義妹の引き立て役はもう終わりにします

水空 葵

文字の大きさ
16 / 49

16. デビュタントです


「手、触れても良いだろうか?」

 馬車の扉が閉められると、イアン殿下にそんな問いかけをされた。
 断る理由は無いから頷くと、恐る恐るといった様子で手が重ねられる。

 手が触れた瞬間、身体がさらに熱くなった気がするけれど、イアン殿下を見ると首元に朱がさしているから、彼も熱を感じているに違いない。
 彼も私と同じで、異性の手に触れるのは初めてなのだろう。

 整った容姿の彼がご令嬢方から人気が無いとは考えにくいけれど……。
 そんなことを考えていると、窓から見える景色が王宮の庭園に変わっていた。

「イアン殿下、パーティーには手を繋いで参加するのですか?」
「嫌だったか?」
「恥ずかしいだけですわ」
「俺も恥ずかしいが、すぐに慣れると思う。それと、婚約者同士の関係になるのだから、殿下と呼ぶのはやめてもらえると助かる」

 婚約のお話はとんとん拍子に進んだから、こういうお話はあまり出来ていない。
 彼の言う通り、殿下と呼ぶのは婚約者同士の仲では相応しくないと思うから、今から改めることにした。

「イアン様とお呼びすれば宜しいでしょうか?」
「ああ。そのうち呼び捨てにしてもらいたいが、今はそれで良い」
「呼び捨てですか……!?」

 王族を呼び捨てにするなんて畏れ多くて私に出来る気がしない。
 でも、王妃様は陛下のことを名前だけで呼んでいたから、イアン殿下はそういう関係を望んでいるのだろう。

 国王夫妻が今でも仲睦まじく、多くの貴族から羨まれていることは周知の事実だ。
 私もあんな風になれたら……。

 ふと、そんなことを考えてしまったけれど、私とイアン様はまだ婚約したばかり。
 私には早すぎる気がした。

「結婚する人とは対等でありたいんだ」
「そうだったのですね。素敵なお考えだと思います」
「公的な場では弁える必要はあるが、今からでもアイリスとは対等でありたい」
「……善処しますわ」

 そう口にすると馬車が止まり、イアン様が先に降りる。
 私も降りようとすると彼は手を差し出してくれて、ほとんど彼に支えられるようにして地面に足をつけた。

「体調は大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」
「では会場に行こう」

 笑顔で言葉を交わし、私達は玄関へと足を向ける。
 馬車を降りた時から手は繋いだままだけれど、今は誰の視線も向けられていないから、恥ずかしさはあまり感じない。

 けれども、会場に足を踏み入れた瞬間、いくつもの視線が私に向けられた。
 今日のパーティーは王国中の貴族が参加する大きなものだから覚悟はしていたけれど、視線に射抜かれて身体中が穴だらけになりそうだ。

「……こんなに注目されるのですね。緊張してきました」
「耐えられそうか?」
「頑張ります……」

 こんなに注目されるのは初めてのことだから、耐えきれる自信は無い。
 でも、デビュタントを成功させないとイアン様にも迷惑をかけることになるから、気付かれないように深呼吸をする。

 さっきまで楽しみだったのに、こうして注目されると不安ばかり襲ってくる。
 イアン様は平然としているから、心臓に毛でも生えているのかもしれない。

「イアン様はどうして大丈夫なのですか?」
「王族は常に注目されるから、慣れたんだ。アイリスもすぐに慣れるよ。
 何かあっても俺が必ず守るから、安心して楽しんで欲しい」
「そうだったのですね……」

 言葉を交わしていると、参加者の中に見知った顔――ジュリアを見つけてしまった。近くには元義両親の姿もあり、楽しそうに談笑している。

 ジュリアとは目が合ったけれど、何も気付かれなかったようですぐに視線がイアン様へと移動する。
 その時だった。

「ジュリア・ザーベッシュ、まだ俺のことを狙っているのか……」

 イアン様が呆れ混じりの険しい口調で呟いた。
 どうやら、ジュリアは私のことなんか気にせず、イアン様ばかり注目しているらしい。

 彼女は王族と婚姻を結び贅沢な暮らしをすることを夢見ていた。その気持ちは今も変わらないらしい。
 イアン様が嫌そうにしているところを見れば、その夢は叶わないと分かるのに……。

「ジュリアはまだ諦めていないのですね……」
「彼女のしつこさには感心してしまうよ。嫌いだと告げても、恋文が送られてきているらしい」

 嫌われていると分かっていても関係を持とうとするなんて、どうかしているとしか思えない。
 イアン様は王家で、今の私は公爵家。伯爵家に権力で負けることは考えにくいけれど、ジュリア達の動きには気を付けた方が良さそうだ。

「そんなに酷いのですね……」
「ああ」

 少し疲れたように見えるイアン様。
 そんな時、ダンスの時に聞いた音楽が流れ出す。

 すると彼は眩しい笑みを浮かべ、こんな言葉を囁いた。

「アイリス。最初の一曲、僕と踊りませんか?」
「はい、喜んで」
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。