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35. 告げられたもの
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あの後、から騎士さん達と情報交換をして分かったことがある。
グレール王国には正規の騎士がほとんど残っていないこと。
私達の公国を滅ぼそうとしている国王が、犯罪者を兵士として利用しようとしていること。
私の国外追放の刑が取り消されたこと。
どれも嬉しくない情報ばかりだったけれど、たった一つだけ私達にとって嬉しい情報もあった。
「まさか聖女様が来ていたとはな。驚いたよ」
「ええ。軟禁されていると聞いていましたから、予想出来ませんでしたわ……」
「軟禁するだけの兵力が無いのだろうな。何にせよ、こちらにとっては都合が良い。
油断しなければ、うまく事を抑えられるだろう」
そう口にするレオン様の後ろに、純白のドレスに身を包んだ銀髪の女性──聖女様が姿を見せた。
滅多にお目にかかれないお方だけれど、四十歳を迎えたというのに衰える気配が無い美しい容姿には、同性でもつい目を奪われてしまう。
「ルシアナ、どうかしたのか?」
「聖女様が……」
「なんだって……」
私の言葉で後ろを見たレオン様も固まってしまった時、聖女様が私の方を見ながら口を開いた。
「ルシアナさん、少しだけレイニとレティシアとお話しする時間を取って頂けませんか?」
そんな問いかけをされて、レイニ達の方を見る私。
私は聖女様のお願いを聞き入れるつもりだけれど、本人の同意は必要なこと。
だから、レイニとレティシアが頷くところを見てから口を開いた。
「分かりましたわ。私はここで待っていますね」
「貴女ともお話したいので、一緒に来て頂けませんか?」
「分かりましたわ」
頷く私。
レオン様だけ蚊帳の外状態なのだけど、彼は「気にしなくて良い」と言ってくれた。
そうして聖女様が私室として使うことになる部屋に招かれた私達は、アルカンシェル商会の支部だった時から使われていたソファに腰掛けている。
この部屋は私が支部の様子を見に来た時に使っていた部屋だから、勝手は知っているのだけど……。
家具の類はほとんどそのまま残っている。
ベッドもそのまま。
この部屋のものは全部私が使っていた記憶があるのだけど、そんなものを聖女様に使わせて良いよかしら……?
聖女様が贅沢を好まなくても、お古は良くないと思うけれど、新品に変えようとしても喜ばれない。
この部屋はそのままにしておくべきだと思った。
「レイニ、レティシア。今まで本当にごめんなさい。貴女達が思っている通り、母は私よ。
理由がどんなものでも、子を見捨てていただなんて……親失格よね」
申し訳なさそうに頭を下げる聖女様。
後ろにいる私からだと表情は見えないけれど、悲しい雰囲気を纏っている。
「これからはお母様と呼んで良いのですね……?」
「ええ。今更だったかしら……?」
「今更ではありませんわ。陛下の我儘が悪いのですから、お母様は気にしないでください。
……私達が孤児院にいる頃から毎年会いに来てくれていましたよね?」
レティシアは言葉を出せない様子だけれど、レイニは聖女様の心労を減らそうと言葉をかけていた。
アストライア家で二人を保護して以来、聖女様は頻繁に商談と称して、けれども内密にレイニ達に会いに来ていたのだけど……。
孤児院にも足繁く通っていらしたのね。
皆を癒す役目を与えられている聖女の実態は、騎士団や衛兵の負傷者を治してすぐに復帰できるようにすること。
権威を保つために年に数回だけ王都に出て、民達の病を治して回っていた。
貴族なら王家にお金を払えばどんな怪我や病気でも治してもらえた。
でも、そのお金は聖女様の手には渡らずに、陛下やマドネス王子の贅沢に使われていたことは分かっている。
「娘に会いたいと思って何とか計画を立てていたのよ。毎週会うことは叶わなかったけれど……」
「これからはいつでも会えますわ。お母様を縛り付けていたものは無いのですから」
そう口にするレイニは目に涙を浮かべているけれど、表情は嬉しそうにしている。
お話の内容は悲しいことでも、お母様と自由に会えるようになることが嬉しいみたい。
レティシアはというと、涙を流して聖女様に抱きついていた。
今まで堪えていたものが溢れ出してしまったのね。
「元気付けようと思って話に来たのに、私の方が元気付けられてしまいましたね……」
聖女様がそう口にした時、レイニは聖女様のすぐ側まで移動して抱きしめていた。
「レイニ……?」
「今は甘えさせて欲しいのです。駄目でしたか?」
「いいえ、そんなこと無いわ」
それからしばらくの間、レイニとレティシアは聖女様に抱きしめられていた。
