過労聖女が幸せになるまで

水空 葵

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4. 行方不明の理由

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 ルイスと再会してから少しして、私達は今日泊まる宿をさがして町中を歩いている。
 この町は人の往来が激しいみたいで、空いていても一部屋しか残っていない宿ばかりだ。

「次も一部屋しか空いていなかったら、一緒の部屋でも良いか?」

「ええ、大丈夫よ」

 貴族の令嬢と令息が同じ部屋で眠るなんてことは許されないことでも、今の私は平民だから同じ部屋に泊まっても咎められることは無いと思う。
 だからルイスの問いかけには迷わず頷いた。

 野宿をするよりもの方が安心できるから、断る理由はないのよね。
 けれどルイスは私を訝しむような視線を送ってきていた。

「抵抗は全く無いのだな」

「どういう意味? ルイスことは信頼しているから、気にならないわ」

「俺に襲われることは考えなかったのか?」

「貴方にその気が無い事は顔を見れば分かるわ」

「そういうことか。不用心では無いなら安心したよ」

 そんな言葉を交わしながら宿に入る。
 ここの宿も部屋は一つしか空いていなかったから、私達は同じ部屋に案内された。

「――それでは、ごゆっくり」

「ありがとうございます」

 女将さんが部屋一礼して部屋を後にするところを見送り、ルイスに向き直る私。
 この部屋は少し大きめのベッドが一つあるだけだから、私か彼が床で寝ることになると思う。

 いくら元仲間で信頼していても、同じベッドで眠ることは出来ない。
 だからそのことを問いかけると、こんな答えが返ってきた。

「俺は気にしないが、セシルは気にするのか?」

「気にしているから質問したの。でも、私が床で寝れば済むことだから大丈夫」

「いや、俺が床で寝るよ。命の恩人を床で寝させるわけにはいかない」

「地下牢の床に慣れているから気にならないわ」

「これだけは譲れない。セシルはベッドを使ってくれ」

 ルイスは最後まで譲らず、私が一人でベッドを使うことになったのだけど、正直ここまで広ければ二人でも問題無いと思わずには居られない。
 流石に何もかけるものが無いと風邪をひくと思うから、毛布はルイスに押し付けたのだけど、それすらも不満抵抗があるみたいで、渋い顔をされてしまった。

「風邪ひかない?」

「ああ、大丈夫だ。鍛え方が違うからね。
 それじゃあ、おやすみ」

「ええ、おやすみなさい」

 そうして私はランプを消し、ベッドに潜る。
 今日も疲れているからか、意識を失うまで時間はかからなかった。



   ◇



 翌朝。
 いつものように陽が上る前に目を覚ました私は、ルイスを起こさないように仄かな明かりの光魔法を頼りに身支度を始めた。

 身支度と言っても、持っている服は追放された時の一着だけだから、顔を洗ったりすることしか出来ないのよね。
 昨日から同じ服だけれど、私は浄化魔法を使えるから汚れは気にならない。

 姿見を見れば赤い瞳と視線が交わる。
 追放される前は酷いクマをメイクで隠していたけれど、今はメイクをしていないのにクマが少しも見えない。

 それが嬉しくて、つい表情が緩んだ。

「……おはよう」

「おはよう。起こしてごめんなさい」

「いつもこの時間だから、気にしなくて良い」

 浄化魔法をかけ終えたところでルイスも目を覚ました。
 どうやら彼も朝は早いみたいで、起きてからの行動はあっという間だった。

 着替えも私がほんの少しだけ視線を外した間に終えていた。男性の着替えにあまり時間がかからないことは知っていたけれど、ここまで早いのはルイスだけだと思う。

「セシルはこの後どうするつもりだ?」

「雇ってくれるお店を探すわ。服を買うお金が無いから、制服を借りられるところが理想なの」

「そうか。しかし、その服だと誰も雇おうと思わないぞ。
 浮浪者を雇うような変わり者は稀だ」

「浮浪者……今の私はそう見えるのね。
 誰も雇ってくれないとなると、身売りでもしないと生きていけないわ」

「セシルなら冒険者という選択肢もあると思う。俺も国外追放にされた後は誰も雇ってくれなかったが、冒険者ギルドに拾われて今は普通に生活出来ている」

 私が迷っていると、ルイスがそんなアドバイスをしてくれる。
 冒険者というのは便利屋のようなもので、色々な人から出される依頼をこなして生計を立てている。

 依頼の中には危険な魔物を討伐するようなものから、危険な魔物が跋扈している森の中に入らないと達成できないようなものも存在しているというから、冒険者になるのは怖い。
 それでも危険な依頼ほど報酬も弾むから、人気な職業でもあるのよね。

 だから身売りよりはマシかもしれないけれど、私はまだ死にたくないのよね……。

「冒険者って危険なのよね?」

「自分が余裕で倒せる魔物しか相手にしないから、命の危険を感じたことは無いよ。
 何をされるか分からない身売りよりも安全だ」

「そう……。それなら、冒険者になるのも悪くなさそうね。
 ところで、ルイスは行方不明と聞いていたのだけど、本当は追放されていたの?」

 私の仕事を見つけることも大事だけれど、ルイスが口にしていた追放されたという言葉が気になってしまう。
 聖女だった私があっさり追放されたくらいだから、救国の英雄様が追放されていても不思議ではないけれど、真実を確かめたい。

「追放されたのは本当だ。まさか行方不明扱いされているとは思わなかったが、王家にとって俺は邪魔だったのだろうから、消されたのだろう。
 聖女も追放するあたり、あの国はもう終わりだと思う」

「そうだったのね。ルイスの方が王家よりも人気だったから、邪魔だと思われたのかもしれないわ」

「セシルも平民からは王家より人気だったから、国外追放と言って消そうとしたのだろう。無事で本当に良かった」

 思い返してみれば、王家は私が平民と関われないようにしていた。
 私が平民と関われば、権威が私に集まると考えていたのだと思う。

 追放されたのは私が王太子に手を上げたことが理由だけれど、もしかしたら私を消す機会を伺っていたのかもしれない。
 そう思うと、自分の行動が迂闊すぎて、恐ろしくなってしまった。
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