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Season1 探偵・暗狩 四折
燃え尽きて1
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◇暗狩 四折
現場は綺麗に保存されている。
私は依頼人に「ありがとうございます」と言いつつ、事件現場に入る。
夏真っ盛りの7月、その場所はひどく暑かった。
「えーっと、これがあなたのハンカチですか?」
「……はい。そうです」
依頼人の顔はひどく暗かった。
そりゃそうだろう。自分の大切なハンカチが――勝手に炭になってしまったんだから。
現場は隣の市の中学校、そこの倉庫だった。
「あなたは昨日の家庭科の授業中、自分のハンカチがなくなっていることに気づいた」
「はい」
「学校中を探し回って、この倉庫の鍵が開いているのを知った」
「そうです」
「そして……このハンカチが燃えているのを見た」
依頼人は涙を堪え、首を縦に動かした。
丸められたハンカチには、依頼人のイニシャルが刻まれている。
それだけじゃない。色は依頼人の好きな色に染められていた。
そして、そのハンカチを渡したのは彼の父親だった。
「必ず、手口を明らかにします」
「……お願いします」
私は、あくまでも『正義の探偵』に見えるようにふるまった。
しかし……心の中は、好奇心だけで埋め尽くされていた。
もう犯人は明らかになっている。
しかし、方法がわからなければ無意味だ。
この不可思議な現象を私が明らかにしていい。
そう考えると、心の奥で何かが煮えたぎるのを感じた。
◇暗狩 翔太
「おかえり。姉ちゃん」
僕は小さく言うと、すぐに自室のドアを閉めた。
「ただいまー」
相変わらず、この人は何を考えているのかわからない。
中学校にも行かず、探偵みたいなことをやっているらしいが……
まぁ、どうせろくなことはしてないだろう。
この間も傘を地面に埋めてたし。
「……グミ買わなきゃ」
僕は小遣いの残りを確認して、リビングに降りる。
リビングのドアを開けた、その時だった。
「ねぇ翔太。今回の捜査に協力してくれない?」
「……え?」
僕の耳に、随分奇妙な言葉が入った。
「捜査?僕が?」
「そう。いつも私一人じゃつまらないからね」
数秒の沈黙。それを破ったのは、僕自身だった。
「遠慮しとく」
「まぁまぁまぁまぁ、そう言わずにさ」
姉は小走りでこちらに近づいてくる。
「一回だけ、飽きたら帰っていいからさ!」
「一回、だけ?」
正直言って、この提案を受ける気など僕にはまったくない。
ただ……僕には、明日やるべきことが一つもなかった。
「……じゃあ、明日は暇だし」
「本当?ありがとー!」
姉はそう言うと、ルンルン気分でリビングのソファに座った。
まぁ、飽きたら帰ればいいんだ。
どうせ面白くはなるまい。とっとと帰って、ゲームでもしよ。
◇◇◇
「で、姉ちゃん。ここはどこですか?」
「明石市の中学です!」
「僕姫路住みぞ?!ここから帰れと?!」
そう言うと、姉は怪しげな笑みを浮かべた。
完全に騙された。本当最悪だよ。
「ま、多分飽きないから!」
本当、財布を持ってくるべきだった。
僕は激しく後悔しながら、姉の背中を見つめていた。
「……それで、姉ちゃんはハンカチ燃やし犯の推理を頼まれたの?」
「うーん、ちょっと違うかな。犯人はもう見つかってるの」
「は?」
姉はパシャパシャと事件現場の写真を撮っていた。
「依頼人のクラスのいじめっ子がね、罪を認めたらしいんだって」
「……じゃあ解決でいいじゃん」
「それがそうもいかないの」
姉はこちらを振り返って、僕に訊いた。
「そのいじめっ子、先生達がハンカチを燃やした手段を明らかにできなかった途端……どうしたと思う?」
