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大人になりきれない探偵、それと牛乳アレルギーの謎・解決
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ユウによると、もうすぐ茉莉さんは帰ってくるらしい。
僕と司はリビングで彼女を待つ。ちなみに、司が導き出した『真実』は、まだ聞いていない。
「ただいまー!ユウ!」
元気のいい声が聞こえる。牛乳をがぶ飲みしていた、茉莉さんの声だ。
「おかえりー!」
リビングに茉莉さんが入って来た途端、僕は少し驚いた。
すべすべの肌に、おしゃれな髪型。薄手の白いコートを着こなす、まさしく『かわいい』見た目だ。
「あ、すいません!」
最初に彼女に話しかけたのは、司だった。
「……誰?ユウの先生?」
「あぁいや、俺の友達の……知り合い?」
「そういう解釈で合っています」
ユウと茉莉さんの会話を、司は肯定する。
しかし、彼女の違和感は消えないようだった。
「あの、一体どうしたんですか……というか、あなたの名前は?」
姉にそう言われた瞬間、司はまた胸ポケットに手を入れる。
「あぁ申し遅れました。私、覚道司と申します」
そう言いながら、司は白い名刺を差し出す。
「へぇ、会社員さんか。で、私の家に何の用?」
「えぇ。失礼ながら」
そこまで言うと、司は口角を上げる。
どうしたの――そう聞く前に、司は話し始めた。
「あなた、自分の彼氏を呪おうとしましたね?」
「……は?」
茉莉さんの表情が固まる。
そんな状況をものともせず、司は自分の考えを伝えた。
「あなたと、晴弥さんは共に乳製品アレルギーらしいですね。つまり、お互いに牛乳を飲むわけがない」
「ちょ、何を言って」
茉莉さんの額に汗が光る。
弟であるユウも、困惑しているようだ。
「だからあなたは牛乳を飲んだ後……キスしたんですね」
僕は急に出てくる、『キス』という単語に目を見開いた。
「えっ?」
司はこっちを向くと、人差し指を口に当てて『静かに』のジェスチャーをする。
「キスすることで、あなたの口に残った牛乳が相手の口に入る。それを狙ったんですか?」
胸ポケットに手を入れると、司は折りたたまれた紫色の紙を取り出す。
それを広げ、ユウの姉に見せた。
「そしてこの紙です。晴弥さんはあなたが牛乳を飲むなんて想定してない。だから『呪い』を使われたと思ってもおかしくない」
司の話し方はゆったりしている。だけど、僕はこの状況に追いつけなかった。
そして……茉莉さんは、ため息をついた。
「……仕方ないでしょ?晴弥が、あんなことをしたんだから」
あんなこと……それを聞いた瞬間、僕は耐えきれなくなって口を開いた。
「ど、どんなことなんですか?」
「近所のコンビニよ。あのコンビニで……晴弥が店員にうつつを抜かしていたの」
うつつを、抜かす?
「あのコンビニは晴弥も使ってるんだけど、たまたま見ちゃったの。美人な店員から、充電器を買う姿を」
「えっとそれ、晴弥さんはあなたが見てるって知ってたんですか?」
僕は目を回しながら、ユウの姉に質問する。
「いや?ユウは普段充電器なんて買わないのに、その日は買ってた。だから……こうするしかなかったの」
え、でも証拠とかないんじゃ。
僕はゆっくりと、隣の司を見上げる。
完全な苦笑いを浮かべる司の姿が、僕の目に映った。
「というかユウ!?私の部屋に、勝手に誰か入れたの?」
「え、でも姉さんも俺の日記勝手にデジタル化したり、俺の部屋の模型作ってもらったりしてたよね?」
え?え?え?
「ユウは私だけの物だからよ!私は晴弥だけの物なの!そんなこと言うなら、夕飯のハンバーグ抜きよ!」
えーっと……つまり、ユウが日記を見せてくれたり、部屋に入れてくれたりしたのは、心配してたからじゃないってこと?
