29 / 57
第29話 レスタールの都
しおりを挟む
帝国北西部に広がる広大な森を領地に持つレスタール辺境伯領。
辺境のド田舎というのに嘘は無いのだが、それでも領地全体で15000人以上暮らしているし、街の周囲には20くらいの集落が点在している。
まぁ、4000万人以上の人口を誇る帝国からすれば小領なのは確かだけど。面積そのものは上から数えた方が早いくらいのよ。
その我が愛すべきレスタールの街は地方にありがちな普通の街とは違い、途中にあった野営地のように周囲を堅牢な城壁に囲まれた城砦都市のような外観をしている。
壁の外側には堀があり、近くを流れる河から引き込まれた水が流れている。ちなみに街の中も縦横に水路が通っていて、この水も同じ河から引かれている。
水が豊富なのもこの領地の良いところだな。うん、これもアピールしておこう。
馬車が城壁の門の前に到着すると、特に誰何されることもなく開かれたのでそのまま中に入っていく。
「これは、思っていたより、あっ、ごめんなさい」
街に近づいたときから景色を見せるために開け放っていた窓の向こうを見てサリーフェ嬢から思わず本音がこぼれて苦笑いをする。
きっと、ものすごい寂れた田舎町を想像してたんだろうなぁ。そう思うのは無理ないので気にしないよ。
「結構賑やかなんだね。フォーが帰ってきたから、ってわけじゃないみたいだ」
うちの領民がそんな殊勝な態度なわけがない。
この町だけで1万人以上が暮らしているし、基本的に騒がしい連中が多いから街の通りはいつだって賑やかだ。
奥側にある領主の館まで続く大通りの両側には商店が建ち並び、雑貨や果物、穀物などが売られているし、塩などの調味料や装飾品を扱う店もある。無いのは肉を売る店くらいなものだ。
「肉類は売られていないのですか?」
意外そうなサリーフェ嬢の言葉に頷く。
「基本的にレスタールの領民はほとんど全員狩人なので、西側の門近くにある広場で自分の狩った獲物の肉と他の人のものを交換するんです」
狩人たちは獲物を狩るとその場で簡単に血抜きと解体をしてから街に戻ってくる。
その時に使うのが西側の門で、そのすぐ内側が肉の市場になっている。
人によって得意な獲物が違うし、同じ種類の肉ばかりでは飽きてしまうということで、そこで肉と肉を交換したり、内臓や食べない部位をリグムの飼育そしている者に提供したりするのだ。
ついでに街に来る商人も毛皮や薬になる部位、鉱物や薬草などの仕入れをするために集まっている。
「へぇ~、それは一度見てみたいね」
「そうですね。どのように取り引きをしているのでしょうか」
「あ~、まぁ、また今度ね」
俺の説明を聞いて興味深そうにそういうリスとサリーフェ嬢に曖昧に返しておく。
あんまりご令嬢に見せるような場所じゃないんだよな。
治安が悪いってわけじゃ無く、単に戻ってくる狩人は返り血で汚れてることが多いし、持って帰ってくる獲物の見た目はハッキリ言ってグロいから。
しばらく滞在して、耐性が付いたのを見計らってから案内することにしよう。
ゆっくりとした速度で進む馬車の中で、サリーフェ嬢の緊張も随分解れたらしく、物珍しげに街並みを見ながらリスと何やら笑い合ったり、ときどき俺に質問したりする。
特に、辺境の街の割に結構な広さがあることや、一つ一つの家が大きいことが意外だったらしい。
最初は城壁の内側に農場を作ろうとしてかなり広い面積を覆ったものの、土が適していなくて畑はすぐに潰され、身体が大きく子沢山の領民たちが大きな家を建てたりしてこうなったと説明すると笑ってくれた。
門をくぐって四半刻。
ようやく通りの突き当たりにある領主邸に到着。
といっても見た目は他の家よりも少し大きいだけで、城でも豪邸でもないごく普通の館だ。庭だけは広いけど。
「んじゃ、ありがとな」
「いえいえ、買い出しのついでですから。帝都に戻るときは別の奴に順番譲ることになると思いますけど」
領主の跡取りの迎えをついでとか言うなよ。わかってたけどさぁ。
家の前で馬車を降り、迎えに来てくれた連中と別れる。
代わりに荷物を載せてくれていた公爵家の馬車も馬を外し、レスタール兵のひとりが素手で引っ張って役所に向かって移動していった。
多分役所でお土産を分配することになっているんだろう。
公爵家の騎士達は、重たい馬車を生身の人間ひとりで引っ張っていったことに驚いていたが。
「いろいろと想像とは違うね。やっぱり噂はアテにならない」
とっても気になるリスの呟きだけど、それよりもサリーフェ嬢の反応のほうが気になる。
辺境伯なんて帝国でも上位の爵位なのに無骨すぎる街に庶民と大差ない家。
……幻滅されてたりしないかな?
