復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~

水空 葵

文字の大きさ
4 / 44

4. 最後は楽しみたい②

しおりを挟む
 玄関に着くと、エリノアを迎えに来たネイサン様と目が合ってしまった。
 でも、関わらないと約束したから、私は家の馬車がある方へと向かう。

 彼も私を睨みつけるだけで、一言も発さなかった。
 ここで彼を止められなかったらコラーユ家の醜聞になりかねない状況なのに、お父様とお母様が何も動いていないことが心配になる。

 何か策はあるのだと思うけれど、今は気にせずに馬車に乗る。
 その時だった。

「どうして止めますの!? 私はネイサン様とパーティーに参加するのよ!?」
「俺の家との関係を悪くしたく無ければ、エリノア嬢を離せ」
「それは出来ません。コラーユ家の醜聞を作るくらいなら、関係を断つと旦那様がおっしゃっておりました」

 言い争う声が聞こえてきて視線を馬車の窓から玄関の方を見ると、護衛二人がかりでエリノアが捕まえられていた。
 他にも侍女数人とお母様の姿もあり、何が何でもエリノアを外に出すまいとしていると分かる。

 グレージュ伯爵家とは私の婚約破棄を理由に取引を中止するとお父様が決めているから、関係が悪化することは厭わないらしい。

「……普段のお嬢様を見ている身としては、エリノア様もネイサン様も小さな子供に見えてしまいます。身体は十分大人ですけれど」
「否定しないけれど、あまり下手なことを言うと私が家から追い出された後に居場所が無くなると思うわ」
「私はお嬢様がどこに行かれてもついていきますから、お気になさらないでください」
「ありがとう」

 リズがこう言ってくれるのは心強いが、家を追い出されたあとの私はリズにお給料を払えなくなる。
 だから難しいと思ったけれど、気持ちの問題だと思い指摘はしなかった。

 そうしていると私達を乗せた馬車が動き出し、揉めているエリノア達の前を通り過ぎてから門へと向かう。
 ここからパーティー会場のクルヴェット侯爵邸までは二十分ほど。
 どこかの元婚約者と一緒に移動するときは退屈な時間だったのに、今日はリズとの会話が弾んだからか、気が付いた時には馬車がクルヴェット邸の門をくぐっていた。

 けれど馬車寄せからは長い列が出来ていて、降りられるまではまだ時間がかかりそうだ。
 そうしている間にネイサン様の馬車が追いついたようで、窓越しにエリノアと目が合ってしまう。

 一体どんな手を使ったのかしら?
 不思議に思っていると、リズがこんなこと口にする。

「エリノアお嬢様を怪我させることは許されませんから、暴れたることで抜け出したのでしょう。その証拠に、ドレスが乱れています」

 使用人が主の家族を傷付けることは許されない。だから転びそうになった時は侍従が庇うように教育されていて、力で押さえつけることはもってのほか。
 エリノアはその決まりを利用したらしい。

「……本当だわ。悪知恵だけは働くのね」

 そう呟くと、馬車が少しだけ進む。
 ちょうど馬車寄せに入ったようで、扉が開けられた。

「足元、お気を付けください」
「ありがとう」

 先に降りたリズの手を借りて慎重に降りる。
 侍女を連れて入ることは出来ないから、ここからは私一人で行動しないといけない。

「お嬢様、頑張ってください」
「ありがとう。絶対に負けないわ」

 リズに笑顔で言葉を返し、私は会場の玄関に足を向ける。
 会場に入る時には一人でいる理由を尋ねられたけれど、正直に答えたら何かされることもなく中に入ることができた。

 すぐに私に好奇の視線が集まったものの、陰口はほとんど聞こえない。
 少し前に他の令嬢が婚約破棄された時は、俯いているところに暴言まで浴びせられていた。そのことを知っているから、今の状況が有難くても、困惑する。

 堂々としているお陰かもしれないけれど、本当の理由は想像もつかなかった。

 誰とも目を合わせないように入口の方に視線を向けると、ネイサン様とエリノアが案内人によって引き止められている様子が目に入る。
 どうやら、エリノアがデビュタントを済ませていないことを理由に参加を断られているらしい。

