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Season1 探偵・暗狩 四折

弾け飛んで3

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◇暗狩 四折

 私の手元には、アルミ缶と洗剤が握られていた。
「……姉ちゃん、本当に爆発させるの?」
「大丈夫よ。どうせ室内だし」
 まずやるべき事は、洗剤をアルミ缶に入れることだ。
 アルミ缶はよくあるプルタブではなく、キャップがついたタイプ。
 そうじゃないと爆弾を作れない。
「まず、このアルミ缶に洗剤を入れます」
「そしてキャップを閉めます」
 その洗剤入りアルミ缶を部屋の中心に置く。
 そして、二台目のスマホを部屋の隅にセット。
「後は、このスマホと二台目を接続して……と」
 スマホが二台あるのはいいな。
 暗号事件の後に買っておいてよかった。
「よし!準備完了!」
「おつかれ、姉ちゃん」
 ここまでできたら、後は待つだけだ。
「とりあえず、映画でも見ましょうか」
「相当待つんだね。姉ちゃん」
 私はグッドサインをした。
 翔太は納得した様子で階段を降り、私もそれについて行った。
「姉ちゃん。あれで本当に爆発するの?」
「もちろん。どうしてかは、後で教えたげる」
「……ふーん」
 翔太の顔をちらりと見てみた。
 その目は、確かに輝いていた。

◇◇◇

「……姉ちゃん?」
 スマホの画面から、『ボォン』という音が聞こえた。
「もうすぐ爆発よ!」
「そんな元気よく言う事じゃないでしょ」
 翔太と私は、お互いに画面を顔に近づける。
 その画面の中では、アルミ缶が独りでに倒れていた。
 そして、もうしばらく経った時だった。
「翔太、そろそろよ」
「え……あぁ」
 スマホの画面から爆音が聞こえた。
 アルミ缶は破裂し、白い泡が飛び散った。
「うわぁっ!?」
「落ち着いて、翔太」
 私は翔太を軽くなだめつつ、上の階に移動する。
 そこには、無残な景色が広がっていた。
「……姉ちゃん、どういうことなの?」
「水素ガスよ。洗剤の水酸化ナトリウムがアルミと反応したの」
「……へぇ」
 荒れてしまったこの部屋を、翔太と私はしげしげ眺めた。
「そういや翔太。なんかいつの間にか推理してたけど……」
「え、あぁ……うん。気まぐれでね」
 翔太は少し動揺していた。
 まったく、正直じゃないんだから。

◇暗狩 翔太

「さて、それじゃ片付けましょうか」
 姉はそのままの足で、洗剤まみれの部屋に飛び込んだ。
「……どうするの?姉ちゃん」
「うん。どうしよ?」
 どうやら部屋の荒れ具合に関しては想定外だったらしい。
 泡まみれで、家具に傷がついたその部屋を前に、姉と僕はどうしようもなかった。
「とりあず、下からなんか道具でも取ってくる?姉ちゃん」
「翔太。ナイスアイデア」
 僕は走っていく姉をよけた。
 その時だ。僕が不気味な予感に気づいたのは。
「……姉ちゃ」
「うわぁっ!?」
 姉の叫び声が聞こえた。
 僕は大急ぎで姉を追い、その様子を見る。
「……姉ちゃん!?」
 そこには、階段から足を踏み外した姉がいた。

◇◇◇

「念のため3日入院ですって」
 姉はアップルパイを食べつつ、僕を見た。
「姉ちゃんバカなの?足についた泡にくらい気づこうよ」
「ごめんね。ちょっと急いでて」
 急ぐ必要ないのによ。
 階段から足を踏み外した後、僕は救急車を呼んだ。
 姉は意識はあったが、自分で体を動かせなかった。
 そして病院で診てもらった結果……こうなったわけだ。
「とりあえず、僕は帰っておくよ」
「オッケー。私がいなくて大丈夫?」
「母さんが急いで帰ってくるみたいだし、大丈夫だよ」
 僕は病院のイスから立ち上がった。
 姉はやることもなさげに、ベッドの上で佇んでいた。

◇◇◇

「……お昼どうしよ」
 僕は少し考えて、外で食べることに決めた。
 またしても炎天下の中を歩き、中華料理屋にたどり着く。
 ここは餃子がおいしいんだ。
「餃子と……天津飯お願いします」
「わかりました!」
 僕は水を飲んで、のどを潤した。
 やっぱり暑い体には冷水が一番だな。
「おにい!ラーメンも食べよう!」
「昼から食べすぎだろ……」
 隣の席には、兄妹が座っていた。
 片方は15歳、もう片方は成人済みと言ったところか。
「すいませーん!餃子と炒飯お願いします!」
「おーにーい!」
 随分と仲良さそうでなによりだ。
「……姉ちゃん、大丈夫かな」
 よく考えたら、本当20日くらい前まであまり会話してなかったな。
 僕はゲームばかりだし、姉も捜査ばっかりだったし。
 しっかし、いきなり巻き込まれて僕も大変だったな。
 まぁ、ちょっと、というか結構楽しかったけど。
「……浸りすぎか」
 僕はスマホを開き、適当に動画を見始めた。
 数分後に届いた中華料理を平らげると、僕はお金を払って家に帰った。
 家に入り、もう一度姉の部屋に入る。
 そこには傷ついた家具と共に、ノートパソコンが置いてあった。
「……見ちゃお」
 特に悪意があるわけでもなく、僕は姉のパソコンを開いた。
 もちろん、パスワードがかけてあった。
「誕生日、ではないよな?」
 ためしに打ち込んでみた。無駄だった。
「じゃあ、あれか?」
 今度は適当にシャーロック……『4869』と打ち込んだ。ダメだった。
 まぁ、姉は他の探偵を尊敬するタイプじゃないか。
「……まさか?」
 脳裏にふと、自分の誕生日が思い浮かんだ。
 それを入れて、何が起こるのかを見てみた。
「まじか……」
 パソコンは開いた。
 その画面の片隅に、何かが入り込んだ。
「え?」
 それは、姉に向けた依頼のメールだった。
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