僕は金縛りのような感覚に襲われる。
金縛りが解けた時、最初にした行動は……
「司、逃げよう」
こう、司に言うことだった。
◇◇◇
夕方の風が少し涼しい。
司の腕時計によると、現在時刻6時43分。なんとか門限に間に合った。
「ユウの姉さんがおかしいって、いつ気づいたの?」
「それは……まぁ、勘と言っちゃ勘だな」
司は伸びをしながら歩き続ける。そして、また口を開いた。
「茉莉さんの部屋にはゴミ箱があった。じゃあなんで、ドリンクの缶を棚に入れる必要がある?」
こっちをいきなり振り向くと、司は続ける。
「答えは簡単。それがゴミじゃないからだ」
僕はさっきまでの記憶を掘り起こす。
そういや、棚にエナジードリンクの缶があるとか言ってたな。
「……つまり、司はそのエナジードリンクの缶は誰かの物だと思ったわけ?」
僕の質問に、司はウインクしながら答えた。
「正解だ。ジュースの缶には唾液が付くからな」
「ふーん……それで、決め手はあの『呪いの札』か」
「それまた正解。いいセンスだな、コウ」
いいセンスって、誰でもわかると思うけど。
「しっかし、まさか友達の姉も、何なら友達もやばい奴だったとはなぁ。コウ、メンタル大丈夫か?」
「大丈夫。司も、今日はお疲れ様」
僕がそう言うと、司は疲れ切った顔でポケットに手を突っ込む。
「しっかし、結局晴弥さんってどんな人なんだろうな。コウ」
「さぁね……」
僕は頭の中に、いろいろとヤバい彼女に振り回される少年をイメージする。
そういえばあの写真、僕には茉莉さんと晴弥さんが仲良く手を繋いでる写真に見えた。
でも、なんか手のつなぎ方がしっかりしすぎてたような……
「どうした?コウ」
「いや、なんでもない」
僕は心の中で、彼の幸せを神に祈る。
それと同時に、僕はあることにも気づいた。
「司ってああいうキャラだったんだ。皆の前で、自分の考えを言えるみたいな」
「キャラというか……そんなかっこいいものじゃないぜ?」
司は空を見上げると、軽く言う。
「なんでも気になるんだよ。俺は、子供っぽいらしいからな」
「……自覚はないんだ」
司は僕の方を向くと、キッした目で睨んだ。
僕と司はリビングで彼女を待つ。ちなみに、司が導き出した『真実』は、まだ聞いていない。
「ただいまー!ユウ!」
元気のいい声が聞こえる。牛乳をがぶ飲みしていた、茉莉さんの声だ。
「おかえりー!」
リビングに茉莉さんが入って来た途端、僕は少し驚いた。
すべすべの肌に、おしゃれな髪型。薄手の白いコートを着こなす、まさしく『かわいい』見た目だ。
「あ、すいません!」
最初に彼女に話しかけたのは、司だった。
「……誰?ユウの先生?」
「あぁいや、俺の友達の……知り合い?」
「そういう解釈で合っています」
ユウと茉莉さんの会話を、司は肯定する。
しかし、彼女の違和感は消えないようだった。
「あの、一体どうしたんですか……というか、あなたの名前は?」
姉にそう言われた瞬間、司はまた胸ポケットに手を入れる。
「あぁ申し遅れました。私、覚道司と申します」
そう言いながら、司は白い名刺を差し出す。
「へぇ、会社員さんか。で、私の家に何の用?」
「えぇ。失礼ながら」
そこまで言うと、司は口角を上げる。
どうしたの――そう聞く前に、司は話し始めた。
「あなた、自分の彼氏を呪おうとしましたね?」
「……は?」
茉莉さんの表情が固まる。
そんな状況をものともせず、司は自分の考えを伝えた。
「あなたと、晴弥さんは共に乳製品アレルギーらしいですね。つまり、お互いに牛乳を飲むわけがない」
「ちょ、何を言って」
茉莉さんの額に汗が光る。
弟であるユウも、困惑しているようだ。
「だからあなたは牛乳を飲んだ後……キスしたんですね」
僕は急に出てくる、『キス』という単語に目を見開いた。
「えっ?」
司はこっちを向くと、人差し指を口に当てて『静かに』のジェスチャーをする。
「キスすることで、あなたの口に残った牛乳が相手の口に入る。それを狙ったんですか?」
胸ポケットに手を入れると、司は折りたたまれた紫色の紙を取り出す。
それを広げ、ユウの姉に見せた。
「そしてこの紙です。晴弥さんはあなたが牛乳を飲むなんて想定してない。だから『呪い』を使われたと思ってもおかしくない」
司の話し方はゆったりしている。だけど、僕はこの状況に追いつけなかった。
そして……茉莉さんは、ため息をついた。
「……仕方ないでしょ?晴弥が、あんなことをしたんだから」
あんなこと……それを聞いた瞬間、僕は耐えきれなくなって口を開いた。
「ど、どんなことなんですか?」
「近所のコンビニよ。あのコンビニで……晴弥が店員にうつつを抜かしていたの」
うつつを、抜かす?