僕は少し考えて、姉に答えた。
「証言を翻した」
「正解。だから私が呼ばれたわけ」
写真を撮り終わったのか、姉は倉庫から出てきた。
「……ヒーターに机、それに掃除道具」
次の瞬間、姉が僕に声をかけた。
「ヒーター?ストーブじゃなくて?」
「……どっちも同じじゃないの?」
すると、姉は自信満々な顔をした。
「ヒーターは電気がいるけど、ストーブは電気がいらないの」
「……ふーん」
相変わらず物知りな人だな。
「それじゃ、今から調べていくの?」
「そういうことっ!」
元気そうに答えると、姉はその場から走り出した。
「え、ちょ、どうしたの?!」
「手がかり集め!」
◇暗狩 四折
依頼人がハンカチをなくしたことに気づいた場所。
私はその場所に、二人で立っていた。
「はぁはぁ……校舎は走っちゃダメでしょ……」
「はいはい」
翔太を軽く抑えつつ、私は家庭科室を軽く見て回る。
私の中学とそれほど変わらない、ごく普通の家庭科室だった。
「なんか、思ったより普通だね。姉ちゃん」
「まぁ、事件はここで起こったわけじゃないから」
普通の大きさ、普通のものがある、普通の家庭科室。
しかし、私はその中に一つだけ『普通じゃないもの』を見つけた。
「……ねぇ翔太」
「何?姉ちゃん」
教室の前方に、私は指をさす。
「なんか鍵開いてる」
「本当だ」
私の指先には、鍵の開いたドアがあった。
「……入るか」
「え、ちょっと?!姉ちゃん?」
弟の静止を無視し、私はドアノブを捻った。
その先には、いくつかの食材があった。
「肉とにんじん、後味噌か」
「ちょっと姉ちゃん!勝手に入っちゃだめでしょ!」
「鍵開いてるし、いいじゃん」
弟は困惑した表情でこちらを見つめた。
「……ん?」
「どしたの姉ちゃん」
私は暗い部屋の中で、あるものを指さした。
「姉ちゃんどうしたの?」
「ねぇ翔太。あれ何?」
私と翔太の視線の先には、透明な瓶があった。
「……油?」
翔太は不思議そうな声で言った。
現場は綺麗に保存されている。
私は依頼人に「ありがとうございます」と言いつつ、事件現場に入る。
夏真っ盛りの7月、その場所はひどく暑かった。
「えーっと、これがあなたのハンカチですか?」
「……はい。そうです」
依頼人の顔はひどく暗かった。
そりゃそうだろう。自分の大切なハンカチが――勝手に炭になってしまったんだから。
現場は隣の市の中学校、そこの倉庫だった。
「あなたは昨日の家庭科の授業中、自分のハンカチがなくなっていることに気づいた」
「はい」
「学校中を探し回って、この倉庫の鍵が開いているのを知った」
「そうです」
「そして……このハンカチが燃えているのを見た」
依頼人は涙を堪え、首を縦に動かした。
丸められたハンカチには、依頼人のイニシャルが刻まれている。
それだけじゃない。色は依頼人の好きな色に染められていた。
そして、そのハンカチを渡したのは彼の父親だった。
「必ず、手口を明らかにします」
「……お願いします」
私は、あくまでも『正義の探偵』に見えるようにふるまった。
しかし……心の中は、好奇心だけで埋め尽くされていた。
もう犯人は明らかになっている。
しかし、方法がわからなければ無意味だ。
この不可思議な現象を私が明らかにしていい。
そう考えると、心の奥で何かが煮えたぎるのを感じた。
◇暗狩 翔太
「おかえり。姉ちゃん」
僕は小さく言うと、すぐに自室のドアを閉めた。
「ただいまー」
相変わらず、この人は何を考えているのかわからない。
中学校にも行かず、探偵みたいなことをやっているらしいが……
まぁ、どうせろくなことはしてないだろう。
この間も傘を地面に埋めてたし。
「……グミ買わなきゃ」
僕は小遣いの残りを確認して、リビングに降りる。
リビングのドアを開けた、その時だった。
