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第三章 樹海攻略 建国編

18 信頼の結末

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「ジン様、奴らが村に近づいているようです。どういたしますか?」

 サスケが仲間からの連絡を僕に伝えてくれる。
 
 しばらく前からサスケにはエデッサの領主アラスターの動きを探ってもらっていた。

 アラスターがエデッサの属する国家ネアポレスの王へ手紙を送ったことから、サスケは一国の王にまで調査の手を伸ばしていた。

 それで分かったのは、どうやらネアポリスという国は他国の植民地らしいとか、王は何やら暗い野望を持ってるらしいとか色々だ。

 情報は非常に役立つもので、相手の目的や状況なんかをかなり把握できた。

 それは良いんだけど気になることが一つ。サスケ達の調査能力だ。

 実は国王だけじゃなくファンタズム教とかいう宗教の司祭とか、ネアポレス国軍の将軍なんかのことも調べて逐一伝えてくる。それは今も継続中だ。

 情報というのは名前・年齢・性別といった基本的なものから、能力・趣味・嗜好などかなりプライベートなものにまで及んでいる。

 能力高すぎぃ。

 いや、もしかしたらネアポレス側のセキュリティがガバガバなだけかも知れない。そうであって欲しい。でなければ僕自身も何を見られてるか分からん……。


 それは良いとして、どうしたもんかなこの状況。

 前に樹海を調査していた冒険者パーティーと領主アラスター、それにネアポレスの国軍が村に近づいている。奴らの目的はリッチの研究を持ち帰ることだ。

 なのに、ネアポレスの国軍は僕から研究所の鍵を奪うだけでなく仲間達にも危害を加えるつもりらしい。

 こちらに気づかず帰ってくれればと思って様子を見てたけど、かなり甘かったようだ。まさか罪もない人族が住む村をいきなり襲おうとするなんて信じられない。

 やばい奴らって本当にいるんだな。

 知らなかったわけじゃない。全く同じじゃないけど前世にもいたしね、そういう輩。ニュースとかで見た気がする。

 だから、こうして現実になるまで信じられなかったっていうのが正直なところだ。

 でも方針はもう決めてある。

「この村に手を出す奴は誰だろうと許さない。やられる前にやる。打って出よう」
「はっ。そうおっしゃると思っておりました」
「やっと戦えるのですね。すでに戦闘の準備は出来ていますわ!」
「えっ、もう?」

 サスケとデメテルが強く頷く。

「敵の人数は100名弱なのでこちらも種族混合で100名の戦士を揃えております。出陣のご命令を」

 二人の背後にはいつの間にか全種族の精鋭達が勢揃いしていた。青竜ブルードラゴンもぷかぷか空を飛んでいる。どうやら付いてくるつもりらしい。

「じゃあ、出陣!」
「「うおおぉぉお!!!!!」」

 仲間の声が、地面を揺らすほどの轟音となって響き渡る。

 特に小鬼ゴブリン達を初めとする最近配下になったメンバーの声が大きい。やる気に満ち溢れているようだ。

 僕を先頭に敵を目指して進む。案内は上鼠人ハイウェアラットのハンゾウだ。ハンゾウはアラスターの調査を担当していたが、今は彼を追ってこの樹海に戻ってきている。

「ジン様、敵軍はウジ虫の集まりですが、隊長は銀バエ程度の力を持っています。どうぞお気をつけ下さい!」

 そう言ってハンゾウはニッと笑う。サスケはクールな雰囲気があるが、ハンゾウの方は逆で体育会系の気合いが入った雰囲気がある。

「へ、へぇ? 気をつけるよ」

 僕の返事に一礼するとハンゾウは再び僕達を先導する。

 にしてもウジ虫に銀バエってどゆこと!?

 ウジ虫が成長するとハエになるわけで、銀バエの方が強いってことだよな? どっちもどっちな気がしてならないが……。

「接敵します!」

 ハンゾウの言葉で前方を眺めると、目をギラつかせたごろつきの集団がこちらに向かってくるのが見えた。そして、一際目立つ鎧を着て傲慢そうな笑みを浮かべる男がその先頭を歩いている。

「あん? なんだお前ら?」

 僕の近くまで来ると、先頭を歩いていた男、たしかジャックが僕に向かって話しかける。

「お前達が襲おうとしている村の者だ」
「なに? ぶははっ、俺達に気づいて逃げないとはもしかして命乞いにでも来たのか?」

 傲慢な態度を崩さずジャックが言う。周りの兵士はニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。

「まさか。それよりお前、なんでこんなことするんだ?」
「ぶははははっ! どいつもこいつも弱ぇ奴は同じ質問をしやがるなぁ? で、そんな奴に俺は決まってこう答える。面白れぇからだよ」
「お、面白いから?」
「ああそうだ。ぶん殴ったりぶった斬ったりすると、雑魚はギャアギャア騒いで面白れぇだろ? あとはそうだな、金になるからってとこか」
「……」
「ぶははっ! びびって声も出ねぇか! ほぉ、後ろにいるのは馬人ウェアホースかぁ。それに鼠人ウェアラット? まだ生きてたのか。おまけに青竜ブルードラゴンたぁ、珍品の見本市かここは? 金になるぜこりゃあ!」
「まっ、待ってくれ!」

 ごろつき集団の隙間を潜るように通り現れたのはアラスターだ。

「君は……目は赤いが声がそっくりだ。もしかしてジンなのか?」
「アラスター卿か。この前は偽装して悪かったが、そのジンだ。貴方も僕達を襲いに?」
「やはり……。ち、違う、違うんだ! ジャック殿! この村を襲うのは止めてくれないか!? ジンは敵ではない!」
「なにぃ? こいつアンデッドだろ? 魔族は敵だ。お前ら知り合いなのか?」
「ああ! ジンはリッチを倒した冒険者なんだ! 敵でないことは私が保証する!」
「知らねぇよ。俺様に指図するんじゃねぇ」

 バキッ!

 ジャックが拳を振り上げアラスターを殴り飛ばす。5メートルほど吹き飛ばされたところで木に激突し地面に倒れた。

「アラスター卿!」

 ぐったりとするアラスターに冒険者パーティーが急いで駆け寄る。そしてすぐに回復魔法をかけ始めた。

「ぶははっ、お前は魔族と手を組んだ裏切り者。死刑は確定だなぁ。もう面倒くせぇ話は終わりだぁ! お前ら、やるぞぉ! 獣人とドラゴンは捕らえて後は皆殺しだぁ!」
「「「へいっ!!!」」」

 嬉々として武器を構え兵士達が迫ってくる。

「みんな、敵の隊長は僕がやる。他の奴らを頼むよ」
「「「はっ!!!」」」

 こちらの戦士も威勢よく走り出した。
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