大人になりきれない探偵さん

草薙ユイリ

文字の大きさ
3 / 20

大人になりきれない探偵、それと牛乳アレルギーの謎・III

しおりを挟む
 白い壁紙の部屋には、木製の机と椅子、それとベッドに棚があった。

 部屋はおしゃれかつ奇麗で、隅にあるゴミ箱すらも高級そうに見えた。

 棚の上にあるデジタル時計は、6時35分を指していた。

「司、ちょっとやりすぎじゃないの?」
 部屋のドア越しに、僕とユウは司を見る。
「ユウさんに許可とったんだから大丈夫だろ」

 司はまるで自分の物のように、堂々と女子の棚を物色していた。

「ありがとうユウさん。どうしても、あのカップルの出会いが気になって」

「いえいえ、大丈夫ですよ」
 ユウは元気な笑顔でそう言った。
 いや、いくら心配だとしても……ちょっと不安じゃないのか?

 今日初対面の相手に家族の棚を触らせるなんて。

「……あれ?日記がない」
「日記?あの日記じゃなくて?」
 僕は司にそう質問する。
 司は僕の方を振り向くと、一言呟いた。
「あの日記より前の日記だよ。あのカップルの出会いが知りたいなと思ってな」

 その瞬間、ユウが言った。
「あ、姉さんは前の日記は処分してるらしいです」

 司の顔色が悪くなっていくのが、僕にもわかった。

「……えぇ?まじかよ」

◇◇◇

 リビングに戻ると、ユウはトイレに行った。

 僕と司は椅子に座り、二人だけで話し出す。

「ねぇ司、本当に日記を探しただけなの?」
「……どういう意味だ?」
「いや、ただ女子の棚を漁りたかっただけじゃないのかなって」

 司は目を見開いた。
「そ、そんなわけないだろう。というか、別に大したものは入ってなかったし」

 その声は少しだけ動揺しているように聞こえた。

 僕は不思議そうな顔をして、司を見つめる。

「大したものじゃないなら、何があったの?」

「……空のエナジードリンク数本と、なんか紫色の紙だけだ」

 司の受け答えは、割と普通だった。
 まぁ、司は意外と常識ある方だし……多分シロだな。多分。

 その時だった。リビングにユウが入って来た。

「コウ。理由、なんか思いついたか?」
「いいや、まだだよ」
 司は考えこんでいるようだったが、少し時間が足りない。

 じゃあどうする?諦めるか?
「あの……コウ、お兄さん。ちょっと話があるんですが」

「なんでしょうか?」
 司は素早く反応する。
「姉さんと晴弥さんの出会いではないんですけど、付き合った理由は一応覚えてるんですけども」

「え?マジですか?」
「マジです」
 ユウはそう言うと、僕と司に説明しだした。


「姉さんは子供の頃からずっと牛乳アレルギーで、それでよく嫌な思いしてきたんです」

 ユウの口調は落ち着いていた。おそらく、何度も聞かされたのだろう。

「誕生日ケーキ食べられないし、ヨーグルトもダメです。触るだけなら大丈夫ですけど、食べるとひどいことに」

「え、でも……じゃあなんで」
 司は口を挟む。しかし、数秒後には手を合わせて『すいません』のジェスチャーをした。

「あぁ……ちょっとずつ、治していったんです。今では少しだけなら何も起きません」

「ありがとうございます」
 司は軽く頭を下げた。
「えぇ……それで、姉さんが晴弥さんと出会ったのは、高校に入った後でした」

 出会いのシーンになると、司の表情がさらに真剣になる。

「姉さんは、晴弥さんのことを『一緒にいると安心する』人と言っていました」

 ふと司を見ると、苦い顔をしていた。
「二人が付き合ったのは、それからすぐだったと思います。『安心するし、とにかく好きになった』と」

 ユウは目を閉じると、しばらくそのままでいた。

 目を開いた後、ユウは話をしめる。
「……なにか、これで足しになればいいんですけど」

「いえいえ、ありがとうございます」
 司はまた、軽く頭を下げた。
「僕からも。ありがとうな、ユウ」
「どういたしまして……それじゃあ、後は頼む」

 そう言うと、ユウはまたリビングを出て行った。

 時計を確認すると、今は6時41分だ。
「コウ。帰る時間大丈夫か?」
「ここからだと5分くらいだから大丈夫。それよりも、考えることに集中しないと」

 僕は頭の中に、これまでにユウから聞いた話を映していた。

 ユウは自分の姉のことを、いつも良く思っている。

 もちろん家族だから、ケンカすることもあった。

 だけど、少なくともユウは姉が好きだ。
 僕だって、目の前でアレルギーの人が牛乳を一気飲みしたら困惑する。

 ユウがその理由を知りたがるのも、ある意味当然か。

「……ねぇ、司。さっきの話、どう思う?」
「すまん。聞いてなかった」
 え?嘘でしょ?
「ちょ、司?それは失礼だよ?」
「い、いや俺も仕事で疲れてるんだ……何の話してたんだ?」

「いや、茉莉さんと晴弥さんは同じアレルギーだとか、それでお互い安心だったとか……」

 司はその言葉を黙って聞いていた……その時だった。

「ん?今安心って言ったか?コウ」
「え?言ったけど。どうしたの?」
 その瞬間、司はそっと立ち上がる。
 そのまま階段のほうに歩くと、2階へと消えた。


◇◇◇

「……なるほどな。最悪だよ」
 茉莉さんの部屋では、司が頭を抱えていた。

「司?どうしたの?」
「あぁ、ちょっとな」
 すると、司はゆっくりと立ち上がった。
 おどろおどろしい模様が書かれた、紫の紙を持ちながらだ。

「真実がわかった」
「え……まじ?」
 そう言う司は、また苦笑いしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...