60 / 87
俺のかわいい婚約者さま・続
4 キミの想い
しおりを挟む
家に帰ると、取り乱した様子の楓君が家から飛び出してくるところだった。
「――楓君?」
「薫さんっ!!」
俺を見つけると転がるように走り寄ってきて、力いっぱい抱きしめられた。
こんな寒空にコートも着ずに髪も乱れ、僅かに身体も震えている。
そして、よく見ると靴も左右違う。こんなに取り乱した楓君は初めて見る。
「あの……? 楓君?」
どうしてこうなっているのか混乱する俺。何かあったの……?
「―――では、私は今日はお暇させていただきます」
マイペースの四方田さんはお辞儀をした後、にっこり微笑んでサムズアップして帰って行った。
年の割に若い。
笑う状況ではないと分かっているけどなんだかおかしくて、かえって落ち着く事が出来た。
「どうしたの? 楓君、会社で何かあったの? とりあえず家に入ろうか?」
俺の言葉にはっとした楓君は俺を抱き上げた。
「ひゃっ」
突然の事に驚きぎゅっと楓君にしがみつくと、少しだけほっとした表情をした。
本当にどうしたの?
俺を大事そうに抱えたまま、しっかりとした足取りで家へと連れて行ってくれた。
ゆっくりとソファーに降ろされて楓君は俺の前に正座した。
そして、俺の両手を握りまるで許しを請うようにその手を自分の額に持っていく。
「薫さん……ごめんなさい。あなたを……不安にさせてしまいましたか? あなたが出て行ったと思った時、自分の最近の行いはあなたを傷つけていたんじゃないかって気づいたんです。許してもらえるまで何度でも謝りますから、だから出て行かないで……。俺を置いて行かないで――」
楓君の声は次第に涙声になっていった。
俺が出て行く?
俺が楓君を置いていく?
確かに悲しくてつらかったけど……。
「――どこへも行かないよ? どうしてそう思ったの?」
「久しぶりに早く帰ったら薫さんの姿が見えなくて、最初はちょっと出かけているだけだと思いました。だけどなかなか帰ってこなくて、心配でクローゼットの中を見たんです。そしたら薫さんが旅行の時に使ってるキャリーバッグがなくて……。薫さんが出て行ったって……思って……」
黒目勝ちな大きな瞳からぽろぽろと零れる大粒の涙たち。
キャリーバッグをどこかにやった記憶はない。だとしたら四方田さんか。
別れ際のサムズアップの謎が解けた。
あぁ……もう……なんて……なんて――!
胸がいっぱいになる!
楓君の涙をそっと袖口で拭いながら思う。
この人は俺の事をまっすぐに愛してくれている。
それは今も昔も変わらない。
それなのにどこを疑う必要があるっていうんだ。
「――俺もごめんね……」
「薫さんは悪くないです。悪いのは全て俺です」
ぽこん。
こぐまが励ましてくれている。
うん。大丈夫だよ。
「あのね、こないだ電話した事あったよね? その時、声が……女の人の声がしたんだ……。楓君は仕事だって言ってたけど……違う、よね?」
楓君の喉がひゅっと鳴ったのが分かった。
「――あれ、は……。う――」
何かを言おうとしては止め言おうとしては止めを繰り返し、眉尻をへにょりと下げて情けない顔の楓君。
大丈夫。俺は楓君の事を信じてる。
そのまま黙って楓君が本当の事を言ってくれるのを待った。
そして短くはない時間が過ぎ、観念したのか一度大きく頷くと立ち上がって、使っていない部屋の方から箱をいくつもいくつも運んできた。
「え? 何……?」
「……」
無言で開かれる箱。
箱の中には沢山の……毛糸で編まれた赤ちゃんの靴下や手袋たち。
「――――え?これは……?」
「赤ちゃんのです。俺たちの子ども、こぐまの。俺、他の事は割と何でもできるんですが編み物はダメみたいで……彼方の番の桜花さんに教えてもらってたんです」
「桜花君……? ――あ……!」
あの女の人だと思った声は確かに桜花君の声だった。
男の人だけど少し高めで、鈴を転がしたような声だから間違えてしまったんだ。
「え、じゃあじゃあ……毎日遅いのも一条さんの家で編み物をしてたって事?」
「はい。遥もちゃんと近くに居ましたし、桜花さんとふたりっきりって事も一瞬もありませんでした。仕事が終わる時間もそんなに早いわけではなく、その後でしたから帰るのも遅くなってしまって……。でも、満足いく物を作りたかったんです。薫さんが俺たちのこぐまを大事にお腹の中で育ててくれて、俺は何も出来ないから――。だからせめて靴下とか帽子とかこぐまが身に着ける物を自分の手で作りたかったんです。出来たら薫さんの物も作りたかった。内緒にして驚かして、喜んで欲しかった。でも、自分でもびっくりするくらい編み物が下手で……。こんなに時間がかかってしまいました」
話し終わりしゅんと肩を落とす楓君。
箱の中の不揃いの編み目の物たち。お世辞にも上手いとは言えない物たち。
だけど、すごくすごく温かい。
「楓君……大好き」
「――薫さん……俺も大好きです。愛してます。不安にさせてしまってすみません」
俺はソファーから降り楓君を抱きしめた。
お互いの熱に幸せが広がる。
ぽこん。
「あ、また蹴った」
「!」
楓君は俺のお腹に耳を当て、ぽこんぽこんとこぐまが蹴るのを嬉しそうに聞いていた。
あぁ、この人が俺の番でよかった。
この人を愛してよかった。
この人が俺を愛してくれてよかった。
俺は楓君と出会えて本当に、本当に幸せだ。
「――楓君?」
「薫さんっ!!」
俺を見つけると転がるように走り寄ってきて、力いっぱい抱きしめられた。
こんな寒空にコートも着ずに髪も乱れ、僅かに身体も震えている。
そして、よく見ると靴も左右違う。こんなに取り乱した楓君は初めて見る。
「あの……? 楓君?」
どうしてこうなっているのか混乱する俺。何かあったの……?
