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Season1 探偵・暗狩 四折

暗狩翔太最初の事件・逃げ切って3

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 僕はエナジードリンクを片手に、あの山道へ戻った。
 服は着替え、髪も乾かした。
「あ、あの翔太さん……そのスマホは?」
「あぁ。今は秘密です」
 彼の顔が引きつった。
 スマホに貼ったセロテープについて秘密にされて、軽く衝撃なのだろう。
「……翔太さん。本当に真相がわかったんですか?」
「一応仮説は。最後のこの『質問』で全てわかります」
「質問?」
 僕はある一つの可能性を頭に思い浮かべた。
 そして、最後の質問にを彼にぶつけた。
「逃げ出した後、雨は降りましたか?」
「え……えっと」
 十秒程の沈黙が流れた。
 そして、依頼人は口を開いた。
「降ってた……と思います」
「ありがとうございます」
 僕は小さくガッツポーズをする。
 これで仮説はほぼ真実だと確定した。
「それでは、実験していきます」
「はい。お願いします」
 僕はエナジードリンクを半分ほど飲んだ。
 そして、その中身をぶちまけた。
「え、ちょ?!」
「これが液体の正体です。唯助さん」
 僕はスマホのライトを点灯させる。
 その直後、エナジードリンクは黄緑色に光り始めた。
「……えぇ?」
「エナジードリンクには、ブラックライトに反応するビタミンB2が含まれています」
「それを誰かにかければ……どうなりますか?」
 依頼人は拳で手をたたいた。
「エナジードリンクが滴ったり、足跡になって……反応する」
「そう。それであなたを追跡しようとしたんでしょう」
 彼の顔は少し暗くなってしまった。
「じゃあ……あの時雨が降らなかったら」
「天に味方された、ということでしょうか」
 僕は彼の顔を見つめていた。
 トラウマにならずに済んだ、とは言っていた。
 それでも、やはり恐怖なのだろう。
 あの時の経験も、液体の真実も。

◇暗狩 四折

「翔太すごいじゃん!自分だけで解決なんて!」
 私は翔太の挑戦と、その成功を絶賛した。
「……ただ聞くのが悔しかっただけだし」
「ふーん」
 私は翔太のスマホをちらりと見る。
 セロテープと、青ペン、そして紫ペン。
 この三つでブラックライトが作れるとは聞いていたが、実物を見るのは初めてだ。
「翔太、おつかれ」
「ありがと。姉ちゃん」
 病室の窓から、赤くなった光が差し込む。
 一日に二件も謎と対峙したんだよな、この子。
「それで、なんで自分一人でやってみようと思ったの?」
「え?」
 翔太は目を見開いた。
 どうやら、なにかやましいことがあるらしい。
「それは……僕も気になるし、待たせるのも悪いと思ったから」
「本当にそれだけ?」
 私は静かににやけてみせた。
 翔太は観念した。
「……姉ちゃんが楽しそうだったからだよ」
「え?」
 一瞬、自分の動きが止まってしまう。
 翔太は真剣な眼差しでこちらを見つめた。
「僕を巻き込んだ時、真相を突き止めた時、いつも姉ちゃんは楽しそうだ」
「だから……僕もやってみたくなったんだ」
 私は一瞬驚いた。というより、嬉しかった。
 翔太がそんなこと言ってくれるなんて、思ってもなかったからだ。
「……それじゃ、翔太も探偵デビューってこと?」
「いや、そうとは言ってないけど?」
 まぁ確かにな。
 私は腕時計を確認しながら、あの人を待った。
「四折!翔太も!」
「母さん?!」
 翔太は一瞬びくっとした。
 病室の入り口に、私と翔太の母親がいたからだ。
「もー四折!また爆弾作るなんてバカやるから!」
「ごめんなさい。でも、そのおかげでいいこともあったの」
 母は怪しむような顔をした。
「いいことって?」
「翔太が私色に染まりきってくれたこと!」
 翔太は勢いよくこっちを向いた。
「そ、染まってなんかないよ!」
「翔太それ本当?」
 私と翔太。二人の視線がぶつかり合う。
 その間に、母が割って入った。
「まぁまぁ。それより四折、これ持ってきたけど」
 そう言う母の手には、一つの箱。
「姉ちゃん、何それ?」
「開けてからのお楽しみよ。翔太」
 私は母からその箱を受け取る。
 そして、翔太を手招きした。
「……で、何それ?」
「開けてみて」
 翔太は受け取った箱を、怪しがりながら開ける。
 そこに入っているのは、一つの時計だ。
「……腕時計?」
 青い枠で囲まれたディスプレイ。
 所せましと刻まれた、メーカー名や型番名。
 私と同じ、デジタル腕時計。
「これ、くれるの?」
「翔太の門出祝いにね」
 翔太は一瞬苦い顔をした。
 門出、という言葉の意味を察したからだろう。
 翔太はその時計をつけるのを躊躇する。
 しかし、数秒後にはその時計を持ち上げた。
「ありがと。姉ちゃん」
 翔太は腕時計を装着する。
 そして、その顔は幸せそうなにやけに変わった。
「……これからよろしく。先輩探偵さん」
「こちらこそ。駆け出し探偵さん」
 私と翔太は拳を合わせた。
 その様子を、母はじっと見ていた。
「……なんかいい雰囲気なってるけど、本当もうこんなバカしないでよ?」
「もちろんよ。母さん」
 翔太は苦笑いをした。
 おそらく、私の嘘を悟ったからだろう。
「なくさないでよ?翔太」
 その瞬間、翔太の口角が上がった。
「なくすわけないじゃん。大切なプレゼントを」
 その顔は、どこか幸せそうだった。
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