上 下
17 / 21
Season1 探偵・暗狩 四折

弾け飛んで2

しおりを挟む
「……もう一個ソフトクリーム食べる?」
「今度は普通に室内に入ろ?姉ちゃん」
 その言葉には全面的に同意だ。
 私はシャツの端で汗を拭きつつ、一軒の喫茶店に入った。
 古い雰囲気が漂う、おしゃれそうな場所だ。
「いらっしゃいませ。ご注文お決まりでしたら、そこの呼出ボタンを押してください」
 そう言って、店員は店の奥へと消えた。
「姉ちゃん、何か仮説は思い浮かんだ?」
「……仮説ねぇ」
 さっきまでソフトクリームを食べただけでなにも考えてなかった。
 しかし、簡易爆弾の作り方に関しては一つだけ知っていた。
「ドライアイス、とか?」
「ドライアイス?」
「ドライアイスをペットボトルに入れると、簡単な爆弾になるの」
 翔太は不思議そうな顔で、こっちを睨んだ。
 おそらく「何でそんな物騒な事知ってるの」とでも言いたいのだろう。
「じゃあ、それで行ってみる?」
 翔太は私に提案した。
 しかし、私にはその提案は飲めなかった。
「翔太……もう言ったの」
「ドライアイス説を?」
 私はこくこくと頷いた。
「もう依頼人から否定されたわけか」
「そう。『あの人は外出もしないし、冷たいものが嫌いだから』って」
「だからドライアイスを手に入れられるわけがない……そう言いたいわけ?姉ちゃん」
 私は再度頷いた。
 翔太は冷えた水を飲むと、困惑したような顔になった。
「じゃあどうする?姉ちゃん」
「考えるしかないでしょ」
 私はメニュー表をふと見た。
「翔太、そろそろ注文したほうがいいんじゃない?」
「確かにね」
 二人同時にメニューを見始めた。
 ホットサンドが安かったので、それにした。

◇暗狩 翔太

「美味しかったね、ホットサンド」
「そうだね。姉ちゃん」
 僕達は会計を済ませ、店を後にした。
「……そういや、うちの周辺にはこんな商店街ないね」
「昔はあったみたいだけどね。ほとんど潰れたみたい」
 上を見ると、アーケードから光が差し込んだ。
 その光景に、不意に懐かしい気持ちに包まれた。
「で、どうしよう翔太?」
「どうしようって……僕に聞かれても困るよ」
 姉は困った顔で伸びをした。
 その直後、姉はこちらに顔を向けた。
「ねぇ翔太。もう一回現場に戻らない?」
「……姉ちゃんが散歩しよって言い出したんじゃ」
「現場百回って言うじゃん!ほら行こ!」
 姉は平気な顔で歩き出した。
 本当、この人は自由人過ぎる。
 僕はひどく困惑しながら、その背中を追った。

◇◇◇

「……普通ね」
「そりゃそうだよ。姉ちゃん」
 僕はまた、その事件現場に戻っていた。
 ごく普通の白い壁、白い自販機、白いゴミ箱。
 白が多いその空間で、僕達は立ち往生してしまった。
「しっかし、白いものが多いね」
「僕もそれ思った」
 なぜこんなに白が多いのか。
 おそらく、大した理由はないだろう。
「だけど、犯人もここをなんで選んだんだろ」
「……翔太?」
 姉はこちらを向いて、不思議そうな目で見つめた。
「他にも似たような通りはありそうなのに、なんでここにしたんだろう」
「なるほど。いいこと言うね翔太」
 その時に、僕はなにかを感じた。
 なにか、が何なのかはわからない。
 しかし、僕は何かを確かに感じたんだ。
「……姉ちゃん」
「どしたの?翔太」
「しばらく日陰で待ってて」
 僕はしばらくの間考えることにした。
 まず、白いからなにがいいのか。
 白かったら何か、犯人にとって都合がいい。
 それはなんで……保護色か?
 犯人は爆弾に、『白い何か』を使った。
 つまり、それを隠すために……この場所を選んだのか?
「姉ちゃん、もしかしたら爆弾には『白い物』が使われたんじゃないの?」
「白い物……例えば?」
「例えば、泡とか」
「泡ってなに……ありがと。翔太」
 姉は不意に感謝をしてきた。
「翔太も細かいことが気になるのね。私に似てきた?」
「え、いやそんなことは……」
 姉はまた卑劣なにやけをした。
 その直後、姉は走り出した。
「え、ちょ、姉ちゃん!?」
 数分後、姉は汗だくになって戻ってきた。
 そして、僕を見てこう言った。
「ありがと翔太。これでトリックが明らかになったよ!」

◇◇◇

「はい。はい。なので確認してもらえると」
 姉は依頼人との電話を切った。
 どうやら、すぐにすんだらしい。
「……で、姉ちゃん。どういうトリックが使われたの?」
「それは見てのお楽しみ」
 姉は指を口に当てた。
 せめて教えてくれてもいいのに。
「じゃあ、どうやって僕にトリックを見せるの?」
「……一度家に帰るよ。翔太」
「家?」
 僕は姉の手招きについて行った。
 しばらく歩くと、駅が見えた。
「実演が終わったら、ちゃんと掃除しないとね」
「……ふーん」
 自作爆弾。聞いたことのない言葉だ。
 果たしてどういうものを使うのか、僕には見当がつかない。
「翔太、実演楽しみ?」
「……ま、ちょっと楽しみだけど」
 僕は一応、自分の気持ちを正直に伝えた。
 しかし、姉はそんな僕を怪しげに見つめていた。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

学校の怪談

ホラー / 連載中 24h.ポイント:12,780pt お気に入り:0

知識スキルで異世界らいふ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,229pt お気に入り:16

9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:98,705pt お気に入り:3,298

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28,525pt お気に入り:1,477

悲恋脱却ストーリ 源義高の恋路

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:263pt お気に入り:0

異世界はもふもふと共に!〜最強従魔と優しい世界〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,954pt お気に入り:76

処理中です...