12 / 20
大人になりきれない探偵、それと復讐は何も生まない・解決
しおりを挟む
「……コウ、先輩さんは昔いじめられてた可能性があるんだよな?」
「うん。それも僕の妄想だけどね」
「あぁ。だけど……俺はその妄想、ある程度正しいと思っている」
「……なんで?」
首をかしげる僕に、司は意気揚々と説明しだした。
「俺の予想ですけど、もしかしてその先輩、家が遠くにあるんじゃ?」
「……なんでそれを?」
ハレさんは表情をこわばらせる。どうやら、司の予想は当たっているらしい。
「簡単ですよ。だってさっき写真の近くに、マンションを建てる余裕なんてないんですもの」
「……あぁ!」
その言葉に、僕は納得しかける。だけど数秒後、僕の心は揺れていた。
「でも司、遠くって言ってもどれくらいよ。あくまでこの写真に写ってないだけで、意外と近くにマンションあるかもよ?」
「え?あぁ、うん」
まったく、言葉でごまかそうとして……と思ったのも束の間。
司はまた、自信満々で話し始めた。
「遠くと言うのは『バスでないと通えないくらい』という意味です。少なくとも徒歩圏内ではないです」
「自転車って知ってる?」
僕はそうやって司の理論を崩そうとする。だけど、今度は失敗した。
「ハレさん、あなた先ほど『自転車置き場に入れる時ミスって、自転車ごと荷物を倒した』と言いましたね?」
「えぇ。それが何か?」
「満タンの自転車置き場で自転車を倒すと何が起こる?コウ」
満タンの自転車……そうだ!あの写真!
「ドミノの要領で、他の自転車が倒れる」
「だけどハレさんは『自分の自転車が倒れた』ことだけを記憶していた。つまり……」
悔しい。その気持ちに、僕はこぶしを握り締めてしまう。
「先輩さんは夜更かし好き。なのに自転車置き場がまだガラガラの状態で高校にいるってことは」
司はスマホを触り、すぐにそれを僕に見せた。
それは……高校の最寄りバス停の時刻表だった。
「授業開始30分前の便はきっと混むよな?でもその前の便は、授業開始の1時間30分前にしかない」
「……先輩は、混んでる場所は嫌いです」
「先輩さんは『めちゃくちゃ賢い』んですよね?だったらもっといい高校も選べたはず、だけど」
ハレさんは深刻な、だけど興味に満ちた顔となる。
「先輩は、昔のトラブルを回避するためにうちの高校に来た。家から……これまでの自分の生活範囲から遠いから」
その推測はどこか筋が通っている。なんか悔しい。だけど、やり返す方法はまだある。
だって……司はまだ本題である『なぜ先輩さんは復讐反対の発言をしたのか』が解けていないからだ。
さぁ、ここからどうなる?
「では司さん、そこから導かれる結論は、何でしょう?」
「単刀直入に言います。先輩さんは、復讐に失敗して救急搬送されたか、されかけたのでしょう」
なるほど救急搬送か。確かにそれなら復讐が嫌いになっても……えぇ?!
「つ、司?!それはちょっと飛躍しすぎじゃないのかな?」
「もちろんそれは自覚してる。だけど、俺はこれが一番しっくりきた」
司は真面目な目つきをして、ハレさんを見つめる。
その様子は、ここからの勝利を確信しているようにも見えた。
「3つ確認します。先輩は、エナジードリンクを愛飲していますか?」
「……しています。それもしょっちゅう」
「では先輩は、『まんじゅう怖い』という演目をしたことがありますか?」
「……まんじゅう怖いは、先輩の得意技です」
「最後の確認です。あなたは先輩から教わる前に、『7119』の存在を知っていましたか?」
「……いいえ、知りません」
かすかににやけた後、司は軽くまばたきをした。
「後は落語部のあなたの方が詳しいはずですよ。ハレさん」
「……なるほど、そういうことですか」
直後、ハレさんは『まんじゅう怖い』のオチを語りだした。
まんじゅうが怖いと主張する男の前に、男を悪く思う人間はまんじゅうを山ほど持ってくる。
それを利用して、男は山ほどのまんじゅうにありつく……そんな内容だった。
「……だけど、それと救急搬送がどう……あ!」
瞬間、僕の脳裏にある考えが浮かんだ。まんじゅう怖いと関係のある、ある考えを。
「嫌いなものを聞かれた時に、あえて好きなものを答える。そして、無理やり飲まされるだか、掛けられるだかする」
今世紀最大のドヤ顔で、司は語った。
「でも詰めが甘かったですね。カフェインの過剰摂取は、最悪の場合死に至りますから」
◇◇◇
翌日、またいつも通りの地下鉄ホームで第一声を放ったのは司だ。
「あー、昨日の創作活動は楽しかったな」
まぁ楽しいでしょ。今世紀最大のドヤ顔したんだから……え?