レティシアの涙につられて私の目頭まで熱くなってしまったから、こっそり堪えきれなかった涙を拭った。
グレール王国には正規の騎士がほとんど残っていないこと。
私達の公国を滅ぼそうとしている国王が、犯罪者を兵士として利用しようとしていること。
私の国外追放の刑が取り消されたこと。
どれも嬉しくない情報ばかりだったけれど、たった一つだけ私達にとって嬉しい情報もあった。
「まさか聖女様が来ていたとはな。驚いたよ」
「ええ。軟禁されていると聞いていましたから、予想出来ませんでしたわ……」
「軟禁するだけの兵力が無いのだろうな。何にせよ、こちらにとっては都合が良い。
油断しなければ、うまく事を抑えられるだろう」
そう口にするレオン様の後ろに、純白のドレスに身を包んだ銀髪の女性──聖女様が姿を見せた。
滅多にお目にかかれないお方だけれど、四十歳を迎えたというのに衰える気配が無い美しい容姿には、同性でもつい目を奪われてしまう。
「ルシアナ、どうかしたのか?」
「聖女様が……」
「なんだって……」
私の言葉で後ろを見たレオン様も固まってしまった時、聖女様が私の方を見ながら口を開いた。
「ルシアナさん、少しだけレイニとレティシアとお話しする時間を取って頂けませんか?」
そんな問いかけをされて、レイニ達の方を見る私。
私は聖女様のお願いを聞き入れるつもりだけれど、本人の同意は必要なこと。
だから、レイニとレティシアが頷くところを見てから口を開いた。
「分かりましたわ。私はここで待っていますね」
「貴女ともお話したいので、一緒に来て頂けませんか?」
「分かりましたわ」
頷く私。
レオン様だけ蚊帳の外状態なのだけど、彼は「気にしなくて良い」と言ってくれた。
そうして聖女様が私室として使うことになる部屋に招かれた私達は、アルカンシェル商会の支部だった時から使われていたソファに腰掛けている。
この部屋は私が支部の様子を見に来た時に使っていた部屋だから、勝手は知っているのだけど……。
家具の類はほとんどそのまま残っている。
ベッドもそのまま。
この部屋のものは全部私が使っていた記憶があるのだけど、そんなものを聖女様に使わせて良いよかしら……?
聖女様が贅沢を好まなくても、お古は良くないと思うけれど、新品に変えようとしても喜ばれない。
この部屋はそのままにしておくべきだと思った。
「レイニ、レティシア。今まで本当にごめんなさい。貴女達が思っている通り、母は私よ。
理由がどんなものでも、子を見捨てていただなんて……親失格よね」
申し訳なさそうに頭を下げる聖女様。
後ろにいる私からだと表情は見えないけれど、悲しい雰囲気を纏っている。
「これからはお母様と呼んで良いのですね……?」
「ええ。今更だったかしら……?」
「今更ではありませんわ。陛下の我儘が悪いのですから、お母様は気にしないでください。
……私達が孤児院にいる頃から毎年会いに来てくれていましたよね?」
レティシアは言葉を出せない様子だけれど、レイニは聖女様の心労を減らそうと言葉をかけていた。
アストライア家で二人を保護して以来、聖女様は頻繁に商談と称して、けれども内密にレイニ達に会いに来ていたのだけど……。
孤児院にも足繁く通っていらしたのね。
皆を癒す役目を与えられている聖女の実態は、騎士団や衛兵の負傷者を治してすぐに復帰できるようにすること。
権威を保つために年に数回だけ王都に出て、民達の病を治して回っていた。
貴族なら王家にお金を払えばどんな怪我や病気でも治してもらえた。
でも、そのお金は聖女様の手には渡らずに、陛下やマドネス王子の贅沢に使われていたことは分かっている。
「娘に会いたいと思って何とか計画を立てていたのよ。毎週会うことは叶わなかったけれど……」
「これからはいつでも会えますわ。お母様を縛り付けていたものは無いのですから」
そう口にするレイニは目に涙を浮かべているけれど、表情は嬉しそうにしている。
お話の内容は悲しいことでも、お母様と自由に会えるようになることが嬉しいみたい。
レティシアはというと、涙を流して聖女様に抱きついていた。
今まで堪えていたものが溢れ出してしまったのね。
「元気付けようと思って話に来たのに、私の方が元気付けられてしまいましたね……」
聖女様がそう口にした時、レイニは聖女様のすぐ側まで移動して抱きしめていた。
「レイニ……?」
「今は甘えさせて欲しいのです。駄目でしたか?」
「いいえ、そんなこと無いわ」
それからしばらくの間、レイニとレティシアは聖女様に抱きしめられていた。
レティシアの涙につられて私の目頭まで熱くなってしまったから、こっそり堪えきれなかった涙を拭った。
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