大人になりきれない探偵さん

草薙ユイリ

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大人になりきれない探偵、それとスゴロク不正・I

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 いつもの地下鉄ホームには、やっぱりスーツ姿の司とランドセルを背負った僕がいた。

「どーした?コウ」
「いや、ちょっと気分が乗らないだけ」
 気分が乗らない理由というのは、ついさっき『あの人』と出会ってしまったからだ。

 別に『あの人』が嫌いなわけじゃないんだけど、ちょっと特殊な相手と言うかなんというか……

 僕は電光掲示板を見る。司の電車は後5分で到着だ。

「……そういえばつか」
「おっ!見つけたぞコウ君!」
 僕の右から聞こえた若い女性の声に反応し、司はびくっとする。

 あーあ、見つかっちゃったか。
「……さっきぶりですね。エフさん」
 ゆっくりと、僕は声の方を見る。そこにいたのは、青いブラウスとズボンを身に着けた女性だった。

 彼女の名前は、鏡永譜。僕の知り合いで……ちょっと色々ある人だ。

「コウ、この人はコウの知り合いか?」
「うん。家の近所に住んでて、ボードゲームとかが得意なんだ」

 司はふーんといった音を出した。
 まぁさすがに、エフさんも初対面の人間相手に『勝負』を仕掛けるとは思わないけど……

「えーっとコウ君。その人の名前は何かな?」
「……司。司ると書いて司ね」
「なるほど、司さんね」
 あれ、なんか嫌な予感がするぞ。
「……コウ君、今日は暇かな?」
「6時以降なら。またなんかやるの?」
「ふふん。今日はね……」
 エフさんはズボンのポケットから、折りたたまれた紙を取り出して開く。

 それはスゴロクだった。黒いペンで、マスや文字が書かれている。自作だろうな。

「このスゴロクをやろうと思います!司さんもやります?」

 あぁやっぱり司も誘ってきた。
「……いや、司は社会人で忙しいから」
「やりますっ!」
 ……あれ?と思いながら、僕は司の顔をちらっと見る。

 ちょっと顔が赤くなっていた。
「……あー」
 エフさん結構かわいいんだよな。顔だけは。
 まぁ、ちょっと性格には難ありだけど。
「それじゃあ、今日6時からこの辺で待っててね!コウ君、司さん!」

「はいっ!」
「はーいはい」
 さて……エフさんの本性を、司に伝えておくべきものか。

 まぁでも、まだエフさんが『通常運転』だって決まったわけじゃないし……

「あ、サイコロとかはこっちで用意するんで、2人は手ぶらでいいですよっ!」

 瞬間、僕は絶望した。あー、やるわ、こいつ。

◇◇◇

 灰色の私服に着替え午後6時10分ほど。
 雑草がぽつぽつ生えている、小さめの公園。僕らはそこのベンチに座りだす。

 座る順番は、司・僕・スゴロクの紙・エフさんという順だ。

 あと、司はベンチの横に通勤バッグを置いていた。それ地べたに置いていいものなの?

「……で、これがそのサイコロだよ」
 ポケットから、親指と人差し指でつまむようにサイコロを取り出す。

 青い色に白の点が描かれた、一見すると普通に見えるサイコロ。

 でも、ここにもなにか『不正』があるんだろうな……

「……どうした?コウ、浮かない顔して」
「あぁ、大丈夫」
 
 エフさんと最初に出会ったのは、カードゲームショップのスペースだった。

 スペースをぶらぶらして、対戦してくれそうな人を探してたら……エフさんに声をかけられた。

 デッキをシャッフルするのが妙に上手で、気になって対戦してみた。

 だけど……エフさんは、その対戦で思いっきり不正をした。

 カードの裏面に特殊なペンで印をつけ、これまた特殊なライトで印を確認するという不正を。

 エフさんはあくまで不正を無事にできるか、相手が不正に気付くかを楽しみたい性格。

 不正をしてまで勝ちたいって理由じゃないのがせめてもの救いだけど……


 そんなことを思い出していたら、いつの間にか司に肩を叩かれていた。

「……どうしたの?司」
「いや、誰から始めるかのジャンケンを」
「あぁ、オッケー」
 ちょっと奥を見てみると、すごい元気よさそうな顔でエフさんが手をグーにしていた。

 人を殴らないでよ……?
「はい、ジャンケン!」
「ジャーンケン」
「じゃんっ、けんっ!」
 僕らは同時に、指を立てる本数を変えた。エフさんがグー、僕もグー、司がパー。

 司が最初だ。ちなみに、『じゃんっ、けんっ!』がエフさんで、『はい、ジャンケン!』が司だ。

「……エフさんとコウは、どっちが先なんだ?」
「コウ君が先でいいよー」
 つまり順番は、司・僕・エフさんというわけだ。

 さて、ゲームの始まりだ。僕はスゴロクの紙を確認する。

 
 マスは『振り出し』と『ゴール』を含まなければ38個。マスの中は何も書いてないのがほとんど。

 4マス目、13マス目、20マス目に『1マス進む』があり、6マス目と19マス目に『1回休み』がある。

 そして最後の最後、37マス目に『振り出しに戻る』がある。

 ちなみに、イラストとかはない。申し訳程度に『ゴール』のマスが黄色く塗りつぶされてはいるが。

 
 なんとなく横を見てみると、司がなぜか……戦慄していた。

「ふ、振り出しに戻る……?!」
 落ち着いて。
「さて、それじゃあ司さんどーぞ!」
 司はエフさんに、青いサイコロを手渡される。
 司はそれを高く上げて思いっきり放った!
 そのサイコロはベンチに当たって一度バウンドし……地面に真っ逆さまに落ちた。

「……『3』か」
 泥とかなくてよかった。
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