大人になりきれない探偵さん

草薙ユイリ

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大人になりきれない探偵、それとホラー映画の子供が描く奴・I

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「……僕持ってるよ。ホラー映画の子供が描く絵」
 朝の地下鉄ホームでその言葉を出した瞬間、司は目を見開いた。

「なんでんなもん持ってるんだよコウ」
「知らないよ。先月友達から譲られただけだから」
「ふーん……その絵、ちょっと見せてもらってもいいか?」

 僕はポケットから折りたたまれたA4用紙を取り出す。

「いいよ。はいどうぞ」
「おっ、ありがとう」
 司は紙を開いて、そこに描かれた絵を眺め始めた。

「ふーん、中々上手な……いやなんで持ってるんだよ!?」

 ノリツッコミありがとう。
「昨日の朝、ホラー映画見るって司言ってたじゃん。だからホラー映画の話出てくるかなと思って」

 頭をポリポリ掻いて、司は言った。
「それで、この紙を……準備良いな。コウ」
「1年くらい司を見てきたからね。大体行動はわかるよ」

 司は唸って、また絵を眺めだす。
 僕も司の横から首を伸ばして、その絵を改めて見た。


 その絵にはベンチに座る5人が描かれており、ホラー映画の落書きとは程遠いクオリティだ。

 ベンチに座る人物の上には文字が小さく書かれている。

 その文字は右から『母さん』『父さん』『私』『兄ちゃん』そして……『彼女』だ。

 他の4人は概ねイメージ通りの顔だが、この『彼女』だけはやけに美人に描かれている。

 しかも『彼女』だけは中学か高校の制服を着ており、それがどこか不気味さを掻き立てていた。

 絵に描かれている全員が自然な笑顔の中、この『彼女』だけ満面の笑みなのもまた怖い。

 この絵は僕の友達が描いたものだが、その友達は描いた時のことを覚えていなかった。

 どうやら眠い時に描いて、そのまま寝てしまったらしい。眠い中でこのクオリティは、普通に尊敬する。


「……なんかクオリティは高いけど、普通に怖いな」

「僕はこの『彼女』とだけ書かれてるところに怖さを感じたね」

 そんな感じに、僕らはまた意味のない会話をする。

「ところで、この『私』っていうのがコウの友達か?」

 司が指さした先には、ツインテールの女子が描かれていた。服装は黒いパーカーと青いズボンだ。

「うん。今も同じクラスだよ」
 僕がそう言うと、司はまた絵を凝視する。どうしたんだろう。

「……なんか普通に怖いからよ、この『彼女』の正体調べてみてもいいか?」

 そう言われた瞬間、僕はクラスメイトの顔を頭に浮かべる。

「別にいいけど。じゃあ、またここに午後6時?」
「そういうことになるな、コウ」
 そう言うと、司は立ち上がる。
 電光掲示板を見ると、司の電車が後1分で来ることを示していた。

「じゃーな、また」
「オッケ……そういえば、その子の家は、僕の学校の近くだけど」

 瞬間、司の顔がこおばった。
 しかし次の瞬間、司はいつもの銀のケースを取り出して……なぜか、ポケットからペンを取り出す。

 名刺の裏に文字を書くと、それを僕に渡した。
「時間になったらそれを検索して、下に書かれた名前を入力してくれ」

 うん、わかった。

◇◇◇
 
 僕はそのまま電車に乗り、歩き……学校の教室にたどり着いた。

 定員27名、多分他の学校と何も変わらない教室の隅の席に、僕は座る。

 普段は本を読んで過ごすんだけど……今日は、事情が違った。

 席を立って、僕はちょっとばかり前の方に移動する。

「なぁナツメ。ちょっといいか?」
 僕は体操服姿の女子に声をかける。彼女の名前は、神月ナツメ。

 しょっちゅうあくびしてる面倒くさがりだ。
「……何?今ちょっと眠い」
「いや、今日ナツメの家に行っていいか?」
 瞬間、ナツメの口角が少し上がった。
「おっと、とうとうコウもラノベを読む気になったわけ?いくらでも貸すよ」

「残念だけど違う。ナツメが描いた『あの絵』について知りたい人がいてな」

 わかりやすく落胆するナツメだった。
「言っておくけど、あの絵に大したものはないよ?多分深夜テンションで変なもの描いただけだし」

「家族じゃないものを、深夜テンションで簡単に描けるとは思わないけど。ナツメもそう思わない?」

「そうかなぁ……ところで、絵について知りたい人って誰なの?」

 ため息をつき、ナツメは僕に尋ねた。
「知りたい人、かぁ……」
 僕はあの大人になりきれない人について、ちょっと話してみた。

 まぁ変な人ではあるから、断られても仕方ないかなと思ったんだけど……

「……何その人。ものすごい気になる。会わせて」
「いや会わせてと言っても、仕事先からここまで遠いし」

 そう言うと、ナツメはわかりやすく落胆した。
「だってその人まさしく主人公って感じじゃん。見たい、その人」

「別に大した人じゃないと思うけどな」
「すっごい人じゃん!私夢だったんだ、そういう人を見てみる、の……」

 そう言うと、ナツメは机に突っ伏して、何も言わなくなった。

 これ……寝落ちてる?

◇◇◇

 そんなこんなで僕は6時間授業を受けきって……なんとかナツメの家の前に来た。

 ナツメの家は2階建て。1階の前の方は車庫になってるんだけど……そこには高級車。

 家全体にもどこかおしゃれな空気がある、なかなかの豪邸である。

 で、肝心のナツメはと言うと……
「うーん」
 なぜか小説を読んでいた。地べたに体操座りで。
 こうなるとナツメは中々反応しない。本人曰く『五感を遮断し、頭に映像を浮かべて読む派』だから、とのこと。

 僕が『挿絵があるじゃん』って言うと『挿絵のないモブキャラの姿まで妄想するのが筋』と返事された。

「……おーい、ナツメ?」
「……ふーん」
 そんなこんなで、僕は体感5分くらい待つ羽目になった。
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