変人の姉と、沼に引きずり込まれそうな僕。

草薙ユイリ

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Season1 探偵・暗狩 四折

読み解いて3

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「で、姉ちゃんなんでスマホの電気消してんの?」
「集中するため。以上!」
 私は翔太に言い放ち、ソファに座った。
「で、肝心の暗号解読方法は何?」
 椅子に座り、こちらを見つめる翔太。
 私は脳内の情報を整理し、翔太に伝えた。
「まず、これは何かの数字を暗号化したもの」
「で、その暗号化の方法というのが……」
 翔太は顔を近づけ、興味深々な顔をした。
「と言うのが……何?姉ちゃん」
「パソコンのテンキーと、電話のプッシュボタンの違いよ」
 私はメールに添付された画像を見せた。
「……パソコンの、テンキー?」
「翔太。そこの電話を見てみて」
 翔太は不思議そうな顔をして、固定電話に近づいた。
「何か気付くことない?」
「気づくこと、って言われても……」
 困惑する翔太に、私はヒントをあげる。
「『順番』に注目してみて?」
「順番……あ」
 翔太は『何か』に気づいたようだった。
「パソコンのテンキーは上から『7、8、9』と並ぶけど、電話はその逆だ」
「大正解!翔太に100点あげます」
「いりません」
 軽くふざけつつ、私は翔太の意見に付け足した。
「それに電話は『0』は真ん中だけど、このパソコンは『00』が真ん中だもんね」
 翔太と私はお互いに頷いた。
「じゃあ、それで打ち換えてみれば」
「もちろん。今やってるよ」
 私は自分のスマホで、暗号の用紙を見ながら打ち換えていった。
 要するに、『7』『8』『9』は6引く。『1』『2』『3』は6足す。
 『4』『5』『6』はそのまま。『00』は『0』。
 そういう規則に従えばいいだけだ。
「……よしっ」
「姉ちゃんナイス」
 私は小さくガッツポーズをした。
 そこに並んだ数字は、『6162056104』。
 語呂合わせ……ではないとすると。
「ポケベルか」
 私は爽やかに笑った。
「じゃあ、変換しよっか」
「オッケー。いくよ翔太!」
 私は変換サイトを開き、コピーした数字をペーストする。
 そして、変換ボタンを押した。
「……え?」
「こ、これは、どういうことなの?姉ちゃん?」
 そこに表示されたのは、思わぬ言葉だった。

◇暗狩 翔太

 僕は依頼人の家を訪ねた。
 もちろん、姉も一緒にだ。
「……すいませーん」
「はーい」
 少し後になって、依頼人が出てきた。
「は、ハッピーバースデー!」
 僕と姉は薄ら笑いで誕生日を祝った。
「はぁ……寧人!暗号解読されたみたいだぞ!」
「はいはーい!」
 依頼人の後ろの男性、『寧人』は元気よく言った。
 茶髪の爽やかな好青年だった。
「すいませんね。電話したんですけど……」
 依頼人はペコペコと頭を下げた。
 そういえば、姉の携帯は電源を切っていたな。

◇暗狩 四折

「あのさぁ寧人。俺こんな大事にしちまったんだぜ?」
「ごめんって一二三ぃ~、俺だって驚かせたかったんだよ」
 依頼人は寧人を激しくにらんでいた。
「あの……なんで驚かせたかったんですか?」
 翔太の疑問に、寧人は答える。
「俺さ。ここに住んで初めての誕生日にパソコンもらったのよ」
「その時嬉しかったし驚いたからさ……驚かせたかったんだよ。俺も」
 なるほど。そういう理由だったのか。
 私はポケベル変換サイトに表示された、『ハピバ』という文を思い出していた。
「あ、あの……僕楽器持って来たんですけど」
 翔太はポシェットからハーモニカを取り出した。
「あ、翔太のハーモニカうまいんで、聞いてくれますか?」
 私は未だ火花を散らす二人に言った。
 その時、ようやく依頼人の怒りは落ち着いたようだった。
「じゃあ、弾きます。『ハッピーバースデートゥーユー』」
 次の瞬間、部屋の中に奇麗な音色が響いた。
 翔太は多才なんだよな。ま、推理力じゃ私に及ばないけど。
「……いいな。寧人」
「そうだな。一二三」
 なんとなくいい雰囲気になったところで、寧人は座布団から立った。
「……ケーキ買ったんですけど、食べますか?」
「食べる」
「食べます」
 依頼人と私。二人同時に返事をしてしまった。

◇暗狩 翔太

「そういえば、依頼料とかは……?」
 一二三さんは姉に尋ねる。
「え?あぁ、いりません」
「……え?」
 一二三さんの後ろから、寧人さんが首を出す。
「どういうことだい?姉ちゃん」
「ケーキもらっちゃったし……それに、この捜査最高に楽しかったんで!」
 寧人さんは不思議そうな顔で首をひっこめた。
「……ケーキ美味しいね、姉ちゃん」
「ほんとね、翔太」
 僕と姉は顔を見合わせて、少し笑った。
「ま、探偵さんの笑顔に免じて許してやるけど……もうやめろよ?寧人」
「わーったよ、一二三!」
 僕は入れてもらった紅茶に砂糖を入れ、一口飲んだ。
 熱い紅茶は冷たいケーキによく合うな。
「そういえば翔太」
「何?姉ちゃん」
 姉の顔が、瞬時に嫌なにやけ顔になった。
「翔太、考えてる顔イケメンだったよ?」
「……あっそ」
 痛いところ突かれた。
 僕は心を落ち着かせながら、紅茶を飲む。
「翔太も推理の楽しさに気づくかもね……」
「ふーん」
 僕達が己を賭けた会話をしてる奥では、二人が仲良く雑談していた。
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