婚約破棄するのでしたら、私が頂いても構いませんよね?

水空 葵

文字の大きさ
2 / 9
本編

しおりを挟む
 この騒ぎを起こしたクラリス・モヤシルヴァ王女が癇癪持ちの男好きで、令嬢達からも令息達からも好かれていないことを考えると、事情を何も知らない人から見ると不思議で不思議で仕方ない。
 もっとも、力加減が苦手なメリッサと握手をしようものなら手が砕け、気に入られてしまってハグをされようものなら……ゴリラ令嬢と言われる原因となった馬鹿力で窒息に追い込まれてしまう。

 そして厄介なのが、彼女は家族のスキンシップが多かったことに影響されて、少しでも心を許すと簡単に手を握ってくるのだから、避けられて当然だった。
 何人もの手が砕かれたことで『メリッサ=ゴリラ令嬢、決して近づくな。近付けば手が砕かれる』という事実が広まり、ゴリラ令嬢という蔑称で呼ばれるようになっている。

 マッスルダイア公爵領では、ゴリラは力持ちを指す誉め言葉だから、言われている本人にとっては誉め言葉だからメリッサにダメージは全く無い。けれども、周囲の人々はそのことに気付かない。
 
「今日はお暇した方が宜しいと思います」
「そんなこと出来ないわ。あのジェイク様を手に入れるチャンスなのよ!?」
「まさか、その濡れたドレスで告白されるおつもりですか?」
「大丈夫よ。今日のドレスは暗い色だから、濡れていても気付かれないわ」

 こんなことを言い残して、騒ぎの場に近付くメリッサ。

 そうすると、騒ぎに興味を持って囲っていた貴族達がメリッサが通ろうとしている場所から蜘蛛の子を散らすように離れていく。
 皆、我先にと必死の形相だ。

「あら、皆さんお優しいのですね。ありがとうございます」

 パニックになっていることなど知らずに配慮と受け取ったメリッサは、輝かしい笑顔を浮かべて小さく頭を下げている。
 そんな彼女の笑顔を見てしまったとある令息は、少し顔を赤らめながらこんなことを呟いた。

「やばい……俺、メリッサ様に惚れたかもしれない。可愛すぎるだろ」
「正気になれ! あれはか弱い令嬢の皮を被ったゴリラだぞ!? 抱き締められたら、強すぎる力で圧死する!」
「いや、でもあの笑顔は捨てがたい」
「おい!」

 すっかり落ちてしまったらしい友人の姿を見て、一緒に居た令息が拳を降らせる。

「痛ってぇ……。殴ることないだろ!?」
「お前、死にたいのか? 少しずつメリッサ様に近付いていたぞ?」
「マジで? 凄まじい吸引力だな。助かった、ありがとう」
「ようやく目を覚ましたか」
「ああ、お蔭様で痛いけどな。後で治癒魔法をかけてもらうよ」
「ん? 治癒魔法の使い手って、王妃様が王都に居ない今はメリッサ様しか居なかったような……」
「王妃様が戻ってくるまで待つ!」

 ゴリラ令嬢は治癒魔法が使える貴重な人。これも社交界では有名なお話だ。
 ちなみに、治癒魔法が使える人は合計で五人いるが、王妃とメリッサ以外は幼くて表舞台にはまだ出てきていない。

 現状で頼れる人はメリッサしかいない。そんな悲しい現実が令息達を襲った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...