大人になりきれない探偵さん

草薙ユイリ

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大人になりきれない探偵、それと復讐は何も生まない・解決

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「……コウ、先輩さんは昔いじめられてた可能性があるんだよな?」

「うん。それも僕の妄想だけどね」
「あぁ。だけど……俺はその妄想、ある程度正しいと思っている」

「……なんで?」
 首をかしげる僕に、司は意気揚々と説明しだした。
「俺の予想ですけど、もしかしてその先輩、家が遠くにあるんじゃ?」

「……なんでそれを?」
 ハレさんは表情をこわばらせる。どうやら、司の予想は当たっているらしい。

「簡単ですよ。だってさっき写真の近くに、マンションを建てる余裕なんてないんですもの」

「……あぁ!」
 その言葉に、僕は納得しかける。だけど数秒後、僕の心は揺れていた。

「でも司、遠くって言ってもどれくらいよ。あくまでこの写真に写ってないだけで、意外と近くにマンションあるかもよ?」

「え?あぁ、うん」
 まったく、言葉でごまかそうとして……と思ったのも束の間。

 司はまた、自信満々で話し始めた。
「遠くと言うのは『バスでないと通えないくらい』という意味です。少なくとも徒歩圏内ではないです」

「自転車って知ってる?」
 僕はそうやって司の理論を崩そうとする。だけど、今度は失敗した。

「ハレさん、あなた先ほど『自転車置き場に入れる時ミスって、自転車ごと荷物を倒した』と言いましたね?」

「えぇ。それが何か?」
「満タンの自転車置き場で自転車を倒すと何が起こる?コウ」

 満タンの自転車……そうだ!あの写真!
「ドミノの要領で、他の自転車が倒れる」
「だけどハレさんは『自分の自転車が倒れた』ことだけを記憶していた。つまり……」

 悔しい。その気持ちに、僕はこぶしを握り締めてしまう。
「先輩さんは夜更かし好き。なのに自転車置き場がまだガラガラの状態で高校にいるってことは」

 司はスマホを触り、すぐにそれを僕に見せた。
 それは……高校の最寄りバス停の時刻表だった。
「授業開始30分前の便はきっと混むよな?でもその前の便は、授業開始の1時間30分前にしかない」

「……先輩は、混んでる場所は嫌いです」
「先輩さんは『めちゃくちゃ賢い』んですよね?だったらもっといい高校も選べたはず、だけど」

 ハレさんは深刻な、だけど興味に満ちた顔となる。
「先輩は、昔のトラブルを回避するためにうちの高校に来た。家から……これまでの自分の生活範囲から遠いから」

 その推測はどこか筋が通っている。なんか悔しい。だけど、やり返す方法はまだある。

 だって……司はまだ本題である『なぜ先輩さんは復讐反対の発言をしたのか』が解けていないからだ。

 さぁ、ここからどうなる?
「では司さん、そこから導かれる結論は、何でしょう?」
「単刀直入に言います。先輩さんは、復讐に失敗して救急搬送されたか、されかけたのでしょう」

 なるほど救急搬送か。確かにそれなら復讐が嫌いになっても……えぇ?!

「つ、司?!それはちょっと飛躍しすぎじゃないのかな?」
「もちろんそれは自覚してる。だけど、俺はこれが一番しっくりきた」

 司は真面目な目つきをして、ハレさんを見つめる。
 その様子は、ここからの勝利を確信しているようにも見えた。

「3つ確認します。先輩は、エナジードリンクを愛飲していますか?」

「……しています。それもしょっちゅう」
「では先輩は、『まんじゅう怖い』という演目をしたことがありますか?」

「……まんじゅう怖いは、先輩の得意技です」
「最後の確認です。あなたは先輩から教わる前に、『7119』の存在を知っていましたか?」

「……いいえ、知りません」
 かすかににやけた後、司は軽くまばたきをした。
「後は落語部のあなたの方が詳しいはずですよ。ハレさん」
「……なるほど、そういうことですか」
 直後、ハレさんは『まんじゅう怖い』のオチを語りだした。

 まんじゅうが怖いと主張する男の前に、男を悪く思う人間はまんじゅうを山ほど持ってくる。

 それを利用して、男は山ほどのまんじゅうにありつく……そんな内容だった。

「……だけど、それと救急搬送がどう……あ!」
 瞬間、僕の脳裏にある考えが浮かんだ。まんじゅう怖いと関係のある、ある考えを。

「嫌いなものを聞かれた時に、あえて好きなものを答える。そして、無理やり飲まされるだか、掛けられるだかする」

 今世紀最大のドヤ顔で、司は語った。
「でも詰めが甘かったですね。カフェインの過剰摂取は、最悪の場合死に至りますから」


◇◇◇

 翌日、またいつも通りの地下鉄ホームで第一声を放ったのは司だ。

「あー、昨日の創作活動は楽しかったな」
 まぁ楽しいでしょ。今世紀最大のドヤ顔したんだから……え?

「『創作活動』って言いきっちゃったよ?!探偵のクセに」
「いやいいだろ別に。だって考えても見ろよ?コウ。あえて偏差値を落とした高校に行くのはよくあることだし」

「それに、『復讐反対の発言』をしたことと、先輩さんの過去が結びつくかは未確定だね。司」

「そういうことだ」
 本当それでよく探偵名乗れるな……と思っていた時だった。

「まぁでも、ハレさんの心配は杞憂だと思うぜ?」
「杞憂って何」
「いらない心配って意味だ」
 声がちょっと嬉しそうだな。小学生相手に勝つのがそんな嬉しいか。

「……なんでいらない心配なの?司」
「もちろん空気を読みすぎるとストレスがたまる。だけど、その『吐き出し先』があるなら当面は大丈夫だ」

「吐き出し先って?」
 ちょっとだけ溜めて、司は言った。
「ハレさんは先輩さんが『混雑が嫌い』であることを知っていた。つまり……」

「先輩さんは嫌いなものを言えるくらいにはハレさんを信用してるわけ。そう言いたいんでしょ?」

 僕は司の方に黒目を動かす。司はコクコク頷いていた。
「……お疲れ様、探偵さん」
「ありがとよ。助手さん」
 実はこの事件には、謎がまだ残っているけど……その謎も、今解けた。

 探偵と助手はセット。そう言いたいんでしょ、ハレさん。
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