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54. 実験の結果

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「お待たせ」
「ありがとうございます」

 淹れ終えたお茶をテーブルの上に運ぶ私。

 これでも淹れる練習をしたことがあるから、家の侍女さん並みには美味しく出来ていると思う。
 皇城で出されるようなものには及ばないけれど。

「……美味しいです。ルシアナ様、こんなことも出来たのですね」
「一応練習してあるから、侍女さんの仕事もある程度は出来るつもりよ」
「すごいですね。普通、貴族のお嬢様は侍女の仕事なんて出来ないですよ!?」
「私の場合、一人でここに来ていたから、大抵の事は自分でする必要があったの。だから、必死に覚えたわ」

 貴族は基本的に侍女がしている仕事はしない。
 だから、侍女の苦労を知らない人が多いのだけど……。

 私は魔道具でみんなを幸せにしたいと思っているから、何に困っているのか探るために、実際に侍女の仕事をしたこともある。
 そのお陰で、役に立っつ魔道具ををいくつも生み出すことが出来たのよね。

「そんなことをされていたのですね。少し意外です」
「よく言われるわ。でも、私以外にも侍女の真似事をしている貴族は居るはずよ」
「居てもおかしくはないのでしょうけど、私が聞くのはルシアナ様が初めてです」
「そうなのね」

 お話ししている間にお茶が空になったから、断りを入れて工房に向かう。
 さっきの出来事を摩道具に利用できないか探らないといけないから、休憩を早めに切り上げたけれど……思い付いたらすぐに動いた方が良いのよね。

 時間を空けてしまうと、上手く形にできなかったりする。
 だから、工房に入ったらすぐに、紙を広げてこれからの実験の方針を書いていく。

 書き終えたら、最初の実験に必要な金属の筒と棒を作り出して、筒の方に水を入れた。
 そのまま、内側にしっかりと嵌まる棒を入れて蓋代わりにして、火魔法を出す摩道具で温めていく。

「ルシアナさん、また何か思いついたの?」
「ええ」

 そんなお話をしている間に、棒が少しずつ外側に押し出されていく。
 試しに手で押し込んでみても、押し返す力が強ぎて元には戻らなかった。

 どうやら、水を熱すると体積が一気に増えるらしい。
 水はティーカップ一杯分しか入れていないのに、一分もすれば蓋にしていた棒が外れてしまった。

「何を狙っているのか聞いてもいいかしら?」
「水を温めていたら蓋が飛んだから、原因を調べているの」
「これも摩道具に使えるのかしら?」
「どれくらいの力が出せるか分からないから、可能性があるとしか言えないわ」

 今度は同じ筒を追加で三本用意して、上に板を繋いだ。
 それから重りを乗せていって、私とレナさん二人がかりでも持ち上がらなくなったところで、四つ同時に火魔法の摩道具を近付けた。

「これで持ち上がれば成功なのかしら?」
「ええ。成功したら、今までよりも少ない魔力で物を持ち上げられるようになると思っているわ」
「それは画期的ね。成功すると良いのだけど……」

 そんなお話をしていたら、少しずつ重りが持ち上がっていくところが目に入った。
 続けていくと、最初よりは遅いけれど重りが天井に当たる寸前まで持ち上がっていた。

 このままだと天井が壊れてしまうと思ったから、急いで火魔法の摩道具を止めたのだけど……。

「ルシアナさん、真ん中の重りが……」
「どうして止まらないの!?」

 慌てた時にはもう手遅れで、重りがバキバキと音を立てて天井を押し上げていた。

「どうするのよこれ……」
「どうしよう……」

 重り一個分だったらよかったのだけど、その後も持ち上がり続けたせいで天井全体にヒビが入ってしまった。

「今日中に直した方がいいかしら?」
「実験装置をどかしたら天井が落ちてくる気がするわ」
「レナさんがそう言うなら、間違い無さそうね。とりあえず、落ちてこないように支えを作るわ」

 そう言ってから、支えになる棒を作ろうと錬金術の魔法陣に向かった時のこと。
 再びバキバキという音がして実験装置のところを見ると、今度は重りが下がってきていて……。

 次の瞬間には周りの天井が落ちてきてしまった。 

「ルシアナさん、こっち!」
「無理よ……」

 実験装置の下にいるレナさんに手招きされたけれど、ここからでは間に合わなくて。
 防御魔法を使った私の上に天井の破片が降り注いだ。

「凄い音がしたが、実験に失敗でも……。
 ……ルシアナ、大丈夫か!?」
「ええ、なんとか……。
 けほっ……」

 埃を吸ってしまったみたいで、咳き込んでしまう。
 そのまま動けずにいたら、レオン様が慎重に私の方に近付いてきて、こんなことを口にした。

「目を閉じてくれ」
「何をされるのですか……?」
「埃を払うだけだ」

 そう言われて、大人しく目を瞑る私。
 何も見えない状態で髪を撫でられたからか、少し擽ったい。

 でも、レオン様のお陰で目にゴミが入ってしまうことは無かった。
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