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29. 使用人の真似事
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「おはよう、アイリス」
「おはようございます、イアン様」
いつものように挨拶を交わし、勉強に使っている部屋に足を向ける。
でも、普段と違ってテーブルの上には何も用意されていなかった。
「……イアン様、何かあったのでしょうか?」
「アイリス、一つ確認したいことがある。
君のお父さんが生きている間に、ロイドという男をザーベッシュ家に復籍させていたか分かるか?」
「ロイド様は危険な人物だと教わっていたので、復籍は有り得ないと思いますわ」
お父様が亡くなり、ロイドという名前の人が義父になった頃、私はまだ八歳だった。
平民だったはずのお義父様が伯爵家当主になった理由は分からなかったけれど、イアン様の言葉でようやく予想できた。
「そうか。しかし、記録を見るとアイリスの実父が亡くなる三日前に復籍したことになっている。
書類が細工されているのか、本当に復籍を認めたのか……詳しく調べる必要がありそうだ」
お父様が復籍を認めたとは考えにくいものの、脅しを受けていたらその限りではない。
あの頃の私は家の事情なんて知らされていなかったから、調査に協力出来ないのよね……。
そう思っていると、レオン様が紙の束を手に姿を見せた。
「――ロイド・ザーベッシュについて分かったことを纏めました。ご確認を」
「分かった。ありがとう」
イアン様は積まれた紙をめくると、私にも見えるように向きを変えてくれた。
書かれている内容は私が知らないことばかりで、どんな表情をして良いのか分からなくなる。
「……お義父様、元々は貴族だったのですね」
「そのようだな。ザーベッシュ伯爵家の長男だったが、問題を起こして勘当されたようだ」
報告書を読み進めていくと、お義父様が起こした問題についても書かれていた。
十歳くらいの令嬢に何度も手を出し、家同士の争いを度々起こしてきたという。
お父様が「ロイド・ザーベッシュには関わるな」と度々言っていたのは、こういう理由だったらしい。
あの時は八歳で、お義父様にそういう趣味があるのなら、私が狙われていたとしても不思議ではなかった。
今の私は十二歳くらいの令嬢と背が変わらないから、一歩間違えれば何かされていたに違いない。
そう思うと、過去のことなのに恐ろしく感じてしまう。
「ここでも、お父様が復籍を許可したことになっているのですね……」
「ここを見て。改ざんされている可能性が高いらしい。原本を確認する必要がありそうだ」
お父様があれだけ危険人物だと私に教えてくれたのだから、間違っても復籍を許可するとは思えない。
何がどう危険なのかは知らないけれど、私の知るお父様はそこまで間抜けではなかったはずだ。
……ザーベッシュ家の現状を見ると、私の感覚も信用できないけれど。
改ざんされた可能性が高いそうだから、お父様のことは疑いたくなかった。
「原本、私も見れますか?」
「父上の許可があれば見れるから、掛け合ってみよう。
ただ、その前にやっておきたいことがある」
「やっておきたいこと、ですか……?」
イアン様の考えていることが分からなくて、問い返す。
すると、こんな言葉が返ってきた。
「王宮に仕える者達が洗脳魔法をかけられている可能性がある。
洗脳魔法はアイリスの水魔法で解けるから、お茶という形で全員に飲ませたい」
彼の言葉は自信に満ちていて、まるでイアン様自身が効果を体験したように見える。
イアン様とレオン様は私が作ったお水を飲んでいるから、その時に何かの洗脳が解けたのかもしれない。
この状況から考えれば、私が虐げられていたことやお義父様の出自に関することが一切気にならなくなる類のものだと思う。
確信は持てないが、今までずっと私が苦しんでいても救いの手が差し伸べられなかったことも納得できる。
「……状況は理解しました。お茶を淹れて、王宮の皆さまにお出しすれば良いのですね」
「話が早くて助かるよ」
今の状況を放置すれば、イアン様やレオン様の力があっても、私の立場は危うくなるだろう。
私の水魔法は時間を置くと効果が下がると思うから、しっかり洗脳を解くために、淹れたてのお茶を王宮の方々に飲んでもらうことに決めた。
「私、給仕係も出来るので、一番効率が良い場所にお勤めしますわ」
「分かった。使用人と同じ仕事をさせるのは気が引けるが、使用人向けの食堂の給仕をお願いしたい」
「分かりました」
王宮の使用人になるのは一日限り。
誰かに正体を見破られないか心配だけれど、まだ私の顔は知られていないから大丈夫だと信じることにした。
「おはようございます、イアン様」
いつものように挨拶を交わし、勉強に使っている部屋に足を向ける。
でも、普段と違ってテーブルの上には何も用意されていなかった。
「……イアン様、何かあったのでしょうか?」
「アイリス、一つ確認したいことがある。
君のお父さんが生きている間に、ロイドという男をザーベッシュ家に復籍させていたか分かるか?」
「ロイド様は危険な人物だと教わっていたので、復籍は有り得ないと思いますわ」
お父様が亡くなり、ロイドという名前の人が義父になった頃、私はまだ八歳だった。
平民だったはずのお義父様が伯爵家当主になった理由は分からなかったけれど、イアン様の言葉でようやく予想できた。
「そうか。しかし、記録を見るとアイリスの実父が亡くなる三日前に復籍したことになっている。
書類が細工されているのか、本当に復籍を認めたのか……詳しく調べる必要がありそうだ」
お父様が復籍を認めたとは考えにくいものの、脅しを受けていたらその限りではない。
あの頃の私は家の事情なんて知らされていなかったから、調査に協力出来ないのよね……。
そう思っていると、レオン様が紙の束を手に姿を見せた。
「――ロイド・ザーベッシュについて分かったことを纏めました。ご確認を」
「分かった。ありがとう」
イアン様は積まれた紙をめくると、私にも見えるように向きを変えてくれた。
書かれている内容は私が知らないことばかりで、どんな表情をして良いのか分からなくなる。
「……お義父様、元々は貴族だったのですね」
「そのようだな。ザーベッシュ伯爵家の長男だったが、問題を起こして勘当されたようだ」
報告書を読み進めていくと、お義父様が起こした問題についても書かれていた。
十歳くらいの令嬢に何度も手を出し、家同士の争いを度々起こしてきたという。
お父様が「ロイド・ザーベッシュには関わるな」と度々言っていたのは、こういう理由だったらしい。
あの時は八歳で、お義父様にそういう趣味があるのなら、私が狙われていたとしても不思議ではなかった。
今の私は十二歳くらいの令嬢と背が変わらないから、一歩間違えれば何かされていたに違いない。
そう思うと、過去のことなのに恐ろしく感じてしまう。
「ここでも、お父様が復籍を許可したことになっているのですね……」
「ここを見て。改ざんされている可能性が高いらしい。原本を確認する必要がありそうだ」
お父様があれだけ危険人物だと私に教えてくれたのだから、間違っても復籍を許可するとは思えない。
何がどう危険なのかは知らないけれど、私の知るお父様はそこまで間抜けではなかったはずだ。
……ザーベッシュ家の現状を見ると、私の感覚も信用できないけれど。
改ざんされた可能性が高いそうだから、お父様のことは疑いたくなかった。
「原本、私も見れますか?」
「父上の許可があれば見れるから、掛け合ってみよう。
ただ、その前にやっておきたいことがある」
「やっておきたいこと、ですか……?」
イアン様の考えていることが分からなくて、問い返す。
すると、こんな言葉が返ってきた。
「王宮に仕える者達が洗脳魔法をかけられている可能性がある。
洗脳魔法はアイリスの水魔法で解けるから、お茶という形で全員に飲ませたい」
彼の言葉は自信に満ちていて、まるでイアン様自身が効果を体験したように見える。
イアン様とレオン様は私が作ったお水を飲んでいるから、その時に何かの洗脳が解けたのかもしれない。
この状況から考えれば、私が虐げられていたことやお義父様の出自に関することが一切気にならなくなる類のものだと思う。
確信は持てないが、今までずっと私が苦しんでいても救いの手が差し伸べられなかったことも納得できる。
「……状況は理解しました。お茶を淹れて、王宮の皆さまにお出しすれば良いのですね」
「話が早くて助かるよ」
今の状況を放置すれば、イアン様やレオン様の力があっても、私の立場は危うくなるだろう。
私の水魔法は時間を置くと効果が下がると思うから、しっかり洗脳を解くために、淹れたてのお茶を王宮の方々に飲んでもらうことに決めた。
「私、給仕係も出来るので、一番効率が良い場所にお勤めしますわ」
「分かった。使用人と同じ仕事をさせるのは気が引けるが、使用人向けの食堂の給仕をお願いしたい」
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