俺のかわいい婚約者さま リメイク版

ハリネズミ

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俺のかわいい幼馴染さま

(3)

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この場に味方なんてひとりもいない。取り囲むようにして立つ凛と同じΩたちでさえ、いい気味だという風ににやにやと怯える凛を見ていた。
心が折れそうになった時、凛の脳裏に浮かぶものがあった。

『お客さまに喜んでもらえるとええなぁ』そう言って笑う道隆の姿だ。

凛は密かに道隆に憧れていた。
まだ凛が他の部署に居た頃、夏の暑い盛りに屋外での手伝いに借り出された事があった。屋外と言ってもテントで日陰を作り足元には扇風機もある。誘導されたお客様に商品サンプルを手渡すだけの簡単な仕事なのだがクーラーの効いた室内ではないので、誰もが嫌がる仕事だった。
凛も自分がΩだからこんな仕事が回って来たのかと少しだけ胸をもやつかせていた。
そこに道隆も居て、道隆の方は道行く人に声かけをしてテントに誘導する係だった。道隆くらいエリートなαがこんな炎天下の中そんな仕事をやるなんて、何かの間違いかと思った。どちらかといえば自分の方がやるべき仕事なのでは?とも。だから道隆に言ったのだ。「代わりましょうか?」と。
その答えが、お客様にお渡しするサンプルを手に、「お客様に喜んでもらえるとええなぁ」だった。
その時の汗だくになりながらも嘘偽りのない笑顔に心底驚かされた。
上ばかり見る事に忙しい他のαとは違いこの人はαだとかΩだとか関係なく、ただ働く事が好きなんだ。どんな事にもプライドを持って仕事をしているんだ。自分もこうなれるかな?こうなりたい。そう思った。
それから凛は、今までの「どうせΩだから」といういじけた考えは捨て、どんな仕事も真摯に向き合うようになった。
そして今回運よく道隆のアシスタントになる事ができたのだが、緊張からうまく笑顔は作れないし気の利いた事も言えやしない。目の前のΩたちからの嫌がらせも上手に対処する事もできず失敗も続き、自己嫌悪の毎日だった。それでも道隆と一緒に仕事ができて本当に嬉しかった。何があっても頑張れると思っていた。
――――なのに……。

もし、このまま目の前の男と番になってしまったら自分はどうなってしまうのか。
最悪仕事を続けられたとしても道隆からはどんな風に見られるのか……、その事を思いさっきよりもずっとずっと恐怖を感じていた。
誰かに無理矢理番にされてしまう事より道隆にどう思われるかという事の方が問題で、怖かったのだ。

ガタガタと震えだす凛。指先は冷たく感覚がない。
それを見て嗤うΩたちと園田。
園田の手が凛に伸びそうになり、もう終わりだと感じた。どんなに泣き叫び抵抗したところで項を噛まれてしまえば死ぬまで外れない鎖で繋がれてしまうのだ。

凛は怖くて怖くてぎゅっと目を瞑り、小さく「たす、けて……っ」と言った。
最後の足掻きだった。


「やっと助けてて言うてくれたな」

聴こえるはずのない声に驚き恐る恐る目を開けると、凛の前に立つ大きな背中が見えた。そして、威圧のフェロモンが辺りに広がる。
怯えるΩたちと園田。園田はαであっても自分より上位の威圧がつらいのかひどく顔色が悪い。さっきまでの勢いはどこへ行ったのか。
凛もその場に蹲ってカタカタと震えながら黙って様子を見ていた。威圧は相手が誰であれ遺伝子の問題なので怖くて震えてしまうが、道隆がこの場に居る事で少しだけ安心できたのだ。
道隆はどんな事があっても自分にひどい事はしない。そう思えたから。

「話は聞かせてもらってんけど、お前ら全員クビ。ほんまにしょうもない。そんなヤツうちにはいらんわ。とっとと出て行け」

野生動物の頂点であるライオンが吠えるような、そんな威厳と威圧だった。
Ωたちは震える足で我先にと逃げて行った。園田も何か言いたそうにしていたが、道隆の本気に敵うはずもなく尻尾を巻いて逃げて行った。

それを確認して威圧を緩めたのか凛は身体が段々楽になるのを感じた。
そして温かく大きな何かに包み込まれた。優しく守られている感覚。初めての感覚。
恐怖や怒り、諦めなどの様々な感情がその温もりで溶けていくようだった。
その温もりは道隆によってもたらされたもので、道隆が凛の事を優しく抱きしめていたのだ。その事に気づき、慌てる凛。

「え……?え、あ、あの??」

何で道隆が自分の事を抱きしめているのかが分からない。
考えた事もない事態に凛は珍しく動揺していた。
もぞもぞと動き、道隆の腕の中から逃れようとする凛に道隆は大きく溜め息を吐いた。

「ほんま、ほんま言えや……。こんなんはナシや……」

「――僕は、僕はプライドを持って仕事をしています。誰かに擦り寄って庇護されるだけの存在にはなりたくない。それを教えてくれたのは……あなたです」

そう言って静かに涙を流し道隆を睨みつけた。
泣いているのに泣いていない。そんな強い眼差し。

最初はただ平凡なやつやと思ってん。
それからΩにしては強く逞しいやつやと思った。
だから凛が泣く姿を想像する事なんてできひんかった。

お前も……そうやって泣くねんな――。
凛が泣く姿とあの幼い日、泣いていた従兄弟の姿が重なって見えた。

「凛、俺はお前の事大事なパートナーや思ってる。一方的に庇護しようとは思わへん。でもな、助け合いたいとは思ってるねん。分かるか?」

未だ道隆に抱きしめられたままの凛はこくりと頷いた。

「俺も凛を頼るさかい、凛も俺の事頼ってくれへんか?それがほんまのパートナーやんか」

ふわりと僅かに香る花のような香り。
凛のフェロモンを初めて嗅ぎ取り、道隆は自分が満たされていくのを感じた。
ずっとこのまま抱きしめていたいと思うのに、凛は今度こそ道隆の腕の中から出て行ってしまった。
そしてしっかりと自分の脚で立ち軽く身なりを整えると、すっと右手を差し出して言った。

「よろしくお願いします」

そして花のように笑った。

決して薔薇やユリのような豪華な花ではない。それは道端にひっそりと咲く花のような――――。

道隆もそれに笑顔で応え、ふたりはしっかりとお互いの手を握り合った。


それからふたりは誰もが認める最高のパートナーになった。
その上無自覚にもだもだといちゃつく姿を見せられた周囲が、「さっさとくっついちゃえよ」と思うのはまだもう少しだけ先の話。




-おわり-
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