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28. Side 伯爵家の調査
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時をさかのぼること数日。
アイリスの治癒魔法の効果を身をもって体感したイアンは、ある違和感を覚えるようになっていた。
「あのロイドという男、一体何者なのだ……」
ロイド・ザーベッシュが本来なら伯爵家当主になれないことに気が付いたのだ。
国王が伯爵家を継ぐ許可を出していることも謎だが、この現状に誰も違和感を持っていないことも変だと感じている。
「殿下、どうかされましたか?」
「ロイド・ザーベッシュが伯爵になった経緯を調べたい。協力してもらえるか?」
「あの家におかしな点は無かったと思いますが……」
側近に指示を出そうとしても、嫌な顔をされることも普通ではない。
まるで何かを隠そうとしているように見える。
「そうか。一旦、お茶でも飲んで考え直してほしい」
「殿下、気でも違えたのですか? 調べるだけ無駄でございます」
「命令に従えないのだな?」
語気を強めての命令でさえ嫌な顔をされ、嫌な予感は増すばかりだ。
しかし、アイリスの魔法で作り出された水を飲めば洗脳のような状態が解けるとイアンは予想していた。
だから事前にお茶という形で用意しており、命令として側近に飲ませる。
ザーベッシュ家に関わらないことなら拒絶はされないようで、お茶はあっという間に空になった。
「このお茶、とても美味しいですね。どこから仕入れたのでしょうか?」
「淹れ方を変えただけで、中身はいつものお茶だ。
ところで、考え直せたか?」
イアンの目的は、あくまでも違和感の正体を明かすこと。だから雑談には応じず、側近に再び問いかけた。
彼もまた違和感に気付いたようで、イアンは予想が合っていたのだと確信した。
(やはり、彼も洗脳にかかっていたようだ)
アイリスが作り出した水を飲めば洗脳が解け、ザーベッシュ伯爵家のおかしな状況に気付くのだ。
イアンがそうだったように、側近も頭を抱える仕草を見せる。
「……何故、私は今まで気付かなかったのでしょう。あの家の現状は放っておけません。
そもそも、唯一の跡継ぎであるはずのアイリス様を虐げるなど、あり得ないことでございます」
「他にもおかしなことがある。今まで、俺以外の全員が一切調べようとしなかったのだ」
「そのようですね。しかし、殿下は何故気付けたのでしょうか?」
この問いかけに、イアンはアイリスを助け出す計画を立てる直前のことを思いだした。
同い年だったこと、そしてアイリスの実母が王妃の親友だったこともあり、十年ほど前はよく一緒に遊ぶ仲だった。
王子という立場だから他の令嬢と関わる機会もあったが、殆どはイアンの王子という肩書を恐れて取り繕った会話しか出来ずにいた。
そんな中、アイリスだけが友人として接してくれていて、その頃から好ましいと思うようになる。
そんな彼女が社交界に姿を見せないことに気付き、命令に従わない側近達を置いて自ら調査に乗り出していた。
姿身分を偽っての調査だったため、アイリスの姿を見たのはザーベッシュ邸の敷地の外からだけだったが、鞭で打たれるところや物置小屋で生活している様子を目にすることになったのだ。
服はボロボロで、とても外に出て良い恰好ではない。
しかし、瞳に宿る光は十年前から変わらず、面影も残っていた。
「――幼い頃に書いた日記を見つけて、アイリスのことを思い出したんだ。それまでは一切気にかけていなかったから、日記が切っ掛けでアイリスのことだけは調べようと思えた。もっとも、彼女の周囲の状況は一切気にならなかったから、何重にも洗脳の類の魔法をかけられていたのだろう」
「そういえば、アイリス様とは幼馴染のような関係でございましたね。
一目惚れかと思っていましたが……」
「アイリスは可愛いから、そう思われるのも無理はない。一つ言っておくと、俺はボロボロになっている時のアイリスを見て婚約を決心した。それだけは忘れないで欲しい」
「肝に銘じます」
