変人の姉と、沼に引きずり込まれそうな僕。

草薙ユイリ

文字の大きさ
20 / 21
Season1 探偵・暗狩 四折

暗狩翔太最初の事件・逃げ切って2

しおりを挟む
「だけど……液体ってなんなんだ?」
 静かなカフェの中。僕は考えを巡らせていた。
 液体の正体はわからない。
 が、ヒントはもらえた。
「液体は大量にかけられた。そして、犯人は途中で諦めた」
 この行動の理由が知れたら、きっと真実にグッと近づける。
「こちら、エビアボカドバーガーです」
「ありがとうございます」
 僕は紙に包まれたバーガーを受け取り、それに食らいついた。
 アボカドの滑らかな味と、エビの食感がよく合っている。
「大量にかけて何になるんだろ」
 ここより先に行くには、なにか別のピースが必要だ。
 ただ、そのピースはどうやって手に入れる?
「……うまっ」
 というかこのバーガー本当にうまいな。
 エビもたっぷりだし、バンズの硬さもほどよい。
 どうやって作ってるんだろ、これ。
 何度も試作したりしてるんだろうな……そういえば。
「試す、か」
 初めて連れていかれたあの事件。
 あの時、姉は僕の前でトリックを実演して見せた。
 だとしたら……僕も。
「ごちそうさまでした」
 僕はバーガーの紙を残して席を立った。
 お金を払い、店から出る。
 まずは家に水着を取りに行こう。
 そして、バケツを買おう。

◇◇◇

「……えーと、それは?」
 依頼人は目が点になっていた。
 僕はラッシュガードと海パンを身に着けて、依頼人の前に立つ。
 状況再現のため、ウォータシューズも履いてきた。
 まるで海水浴に来た客のようだが、もちろんふざけたわけじゃない。
 大量の液体……代わりとして水を大量に浴び、どうなるのか調べるためだ。
「すいません。こんな姿で」
「いえいえ……それで真相がわかるなら」
 依頼人には実験内容は説明した。
 まぁ、いきなり水着で現れるのは想定外だったらしいが。
「それより、『たくさん』というのはこれくらいですか?唯助さん」
「曖昧ですが……多分、それと似たようなものだったと思います」
 僕と依頼人の間に、水が12Lあった。
 2Lずつペットボトルに入れられ、その場所に鎮座していた。
「これで実際に、水を被ってみるんですね」
「そいうことになりますね、唯助さん」
 僕は持参したバケツを片手に、その水を入れ始めた。
「それじゃあ、ここから走りますので」
「水をかければいいんですね。翔太さん」
 僕はコクリと頷いた。
「それでは唯助さん。よーい……スタート!」
 僕は少し速度を抑えて走り出した。
 後ろから僕を追う音と、水をかける音が聞こえる。
 僕は水でびしょびしょになりながら、数十メートルを駆けた。
「……大丈夫ですか?翔太さん」
「大丈夫です!」
 水に濡れたまま、僕は依頼人の元に歩いて行った。
「……タオルとかあります?」
「あります。なので心配しなくても大丈夫です」
 そう言うと、依頼人は少し安心したような顔になった。
「とりあえず、このまま少し考えさせてください」
「えっ……あっはい」
 さすがに困惑したのか、依頼人は面食らった顔になった。
「それじゃあ、少しお待ちください」
「あぁ……わかりました」
 僕は乾かすために、日向の方に座りこむ。
 そして、自分の思考に入り込んでいった。

◇◇◇

「……わからん」
 2分ほど経った後、僕はさじを投げた。
 何しろ『大量の液体』をかける意味がわからない。
 そのまま、僕は顔を上げた。
「どうです?翔太さん」
「……まだちょっと時間がかかりそうです」
「そうですか……」
 依頼人は落胆したような表情になった。
 そりゃそうだろう。
 折角探偵を依頼したのに、来たのがこんな代理人だし。
 それに推理もできないし。
「ちょっと待っててください。唯助さん」
 僕は姉に助けを求めようとした。
 確か携帯電話は病室に持ってきたはずだ。
「えーっと、っと」
 僕は軽く手を拭き、近くのベンチに置いていたスマホを持つ。
 その時だった。なにか、僕には不満な部分があった。
「……唯助さん!もう大丈夫です!」
「あ、はい!」
 僕はスマホをベンチにもう一度、置き依頼人に近づく。
 このまま姉に推理してもらうのは負けた気がする。
 どうせこんな機会もうないんだ。
 一度くらい、ゼロから真相を突き止めてもいいだろう。
「唯助さん。一度着替えさせてもらってもいいですか?」
 僕は語気を強めた。
「え、あぁ。はい」
 そのまま、僕はベンチに戻る。
 タオルを取ろうと、下を向いた時だ。
「……え?」
 僕の足跡が、アスファルトに確かに残っていた。
 それだけじゃない。髪からは少しではあるが、水が滴っている。
「まさか……これか?」
 僕はそのまま、スマホを持ってUターンした。
 真相がわかったかもしれない。
 そう思うと、少しばかり心臓の鼓動が早まった。
「唯助さん!」
「な、なんですか?」
 彼は少し面食らったような顔になった。
「真相がわかるかもしれません!あと一歩のところまで来ました!」
「ほ、本当ですか!?」
 僕は少し自慢げな顔をして見せた。
 依頼人は期待に満ちた顔になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)

MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。 しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。 ​母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。  その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。 ​純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。 交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...