大人になりきれない探偵さん

草薙ユイリ

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大人になりきれない探偵、それと牛乳アレルギーの謎・II

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「うぅ、苦い」
「だからコーヒーはやめようって言ったのに」

 ユウが持ってきてくれた姉の日記と、青い写真立てに入れられた、部屋に飾ってある写真3つ。

 それらを眺めながら僕はサイダーを、司はコーヒーを飲んでいた。

「だ、大丈夫ですか?お兄さん」
「ほらぁ、ユウも心配してるよ?」
 司は手を突き出し、『大丈夫だ』のジェスチャーをする。

 本当に大丈夫なのか?これ。
「なぁコウ、俺ってここにいない方がいいのか?」

「……どっちでも」
 そう言うと、ユウは椅子から立ち上がってリビングを出て行く。

 これでこの空間には資料、司、そして僕しかいなくなったわけだ。

「じゃ、行くかコウ」
 司はなんとかコーヒーを飲み切ると、まずは写真に手を付けた。

「えっと……うわっ、まじか」
「司?どうしたの?」
 体を乗り出してその写真を覗く。
 そこには、硬く手を握り合うカップルがいた。

 男の方はかなりの高身長イケメン。
 女の方もかわいらしく、肌はきれいで服もおしゃれな美人だ。

「はっはーん、司も嫉妬するんだ」
「うるせぇ」
 司は少し乱暴に、写真をテーブルの上に戻した。

「他の写真は……普通だね、司」
「まぁそうだな」
 遊園地で楽しそうに遊ぶユウの姉に、ユウと一緒にボーリングする姉。

 どちらの写真でも、二人は楽しそうに手を繋いでいた。

「そんじゃ、次は日記か……いいのか?見て」

「いいのかって、ユウがああ言ってるんだから大丈夫でしょ」

 司は言葉にならない声を出す。
 まぁ、確かに他人の日記を勝手に見るのは気が引けるな……

 だけど、ユウも心配してるんだろう。多分。

「それじゃ、見るぞ」
 そう言うと、司は日記の最初のページをめくる。

「……普通、だな」
「普通?どゆこと司」
「少なくとも、謎の解明に役立ちそうじゃないって意味だ」

 そのまま、司はパラパラとページをめくる。

 しばらくした後、司は手を止め……顎に手を置いて考え始めた。

「おっ、ここなんか面白そうだ」
「え?見せて司」
 司がテーブルの真ん中に日記を置いたので、僕も読んでみた。


 6月11日
 今日はいろんなカフェを見て回った。
 私と晴弥、食べられない物がおんなじだから今があるんだよな。

 だからそこだけは神様に感謝!それ以外は特になんもなかった。


「『食べられない物が同じ』って、これ」

「そう。彼氏のそいつも牛乳アレルギーってことだ」

 なるほど……だけど、なんで?
「だったらなんで牛乳を飲む必要があるの?司」

「そこはまだ謎なんだよな」
 司は険しい顔つきで言った。
 この謎について考えているのか、カップルに嫉妬してるのかは謎である。

 そんなことを考えていると、司は日記をまためくりはじめた。

 しかし、最後のページまで読んでも司の表情は険しいままだった。

 どうやら、それ以上の情報はなかったらしい。

 最後のページをめくり、ノートの裏面が現れる。

 そこには、『茉莉』という字が書かれていた。

 ご丁寧に、『マリ』というルビもふってある。

「……というか司。ユウの姉って、茉莉って名前なんだね。初めて知った」

「ん?そうらしいな」

◇◇◇

 近くのコンビニに入り、僕たちは店内を見て回る。

 現在時刻午後6時25分。さすがに7時には帰らないといけない。

 だけど……やっぱり謎は解きたい。
「このコンビニの、どこで牛乳を飲んでたんだ?」

「そこのATMの隣」
 レジと出入り口の間に、ATMやコーヒーメーカーが置かれている。

 そこで静かに牛乳を飲み干し、茉莉さんはコンビニを出て行った。

「……よくわからねぇな。茉莉さんは、このコンビニによく来てたのか?」

「うん。晴弥さんらしい人と一緒にいるのも見た」

 ため息が聞こえる。
「お前、茉莉さんがリア充って知ってたのかよ」

「別にいいじゃん。そんなに毛嫌いしないでも」

 青い顔で、司はコンビニのレジに視線を向ける。

 そこには、ショートヘアで美人な店員さんがいた。

「……コウ、ちょっと待っててくれ」
「え、司?」
 司は素早く店の奥に潜り込むと、歯ブラシを持ってきた。

 レジに行き、歯ブラシを会計する。
「一点で、160円です」
「えーと、これで」
 1000円札を出し、司はお釣りを受け取る。

 その姿は、どこかぎこちない。
「ありがとうございました!」
 そう言う美人な店員さんに、司は軽く一礼した。顔が赤く染まっていた。


◇◇◇

 コンビニの外には、少し寒い風が吹いている。

 夏は本当に過ごしにくい。
「で、あの店員さんから買った歯ブラシ、使うの?」

「使うにきまってるだろ。つーか、元々買い替える予定だったし」

 本当か?僕は怪しみながら、司の顔を覗く。

「……いいか!コウ。人間の口の中には雑菌がうようよいて、歯ブラシにもそれが移るんだ。だから、歯ブラシはこんな感じでちょくちょく買い替えなきゃいけないんだ!」

 この口調、どう考えても図星だな。
 というか自分から買いに行ったくせして、なんか恥ずかしがってたし。この人。

「はいはい。早く戻るよ、ユウの家に」
「……わかった」
 ため息をつきながら、司は僕についていく。

 今は6時35分。結構やばいな。

◇◇◇

「おかえりぃ!コウ」
「ただいま」
 しっかし、見ず知らずの他人をよく家に上げてくれるよな、ユウも。

 ユウの家のドアを開ける司を見ながら、僕はそう思った。

「で、コンビニにヒントはあったか?」
「いいや、なかった」
 僕は首を横に振る。
 司とユウのため息が同時に聞こえた。
「ま、まぁ……夕飯食べてくかコウ?そこのお兄さんも一緒に」

「いやいや、迷惑だからいいよ」
 ふと司の方を見ると、また日記を見ていた。

 どうやら、まだがんばろうとしているらしい。

「……うまくいかなくてごめんな。それじゃあ、またあ」

「ちょっと待ってください」
 その瞬間、僕とユウは同時に後ろを向く。

 日記を見ながら、司は硬直していた。
「どうしたん、です?お兄さん」
「ユウさん、お姉さんの部屋を見せてもらえませんか?」

 戸惑うユウに対し、司は詰め寄る。
「全然、いいですけど……」
「司?いったい何を」
 言い切る間もなく、司は階段を上った。
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