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キスを集めるキミと スキを編むボクと

3 「試してみよう」それは俺にとって魔法の言葉だった ① @平野 日奈稀

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 俺がまだ自分の事を『僕』って言っていた頃、身体は小さくいつもひとりで居た。小さいってだけで変に見下されたり、いじめではなかったけれど弱い者として扱われる事が心底煩わしかった。誰かと無理に関わって、勝手なイメージに付き合わされたくはなかったのだ。

 現実は固定概念に囚われたつまらない退屈な世界だった。だから益々物語虚構の世界にハマっていったし、本にあるような異世界転生でも転移でも、とにかくここじゃないどこかへ行きたくてしょうがなかった。

 幼かったとは言え無理な話だとは流石に分かってはいたけれど、想像の中でなら俺は勇者にも英雄にもなれたのだ。どんなに実際現実は小さな身体のちっぽけなであっても。
 だったらそちら・・・を望むのも当然だろう?

 誰かとくだらない話をするよりも、色んな冒険のえがかれた本を読んでいる方がマシだった。そんなだから友だちなんかひとりも居なかった。というか、居なくてもよかった。これは強がりでも何でもない本心だ。
 だけど気づくんだ。
 この世界には音も匂いも、温度もないのだと。



 そんな無限に広がる閉ざされた世界・・・・・・・・・・・・・を直が変えてくれたんだ。

 直が俺に声をかけてきた時も最初はまた来たのかくらいにしか思わなくて、他と同じように適当にあしらっていた。どうせすぐこいつも――と。
 平々凡々の明るいだけのどこにでも居るようなやつ。

 なのに直は諦めなかった。本当にしつこいくらい声をかけ続けてくれた。対等の存在として、ちびで痩せっぽちの俺に――決して上からではなく、ふたりでなら何だってできるよって。
 その時俺はもしかしたらこれ・・を待っていたんじゃないかって思った。どこかではないここでの誰かと一緒に冒険する事を。

 だけど俺はなかなか素直になる事ができなくて、少なくはない何度目かの直の誘いに「異世界みたいな所だったら行ってもいいよ」って答えたんだ。

 そして「やった! 冒険に行こう!」って俺の手を取って連れて行かれた一面の花畑。勿論そこは異世界なんかじゃなかったけれど、咲いている花で器用に冠を作って俺の頭に載せて、「ほら、お花の国のお姫さまだよ」って笑ったんだ。

 その時の俺は、こいつもやっぱり俺の事を弱い者として扱うのか、とは思わずに俺はやっと誰かを見つけられたのだと思った。
 正確には見つけて貰えた・・・のかもしれないけど。

 そう思うとあんなに嫌っていた『お姫さま』というJobも別にいいかって思えた。直と一緒なら何だっていい。
 そう思って微笑むと直もさっき以上に嬉しそうに笑っていて、胸がドキドキと騒ぎだした。それは今までに読んだどんな冒険物語も敵わない。

 ひとりだけの冒険虚構とは違うふたりでの冒険事実はやっぱりすごいんだ!

 と、その時の俺はこの胸の高鳴りが『冒険』によるものだと思い込んでいた。

 多分それが一番最初に俺が直の中に『スキ』を見つけた瞬間だったのに。






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