義妹の引き立て役はもう終わりにします

水空 葵

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26. 残された儀式魔法

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 少しの間馬車に揺られ、私はアースサンド邸に戻った。
 今日は予定より長引いてしまったから、急いで着替えを済ませてから夕食に向かう。

 ダイニングに入ると、食事が並べ終えられたところで、私以外の全員が揃っていた。
 貴族は決まり事に厳しいから、きっと怒られる。ザーベッシュ邸に居た頃は、一秒遅れたときに激怒されたこともあった。理由はジュリアの妨害だったのだけど、理由なんて関係なかった。

「遅れてしまい申し訳ありません」
「気にしなくて大丈夫よ。何かあったのでしょう?」

 鞭で打たれる痛みを思い出してしまい、身体を強張らせる私。
 けれど、伯母様の口調は普段よりも優しいものだった。

「はい。ですが、遅れてしまったのは私の責任です」
「アイリスちゃん、そんな風に簡単に自分の責任にしない方が良いわ。過ちだと認めたら、相手は優位になろうとしてくるもの。
 今のようにして良いのは、明確に自分が悪いときだけよ」
「……気を付けます」

 注意を受けてしまったけれど、怒られている感じはしない。
 鞭も飛んでこなかった。

 伯父様達に視線を向けても怒りの表情は一切見えず、ようやく安心して席に着く。
 それからは普段と同じ雰囲気で食事の時間が始まり、私は今日あったことを問いかけられた。

 隠すことといえば大聖女様が遺したという結界魔法だけ。
 それ以外で私が知っていることは全てお話する。

「――という理由で今日はイアン様に送って頂けなかったのです」
「暗殺されかけたという話は聞いているわ。ここは大聖女アリス様が遺してくださった結界魔法のお陰で、裏切り者が居たらすぐに分かるの。だから安心して」

 まさか、ここにも同じものがあるとは思わなかった。
 王宮にも同じ魔法があることを言っていいのか分からないから、知らない風を装うことに決める。

「そんな魔法があるのですね。安心しました。
 でも、私なんかが見ても大丈夫なのでしょうか?」
「アイリスちゃんは大切な家族だから、この家の事は全て知ってもらおうと思っているわ。今日寝るのが遅くなっても大丈夫なら、隠し通路も教えましょう」

 隠し通路……ザーベッシュ邸では物心ついた時には存在を知っていたものだ。
 ジュリア達には客人用の隠し通路の存在が知られているけれど、あの邸には私だけが知っている家族専用の隠し通路もあった。

 お父様がジュリア達に教えなかった理由はずっと分からなかったけれど、今思い返してみると、お義母様やジュリアは信用されていなかったのだと思う。
 私はここに来たばかりだから、客人用の隠し通路を教わるはずだ。

「――ごちそうさまでした」

 他愛のないお話をしながら食事を終え、私は叔父様と伯母様に連れられてお屋敷の最上階へと向かう。
 アースサンド邸は三階建てになっていて、最上階は使用人が暮らす場所だ。

 普段なら三階に来ることはないから、結界魔法があるとは思えない。予想通り、伯母様が扉を開けるとそこは小さな書庫になっていた。
 私が知っている一階の書庫と比べたら、本の数はずっと少ない。

「この壁に手を当ててごらん」
「……こうですか?」

 本棚と本棚の間にある絵画の下辺りに手のひらを触れさせる。そして伯母様も壁に触れると、魔法特有の光が放たれる。
 次の瞬間、触れていたものが消える感覚がした。壁は消えていないのに……。

「よし、これで入れる。壁はあるが、何も無いと思って進むんだ」
「分かりました」

 言われるがままに足を踏み出すと、私の手が壁の中に吸い込まれる。
 ぶつかりそうで怖いけれど、意を決してもう一歩進むと、不思議な部屋が視界中に広がった。

 部屋の四隅には青色、赤色、緑色、黄色にそれぞれ光り輝く球が置かれていて、床と壁、そして天井にまで複雑な魔法陣が浮かんでいる。
 そして、部屋の中央には透き通った球体が浮かんでいて、緑色に輝いていた。

 この球体はただの水のようだけど、四隅にあるものは違う。
 見た目だけなら儀式魔法というものに見えるものの、儀式魔法に必要な魔法陣がどこにも見当たらない。

「これが裏切り者を見つける魔法ですか……?」
「ああ。あの水晶玉の中に核となる魔法陣が埋められている。だから、間違っても落さないように」

 これだけ大掛かりな魔法なら魔力の気配がするものだけど、この部屋に入っても何も感じられない。
 ほとんど魔力を使わない生活魔法でも、近くで使われていたら絶対に分かるから、私が知らない魔法で隠されているのだろう。

 これだけでも、大聖女アリス様がどれだけ優秀なお方だったのか分かる。
 今の私には、床に浮かんでいる魔法陣を見ても半分しか理解できないのだから。

 私はまだ聖女候補だけれど、将来同じことが出来るかと訊かれたら、首を横に振る。

「怖くて触れません……」

 よく見ると、水晶の表面には物凄く細かい魔法陣がいくつも浮かんでいる。
 その一つに防御力を上げる支援魔法があるから、うっかり落としても大丈夫だと思うけれど、壊しても治せないから近付きたくない。

「これからアイリスも家族だとこの魔法に覚えてもらう。今から言う通りの順番で水晶に触れてほしい」
「触るのですか!?」
「躓いても落ちないから、安心しなさい」

 私が怯えていることなんて気にしていないのか、それとも本当に大丈夫だと確かめたことがあるのか。
 伯父様は今の言葉に続けて説明を始めてしまった。

「――色分けされているから分かりやすいと思う。出来そうか?」
「頑張ります」

 説明されたばかりの内容を思い出しながら、水晶に触れていく。
 ただ順番に触れるわけではないから間違えないか心配だったけれど、最後の水晶に触れると魔法陣の色が青色に変わった。
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