過労聖女が幸せになるまで

水空 葵

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8. 詐欺のようです

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 あの後、倒した魔物も解体し終えた私達は、今度こそ町に向けて足を進めた。
 手に入った大量の素材は抱えきれないほどあるから、ルイスが風魔法で飛ばして運んでいる。

 彼も魔力量が多いみたいで、これだけ魔法を使い続けているのに疲れは欠片も見えなかった。

「魔力は大丈夫? 危なかったら私も頑張るから、言って欲しいわ」

「まだまだ余裕だから、大丈夫だよ」

「それならいいのだけど……。その魔力量、羨ましいわ」

「セシルもこれくらいは出来ると思う。この魔法、攻撃魔法よりも魔力を使わないからね」

 ルイスはそう言っているけれど、私が同じことをしても町に着くころには魔力を切らしてしまうに違いない。
 練習して魔力の効率を上げれば出来るようになるかもしれないけれど、今から始めても数カ月はかかりそうだ。

「私は上手く調整できないから、素材を飛ばしてしまうわ」

「この魔法は使えた方が便利だから、明日はセシルにお願いするよ」

「いきなりは無理だと思うのだけど」

「そのための練習だから、失敗しても気にしないでいい」

「そういうことなら頑張ってみるわ」

 まだ私には早いと思うのに、ルイスの勢いに負けて頷いてしまう。
 出来ることは増やしたいけれど、魔物の素材はどれも高い。失敗した時のことを考えたら、恐ろしくて手が震えそうだ。

「町に入ったら馬車を借りて運ぶから、素材の見張りをお願いしてもいいかな?」

「私で大丈夫? 強盗に襲われたら逃げるだけでも精一杯よ?」

「強奪されそうになったら、攻撃魔法で応戦すれば大丈夫だ。
 支援魔法をかけて殴り飛ばしてもいい」

 妃教育として護身術は学んでいるとはいえ、あくまでも私の身だけを守るためのもの。強盗を退けるようなすべは持ち合わせていない。
 そんな私にこれだけの素材の見張りを任せるなんて、ルイスは私を過大評価しすぎだと思う。

「分かったわ。出来るだけ早く戻ってきてね」

「もちろん。何かあったらすぐに飛んでくるから、安心して」

 私がお願いに、彼はそう口にするとあっという間に近くの建物に入っていった。
 看板には馬車の絵が描かれているから、ここが馬車を貸してくれるお店なのだと思う。

 そう予想している時だった。
 嫌な気配がして背後に視線を向けると、体格の良い男が三人、私を取り囲もうとしていることに気付いた。

 人攫いなのか強盗なのかは分からないけれど、相手は大柄なナイフを持っているから、近付かれたら私は無事では済まないと思う。
 だから逃げるために支援魔法を使って駈け出そうと踵を返す。

 するとルイスが文字通り空を飛んできている様子が目に入った。
 お店の二階の窓が開いているから、そこから飛び出したみたい。

 彼は勢いのままに三人組に飛びかかり、一瞬で全員を気絶させる。

「セシル、大丈夫だった?」

「ええ。本当に飛んでくるとは思わなかったわ……」

「こうするのが一番早いからね。練習すればセシルも出来るようになると思う」

「どうやって飛んでいるの?」

「風魔法で自分を飛ばすだけだよ。こんな感じで。
 手続きの途中だから、続きをしてくる」

 ルイスはそう言いながら宙に浮かび、お店の二階の窓に飛んでいく。
 空を飛べたら便利だと思うけれど、落ちた時のことを考えると試す気にもならないのよね。

 でも、少しだけなら大丈夫だと思うから、試しに風魔法で自分の体を持ち上げてみた。
 すると想像していた通り、少しだけ身体が宙に浮かぶ。移動も……思っていたよりも簡単。

 ただ、魔力があっという間に減っていくのを感じたから、長時間は使えなさそうだ。
 練習して魔力の効率を良くすれば、自由に空を飛ぶことも夢じゃないわ。

「お待たせ。馬車借りてきたよ」

「ありがとう。積み込み、私も手伝うわ」

 飛ぶのをやめて待っていると、手綱を握ったルイスが姿を見せた。
 それからは協力して素材を馬車に乗せ、私達は御者台に乗ってギルドに戻ることになった。

 この馬車は荷物用だから、人が乗れるのは御者台だけなのよね。
 乗り心地は最悪で、町の中の移動なのに、ギルドに着くときにはお尻が痛くなってしまった。



「――こちらが報酬で、こちらが素材の代金になります」

「ありがとうございます」

 無事に依頼の報告と素材の売却を終え、私達はギルドを後にした。
 今回のお金の半分は私のものだから、半月は何もしなくても生活できると思う。

 事業を立ち上げるためには足りないけれど、野宿を避けられるだけでも満足なのよね。
 そう思っていると、道の端で商売をしている年配の女性から声をかけられた。

「お嬢さん、魔道具に興味はあるかい?」

「魔道具……ですか?」

「魔法が使えなくても治癒魔法を使えるようになる、古代遺物だよ。金貨十枚でどうだい?」

「えっと……私は大丈夫です」

「他にも、飛行魔法と防御魔法、攻撃魔法もあるよ。どれも物凄い効果があるのじゃよ」

「お婆さん、俺が試してもいいですか? 本当に使い物になるのか確認しないと買えません」

「ワシはその娘に売っているんじゃ。あんたはお黙り!」

 ルイスの言葉に、商売人は声を荒げた。きっとこれは偽物で、試されると都合が悪いのよね。

 魔道具はお伽噺に出てくるもので、魔法が使えない人でも魔法が使えるようになる夢のようなもの。
 ただ、今残っているのは、何代も前の聖女様が作ったとされている解毒魔法のものだけと言われている。それも全て王家が持っていたから、平民が持っているなんてあり得ない。

 作り出す方法があれば話は変わってくるけれど、それは何百年も昔に失われてしまっているから、夢物語だ。
 そんな貴重なものを金貨十枚で売れるわけがないのよね。

「ごめんなさい。私は魔法が使えるから、魔道具は要りません」

 だから、正直に理由を言ってお断りする。
 幸いにも私に売ることを諦めてくれたみたいで、彼女は舌打ちをしてから元の場所に戻った。
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