「『創作活動』って言いきっちゃったよ?!探偵のクセに」
「いやいいだろ別に。だって考えても見ろよ?コウ。あえて偏差値を落とした高校に行くのはよくあることだし」
「それに、『復讐反対の発言』をしたことと、先輩さんの過去が結びつくかは未確定だね。司」
「そういうことだ」
本当それでよく探偵名乗れるな……と思っていた時だった。
「まぁでも、ハレさんの心配は杞憂だと思うぜ?」
「杞憂って何」
「いらない心配って意味だ」
声がちょっと嬉しそうだな。小学生相手に勝つのがそんな嬉しいか。
「……なんでいらない心配なの?司」
「もちろん空気を読みすぎるとストレスがたまる。だけど、その『吐き出し先』があるなら当面は大丈夫だ」
「吐き出し先って?」
ちょっとだけ溜めて、司は言った。
「ハレさんは先輩さんが『混雑が嫌い』であることを知っていた。つまり……」
「先輩さんは嫌いなものを言えるくらいにはハレさんを信用してるわけ。そう言いたいんでしょ?」
僕は司の方に黒目を動かす。司はコクコク頷いていた。
「……お疲れ様、探偵さん」
「ありがとよ。助手さん」
実はこの事件には、謎がまだ残っているけど……その謎も、今解けた。
探偵と助手はセット。そう言いたいんでしょ、ハレさん。
「うん。それも僕の妄想だけどね」
「あぁ。だけど……俺はその妄想、ある程度正しいと思っている」
「……なんで?」
首をかしげる僕に、司は意気揚々と説明しだした。
「俺の予想ですけど、もしかしてその先輩、家が遠くにあるんじゃ?」
「……なんでそれを?」
ハレさんは表情をこわばらせる。どうやら、司の予想は当たっているらしい。
「簡単ですよ。だってさっき写真の近くに、マンションを建てる余裕なんてないんですもの」
「……あぁ!」
その言葉に、僕は納得しかける。だけど数秒後、僕の心は揺れていた。
「でも司、遠くって言ってもどれくらいよ。あくまでこの写真に写ってないだけで、意外と近くにマンションあるかもよ?」
「え?あぁ、うん」
まったく、言葉でごまかそうとして……と思ったのも束の間。
司はまた、自信満々で話し始めた。
「遠くと言うのは『バスでないと通えないくらい』という意味です。少なくとも徒歩圏内ではないです」
「自転車って知ってる?」
僕はそうやって司の理論を崩そうとする。だけど、今度は失敗した。
「ハレさん、あなた先ほど『自転車置き場に入れる時ミスって、自転車ごと荷物を倒した』と言いましたね?」
「えぇ。それが何か?」
「満タンの自転車置き場で自転車を倒すと何が起こる?コウ」
満タンの自転車……そうだ!あの写真!
