大人になりきれない探偵さん

草薙ユイリ

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大人になりきれない探偵、それと不可解なサッカーボール・III

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「ありがとうございます。サエキさん」
「いえいえ、それほどでも」
 僕はサエキさんに軽くお礼を言い、ボールを受け取る。

 白く奇麗なボールを眺めてみた、その時だった。

「……やっぱりな」
 司の少し鋭い声が、僕の耳に聞こえた。小声だった。

「どうしたの?司」
「ん?あぁいや、なんでもない」
 なんか怪しいな。どうしたんだ司。
 そんなこんなで、僕はサエキさんの顔を見てみる。

 どうやら、司の奇妙なセリフに気づいた感じはなさそうだ。

「それで、この後どうします?もう手がかりになりそうなものないですけど」

「まぁ、ちょっと考える必要はあるかもな」
 そのまま、司は僕に背を向けて近くの電柱の陰に入ってしまう。

 どうしたんだろう。
「……あの、すいません、ちょっと用事が出てきちゃったんですけど」

「え?あ、どうぞ。ありがとうございます協力してもらって」

「いえいえ」
 僕がそう言って頭をぺこりと下げると、サエキさんはどこかに行っていた。

 ふと下に視線を移すと……そういえば僕サエキさんからボールを受け取ってたんだった。

 これどうしよう?なんかよさげな置き場……とりあえず、建物と建物の隙間にでも置くか。

「……大丈夫?司」
「ん?あぁ、大丈夫だ」
 そう言いながら、司は僕の方を向きなおす。
 その片手にはスマホがあったけど、電源が切られてるから何を見てたのかは不明。

「ところでコウ、今暑さ大丈夫か?」
「え?大丈夫だけど、どうしたの?」
 司は少ししゃがんで、僕に目線を合わせて言った。

「もう一度あのコンビニに向かうぞ。コウ」
「……別にいいけど」

◇◇◇

 汗をかきながらコンビニに行くと、またしても涼しいクーラーの風が体にかかった。

 司も僕もぐてーってなりたくなりつつ、司はなんとか店の奥へと進んでいく。

「どうしたの?司」
「あぁいや、ちょっとだけ気になってな」
 司は棚の間を突き進み、てくてくと店の片隅の棚にたどり着く。

 その場所にあったのは、さっきサエキさんが食べていたグミだ。

「……まさかな」
 本当にどうしたんだろう、司。
 僕が不審そうな目で見ていると、司はわかりやすく目をそらした。

「どーしたの?司」
「え、あぁいや。本当になんでもないからな」
 ちょっと怖くなりつつも、僕はこれ以上追求しないようにした。

 別にこの人がよくわからないことをするのなんて、いつものことだしな。

「そういやコウ、ちゃんと水分摂ってるか?」
「安心して。お母さんからジュース代だけもらってきたから」

 僕はポケットから100円玉と10円玉5枚を取り出した。

 なぜだか司は、大人にとっては大したことないであろう金額をうらやましそうに見た。

 そんな司はほっといて、僕は銀の棚の近くにある、ジュースの冷蔵庫に向かった。

「……おぉ」
 ジュースの並びはまぁ普通だけど、ついさっきまで炎天下にいた僕にはどれも魅力的。

 とりあえず、ここはコーラにしよう。
 僕は冷蔵庫のガラスドアを開けて、コーラを取る。

 それと同時に、ふとした疑問が湧いてしまった。

「……ん?」
 そういえば、司ってよく名刺渡してるよな。
 なくならないかどうかは前も考えたけど、そもそも名刺ってプライベートでも渡すものなのか?

 会社の物だし、というか自分の個人情報とかも書かれてるし。大丈夫なのかな。

「……うーん」
 そんなことを考えつつ、僕は小さめのコーラを掴んでレジへと持って行った。

 おつりを受け取って、一足先にイートインスペースへ向かう。

 そういえばさっきはサエキさんだけがグミを買っていたけど、よく考えたら迷惑かもな。

 あの司は、果たして自分の分も何か買ってくるのだろうか。

「おーい、コウ!」
 僕は声がした方を振り向いた。
 そこに立つ司の右手には、ペットボトルのココアが握られていた。

 よかった、安心した。
「そういえばコウ、さっきなんか考えてたよな?」

「さっきって?」
「ジュースの冷蔵庫の前にいる時だ」
 あぁ、名刺についてのやつか。
「司ってよく名刺を渡してるけど、そんないろんな人に配っていいのかなと思ってさ」

「ん?いや、特に止められてないからな……元々、何が仕事になるかわからないし」

 どういう業種なんだろう。そういえば知らないや。

「まぁ安心しろよコウ。やばい奴には渡してないし、枚数も管理してる」

「今何枚なの?」
 すると、司はいつもの銀色のケースを取り出して数えだしてくれた。

「残り……23枚だな」
「ありがとう。じゃあ、座ろっか」
 僕がそう言うと、司はイートインスペースの入り口の方の席に座った。

 その席の隣に僕が座ると、司は語りだす。
「今回は、『なんでサッカーボールがあんな場所にあるのか』を考えてるんだよな」

「そうだけど……どうしたの?司」
 いつになく真面目な顔つきで、司は話す。
「いや、サエキさんが食べてたグミ、割り引かれたやつなんだよな」

「……あぁ、あれ?そういえば、そうだけど」
 だけど、それがどうしたんだろう。
「なぁコウ、ちょっと変な思い付きがあったんだが、話してもいいか?」

「変な思い付きって、どういうこと?」
「根拠も何もない、ただの妄想って意味だ」
 次の瞬間、司は僕の目の前にスマホを持ってきた。

「……えっ?」
 その画面を見た瞬間、僕は司の考えを理解してしまった。
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