「あのコンビニは晴弥も使ってるんだけど、たまたま見ちゃったの。美人な店員から、充電器を買う姿を」
「えっとそれ、晴弥さんはあなたが見てるって知ってたんですか?」
僕は目を回しながら、ユウの姉に質問する。
「いや?ユウは普段充電器なんて買わないのに、その日は買ってた。だから……こうするしかなかったの」
え、でも証拠とかないんじゃ。
僕はゆっくりと、隣の司を見上げる。
完全な苦笑いを浮かべる司の姿が、僕の目に映った。
「というかユウ!?私の部屋に、勝手に誰か入れたの?」
「え、でも姉さんも俺の日記勝手にデジタル化したり、俺の部屋の模型作ってもらったりしてたよね?」
え?え?え?
「ユウは私だけの物だからよ!私は晴弥だけの物なの!そんなこと言うなら、夕飯のハンバーグ抜きよ!」
えーっと……つまり、ユウが日記を見せてくれたり、部屋に入れてくれたりしたのは、心配してたからじゃないってこと?
僕は金縛りのような感覚に襲われる。
金縛りが解けた時、最初にした行動は……
「司、逃げよう」
こう、司に言うことだった。
◇◇◇
夕方の風が少し涼しい。
司の腕時計によると、現在時刻6時43分。なんとか門限に間に合った。
「ユウの姉さんがおかしいって、いつ気づいたの?」
「それは……まぁ、勘と言っちゃ勘だな」
司は伸びをしながら歩き続ける。そして、また口を開いた。
「茉莉さんの部屋にはゴミ箱があった。じゃあなんで、ドリンクの缶を棚に入れる必要がある?」
こっちをいきなり振り向くと、司は続ける。
「答えは簡単。それがゴミじゃないからだ」
僕はさっきまでの記憶を掘り起こす。
そういや、棚にエナジードリンクの缶があるとか言ってたな。
「……つまり、司はそのエナジードリンクの缶は誰かの物だと思ったわけ?」
僕の質問に、司はウインクしながら答えた。
「正解だ。ジュースの缶には唾液が付くからな」
「ふーん……それで、決め手はあの『呪いの札』か」
「それまた正解。いいセンスだな、コウ」
いいセンスって、誰でもわかると思うけど。
「しっかし、まさか友達の姉も、何なら友達もやばい奴だったとはなぁ。コウ、メンタル大丈夫か?」
「大丈夫。司も、今日はお疲れ様」
僕がそう言うと、司は疲れ切った顔でポケットに手を突っ込む。
「しっかし、結局晴弥さんってどんな人なんだろうな。コウ」
「さぁね……」
僕は頭の中に、いろいろとヤバい彼女に振り回される少年をイメージする。
そういえばあの写真、僕には茉莉さんと晴弥さんが仲良く手を繋いでる写真に見えた。
でも、なんか手のつなぎ方がしっかりしすぎてたような……
「どうした?コウ」
「いや、なんでもない」
僕は心の中で、彼の幸せを神に祈る。
それと同時に、僕はあることにも気づいた。
「司ってああいうキャラだったんだ。皆の前で、自分の考えを言えるみたいな」
「キャラというか……そんなかっこいいものじゃないぜ?」
司は空を見上げると、軽く言う。
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