【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ

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運命さんこんにちは、さようなら

1ー③

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 咲は物心着くころにはすでに親もなくひとりだった。施設で育ち、割と早い時期に自立して安アパートに住み、働いていた。嫌な目にあうこともたくさんあったし、バカにされることも多かった。それでも笑って、楽しいことだけ考えてきた。咲がマイペースなのは元々の気性もあるかもしれないが、そうでないと生きていけなかったからだ。

 咲は現在二十歳ハタチで、親のいないΩにありがちな春を売る仕事は奇跡的にしたことがなかった。容姿も可愛い方で需要は充分にあったし、もしもそうしていれば今よりももっと楽な生活を送れていたに違いなかった。だが咲はそれを仕事にするのは自分的に違うと思っていた。そういう行為は好きな相手、番とするものであると思っていたからだ。だからといってそれを仕事にしている他のΩを蔑む気はなかった。自分は自分、他人は他人、それぞれに理由や考えが存在すると分かっていたし、それを尊重したいと思っていた。

 咲はコンビニや花屋、食堂などで働いていたが、そのどれもすぐに辞めることになった。咲にちょっかいをかけようとした客とトラブルになり、クビになることがほとんどだったのだ。今回もクビになったところをたまたま居合わせた食堂の常連だった工務店の社長に拾ってもらった。
 社長の会社は個人宅や施設などの建物の建築を仕事としていて、咲を事務職にと思っていたが枠がなかった為、現場に出て重い角材や鉄骨などを運んだりと経験がなくてもできる力仕事をすることになった。社長は完全に善意で咲を自分のところへ連れてきたわけだが、現場で働く大工たちと顔合わせをしながらあまりの体格差に、男とは言え華奢でΩである咲には少しばかり酷なことをしたかもしれないと思った。
 現場で働く大工たちは全員が屈強な肉体を持つムキムキアニキたちだ。ひょろりとした咲はすぐに根を上げると思い、現場リーダーはわざと重い物を運ばせたりもした。それがお互いの為だと思ったからだ。それは現場で働くアニキたちの総意でもあった。合わない仕事をダラダラ続けても事故や怪我の元だ。
 だが咲はどんなにつらくても苦しくても弱音を吐くことはなかった。一度に沢山持てなければ何度も往復したりして、足らない仕事量でもできる限りのことをした。それは何日、何週間経っても変わらない。そうしているうちに、とにかく明るくへこたれない咲の姿にアニキ・・・たちは考えを改めた。
 咲は認められ、それからは本当の弟のように可愛がられた。
 どんなに頑張ってもアニキたちとは仕事量に圧倒的な差がある分もらえる給料はそれなりだったが、仕事には厳しいアニキたちも仕事が終われば咲にベタ甘だった。なにかと理由をつけて咲が負担に思わない程度の食べ物をくれた。「最近太っちまってダイエットしろって嫁がよー」だとか「おめぇもっと肉つけろ。でないといつまで経ってもひよこのままだぞ」などと言いながら。
 そのお陰で咲は安月給でも充分普通の生活が送れた。

 アニキたちは全員がβだがへたなαより力も強く、頼りになった。以前のようなトラブルはアニキたちが目を光らせてくれているお陰で皆無だったし、一緒に働くアニキたち自身もβだったこともあるが、咲の性格や振る舞いからも性的なものを感じるのは難しく、決して性の対象として見られることはなかった。咲にとってどんなにきつくても理想的な職場だったのだ。それに慣れてしまった咲はいまいち危機感が薄く、マイペースでいられたのかもしれない。






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