「ねぇ翔太。今回の捜査に協力してくれない?」
「……え?」
僕の耳に、随分奇妙な言葉が入った。
「捜査?僕が?」
「そう。いつも私一人じゃつまらないからね」
数秒の沈黙。それを破ったのは、僕自身だった。
「遠慮しとく」
「まぁまぁまぁまぁ、そう言わずにさ」
姉は小走りでこちらに近づいてくる。
「一回だけ、飽きたら帰っていいからさ!」
「一回、だけ?」
正直言って、この提案を受ける気など僕にはまったくない。
ただ……僕には、明日やるべきことが一つもなかった。
「……じゃあ、明日は暇だし」
「本当?ありがとー!」
姉はそう言うと、ルンルン気分でリビングのソファに座った。
まぁ、飽きたら帰ればいいんだ。
どうせ面白くはなるまい。とっとと帰って、ゲームでもしよ。
◇◇◇
「で、姉ちゃん。ここはどこですか?」
「明石市の中学です!」
「僕姫路住みぞ?!ここから帰れと?!」
そう言うと、姉は怪しげな笑みを浮かべた。
完全に騙された。本当最悪だよ。
「ま、多分飽きないから!」
本当、財布を持ってくるべきだった。
僕は激しく後悔しながら、姉の背中を見つめていた。
「……それで、姉ちゃんはハンカチ燃やし犯の推理を頼まれたの?」
「うーん、ちょっと違うかな。犯人はもう見つかってるの」
「は?」
姉はパシャパシャと事件現場の写真を撮っていた。
「依頼人のクラスのいじめっ子がね、罪を認めたらしいんだって」
「……じゃあ解決でいいじゃん」
「それがそうもいかないの」
姉はこちらを振り返って、僕に訊いた。
「そのいじめっ子、先生達がハンカチを燃やした手段を明らかにできなかった途端……どうしたと思う?」
僕は少し考えて、姉に答えた。
「証言を翻した」
「正解。だから私が呼ばれたわけ」
写真を撮り終わったのか、姉は倉庫から出てきた。
「……ヒーターに机、それに掃除道具」
次の瞬間、姉が僕に声をかけた。
「ヒーター?ストーブじゃなくて?」
「……どっちも同じじゃないの?」
すると、姉は自信満々な顔をした。
「ヒーターは電気がいるけど、ストーブは電気がいらないの」
「……ふーん」
相変わらず物知りな人だな。
「それじゃ、今から調べていくの?」
「そういうことっ!」
元気そうに答えると、姉はその場から走り出した。
「え、ちょ、どうしたの?!」
「手がかり集め!」
◇暗狩 四折
依頼人がハンカチをなくしたことに気づいた場所。
私はその場所に、二人で立っていた。
「はぁはぁ……校舎は走っちゃダメでしょ……」
「はいはい」
翔太を軽く抑えつつ、私は家庭科室を軽く見て回る。
私の中学とそれほど変わらない、ごく普通の家庭科室だった。
「なんか、思ったより普通だね。姉ちゃん」
「まぁ、事件はここで起こったわけじゃないから」
普通の大きさ、普通のものがある、普通の家庭科室。
しかし、私はその中に一つだけ『普通じゃないもの』を見つけた。
「……ねぇ翔太」
「何?姉ちゃん」
教室の前方に、私は指をさす。
「なんか鍵開いてる」
「本当だ」
私の指先には、鍵の開いたドアがあった。
「……入るか」
「え、ちょっと?!姉ちゃん?」
弟の静止を無視し、私はドアノブを捻った。
その先には、いくつかの食材があった。
「肉とにんじん、後味噌か」
「ちょっと姉ちゃん!勝手に入っちゃだめでしょ!」
「鍵開いてるし、いいじゃん」
弟は困惑した表情でこちらを見つめた。
「……ん?」
「どしたの姉ちゃん」
私は暗い部屋の中で、あるものを指さした。
「姉ちゃんどうしたの?」
「ねぇ翔太。あれ何?」
私と翔太の視線の先には、透明な瓶があった。
「……油?」
翔太は不思議そうな声で言った。
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