奪われる人生とはお別れします 婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました

水空 葵

文字の大きさ
50 / 72
第2章

106. 久々のパーティーです

しおりを挟む
 あれから一週間ほど。
 エイブラム家の方々と共に招待状を受け取った私達は、皇帝陛下主催のパーティーに向かう準備を進めていた。

 今回のパーティーは、フレイムワイバーンによる被害が最小限に済んだことをお祝いするためのものらしく、立役者にされている私とクラウスは主役……ということらしい。
 注目されることは王太子殿下の婚約者だった時の経験があるから慣れているけれど、帝国のパーティーは王国の三倍以上の人が集まるから、緊張してしまう。

 今は侍女達に囲まれて甲斐甲斐しくお世話されているのだけど、この状況だって久々だから落ち着かないわ。

「メイクはこれで終わりですので、次は御髪を整えさせていただきますね。
最近流行りのハーフアップで宜しいでしょうか?」

「ええ、それで大丈夫よ」

 今は髪を纏めてもらっているところなのだけど、ハーフアップにしては時間がかかっている気がするのよね。
 それに、侍女が私の前に立っているのも不思議だわ。

「あまり目立たないかもしれませんが、少し編み込んでみました。
 いかがでしょうか?」

 そんな言葉と共に侍女が少し離れて、目の前の姿見にはいつもとは印象の違う私が映っていた。
 まだ髪飾りは付けていないのに、これでも十分と思えてしまう。

 ここの侍女達は天才なのかしら?
 ええ、きっと天才に違いないわ。

「すごく良いわ。まるで別人になった気分よ」

「満足していただけて良かったです。
 髪飾りもありますので、少し失礼いたします」

 今度は侍女さん三人がかりで髪飾りを付けられていく私。
 次に姿見が見えたときは、別人としか思えない姿が映っていた。

「完成しましたわ。
 とてもお似合いでございます」

「ありがとう。
 まるで別人になった気分だわ」

 冒険者を始めてからずっと後ろで一つに纏めるだけだったから、今の輝かしい姿が自分だなんて思えないのよね。
 髪飾りだって一昨日まで持っていなかったから、少しでも気を緩めたら涙が溢れてしまいそうだ。

「シエル様は素がお綺麗ですから、殆ど手を加えておりませんの。
 もっと自信をもってくださいませ」

「貴女達のお陰だわ。ありがとう。
さっそくクラウスに見せてくるわ」

 侍女達へのこの口調だって慣れないけれど、敬語だと申し訳ない気持ちにさせてしまうから、うっかり敬語にならないように気を付けているのよね。

「きっと喜ばれると思います。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「ありがとう」

 笑顔の侍女達に見送られながら部屋を出ると、すぐ近くの廊下の壁に背中を向けて佇んでいるクラウスの姿が目に入った。
 礼服を身に纏っている彼はいつも以上に輝かしくて、私が霞んでしまいそうだ。

 服装を変えて髪型を整えているだけなのに、こんなにキラキラとした雰囲気を纏えるなんて……嫉妬してしまいそうだわ。
 素が良いって、こういうことを言うのよね。

 ほとんど手を加えていない時でも、クラウスは格好良いのだから。

「……すごく綺麗だ。いつも綺麗だし可愛いと思っているが、今のシエルは油断していたら引き込まれそうなほど魅力的だ」

「ありがとう。クラウスもすごく格好良いわ。
 私が霞んでしまいそうよ」

「それを言うなら、霞は俺の方だろう。シエルに勝てる気がしない」

「いいえ、私の方が霞みだわ」

 クラウスの目に私がどんな風に映っているのか分からないけれど、お互いに嘘は言っていないのよね。
 だから、延々とこのやり取りが続いてしまいそうだわ。

「お二人ともお美しいですから、自らを下げ合うのはおやめください。
 もっと自信を持っても宜しいのです」

「そう言われましても……」

「……執事長がそう言うくらいだ。シエル、もっと自信を持ってほしい」

「褒められているのはクラウスの方よ。もっと自信を持ってほしいわ」

 同じような言葉を返すと、クラウスは一歩下がってから私の頭から足元まで視線を動かす。
 そして一人で頷くと、こんなことを口にした。

「やっぱりシエルの方が綺麗だ」

「そこは勝ち誇ってほしかったわ……」

 私が軽くショックを受けているのに、クラウスはどこか嬉しそうにしている。
 褒められて嫌な気分になることは無いけれど、やっぱり私よりもクラウスの方が輝いていると思うのよね。

 けれど、そんな私達の押し付け合いが無駄だと思える言葉が降りかかってきてしまった。

「お互いを称え合える仲なのは素晴らしい事だと思いますわ。
 シエル様もクラウス様もお美しいのですから、もう少し素直になっても良いと思いますの」

 声の主はフィーリア様。
彼女もパーティーに参加するから、いつも以上に綺麗に見える装いをしている。

平凡どころか貴族の中では貧乏と言うのが相応しい家で育った私とは、格が違いすぎて直視出来ないほどの眩しさに、目を背けたくなってしまう。

「フィーリア様もすごくお綺麗ですわ。普段からお綺麗ですのに、今日は輝かしすぎて直視出来ないほどですわ」

「ふふ、ありがとうございますわ。
 シエル様もとってもお綺麗でしてよ?」

「ありがとうございますわ。
 でも、クラウスには劣っていると思いますの」

「それは方向性が違うから、そう見えているだけだと思いますの。
 パーティー会場に入れば答えが分かりますわ」

「分かりましたわ。
 クラウス、パーティー会場に着くのが楽しみね?」

「そうだな。シエルの方が美しいと分かるのが楽しみだ」

 ここまで埒が明かないだなんて初めてのことだから、少し困惑してしまう。
 けれど、そろそろ会場に向かわないといけない時間だから、クラウスから差し出された手に私の手を重ねて、玄関に向けて足を踏み出した。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。