イアンの言葉に、側近はそう口にする。
そして、ロイド・ザーベッシュや伯爵家の調査を始めるのだった。
アイリスの治癒魔法の効果を身をもって体感したイアンは、ある違和感を覚えるようになっていた。
「あのロイドという男、一体何者なのだ……」
ロイド・ザーベッシュが本来なら伯爵家当主になれないことに気が付いたのだ。
国王が伯爵家を継ぐ許可を出していることも謎だが、この現状に誰も違和感を持っていないことも変だと感じている。
「殿下、どうかされましたか?」
「ロイド・ザーベッシュが伯爵になった経緯を調べたい。協力してもらえるか?」
「あの家におかしな点は無かったと思いますが……」
側近に指示を出そうとしても、嫌な顔をされることも普通ではない。
まるで何かを隠そうとしているように見える。
「そうか。一旦、お茶でも飲んで考え直してほしい」
「殿下、気でも違えたのですか? 調べるだけ無駄でございます」
「命令に従えないのだな?」
語気を強めての命令でさえ嫌な顔をされ、嫌な予感は増すばかりだ。
しかし、アイリスの魔法で作り出された水を飲めば洗脳のような状態が解けるとイアンは予想していた。
だから事前にお茶という形で用意しており、命令として側近に飲ませる。
ザーベッシュ家に関わらないことなら拒絶はされないようで、お茶はあっという間に空になった。
「このお茶、とても美味しいですね。どこから仕入れたのでしょうか?」
「淹れ方を変えただけで、中身はいつものお茶だ。
ところで、考え直せたか?」
イアンの目的は、あくまでも違和感の正体を明かすこと。だから雑談には応じず、側近に再び問いかけた。
彼もまた違和感に気付いたようで、イアンは予想が合っていたのだと確信した。
(やはり、彼も洗脳にかかっていたようだ)
アイリスが作り出した水を飲めば洗脳が解け、ザーベッシュ伯爵家のおかしな状況に気付くのだ。
イアンがそうだったように、側近も頭を抱える仕草を見せる。
「……何故、私は今まで気付かなかったのでしょう。あの家の現状は放っておけません。
そもそも、唯一の跡継ぎであるはずのアイリス様を虐げるなど、あり得ないことでございます」
「他にもおかしなことがある。今まで、俺以外の全員が一切調べようとしなかったのだ」
「そのようですね。しかし、殿下は何故気付けたのでしょうか?」
この問いかけに、イアンはアイリスを助け出す計画を立てる直前のことを思いだした。
同い年だったこと、そしてアイリスの実母が王妃の親友だったこともあり、十年ほど前はよく一緒に遊ぶ仲だった。
王子という立場だから他の令嬢と関わる機会もあったが、殆どはイアンの王子という肩書を恐れて取り繕った会話しか出来ずにいた。
そんな中、アイリスだけが友人として接してくれていて、その頃から好ましいと思うようになる。
そんな彼女が社交界に姿を見せないことに気付き、命令に従わない側近達を置いて自ら調査に乗り出していた。
姿身分を偽っての調査だったため、アイリスの姿を見たのはザーベッシュ邸の敷地の外からだけだったが、鞭で打たれるところや物置小屋で生活している様子を目にすることになったのだ。
服はボロボロで、とても外に出て良い恰好ではない。
しかし、瞳に宿る光は十年前から変わらず、面影も残っていた。
「――幼い頃に書いた日記を見つけて、アイリスのことを思い出したんだ。それまでは一切気にかけていなかったから、日記が切っ掛けでアイリスのことだけは調べようと思えた。もっとも、彼女の周囲の状況は一切気にならなかったから、何重にも洗脳の類の魔法をかけられていたのだろう」
「そういえば、アイリス様とは幼馴染のような関係でございましたね。
一目惚れかと思っていましたが……」
「アイリスは可愛いから、そう思われるのも無理はない。一つ言っておくと、俺はボロボロになっている時のアイリスを見て婚約を決心した。それだけは忘れないで欲しい」
「肝に銘じます」
イアンの言葉に、側近はそう口にする。
そして、ロイド・ザーベッシュや伯爵家の調査を始めるのだった。
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