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運命がたり
1 知らせがたり
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晶馬と八生は無事番婚を成し、実家を出て新居にふたりで住むようになった。外には交代で色々なことを心得たメイン部員を中心にたくさんの警備員が常時配置されているが、プライベート空間はしっかりと守られていた。仕事の方も父親から任されることが増え、忙しくはあるが充実していた。『保険』から解放された燐は晶馬の秘書として働いており、晶馬の不足を補い、随分と助けられていた。晶馬は改めて燐の優秀さに舌を巻いた。だが燐は仕事から離れると、人が変わったように咲にデレデレで面白いことになっていて、燐には驚かされることばかりだった。それに気がかりだったもうひとりの『保険』だった玲斗も、番ではないが航という生涯のパートナーを得たという連絡を受け、八生は泣いて喜んだ。
最初に玲斗を『保険』から解放したいと八生から相談を受けたとき、晶馬はすぐに頷くことはできなかった。いくら八生の気持ちが晶馬にあるからといって『運命』と出会ってしまえば奪われてしまうかもしれないからだ。Ωである八生ではろくに抵抗もできないだろう。それでもと言い募る八生の気持ちを疑う気はなかったが、単純に疑問が湧いた。『保険』に関しては人道的とはいえないが考えられないくらいの大金も動いていて、双方納得済みなことだったからだ。だが八生から玲斗の話を聞き、晶馬は唸った。燐と咲が幸せそうにしている為、大事なことを忘れてしまっていたのだ。燐と咲の場合はたまたま相性がよかっただけの話だ。もしも『運命』がとんでもないクズだったとしても今と同じように八生とふたり、笑っていられただろうか。
『保険』を失って、八生に少しも不安がないということはないだろう。αである晶馬ですら不安で仕方がなかったのだ。最初に咲に過剰に反応してしまったのも曽祖父(先々代)の洗脳じみた煽りによる不安の裏返しだった。晶馬の曽祖父の番が『運命』だったことから、説得力があったのだ。
それでも自分たちの幸せの為に他人を辛い目に合わせたくないとする八生の優しさと心の強さに、晶馬は改めて惚れ直した。結果八生には警備員を増やし、見た目はおしゃれな高性能のネックガードを填めることを条件に玲斗は解放されたのだ。
みんながそれぞれ幸せでいることに晶馬はホッとして、八生とふたり心穏やかな日々を送っていた。そんな中、深夜とも早朝ともいえる時間に電話が鳴った。ふたりの曽祖父が亡くなったというのだ。電話をとったのは八生で、知らせを聞いた晶馬は信じられない思いだった。曽祖父とはつい五日ほど前に会ったばかりで、元気そうにしていたからだ。それは八生の曽祖父も同じで、そろそろ百歳を超えるというのに肉を食べ、曽祖父たちは杖や車椅子のお世話になることなく、連れ立って毎日のように散歩するくらい元気だった。
「──ひいおじい様たち、同時に旅立たれたそうです……」
八生のその言葉に、そこまで愛し合っていたのならなぜ子孫に願いを託すのではなく自分たちで結婚するなり一緒に住むなりしなかったのかと思った。もちろん曽祖父が曽祖母のことを愛していたことは晶馬も知っていた。だが曽祖母が亡くなってもう二十年以上が経つのだから、文句を言う者はいないだろう。八生の方も曽祖父の番はもう三十年も前に亡くなっている。晶馬は強い洗脳状態に似た状態から解放された後そんなことを考え、こないだ会ったときはつい訊き忘れてしまったので、次に会ったときにでも訊いてみようと思っていたのだ。だがそれももう叶わなくなってしまった。
晶馬と八生は急いで身支度をして実家へと急いだ。両家で話し合って、最期くらいは一緒にということで鷹取家でふたりをおくることにしたのだそうだ。
最初に玲斗を『保険』から解放したいと八生から相談を受けたとき、晶馬はすぐに頷くことはできなかった。いくら八生の気持ちが晶馬にあるからといって『運命』と出会ってしまえば奪われてしまうかもしれないからだ。Ωである八生ではろくに抵抗もできないだろう。それでもと言い募る八生の気持ちを疑う気はなかったが、単純に疑問が湧いた。『保険』に関しては人道的とはいえないが考えられないくらいの大金も動いていて、双方納得済みなことだったからだ。だが八生から玲斗の話を聞き、晶馬は唸った。燐と咲が幸せそうにしている為、大事なことを忘れてしまっていたのだ。燐と咲の場合はたまたま相性がよかっただけの話だ。もしも『運命』がとんでもないクズだったとしても今と同じように八生とふたり、笑っていられただろうか。
『保険』を失って、八生に少しも不安がないということはないだろう。αである晶馬ですら不安で仕方がなかったのだ。最初に咲に過剰に反応してしまったのも曽祖父(先々代)の洗脳じみた煽りによる不安の裏返しだった。晶馬の曽祖父の番が『運命』だったことから、説得力があったのだ。
それでも自分たちの幸せの為に他人を辛い目に合わせたくないとする八生の優しさと心の強さに、晶馬は改めて惚れ直した。結果八生には警備員を増やし、見た目はおしゃれな高性能のネックガードを填めることを条件に玲斗は解放されたのだ。
みんながそれぞれ幸せでいることに晶馬はホッとして、八生とふたり心穏やかな日々を送っていた。そんな中、深夜とも早朝ともいえる時間に電話が鳴った。ふたりの曽祖父が亡くなったというのだ。電話をとったのは八生で、知らせを聞いた晶馬は信じられない思いだった。曽祖父とはつい五日ほど前に会ったばかりで、元気そうにしていたからだ。それは八生の曽祖父も同じで、そろそろ百歳を超えるというのに肉を食べ、曽祖父たちは杖や車椅子のお世話になることなく、連れ立って毎日のように散歩するくらい元気だった。
「──ひいおじい様たち、同時に旅立たれたそうです……」
八生のその言葉に、そこまで愛し合っていたのならなぜ子孫に願いを託すのではなく自分たちで結婚するなり一緒に住むなりしなかったのかと思った。もちろん曽祖父が曽祖母のことを愛していたことは晶馬も知っていた。だが曽祖母が亡くなってもう二十年以上が経つのだから、文句を言う者はいないだろう。八生の方も曽祖父の番はもう三十年も前に亡くなっている。晶馬は強い洗脳状態に似た状態から解放された後そんなことを考え、こないだ会ったときはつい訊き忘れてしまったので、次に会ったときにでも訊いてみようと思っていたのだ。だがそれももう叶わなくなってしまった。
晶馬と八生は急いで身支度をして実家へと急いだ。両家で話し合って、最期くらいは一緒にということで鷹取家でふたりをおくることにしたのだそうだ。
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