「―――では、私は今日はお暇させていただきます」
マイペースの四方田さんはお辞儀をした後、にっこり微笑んでサムズアップして帰って行った。
年の割に若い。
笑う状況ではないと分かっているけどなんだかおかしくて、かえって落ち着く事が出来た。
「どうしたの? 楓君、会社で何かあったの? とりあえず家に入ろうか?」
俺の言葉にはっとした楓君は俺を抱き上げた。
「ひゃっ」
突然の事に驚きぎゅっと楓君にしがみつくと、少しだけほっとした表情をした。
本当にどうしたの?
俺を大事そうに抱えたまま、しっかりとした足取りで家へと連れて行ってくれた。
ゆっくりとソファーに降ろされて楓君は俺の前に正座した。
そして、俺の両手を握りまるで許しを請うようにその手を自分の額に持っていく。
「薫さん……ごめんなさい。あなたを……不安にさせてしまいましたか? あなたが出て行ったと思った時、自分の最近の行いはあなたを傷つけていたんじゃないかって気づいたんです。許してもらえるまで何度でも謝りますから、だから出て行かないで……。俺を置いて行かないで――」
楓君の声は次第に涙声になっていった。
俺が出て行く?
俺が楓君を置いていく?
確かに悲しくてつらかったけど……。
「――どこへも行かないよ? どうしてそう思ったの?」
「久しぶりに早く帰ったら薫さんの姿が見えなくて、最初はちょっと出かけているだけだと思いました。だけどなかなか帰ってこなくて、心配でクローゼットの中を見たんです。そしたら薫さんが旅行の時に使ってるキャリーバッグがなくて……。薫さんが出て行ったって……思って……」
黒目勝ちな大きな瞳からぽろぽろと零れる大粒の涙たち。
キャリーバッグをどこかにやった記憶はない。だとしたら四方田さんか。
別れ際のサムズアップの謎が解けた。
あぁ……もう……なんて……なんて――!
胸がいっぱいになる!
楓君の涙をそっと袖口で拭いながら思う。
この人は俺の事をまっすぐに愛してくれている。
それは今も昔も変わらない。
それなのにどこを疑う必要があるっていうんだ。
「――俺もごめんね……」
「薫さんは悪くないです。悪いのは全て俺です」
ぽこん。
こぐまが励ましてくれている。
うん。大丈夫だよ。
「あのね、こないだ電話した事あったよね? その時、声が……女の人の声がしたんだ……。楓君は仕事だって言ってたけど……違う、よね?」
楓君の喉がひゅっと鳴ったのが分かった。
「――あれ、は……。う――」
何かを言おうとしては止め言おうとしては止めを繰り返し、眉尻をへにょりと下げて情けない顔の楓君。
大丈夫。俺は楓君の事を信じてる。
そのまま黙って楓君が本当の事を言ってくれるのを待った。
そして短くはない時間が過ぎ、観念したのか一度大きく頷くと立ち上がって、使っていない部屋の方から箱をいくつもいくつも運んできた。
「え? 何……?」
「……」
無言で開かれる箱。
箱の中には沢山の……毛糸で編まれた赤ちゃんの靴下や手袋たち。
「――――え?これは……?」
「赤ちゃんのです。俺たちの子ども、こぐまの。俺、他の事は割と何でもできるんですが編み物はダメみたいで……彼方の番の桜花さんに教えてもらってたんです」
「桜花君……? ――あ……!」
あの女の人だと思った声は確かに桜花君の声だった。
男の人だけど少し高めで、鈴を転がしたような声だから間違えてしまったんだ。
「え、じゃあじゃあ……毎日遅いのも一条さんの家で編み物をしてたって事?」
「はい。遥もちゃんと近くに居ましたし、桜花さんとふたりっきりって事も一瞬もありませんでした。仕事が終わる時間もそんなに早いわけではなく、その後でしたから帰るのも遅くなってしまって……。でも、満足いく物を作りたかったんです。薫さんが俺たちのこぐまを大事にお腹の中で育ててくれて、俺は何も出来ないから――。だからせめて靴下とか帽子とかこぐまが身に着ける物を自分の手で作りたかったんです。出来たら薫さんの物も作りたかった。内緒にして驚かして、喜んで欲しかった。でも、自分でもびっくりするくらい編み物が下手で……。こんなに時間がかかってしまいました」
話し終わりしゅんと肩を落とす楓君。
箱の中の不揃いの編み目の物たち。お世辞にも上手いとは言えない物たち。
だけど、すごくすごく温かい。
「楓君……大好き」
「――薫さん……俺も大好きです。愛してます。不安にさせてしまってすみません」
俺はソファーから降り楓君を抱きしめた。
お互いの熱に幸せが広がる。
ぽこん。
「あ、また蹴った」
「!」
楓君は俺のお腹に耳を当て、ぽこんぽこんとこぐまが蹴るのを嬉しそうに聞いていた。
あぁ、この人が俺の番でよかった。
この人を愛してよかった。
この人が俺を愛してくれてよかった。
俺は楓君と出会えて本当に、本当に幸せだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる