとしない。
「……何読んでるの?」
「ビジネス書だ。子供のあんたには理解できないと思うけどな」
子供のあんたには……何を言ってんだよ。
少しムッときた僕は、ついブックカバーを無理やり外してしまう。
そのブックカバーをベンチに置いた時……僕は目を見開いた。
「あ、ちょ!?」
ブックカバーを外して見えたのは……流行の漫画の表紙だった。
「へー、ビジネス書ってこういうものなんだ」
「いや、ちょ……ちょっとくらい見栄張らせろよ!」
こういう人間なんだよな、司って。
前は女子高生が自分の近くを通った瞬間、ココアじゃなくてコーヒーを買ってたし。
「最悪だよ……で、その牛乳女はお前の知り合いなのか?」
「うん。友達のお姉ちゃん」
司はブックカバーを拾って、本に付けなおす。
すると心底不満そうな顔で、彼は僕を見つめた。
「……で、どうしろと?」
「どうしろでもないよ。ただ理由がなんかないか聞いてるだけ」
「聞いてるだけって、そりゃあないだろ?」
僕は駅にある電光掲示板を見つめた。
事故とかがなければ、あと一分で司は電車に乗ってこの駅を出て行く。
「もういいか?コウ」
「あぁうん……もういいよ。司」
僕は司が乗る電車の、次の電車に乗る。
だから次の電車が来たらこの話はおしまい。
そんなことを考えていたら、今度は肌色の電車がやって来た。
「コウ、あんた今日暇か?」
「え?特に用事とかはないけど……」
そう言いながら、司はベンチを立つ。
「夕方6時に、ここの改札前で集合な」
司はそのまま歩き、電車に乗った。
「……え?」
◇◇◇
夏だからまだ明るい。だけど……夕方6時か。
僕は腕時計を確認しながら、駅の改札前で待つ。
「……あっ!」
司が来たのは、僕が来てからすぐだった。
「よっ。待ったか?コウ」
「今来たところ」
「デートみたいな受け答えだな」
いや、本当のこと言っただけだし。
「……で、司。今から何をするつもりなの?」
「え?あぁ……特に決めてない」
何を言ってるんだ。僕は困惑しながら、相手の顔を見た。
「司、じゃあなんで僕をここに呼び出したの?」
「すまんな、ちょっと気になりすぎて」
意外と好奇心旺盛なのか?
ただ……だとしても無計画に呼び出すなよ。
「じゃあ何する?その人の家にでも行く?」
「いいのか?コウ」
「いいとは言わないよ。でも、別に怒られはしないと思う」
僕は司の反応を待つ。
数秒くらい悩んだ果て、司は結論を出した。
「じゃあ行ってみるか。案内してくれ」
「了解」
僕はとことこ歩きながら、地下鉄の駅を出る。
あいつの家はここからだと結構遠い。まぁ、いいけど。
◇◇◇
赤い屋根が目印の家。僕と司は、1メートルほど距離を開けている。
そのまま僕はインターホンを鳴らし、友人の雄一を呼ぶ。
インターホンを鳴らしてしばらく経った、その時だ。
「おぉコウ、どしたー?」
ドアが開くと同時に、友人の雄一が出てきた。
ちなみに、僕は雄一のことをユウと呼ぶ。僕と同じ二文字にしたかったからだ。
「ユウ、ちょっと聞きたいことがあって。今いいか?」
「別にいいけど……って、その人は?」
僕の肩越しに、ユウは司を見る。
「僕の知り合いというか、そんなところ」
「ふーん……その人も入るのか?コウ」
「入っていいなら」
ユウは首を縦に振る。
それを確認した後、僕は司の腕を引っ張った。
「おいちょ、痛いって!」
そんなことかと知るかとばかりに、僕は司をユウの家に入れる。
小さな玄関の中に、男が三人固まった。
◇◇◇
玄関のドアを開けると、リビングが現れた。
リビングの奥には階段があり、ユウの部屋とユウの姉の部屋がある二階につながっている。
白で統一されたリビングの中、テーブル越しに僕と司はユウに質問をした……が。
「ユウも聞いてないのか……」
ユウの姉は、その日しばらく体調が悪かったらしい。
もちろんアレルギーのせいなんだが、理由を親にも話してないというのがよくわからない。
「で、姉さんがどうかしかのか?」
「いや……ただちょっと気になってな。アレルギーって大変なんだろ?」
ユウは顎に手を置いて考え始めた。
しばらく経った後、ユウはこっちに質問してくる。
「で、その男の人はコウの友達か?」
「……いや、ただの顔見知り」
僕がそう言うと、腕を組んで何かを考え始めた。
「……名前、なんて言うんですか?」
「カクドウツカサです」
司はそう答えると、スーツの内ポケットに手を突っ込む。
鉄のケースを取り出すと、そこから名刺を取り出してユウに渡した。
「……ちょうど俺も、理由が気になってたんです。最近の姉、なんか挙動不審だし」
ユウはこっちを見つめなおすと、強い口調で言った。
「質問があるなら答えます。コウ、司さん。調べるなら、どうぞ」
やはり心配なのだろう。よっぽど好きじゃない限り、アレルギーのものを自ら取り込むなんてない。
だったらそれなりの理由がある……ユウはそう確信してるんだろうな。
「乳製品アレルギーなのに牛乳を飲む理由って、ある?」
僕――初道コウは、ベンチの横の男に質問する。
丸メガネをかけ、革のバッグに紺色のスーツ。後赤い装飾が付いたかっこいい腕時計。
社会人・覚道司は、小学校の僕とは違う雰囲気をまとっていた。
「……は?何言ってんだコウ」
「ただの質問だよ。そんな人を前に見たから」
司はブックカバーのついた本をバッグから取り出すと、そのまま読み始める。
「知らねーよ。ただそいつがおかしくなったか、アレルギーがマシになったからじゃないのか?」
「その人は3日前まで牛乳をまったく飲まなかった。なのに一昨日急に牛乳を飲んだんだ。500ミリリットルもだよ?」
僕がそう言っても、司は本をめくるのをやめようとしない。
「……何読んでるの?」
「ビジネス書だ。子供のあんたには理解できないと思うけどな」
子供のあんたには……何を言ってんだよ。
少しムッときた僕は、ついブックカバーを無理やり外してしまう。
そのブックカバーをベンチに置いた時……僕は目を見開いた。
「あ、ちょ!?」
ブックカバーを外して見えたのは……流行の漫画の表紙だった。
「へー、ビジネス書ってこういうものなんだ」
「いや、ちょ……ちょっとくらい見栄張らせろよ!」
こういう人間なんだよな、司って。
前は女子高生が自分の近くを通った瞬間、ココアじゃなくてコーヒーを買ってたし。
「最悪だよ……で、その牛乳女はお前の知り合いなのか?」
「うん。友達のお姉ちゃん」
司はブックカバーを拾って、本に付けなおす。
すると心底不満そうな顔で、彼は僕を見つめた。
「……で、どうしろと?」
「どうしろでもないよ。ただ理由がなんかないか聞いてるだけ」
「聞いてるだけって、そりゃあないだろ?」
僕は駅にある電光掲示板を見つめた。
事故とかがなければ、あと一分で司は電車に乗ってこの駅を出て行く。
「もういいか?コウ」
「あぁうん……もういいよ。司」
僕は司が乗る電車の、次の電車に乗る。
だから次の電車が来たらこの話はおしまい。
そんなことを考えていたら、今度は肌色の電車がやって来た。
「コウ、あんた今日暇か?」
「え?特に用事とかはないけど……」
そう言いながら、司はベンチを立つ。
「夕方6時に、ここの改札前で集合な」
司はそのまま歩き、電車に乗った。
「……え?」
◇◇◇
夏だからまだ明るい。だけど……夕方6時か。
僕は腕時計を確認しながら、駅の改札前で待つ。
「……あっ!」
司が来たのは、僕が来てからすぐだった。
「よっ。待ったか?コウ」
「今来たところ」
「デートみたいな受け答えだな」
いや、本当のこと言っただけだし。
「……で、司。今から何をするつもりなの?」
「え?あぁ……特に決めてない」
何を言ってるんだ。僕は困惑しながら、相手の顔を見た。
「司、じゃあなんで僕をここに呼び出したの?」
「すまんな、ちょっと気になりすぎて」
意外と好奇心旺盛なのか?
ただ……だとしても無計画に呼び出すなよ。
「じゃあ何する?その人の家にでも行く?」
「いいのか?コウ」
「いいとは言わないよ。でも、別に怒られはしないと思う」
僕は司の反応を待つ。
数秒くらい悩んだ果て、司は結論を出した。
「じゃあ行ってみるか。案内してくれ」
「了解」
僕はとことこ歩きながら、地下鉄の駅を出る。
あいつの家はここからだと結構遠い。まぁ、いいけど。
◇◇◇
赤い屋根が目印の家。僕と司は、1メートルほど距離を開けている。
そのまま僕はインターホンを鳴らし、友人の雄一を呼ぶ。
インターホンを鳴らしてしばらく経った、その時だ。
「おぉコウ、どしたー?」
ドアが開くと同時に、友人の雄一が出てきた。
ちなみに、僕は雄一のことをユウと呼ぶ。僕と同じ二文字にしたかったからだ。
「ユウ、ちょっと聞きたいことがあって。今いいか?」
「別にいいけど……って、その人は?」
僕の肩越しに、ユウは司を見る。
「僕の知り合いというか、そんなところ」
「ふーん……その人も入るのか?コウ」
「入っていいなら」
ユウは首を縦に振る。
それを確認した後、僕は司の腕を引っ張った。
「おいちょ、痛いって!」
そんなことかと知るかとばかりに、僕は司をユウの家に入れる。
小さな玄関の中に、男が三人固まった。
◇◇◇
玄関のドアを開けると、リビングが現れた。
リビングの奥には階段があり、ユウの部屋とユウの姉の部屋がある二階につながっている。
白で統一されたリビングの中、テーブル越しに僕と司はユウに質問をした……が。
「ユウも聞いてないのか……」
ユウの姉は、その日しばらく体調が悪かったらしい。
もちろんアレルギーのせいなんだが、理由を親にも話してないというのがよくわからない。
「で、姉さんがどうかしかのか?」
「いや……ただちょっと気になってな。アレルギーって大変なんだろ?」
ユウは顎に手を置いて考え始めた。
しばらく経った後、ユウはこっちに質問してくる。
「で、その男の人はコウの友達か?」
「……いや、ただの顔見知り」
僕がそう言うと、腕を組んで何かを考え始めた。
「……名前、なんて言うんですか?」
「カクドウツカサです」
司はそう答えると、スーツの内ポケットに手を突っ込む。
鉄のケースを取り出すと、そこから名刺を取り出してユウに渡した。
「……ちょうど俺も、理由が気になってたんです。最近の姉、なんか挙動不審だし」
ユウはこっちを見つめなおすと、強い口調で言った。
「質問があるなら答えます。コウ、司さん。調べるなら、どうぞ」
やはり心配なのだろう。よっぽど好きじゃない限り、アレルギーのものを自ら取り込むなんてない。
だったらそれなりの理由がある……ユウはそう確信してるんだろうな。
11
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる