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2. 狙い通りになりました
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そうして、私は私室に居るところを捕らえられた。
王族に手を出したのだから、当然だわ。
けれども、処刑されることは無いと確信している。
かつて聖女が処刑されたときに民達が反乱を起こし、王家からも犠牲が出た過去があるから、同じ過ちは犯さないはずだ。
そう考えたら、冷たい石に囲まれた牢の中でも恐怖は感じなかった。
けれど、ひどく反響する足音を聞いていると、鼓動が早まる。
足音の主は私の前で立ち止まると、剣を私に向けて口を開いた。
「裁判の時間だ。立て」
私は頷いてから立ち上がる。二日も何も口にできていないから、声は掠れて出なかった。
そうして立ち止まっていると両腕を縄で縛られ、玉座の間に向かうようにと言われる。
魔法があれば途中で逃げることも出来るけれど、ここは王宮の奥深くで何人も相手にしないといけない。たくさんの人を傷つけたくはないから、私は素直に命令に従うことにした。
「陛下。罪人を連れて参りました」
「入れ」
玉座の間に入ると、いくつもの視線が私を射抜く。
ほとんどの人が何かを期待するような薄ら笑いを浮かべていて、私を嘲笑するために集まったことは一目で分かった。
この国の貴族に対する裁判は、国王陛下と数名の有力貴族のみで執り行われる。本来はこんな人数を集める必要はない。
絶対、思い通りにはならないわ。
そう思ったから、国王陛下が口を開くまでの静寂の中でも私は平静を保てた。
私が偽物の聖女という噂も流れているけれど、今のところ誰も信じていないから、私の不利にはならないと思う。
「聖女セシル。何故ウィリアムの頬を張った?」
「腹が立ったからです」
「そうか……聖女とは思えない身勝手な理由だな。
セシルが偽物の聖女という噂は本当だったようだ」
正直に答えると、陛下はそう口にした。
予想していなかった言葉に、嫌な予感がしてしまう。今までの私の功績が無かったことにされたら、極刑を言い渡されることだってあり得るのよね。
でも、こんな理由で処刑されるのは嫌だから、そうなればこの国から逃げようと思う。
これでも私は王国で二番目の魔法の使い手。追っ手を差し向けられても、なんとかなるはずだ。
幸いにも王国で一番魔法に長けているお方――救国の英雄様は行方不明だから、私を止められる人はこの国に居ない。
そんなことを思い浮かべて逃亡の計画を練っていると、再び陛下が口を開く。
「功績に偽りは無い故、処刑はしない。しかし聖女を騙った罪は重い。
ウィリアムとの婚約を破棄した上で、セシル・ビリジアンは国外追放とする」
陛下の言葉にやや遅れて、断罪を喜んでいるような笑い声が聞こえてきた。
聞き間違えるはずがない。私の両親と妹の声だ。
ほかの貴族達は極刑を期待していたのか不満そうにしているけれど、彼女達は嬉しそうにしている。
……私は家族から邪魔者としか思われていなかったのね。
全てを捨てる覚悟をして正解だったわ。
「国外追放、ありがとうございます!」
「なっ……」
満面の笑みを浮かべて感謝を口にしたら、空気が凍り付いた。
そしてすぐに、私は口を塞がれる。きっと私が悲しまないと不都合があるのだろう。
でも、私には関係ないことから、玉座の間を引きずり出されても笑顔でいようと決めた。一方的に嘲笑されるのは趣味じゃない。
「この状況でも笑っているなんて、まるで悪魔ですわ」
「こんなのが聖女だったなんて、本当に恐ろしいです」
「静粛に!」
ざわめきが広がる中、宰相が声を上げると一気に静寂が訪れる。
そして陛下が口を開いて、こんなことを口にした。
「さて、聖女の後任だが……」
「父上、わたくし治癒魔法の腕に自信がありますわ! 是非、わたくしを聖女にしてくださいまし」
「エレノア様が聖女なら、王国も安泰だな」
陛下の言葉を遮るようにして口を挟んだのは、第一王女のエレノア様。
彼女は治癒魔法を扱えるけれど、魔力効率があまり良くないのよね。効率は効果にも繋がるから、この国の未来は明るくないと思う。
「殿下の魔力はセシ……そこの偽物を超えています! 殿下こそ適任です!」
そんな茶番が繰り広げられる中、私はズルズルと玉座の間から引きずられていく。
この人達は馬鹿なのかしら?
そう思ったけれど、口にはしなかった。
「追放されて笑っているなんて、気持ち悪い」
「まるで悪魔だわ」
「本当に性格が悪いのね」
投げかけられる罵倒と嘲笑の見送りの数々。
でも、嫌な気分は欠片も感じなかった。
何にも縛られない、自由な生活が待っているのだから!
王族に手を出したのだから、当然だわ。
けれども、処刑されることは無いと確信している。
かつて聖女が処刑されたときに民達が反乱を起こし、王家からも犠牲が出た過去があるから、同じ過ちは犯さないはずだ。
そう考えたら、冷たい石に囲まれた牢の中でも恐怖は感じなかった。
けれど、ひどく反響する足音を聞いていると、鼓動が早まる。
足音の主は私の前で立ち止まると、剣を私に向けて口を開いた。
「裁判の時間だ。立て」
私は頷いてから立ち上がる。二日も何も口にできていないから、声は掠れて出なかった。
そうして立ち止まっていると両腕を縄で縛られ、玉座の間に向かうようにと言われる。
魔法があれば途中で逃げることも出来るけれど、ここは王宮の奥深くで何人も相手にしないといけない。たくさんの人を傷つけたくはないから、私は素直に命令に従うことにした。
「陛下。罪人を連れて参りました」
「入れ」
玉座の間に入ると、いくつもの視線が私を射抜く。
ほとんどの人が何かを期待するような薄ら笑いを浮かべていて、私を嘲笑するために集まったことは一目で分かった。
この国の貴族に対する裁判は、国王陛下と数名の有力貴族のみで執り行われる。本来はこんな人数を集める必要はない。
絶対、思い通りにはならないわ。
そう思ったから、国王陛下が口を開くまでの静寂の中でも私は平静を保てた。
私が偽物の聖女という噂も流れているけれど、今のところ誰も信じていないから、私の不利にはならないと思う。
「聖女セシル。何故ウィリアムの頬を張った?」
「腹が立ったからです」
「そうか……聖女とは思えない身勝手な理由だな。
セシルが偽物の聖女という噂は本当だったようだ」
正直に答えると、陛下はそう口にした。
予想していなかった言葉に、嫌な予感がしてしまう。今までの私の功績が無かったことにされたら、極刑を言い渡されることだってあり得るのよね。
でも、こんな理由で処刑されるのは嫌だから、そうなればこの国から逃げようと思う。
これでも私は王国で二番目の魔法の使い手。追っ手を差し向けられても、なんとかなるはずだ。
幸いにも王国で一番魔法に長けているお方――救国の英雄様は行方不明だから、私を止められる人はこの国に居ない。
そんなことを思い浮かべて逃亡の計画を練っていると、再び陛下が口を開く。
「功績に偽りは無い故、処刑はしない。しかし聖女を騙った罪は重い。
ウィリアムとの婚約を破棄した上で、セシル・ビリジアンは国外追放とする」
陛下の言葉にやや遅れて、断罪を喜んでいるような笑い声が聞こえてきた。
聞き間違えるはずがない。私の両親と妹の声だ。
ほかの貴族達は極刑を期待していたのか不満そうにしているけれど、彼女達は嬉しそうにしている。
……私は家族から邪魔者としか思われていなかったのね。
全てを捨てる覚悟をして正解だったわ。
「国外追放、ありがとうございます!」
「なっ……」
満面の笑みを浮かべて感謝を口にしたら、空気が凍り付いた。
そしてすぐに、私は口を塞がれる。きっと私が悲しまないと不都合があるのだろう。
でも、私には関係ないことから、玉座の間を引きずり出されても笑顔でいようと決めた。一方的に嘲笑されるのは趣味じゃない。
「この状況でも笑っているなんて、まるで悪魔ですわ」
「こんなのが聖女だったなんて、本当に恐ろしいです」
「静粛に!」
ざわめきが広がる中、宰相が声を上げると一気に静寂が訪れる。
そして陛下が口を開いて、こんなことを口にした。
「さて、聖女の後任だが……」
「父上、わたくし治癒魔法の腕に自信がありますわ! 是非、わたくしを聖女にしてくださいまし」
「エレノア様が聖女なら、王国も安泰だな」
陛下の言葉を遮るようにして口を挟んだのは、第一王女のエレノア様。
彼女は治癒魔法を扱えるけれど、魔力効率があまり良くないのよね。効率は効果にも繋がるから、この国の未来は明るくないと思う。
「殿下の魔力はセシ……そこの偽物を超えています! 殿下こそ適任です!」
そんな茶番が繰り広げられる中、私はズルズルと玉座の間から引きずられていく。
この人達は馬鹿なのかしら?
そう思ったけれど、口にはしなかった。
「追放されて笑っているなんて、気持ち悪い」
「まるで悪魔だわ」
「本当に性格が悪いのね」
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でも、嫌な気分は欠片も感じなかった。
何にも縛られない、自由な生活が待っているのだから!
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