心配になって様子を窺っていると、リスが呆れたように耳打ちしてきた。
「地方の男爵家なんて庶民とほとんど生活は変わらないよ。帝都では何とか見栄を張ってるけど、領地では質素な暮らしをしてるのが普通さ」
そういうものなのか?
まぁ、サリーフェ嬢やボッシュ前男爵の表情を見ても特に表情は変わってないからリスの言うことが正しいのだろう。
「と、とにかく、部屋だけは余裕があるからゆっくり過ごしてください」
そう言って門扉を開けてサリーフェ嬢たちを中に誘う。
公爵家から来ている人たちは騎士と侍女ふたりずつ入り、残りは近くの宿に行ってもらうことになっている。さすがに全員は入りきらないからな。
そんな風に考えながら先に立って建物の方に歩いていくと、あと十数リードで玄関という場所で、不意に左右から人影が飛び出し、そして手に持った剣を振り下ろしてきた。
「っ!? フォー!!」
リスの悲鳴のような声が響く。
辺境のド田舎というのに嘘は無いのだが、それでも領地全体で15000人以上暮らしているし、街の周囲には20くらいの集落が点在している。
まぁ、4000万人以上の人口を誇る帝国からすれば小領なのは確かだけど。面積そのものは上から数えた方が早いくらいのよ。
その我が愛すべきレスタールの街は地方にありがちな普通の街とは違い、途中にあった野営地のように周囲を堅牢な城壁に囲まれた城砦都市のような外観をしている。
壁の外側には堀があり、近くを流れる河から引き込まれた水が流れている。ちなみに街の中も縦横に水路が通っていて、この水も同じ河から引かれている。
水が豊富なのもこの領地の良いところだな。うん、これもアピールしておこう。
馬車が城壁の門の前に到着すると、特に誰何されることもなく開かれたのでそのまま中に入っていく。
「これは、思っていたより、あっ、ごめんなさい」
街に近づいたときから景色を見せるために開け放っていた窓の向こうを見てサリーフェ嬢から思わず本音がこぼれて苦笑いをする。
きっと、ものすごい寂れた田舎町を想像してたんだろうなぁ。そう思うのは無理ないので気にしないよ。
「結構賑やかなんだね。フォーが帰ってきたから、ってわけじゃないみたいだ」
うちの領民がそんな殊勝な態度なわけがない。
この町だけで1万人以上が暮らしているし、基本的に騒がしい連中が多いから街の通りはいつだって賑やかだ。
奥側にある領主の館まで続く大通りの両側には商店が建ち並び、雑貨や果物、穀物などが売られているし、塩などの調味料や装飾品を扱う店もある。無いのは肉を売る店くらいなものだ。
「肉類は売られていないのですか?」
意外そうなサリーフェ嬢の言葉に頷く。
「基本的にレスタールの領民はほとんど全員狩人なので、西側の門近くにある広場で自分の狩った獲物の肉と他の人のものを交換するんです」
狩人たちは獲物を狩るとその場で簡単に血抜きと解体をしてから街に戻ってくる。
その時に使うのが西側の門で、そのすぐ内側が肉の市場になっている。
人によって得意な獲物が違うし、同じ種類の肉ばかりでは飽きてしまうということで、そこで肉と肉を交換したり、内臓や食べない部位をリグムの飼育そしている者に提供したりするのだ。
ついでに街に来る商人も毛皮や薬になる部位、鉱物や薬草などの仕入れをするために集まっている。
