嫁取物語~婚活20連敗中の俺。竜殺しや救国の英雄なんて称号はいらないから可愛いお嫁さんが欲しい~

月夜乃 古狸

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第29話 レスタールの都

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 帝国北西部に広がる広大な森を領地に持つレスタール辺境伯領。
 辺境のド田舎というのに嘘は無いのだが、それでも領地全体で15000人以上暮らしているし、街の周囲には20くらいの集落が点在している。
 まぁ、4000万人以上の人口を誇る帝国からすれば小領なのは確かだけど。面積そのものは上から数えた方が早いくらいのよ。

 その我が愛すべきレスタールの街は地方にありがちな普通の街とは違い、途中にあった野営地のように周囲を堅牢な城壁に囲まれた城砦都市のような外観をしている。
 壁の外側には堀があり、近くを流れる河から引き込まれた水が流れている。ちなみに街の中も縦横に水路が通っていて、この水も同じ河から引かれている。
 水が豊富なのもこの領地の良いところだな。うん、これもアピールしておこう。

 馬車が城壁の門の前に到着すると、特に誰何されることもなく開かれたのでそのまま中に入っていく。
「これは、思っていたより、あっ、ごめんなさい」
 街に近づいたときから景色を見せるために開け放っていた窓の向こうを見てサリーフェ嬢から思わず本音がこぼれて苦笑いをする。
 きっと、ものすごい寂れた田舎町を想像してたんだろうなぁ。そう思うのは無理ないので気にしないよ。

「結構賑やかなんだね。フォーが帰ってきたから、ってわけじゃないみたいだ」
 うちの領民がそんな殊勝な態度なわけがない。
 この町だけで1万人以上が暮らしているし、基本的に騒がしい連中が多いから街の通りはいつだって賑やかだ。
 奥側にある領主の館まで続く大通りの両側には商店が建ち並び、雑貨や果物、穀物などが売られているし、塩などの調味料や装飾品を扱う店もある。無いのは肉を売る店くらいなものだ。

「肉類は売られていないのですか?」
 意外そうなサリーフェ嬢の言葉に頷く。
「基本的にレスタールの領民はほとんど全員狩人なので、西側の門近くにある広場で自分の狩った獲物の肉と他の人のものを交換するんです」
 狩人たちは獲物を狩るとその場で簡単に血抜きと解体をしてから街に戻ってくる。
 その時に使うのが西側の門で、そのすぐ内側が肉の市場になっている。
 人によって得意な獲物が違うし、同じ種類の肉ばかりでは飽きてしまうということで、そこで肉と肉を交換したり、内臓や食べない部位をリグムの飼育そしている者に提供したりするのだ。
 ついでに街に来る商人も毛皮や薬になる部位、鉱物や薬草などの仕入れをするために集まっている。

「へぇ~、それは一度見てみたいね」
「そうですね。どのように取り引きをしているのでしょうか」
「あ~、まぁ、また今度ね」
 俺の説明を聞いて興味深そうにそういうリスとサリーフェ嬢に曖昧に返しておく。
 あんまりご令嬢に見せるような場所じゃないんだよな。
 治安が悪いってわけじゃ無く、単に戻ってくる狩人は返り血で汚れてることが多いし、持って帰ってくる獲物の見た目はハッキリ言ってグロいから。
 しばらく滞在して、耐性が付いたのを見計らってから案内することにしよう。

 ゆっくりとした速度で進む馬車の中で、サリーフェ嬢の緊張も随分解れたらしく、物珍しげに街並みを見ながらリスと何やら笑い合ったり、ときどき俺に質問したりする。
 特に、辺境の街の割に結構な広さがあることや、一つ一つの家が大きいことが意外だったらしい。
 最初は城壁の内側に農場を作ろうとしてかなり広い面積を覆ったものの、土が適していなくて畑はすぐに潰され、身体が大きく子沢山の領民たちが大きな家を建てたりしてこうなったと説明すると笑ってくれた。

 門をくぐって四半刻。
 ようやく通りの突き当たりにある領主邸に到着。
 といっても見た目は他の家よりも少し大きいだけで、城でも豪邸でもないごく普通の館だ。庭だけは広いけど。
「んじゃ、ありがとな」
「いえいえ、買い出しのついでですから。帝都に戻るときは別の奴に順番譲ることになると思いますけど」
 領主の跡取りの迎えをついでとか言うなよ。わかってたけどさぁ。

 家の前で馬車を降り、迎えに来てくれた連中と別れる。
 代わりに荷物を載せてくれていた公爵家の馬車も馬を外し、レスタール兵のひとりが素手で引っ張って役所に向かって移動していった。
 多分役所でお土産を分配することになっているんだろう。
 公爵家の騎士達は、重たい馬車を生身の人間ひとりで引っ張っていったことに驚いていたが。

「いろいろと想像とは違うね。やっぱり噂はアテにならない」
 とっても気になるリスの呟きだけど、それよりもサリーフェ嬢の反応のほうが気になる。
 辺境伯なんて帝国でも上位の爵位なのに無骨すぎる街に庶民と大差ない家。
 ……幻滅されてたりしないかな?
 心配になって様子を窺っていると、リスが呆れたように耳打ちしてきた。
「地方の男爵家なんて庶民とほとんど生活は変わらないよ。帝都では何とか見栄を張ってるけど、領地では質素な暮らしをしてるのが普通さ」
 そういうものなのか?
 まぁ、サリーフェ嬢やボッシュ前男爵の表情を見ても特に表情は変わってないからリスの言うことが正しいのだろう。

「と、とにかく、部屋だけは余裕があるからゆっくり過ごしてください」
 そう言って門扉を開けてサリーフェ嬢たちを中に誘う。
 公爵家から来ている人たちは騎士と侍女ふたりずつ入り、残りは近くの宿に行ってもらうことになっている。さすがに全員は入りきらないからな。
 そんな風に考えながら先に立って建物の方に歩いていくと、あと十数リードで玄関という場所で、不意に左右から人影が飛び出し、そして手に持った剣を振り下ろしてきた。
「っ!? フォー!!」
 リスの悲鳴のような声が響く。
 


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