大人になりきれない探偵さん

草薙ユイリ

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大人になりきれない探偵、それと不可解なサッカーボール・解決

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 現在時刻午後6時37分。シャッターだらけの場所に、男の人が現れた。

 その人は小さめの脚立を持っている。そして、服装は黒い半袖Tシャツにリュックサックだ。

「……これか」
 その人は脚立を立てると、建物の小さな隙間に挟まったサッカーボールを掴む。

 リュックサックにそのボールを突っ込むと、無言で脚立を上って行った。

 脚立のてっぺんで自分の体を安定させると、うまく手を動かしてサッカーボールを取り出す。

 そして……その人が、サッカーボールをまたしても建物の屋上に戻した時だった。

「失礼します。サエキさん」
 司が、その人――――サエキさんの前に姿を現した。

 僕はその様子を、建物の陰から見守っていた。
「……どっ、どうしたんですか?司さん」
「あぁいや、すいません……何をしているのですか?」

 脚立から降りながら、サエキさんは説明する。
「サッカーボールを戻してるんです。やっぱり、勝手に動かすのは悪い気がして」

 その瞬間、司はいつになく真剣な声で言った。
「ボールを置いた、あなた自身にですか?」
 サエキさんの表情が、一瞬だけ曇ってしまった。
 だ、大丈夫なの?司。
「……なんで、俺がボールを置いたと思うんですか?」

「正直言って、ここから話すことは俺の妄想です。それも、特に聞く必要のない」

 そのまま、僕もすっと建物から体を乗り出す。
 てくてくと司の近くによって行き、司の体から顔を出す。

「……で、一体何が始まるんですか?」
「すいません。ちょっと考えたことがありまして」
 司は建物の上を指さす。そこにあるのは、もちろんボールだ。

「そのボール、半年前からあるんですよね?」
「えぇ。少なくとも、半年前って意味ですけど」
「俺もそう考えてました。ボールを、もっと近くで見てみるまでは」

 ボールを、もっと近くで……?
「あのボール、半年前からあるにしては奇麗すぎるんですよ」

 あぁ、そういうことね。
 僕は考えを理解して、司の話を引き続き聞いた。
「それがどうしたんです?もしかしたら、雨とかで洗われたのかも」

「雨じゃ、あんなに奇麗には洗えません」
 そう司が言い切ると、サエキさんは言葉を出せなくなってしまった。

 ちょ、これ大丈夫なの?司。
「何が言いたいんですか?司さん。俺はただ、このボールを戻しに来ただけで」

「俺が物事を考えるとき……言うならば『推理』するとき、まずは可能性を全て頭に浮かべるんです」

「……はっ?」
「今回の場合も『誰かの忘れ物』『何かの罠』『何かの合図』といった可能性を考えました」

 そのまま、司は無言でスマホをサエキさんに見せた。

「その結果最後まで残ったのが、『誰かへのお供え物』という説でした」

 スマホの画面は、さっき僕が見た画面と同じもの。
 画面の内容は、この場所で起こった交通死亡事故のニュース記事だ。

「……サエキさんは、この事故の関係者ですか?」
 その後の沈黙は、多分測ってみれば10秒くらいだろう。

 だけど、僕にとっては――――10分にも、1時間にも感じていた。

「……すごいですね。司さん」
「すいません。ただの好奇心で、こんなデリケートなことに口を挟んでしまって」

「……いえいえ、問題ないですよ」
 そう言うサエキさんの顔は、一応は笑っていた。
 だけど、楽しい時の笑いじゃない……何かを諦めた時みたいな、そういう感じだった。

「……よく考えたら、サッカーボールの奇麗さとお供え物は、どうつながるんですか?」

「お供え物を放置する人はいないと思いましてね。あなたは節約しなれてる様子だったから、ボール代がかさんでるのかなと」

 僕もどこかで聞いたことがある。お供え物は、基本的に痛む前に取り換えるって。

 だけど、そもそもなんで……
「でも司、そもそもなんで建物の屋上に置く必要があるの?」

「簡単だ。誰かに落とし物と思われたら、厄介だろ?」

 なるほどそういうことか……でも、だとしたら悪いことやっちゃったな。

 お供え物を、ここに降ろしちゃったんだから。
「……ダメですかね、ここに置いたままじゃ」
「それはわかりませんけど……やっぱり、お墓とかにお供えした方が、いいかもしれません」

「その理由は何ですか?」
 その時、司は何も言わなかった……いや司、ちょっとここは決めてよ。

 なんか気まずそうな顔してるし、本当頼りないなぁ……

 いや、でも……ここは、やっぱり。
「あの!僕は、お墓に供えてくれた方が嬉しいです!」

 僕は精一杯声を張り上げて、自分の意見を言った。
「だ、だって……ここは自分が死んだ場所だけど、お墓は自分がゆっくり眠れる場所じゃないですか」

 よくわからない、めちゃくちゃな理論。
 だけど、今考えたにしては、ちゃんと自分なりの意見なつもりだ。

「……あなたは、何年生なんですか?」
「小学5年生、10歳です」
 直後、サエキさんは笑い方を変えた。今度は、微笑みに近かった。

「あいつに似てるな、本当」

◇◇◇

 それから一日経って、いつもの駅のホーム。
 僕と司は、普段よりちょっぴり暗い空気で話していた。

「そういえばなんでだろうな?サエキさんが俺らの捜査に協力してくれたの」

「確かに……いや、もしかしてだけど、僕がいたからかな?」

「コウがいるから?」
「サエキさん言ってたでしょ。僕のことを『あいつに似てる』って」

 すると、司は頭を抱えてしまった。
「なーんか申し訳ねぇな。人の気持ちを利用したみたいで」

「まぁ、確かにね……」
 司はそう言うと、どういうわけか例の銀色のケースから名刺を取りだした。

 そして、その名刺を数えだしたんだ。
「……やっぱり。1枚足りない」
「落としたんじゃないの?司」
「いや、そんなことはまずないと思うが」
 その瞬間、僕の頭にある疑問が浮かんだ。
 幽霊は、自分の生前を調べる人間のことをどう思うのだろうか……

「……まさかな、コウ」
「まさかね。司」
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