「――何度おっしゃられても、決まりですのでお入れすることは出来ません。お引き取り下さい」
「俺に恥をかけと言うのか?」

 どうやらネイサンは感情に訴える作戦に出た様子。
 そんな時、クルヴェット侯爵様が近付いてきているところが目に入る。

 ネイサンもエリノアもまだ気付いていない様子でも、公爵様に声をかけられれば顔を青くして固まった。

「他のお客様が待っておりますので、ネイサン殿だけでお入りください。無理というのなら、命令に変えます」
「分かりました。エリノア、すまないが今日は屋敷に戻って欲しい」
「はい……」

 ネイサンにそう言われ、エリノアは不満そうに頬を膨らませて踵を返す。
 こうしてネイサンは会場入りを果たしたけれど、好奇の目線に耐えられなかったようで、すぐに視線を下に向けて壁際に足を向けた。

 陰口も囁かれていて、すごく居心地が悪そうだ。
 もっとも、私を睨みつける余裕はあるようで、壁際のネイサン様からの視線が身体に突き刺さるように感じてしまう。

 そんな時、今までお話したことの無いご令息と目が合った。

「クラリス嬢。婚約破棄したのでしたら、今日は僕と一緒に踊って頂けませんか?」

 今年で二十歳になったムリージェ侯爵令息のローレン様だ。
 彼はまだ誰とも婚約していなくて、今は婚約者探しの最中だと噂で聞いている。

 私が婚約破棄されたことに気付いて、目を付けられたらしい。
 でも、ローレン様の噂は悪いものばかりしか聞かない上に、彼は私の顔ではなく身体ばかり見ている。だから、このお誘いは断りたかった。

「ごめんなさい。今は一人になりたい気分ですから、またの機会にして頂けませんか?」
「は? 侯爵令息の僕の誘いを断るのか?」

 遠回しに口にしながらさり気なく一歩下がると、痛いくらいの力で腕を掴まれる。

 怖い。逃げたい。
 そう思っても、家格が下の私が抵抗することは許されない。

 今はただ、恐怖心に耐えることしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。 しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。 「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」 身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。 堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。 数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。 妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

私を陥れたつもりのようですが、責任を取らされるのは上司である聖女様ですよ。本当に大丈夫なんですか?

木山楽斗
恋愛
平民であるため、類稀なる魔法の才を持つアルエリアは聖女になれなかった。 しかしその実力は多くの者達に伝わっており、聖女の部下となってからも一目置かれていた。 その事実は、聖女に選ばれた伯爵令嬢エムリーナにとって気に入らないものだった。 彼女は、アルエリアを排除する計画を立てた。王都を守る結界をアルエリアが崩壊させるように仕向けたのだ。 だが、エムリーナは理解していなかった。 部下であるアルエリアの失敗の責任を取るのは、自分自身であるということを。 ある時、アルエリアはエムリーナにそれを指摘した。 それに彼女は、ただただ狼狽えるのだった。 さらにエムリーナの計画は、第二王子ゼルフォンに見抜かれていた。 こうして彼女の歪んだ計画は、打ち砕かれたのである。

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

婚約破棄宣言をされても、涙より先に笑いがこみあげました。

一ノ瀬和葉
恋愛
「――セシリア・エルディアとの婚約を、ここに破棄する!」 煌めくシャンデリアの下で、王太子リオネル殿下が声を張り上げた。 会場にいた貴族たちは一斉に息を呑み、舞踏の音楽さえ止まる。 ……ああ、やっと来たか。 婚約破棄。断罪。悪役令嬢への審判。 ここで私は泣き崩れ、殿下に縋りつき、噂通りの醜態をさらす―― ……はずだったのだろう。周囲の期待としては。 だが、残念。 私の胸に込みあげてきたのは、涙ではなく、笑いだった。 (だって……ようやく自由になれるんですもの) その瞬間の私の顔を、誰も「悪役令嬢」とは呼べなかったはずだ。 なろう、カクヨム様でも投稿しています。 なろう日間20位 25000PV感謝です。 ※ご都合注意。後日談の方を一部修正しました。

【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました! ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

処理中です...