「ドミノの要領で、他の自転車が倒れる」
「だけどハレさんは『自分の自転車が倒れた』ことだけを記憶していた。つまり……」
悔しい。その気持ちに、僕はこぶしを握り締めてしまう。
「先輩さんは夜更かし好き。なのに自転車置き場がまだガラガラの状態で高校にいるってことは」
司はスマホを触り、すぐにそれを僕に見せた。
それは……高校の最寄りバス停の時刻表だった。
「授業開始30分前の便はきっと混むよな?でもその前の便は、授業開始の1時間30分前にしかない」
「……先輩は、混んでる場所は嫌いです」
「先輩さんは『めちゃくちゃ賢い』んですよね?だったらもっといい高校も選べたはず、だけど」
ハレさんは深刻な、だけど興味に満ちた顔となる。
「先輩は、昔のトラブルを回避するためにうちの高校に来た。家から……これまでの自分の生活範囲から遠いから」
その推測はどこか筋が通っている。なんか悔しい。だけど、やり返す方法はまだある。
だって……司はまだ本題である『なぜ先輩さんは復讐反対の発言をしたのか』が解けていないからだ。
さぁ、ここからどうなる?
「では司さん、そこから導かれる結論は、何でしょう?」
「単刀直入に言います。先輩さんは、復讐に失敗して救急搬送されたか、されかけたのでしょう」
なるほど救急搬送か。確かにそれなら復讐が嫌いになっても……えぇ?!
「つ、司?!それはちょっと飛躍しすぎじゃないのかな?」
「もちろんそれは自覚してる。だけど、俺はこれが一番しっくりきた」
司は真面目な目つきをして、ハレさんを見つめる。
その様子は、ここからの勝利を確信しているようにも見えた。
「3つ確認します。先輩は、エナジードリンクを愛飲していますか?」
「……しています。それもしょっちゅう」
「では先輩は、『まんじゅう怖い』という演目をしたことがありますか?」
「……まんじゅう怖いは、先輩の得意技です」
「最後の確認です。あなたは先輩から教わる前に、『7119』の存在を知っていましたか?」
「……いいえ、知りません」
かすかににやけた後、司は軽くまばたきをした。
「後は落語部のあなたの方が詳しいはずですよ。ハレさん」
「……なるほど、そういうことですか」
直後、ハレさんは『まんじゅう怖い』のオチを語りだした。
まんじゅうが怖いと主張する男の前に、男を悪く思う人間はまんじゅうを山ほど持ってくる。
それを利用して、男は山ほどのまんじゅうにありつく……そんな内容だった。
「……だけど、それと救急搬送がどう……あ!」
瞬間、僕の脳裏にある考えが浮かんだ。まんじゅう怖いと関係のある、ある考えを。
「嫌いなものを聞かれた時に、あえて好きなものを答える。そして、無理やり飲まされるだか、掛けられるだかする」
今世紀最大のドヤ顔で、司は語った。
「でも詰めが甘かったですね。カフェインの過剰摂取は、最悪の場合死に至りますから」
◇◇◇
翌日、またいつも通りの地下鉄ホームで第一声を放ったのは司だ。
「あー、昨日の創作活動は楽しかったな」
まぁ楽しいでしょ。今世紀最大のドヤ顔したんだから……え?
「『創作活動』って言いきっちゃったよ?!探偵のクセに」
「いやいいだろ別に。だって考えても見ろよ?コウ。あえて偏差値を落とした高校に行くのはよくあることだし」
「それに、『復讐反対の発言』をしたことと、先輩さんの過去が結びつくかは未確定だね。司」
「そういうことだ」
本当それでよく探偵名乗れるな……と思っていた時だった。
「まぁでも、ハレさんの心配は杞憂だと思うぜ?」
「杞憂って何」
「いらない心配って意味だ」
声がちょっと嬉しそうだな。小学生相手に勝つのがそんな嬉しいか。
「……なんでいらない心配なの?司」
「もちろん空気を読みすぎるとストレスがたまる。だけど、その『吐き出し先』があるなら当面は大丈夫だ」
「吐き出し先って?」
ちょっとだけ溜めて、司は言った。
「ハレさんは先輩さんが『混雑が嫌い』であることを知っていた。つまり……」
「先輩さんは嫌いなものを言えるくらいにはハレさんを信用してるわけ。そう言いたいんでしょ?」
僕は司の方に黒目を動かす。司はコクコク頷いていた。
「……お疲れ様、探偵さん」
「ありがとよ。助手さん」
実はこの事件には、謎がまだ残っているけど……その謎も、今解けた。
探偵と助手はセット。そう言いたいんでしょ、ハレさん。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる