85 / 87
番外編
11 『運命』よりも『愛』がいい①
しおりを挟む
杉本くんは目覚めるとすぐに「ひゃー……っ」と奇声を上げて、布団を被って丸まってしまった。どこまで覚えているのか訊いてみると、
「ぜ……」
「ぜ?」
「全部です――っ!」
俺はくっくと喉の奥で笑った。
まったく、こんなに可愛くて愛おしい存在がいて『運命』なんか恐れるなんて馬鹿げてる。本当、及川さんは正しいよ。覚悟を決めてしまえば愛しいしかない。
あの『証明』があったればこそかもしれないが、『愛』は『運命』なんかに負けないんだと思った。
未だ布団に丸まって出て来ない愛しい人を布団の上からポンポンと優しく撫でた。
*****
何とかなだめすかして布団の中から出て来てくれた杉本くんと話をした。
俺の想い。杉本くんの想い。
杉本くんは二次性がΩだと分かりショックを受けてあてもなく彷徨っていた時、俺と出会ったんだそうだ。俺がアイツに捨てられたあの時、偶然傍にいて一部始終を見ていたのだ。傷つき涙を流す俺がとても弱く、守りたいと思ったという事だ。αを守るΩ。普通じゃ考えられない話だが、それでも守りたいのだと切に願い、その後も俺の幸せをずっと祈っていたと。俺たちの繋がりはあの場所しかないから、だからあの花屋にいて、花束を渡し好きだと伝えたと――。
俺は杉本くんの話を訊きながら涙を流していた。
俺は気づいたのだ。
杉本くんはあの日あの場所でアレを見てしまった事だけを申し訳なさそうに言ったけど――、あの「これは夢だよ」と言ったのはあの日の杉本くんだったのではないか。今の杉本くんよりも少し高めだけど穏やかで優しい――同じ声。傷ついた俺を優しく包み込んでくれたデイジーの香り……。
全てを見ていたからΩであれば俺を傷つける存在であると思ったのだ。Ωである彼にも『運命』が――と要らぬ不安を抱かせてしまうと。だからΩである事を隠した。彼の『嘘』は俺への『愛』――。
ああ、なんて……なんて――。
俺の全てが奪われた日、杉本くんからは『慈しみ』を貰っていた。
この10年ずっとずっと守られてきたのだ。夢の中にいる時も彼の温もりを感じていた。彼の愛に守られていた。長い夢から覚めてからも――――。
「――俺は『運命』が怖かった。『運命』に負けてきみを失う事が怖かったんだ。きみがβだと思っていた時も俺の前に『運命』が現れて、アイツみたいにきみを捨てる事になったとしたら――って思うと怖くて堪らなかった。だけどきみが勝たせてくれたんだ。俺は『本能』に負けずきみへの『愛』を貫く事ができた。俺は『運命』なんかに負けやしない。杉本くんもそうだろう――?」
俺の問いに杉本くんはふわりと笑う事で応えた。それを見て俺もお返しのように微笑む。杉本くんへの気持ちは真夏の太陽よりも、鉄を溶かす炎よりも熱いのに不思議と心は凪いでいた。穏やかな幸せ――。
「俺は自分の事もきみの事も信じている。信じられる。――――俺の幸せを願うなら、俺の傍で一緒に幸せになってくれないか?」
実質プロポーズのつもりで言った告白。杉本くんの瞳から一滴の涙が零れ落ちて、俺が知る一番の笑顔で答えた。
「喜んで……っ」
それは『静』なのに『動』、生命力に溢れたとても杉本くん……喜久乃らしい笑顔だった。
「ぜ……」
「ぜ?」
「全部です――っ!」
俺はくっくと喉の奥で笑った。
まったく、こんなに可愛くて愛おしい存在がいて『運命』なんか恐れるなんて馬鹿げてる。本当、及川さんは正しいよ。覚悟を決めてしまえば愛しいしかない。
あの『証明』があったればこそかもしれないが、『愛』は『運命』なんかに負けないんだと思った。
未だ布団に丸まって出て来ない愛しい人を布団の上からポンポンと優しく撫でた。
*****
何とかなだめすかして布団の中から出て来てくれた杉本くんと話をした。
俺の想い。杉本くんの想い。
杉本くんは二次性がΩだと分かりショックを受けてあてもなく彷徨っていた時、俺と出会ったんだそうだ。俺がアイツに捨てられたあの時、偶然傍にいて一部始終を見ていたのだ。傷つき涙を流す俺がとても弱く、守りたいと思ったという事だ。αを守るΩ。普通じゃ考えられない話だが、それでも守りたいのだと切に願い、その後も俺の幸せをずっと祈っていたと。俺たちの繋がりはあの場所しかないから、だからあの花屋にいて、花束を渡し好きだと伝えたと――。
俺は杉本くんの話を訊きながら涙を流していた。
俺は気づいたのだ。
杉本くんはあの日あの場所でアレを見てしまった事だけを申し訳なさそうに言ったけど――、あの「これは夢だよ」と言ったのはあの日の杉本くんだったのではないか。今の杉本くんよりも少し高めだけど穏やかで優しい――同じ声。傷ついた俺を優しく包み込んでくれたデイジーの香り……。
全てを見ていたからΩであれば俺を傷つける存在であると思ったのだ。Ωである彼にも『運命』が――と要らぬ不安を抱かせてしまうと。だからΩである事を隠した。彼の『嘘』は俺への『愛』――。
ああ、なんて……なんて――。
俺の全てが奪われた日、杉本くんからは『慈しみ』を貰っていた。
この10年ずっとずっと守られてきたのだ。夢の中にいる時も彼の温もりを感じていた。彼の愛に守られていた。長い夢から覚めてからも――――。
「――俺は『運命』が怖かった。『運命』に負けてきみを失う事が怖かったんだ。きみがβだと思っていた時も俺の前に『運命』が現れて、アイツみたいにきみを捨てる事になったとしたら――って思うと怖くて堪らなかった。だけどきみが勝たせてくれたんだ。俺は『本能』に負けずきみへの『愛』を貫く事ができた。俺は『運命』なんかに負けやしない。杉本くんもそうだろう――?」
俺の問いに杉本くんはふわりと笑う事で応えた。それを見て俺もお返しのように微笑む。杉本くんへの気持ちは真夏の太陽よりも、鉄を溶かす炎よりも熱いのに不思議と心は凪いでいた。穏やかな幸せ――。
「俺は自分の事もきみの事も信じている。信じられる。――――俺の幸せを願うなら、俺の傍で一緒に幸せになってくれないか?」
実質プロポーズのつもりで言った告白。杉本くんの瞳から一滴の涙が零れ落ちて、俺が知る一番の笑顔で答えた。
「喜んで……っ」
それは『静』なのに『動』、生命力に溢れたとても杉本くん……喜久乃らしい笑顔だった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
つがいごっこ~4歳のときに番ったらしいアルファと30歳で再会しまして~
深山恐竜
BL
俺は4歳のときにうなじを噛まれて番を得た。
子どもがたくさんいる遊び場で、気が付いたらそうなっていたとか。
相手は誰かわからない。
うなじに残る小さな歯型と、顔も知らない番。
しかし、そのおかげで、番がいないオメガに制限をかけられる社会で俺は自由に生きていた。
そんなある日、俺は番と再会する。
彼には俺の首筋を噛んだという記憶がなかった。
そのせいで、自由を謳歌していた俺とは反対に、彼は苦しんできたらしい。
彼はオメガのフェロモンも感じられず、しかし親にオメガと番うように強制されたことで、すっかりオメガを怖がるようになっていた。
「でも、あなただけは平気なんです。なんででしょう」
首を傾げる彼に、俺は提案する。
「なぁ、俺と番ごっこをしないか?」
偽物の番となった本物の番が繰り広げるラブストーリー。
君に二度、恋をした。
春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。
あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。
――もう二度と会うこともないと思っていたのに。
大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。
変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。
「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」
初恋、すれ違い、再会、そして執着。
“好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか――
すれ違い×再会×俺様攻め
十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる