変人の姉と、沼に引きずり込まれそうな僕。

草薙ユイリ

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Season1 探偵・暗狩 四折

弾け飛んで2

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「……もう一個ソフトクリーム食べる?」
「今度は普通に室内に入ろ?姉ちゃん」
 その言葉には全面的に同意だ。
 私はシャツの端で汗を拭きつつ、一軒の喫茶店に入った。
 古い雰囲気が漂う、おしゃれそうな場所だ。
「いらっしゃいませ。ご注文お決まりでしたら、そこの呼出ボタンを押してください」
 そう言って、店員は店の奥へと消えた。
「姉ちゃん、何か仮説は思い浮かんだ?」
「……仮説ねぇ」
 さっきまでソフトクリームを食べただけでなにも考えてなかった。
 しかし、簡易爆弾の作り方に関しては一つだけ知っていた。
「ドライアイス、とか?」
「ドライアイス?」
「ドライアイスをペットボトルに入れると、簡単な爆弾になるの」
 翔太は不思議そうな顔で、こっちを睨んだ。
 おそらく「何でそんな物騒な事知ってるの」とでも言いたいのだろう。
「じゃあ、それで行ってみる?」
 翔太は私に提案した。
 しかし、私にはその提案は飲めなかった。
「翔太……もう言ったの」
「ドライアイス説を?」
 私はこくこくと頷いた。
「もう依頼人から否定されたわけか」
「そう。『あの人は外出もしないし、冷たいものが嫌いだから』って」
「だからドライアイスを手に入れられるわけがない……そう言いたいわけ?姉ちゃん」
 私は再度頷いた。
 翔太は冷えた水を飲むと、困惑したような顔になった。
「じゃあどうする?姉ちゃん」
「考えるしかないでしょ」
 私はメニュー表をふと見た。
「翔太、そろそろ注文したほうがいいんじゃない?」
「確かにね」
 二人同時にメニューを見始めた。
 ホットサンドが安かったので、それにした。

◇暗狩 翔太

「美味しかったね、ホットサンド」
「そうだね。姉ちゃん」
 僕達は会計を済ませ、店を後にした。
「……そういや、うちの周辺にはこんな商店街ないね」
「昔はあったみたいだけどね。ほとんど潰れたみたい」
 上を見ると、アーケードから光が差し込んだ。
 その光景に、不意に懐かしい気持ちに包まれた。
「で、どうしよう翔太?」
「どうしようって……僕に聞かれても困るよ」
 姉は困った顔で伸びをした。
 その直後、姉はこちらに顔を向けた。
「ねぇ翔太。もう一回現場に戻らない?」
「……姉ちゃんが散歩しよって言い出したんじゃ」
「現場百回って言うじゃん!ほら行こ!」
 姉は平気な顔で歩き出した。
 本当、この人は自由人過ぎる。
 僕はひどく困惑しながら、その背中を追った。

◇◇◇

「……普通ね」
「そりゃそうだよ。姉ちゃん」
 僕はまた、その事件現場に戻っていた。
 ごく普通の白い壁、白い自販機、白いゴミ箱。
 白が多いその空間で、僕達は立ち往生してしまった。
「しっかし、白いものが多いね」
「僕もそれ思った」
 なぜこんなに白が多いのか。
 おそらく、大した理由はないだろう。
「だけど、犯人もここをなんで選んだんだろ」
「……翔太?」
 姉はこちらを向いて、不思議そうな目で見つめた。
「他にも似たような通りはありそうなのに、なんでここにしたんだろう」
「なるほど。いいこと言うね翔太」
 その時に、僕はなにかを感じた。
 なにか、が何なのかはわからない。
 しかし、僕は何かを確かに感じたんだ。
「……姉ちゃん」
「どしたの?翔太」
「しばらく日陰で待ってて」
 僕はしばらくの間考えることにした。
 まず、白いからなにがいいのか。
 白かったら何か、犯人にとって都合がいい。
 それはなんで……保護色か?
 犯人は爆弾に、『白い何か』を使った。
 つまり、それを隠すために……この場所を選んだのか?
「姉ちゃん、もしかしたら爆弾には『白い物』が使われたんじゃないの?」
「白い物……例えば?」
「例えば、泡とか」
「泡ってなに……ありがと。翔太」
 姉は不意に感謝をしてきた。
「翔太も細かいことが気になるのね。私に似てきた?」
「え、いやそんなことは……」
 姉はまた卑劣なにやけをした。
 その直後、姉は走り出した。
「え、ちょ、姉ちゃん!?」
 数分後、姉は汗だくになって戻ってきた。
 そして、僕を見てこう言った。
「ありがと翔太。これでトリックが明らかになったよ!」

◇◇◇

「はい。はい。なので確認してもらえると」
 姉は依頼人との電話を切った。
 どうやら、すぐにすんだらしい。
「……で、姉ちゃん。どういうトリックが使われたの?」
「それは見てのお楽しみ」
 姉は指を口に当てた。
 せめて教えてくれてもいいのに。
「じゃあ、どうやって僕にトリックを見せるの?」
「……一度家に帰るよ。翔太」
「家?」
 僕は姉の手招きについて行った。
 しばらく歩くと、駅が見えた。
「実演が終わったら、ちゃんと掃除しないとね」
「……ふーん」
 自作爆弾。聞いたことのない言葉だ。
 果たしてどういうものを使うのか、僕には見当がつかない。
「翔太、実演楽しみ?」
「……ま、ちょっと楽しみだけど」
 僕は一応、自分の気持ちを正直に伝えた。
 しかし、姉はそんな僕を怪しげに見つめていた。
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