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Season1 探偵・暗狩 四折

暗狩翔太最初の事件・逃げ切って2

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「だけど……液体ってなんなんだ?」
 静かなカフェの中。僕は考えを巡らせていた。
 液体の正体はわからない。
 が、ヒントはもらえた。
「液体は大量にかけられた。そして、犯人は途中で諦めた」
 この行動の理由が知れたら、きっと真実にグッと近づける。
「こちら、エビアボカドバーガーです」
「ありがとうございます」
 僕は紙に包まれたバーガーを受け取り、それに食らいついた。
 アボカドの滑らかな味と、エビの食感がよく合っている。
「大量にかけて何になるんだろ」
 ここより先に行くには、なにか別のピースが必要だ。
 ただ、そのピースはどうやって手に入れる?
「……うまっ」
 というかこのバーガー本当にうまいな。
 エビもたっぷりだし、バンズの硬さもほどよい。
 どうやって作ってるんだろ、これ。
 何度も試作したりしてるんだろうな……そういえば。
「試す、か」
 初めて連れていかれたあの事件。
 あの時、姉は僕の前でトリックを実演して見せた。
 だとしたら……僕も。
「ごちそうさまでした」
 僕はバーガーの紙を残して席を立った。
 お金を払い、店から出る。
 まずは家に水着を取りに行こう。
 そして、バケツを買おう。

◇◇◇

「……えーと、それは?」
 依頼人は目が点になっていた。
 僕はラッシュガードと海パンを身に着けて、依頼人の前に立つ。
 状況再現のため、ウォータシューズも履いてきた。
 まるで海水浴に来た客のようだが、もちろんふざけたわけじゃない。
 大量の液体……代わりとして水を大量に浴び、どうなるのか調べるためだ。
「すいません。こんな姿で」
「いえいえ……それで真相がわかるなら」
 依頼人には実験内容は説明した。
 まぁ、いきなり水着で現れるのは想定外だったらしいが。
「それより、『たくさん』というのはこれくらいですか?唯助さん」
「曖昧ですが……多分、それと似たようなものだったと思います」
 僕と依頼人の間に、水が12Lあった。
 2Lずつペットボトルに入れられ、その場所に鎮座していた。
「これで実際に、水を被ってみるんですね」
「そいうことになりますね、唯助さん」
 僕は持参したバケツを片手に、その水を入れ始めた。
「それじゃあ、ここから走りますので」
「水をかければいいんですね。翔太さん」
 僕はコクリと頷いた。
「それでは唯助さん。よーい……スタート!」
 僕は少し速度を抑えて走り出した。
 後ろから僕を追う音と、水をかける音が聞こえる。
 僕は水でびしょびしょになりながら、数十メートルを駆けた。
「……大丈夫ですか?翔太さん」
「大丈夫です!」
 水に濡れたまま、僕は依頼人の元に歩いて行った。
「……タオルとかあります?」
「あります。なので心配しなくても大丈夫です」
 そう言うと、依頼人は少し安心したような顔になった。
「とりあえず、このまま少し考えさせてください」
「えっ……あっはい」
 さすがに困惑したのか、依頼人は面食らった顔になった。
「それじゃあ、少しお待ちください」
「あぁ……わかりました」
 僕は乾かすために、日向の方に座りこむ。
 そして、自分の思考に入り込んでいった。

◇◇◇

「……わからん」
 2分ほど経った後、僕はさじを投げた。
 何しろ『大量の液体』をかける意味がわからない。
 そのまま、僕は顔を上げた。
「どうです?翔太さん」
「……まだちょっと時間がかかりそうです」
「そうですか……」
 依頼人は落胆したような表情になった。
 そりゃそうだろう。
 折角探偵を依頼したのに、来たのがこんな代理人だし。
 それに推理もできないし。
「ちょっと待っててください。唯助さん」
 僕は姉に助けを求めようとした。
 確か携帯電話は病室に持ってきたはずだ。
「えーっと、っと」
 僕は軽く手を拭き、近くのベンチに置いていたスマホを持つ。
 その時だった。なにか、僕には不満な部分があった。
「……唯助さん!もう大丈夫です!」
「あ、はい!」
 僕はスマホをベンチにもう一度、置き依頼人に近づく。
 このまま姉に推理してもらうのは負けた気がする。
 どうせこんな機会もうないんだ。
 一度くらい、ゼロから真相を突き止めてもいいだろう。
「唯助さん。一度着替えさせてもらってもいいですか?」
 僕は語気を強めた。
「え、あぁ。はい」
 そのまま、僕はベンチに戻る。
 タオルを取ろうと、下を向いた時だ。
「……え?」
 僕の足跡が、アスファルトに確かに残っていた。
 それだけじゃない。髪からは少しではあるが、水が滴っている。
「まさか……これか?」
 僕はそのまま、スマホを持ってUターンした。
 真相がわかったかもしれない。
 そう思うと、少しばかり心臓の鼓動が早まった。
「唯助さん!」
「な、なんですか?」
 彼は少し面食らったような顔になった。
「真相がわかるかもしれません!あと一歩のところまで来ました!」
「ほ、本当ですか!?」
 僕は少し自慢げな顔をして見せた。
 依頼人は期待に満ちた顔になった。
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