「へぇ~、それは一度見てみたいね」
「そうですね。どのように取り引きをしているのでしょうか」
「あ~、まぁ、また今度ね」
俺の説明を聞いて興味深そうにそういうリスとサリーフェ嬢に曖昧に返しておく。
あんまりご令嬢に見せるような場所じゃないんだよな。
治安が悪いってわけじゃ無く、単に戻ってくる狩人は返り血で汚れてることが多いし、持って帰ってくる獲物の見た目はハッキリ言ってグロいから。
しばらく滞在して、耐性が付いたのを見計らってから案内することにしよう。
ゆっくりとした速度で進む馬車の中で、サリーフェ嬢の緊張も随分解れたらしく、物珍しげに街並みを見ながらリスと何やら笑い合ったり、ときどき俺に質問したりする。
特に、辺境の街の割に結構な広さがあることや、一つ一つの家が大きいことが意外だったらしい。
最初は城壁の内側に農場を作ろうとしてかなり広い面積を覆ったものの、土が適していなくて畑はすぐに潰され、身体が大きく子沢山の領民たちが大きな家を建てたりしてこうなったと説明すると笑ってくれた。
門をくぐって四半刻。
ようやく通りの突き当たりにある領主邸に到着。
といっても見た目は他の家よりも少し大きいだけで、城でも豪邸でもないごく普通の館だ。庭だけは広いけど。
「んじゃ、ありがとな」
「いえいえ、買い出しのついでですから。帝都に戻るときは別の奴に順番譲ることになると思いますけど」
領主の跡取りの迎えをついでとか言うなよ。わかってたけどさぁ。
家の前で馬車を降り、迎えに来てくれた連中と別れる。
代わりに荷物を載せてくれていた公爵家の馬車も馬を外し、レスタール兵のひとりが素手で引っ張って役所に向かって移動していった。
多分役所でお土産を分配することになっているんだろう。
公爵家の騎士達は、重たい馬車を生身の人間ひとりで引っ張っていったことに驚いていたが。
「いろいろと想像とは違うね。やっぱり噂はアテにならない」
とっても気になるリスの呟きだけど、それよりもサリーフェ嬢の反応のほうが気になる。
辺境伯なんて帝国でも上位の爵位なのに無骨すぎる街に庶民と大差ない家。
……幻滅されてたりしないかな?
心配になって様子を窺っていると、リスが呆れたように耳打ちしてきた。
「地方の男爵家なんて庶民とほとんど生活は変わらないよ。帝都では何とか見栄を張ってるけど、領地では質素な暮らしをしてるのが普通さ」
そういうものなのか?
まぁ、サリーフェ嬢やボッシュ前男爵の表情を見ても特に表情は変わってないからリスの言うことが正しいのだろう。
「と、とにかく、部屋だけは余裕があるからゆっくり過ごしてください」
そう言って門扉を開けてサリーフェ嬢たちを中に誘う。
公爵家から来ている人たちは騎士と侍女ふたりずつ入り、残りは近くの宿に行ってもらうことになっている。さすがに全員は入りきらないからな。
そんな風に考えながら先に立って建物の方に歩いていくと、あと十数リードで玄関という場所で、不意に左右から人影が飛び出し、そして手に持った剣を振り下ろしてきた。
「っ!? フォー!!」
リスの悲鳴のような声が響く。
79
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる