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俺は誠さんの計らいで一星と番ったらすぐに家を出て、七星くんたちが住むマンションの下の階に二人で住む事になった。
このマンションは誠さんのもので賃料はいらないという事だ。
何といっても俺たちはまだ学生でお金なんかない。だから今は誠さんたちの好意に甘える事にした。
その話を初めて聞いた時、本当は断ろうと思っていた。そこまでしてもらう価値が俺にあるのか? って思ったから。
なのに思い切って甘えてみようと思ったのは、俺たちの学校での一連の事を噂で聞きつけた七星くんに召喚されて、二人の温かさに直接触れる事ができたからだ。
呼び出されたと聞いて最初は、俺みたいに穢れたΩはダメだと反対されるのかと不安でたまらなかった。
一星に連れて行かれた先は大きく綺麗なマンションの最上階。
誠さんは席を外していて七星くん一人だった。Ωである俺に気を遣ってくれたようだ。
同じ学校の同学年であるのに初めて会った七星くん。
全身で愛されてるって感じで輝いて見えた。
きっとひどい目になんて合っていないんだろうなと想像できて、同じΩなのに自分との違いに仄暗い感情に囚われそうになる。
だけど七星くんは会うなり俺の事を抱きしめてわんわん大泣きしたんだ。
何をどこまで知っているのかは分からない。だけど七星くんは俺の為に泣いてくれた。それがくすぐったくて、とても嬉しかったんだ。
この人が一星のお兄さん。一星の温かさと同じでとても温かい。
俺たちが打ち解けてしばらくして姿を現した誠さん。
見るからに上位のαだった。ワンクッション置いてくれて正解だ。
最初に会っていたなら俺は色んな事がフラッシュバックして二度とここへは来られなかったかもしれない。
今は誠さんの優しい微笑みと七星くんへの強い愛情に自分の理想を見ているようで嬉しくなる。だけど羨ましくなんかはない。
だって、俺にも隣りにはこんなに俺の事を愛してくれる一星がいるから。
今なら二人を前にしても胸を張って言えるよ。俺は惨めなんかじゃない。俺は幸せだ。
一星はよく義兄さんのような立派なαになるからって言うけど、俺は一星は一星のままがいいな。二人の事は憧れるけど、でも違うんだ。俺は他の誰かの幸せの真似なんかじゃなくて、一星と俺たちだけの幸せがいいんだ。
俺は辛い事があったとしても一星と現実を生きたい。
朝が来ても覚める事がない現実を。
*****
七星くんと誠さんには本当にお世話になった。
一星と番になって家を出る時、実は少し両親と揉めたんだ。
両親は家の為に高校を卒業したら金持ちのエロ親父に愛人として売るつもりだったようだ。両親にとって自分はお荷物でしかないって事は分かっていたはずなのに、その事実を知った時は辛かった。だけど、一星や七星くんや誠さんがいたから俺は壊れずに済んだんだ。俺の事を心から愛してくれる存在、俺の家族。
それから誠さんがエロ親父から両親に払われるはずだったお金の10倍もの金額を両親に支払ってくれた。
次々と運び込まれる現金の入ったアタッシュケース。
驚き目を見開く両親の顔がおかしくて、笑いたいのに涙が零れそうになった。
そんな俺の手をぎゅっと強く一星が握ってくれて、俺は泣かずに済んだんだ。
そして、最後に誠さんが言ってくれた言葉。
「そんなはした金がいちか君の価値なわけないだろう? これでも足らないくらいだ。これ以上うちのいちかを貶めるような事をするなら全力で潰してやるから覚えておけ」
そう言い放った誠さん。普段は温厚でいつも笑顔なのにこの時ばかりは上位のαって感じで少しだけ怖かった。だけど目が合うといつものように笑ってくれたので、強張っていた身体からすぐに力が抜けた。
本当に恰好よくて頼りになる義兄さんだ。
誠さんを見つめていたら一星が焼きもちを焼いたようだったけど、そんな事心配する必要なんて少しもないのに。
俺にはキミだけなんだ。だから少しの心配もいらないんだよ。
そんな想いを込めて一星に心からの笑顔を贈る。赤く染まっていく一星の頬。
心の片隅にあった小さな光がキラキラと輝き溢れていく。
ああ、なんていとおしい。俺の番。俺だけのα。俺は自分がΩである事を初めて受け入れられた気がした。
後で誠さんが俺の事を物扱いして申し訳なかったと謝ってくれたけど、ちゃんと誠さんの気持ちは分かってる。誠さんにも七星くんにも一星にも感謝しかない。
無事に両親と縁を切った俺は、正式に登戸の籍にも入れてもらい星野いちかから登戸いちかになった。
一星と二人で頑張って働いてマンションのお金とこの時の手切れ金を少しずつでも返すんだ。
誠さんたちはいらないって言ってくれたけど、甘えてばかりじゃダメだと思うから。一星と二人でなら頑張れるから。
*****
あれから10年、少しずつお金は返している。
子どもも男女一人ずつの二人を授かった。
贅沢はできないけど俺たちは幸せだ。
この子たちの二次性はまだ分からない。だけど、αでもβでもΩでも何でもいい。
この愛しい存在たちを俺は一星と一緒に愛して守って生きていく。
「ただいま」
そう言って出会った頃と同じ笑顔でキミが笑うから、俺も精一杯気持ちを込めて笑って応えるんだ。
「おかえり」
キミは夜空に輝く一等星だから。
俺は……俺たちは闇夜に怯える事なく歩いて行けるんだ。迷子にならずに済むんだ。
キミに出会えた奇跡に感謝を。
-終-
このマンションは誠さんのもので賃料はいらないという事だ。
何といっても俺たちはまだ学生でお金なんかない。だから今は誠さんたちの好意に甘える事にした。
その話を初めて聞いた時、本当は断ろうと思っていた。そこまでしてもらう価値が俺にあるのか? って思ったから。
なのに思い切って甘えてみようと思ったのは、俺たちの学校での一連の事を噂で聞きつけた七星くんに召喚されて、二人の温かさに直接触れる事ができたからだ。
呼び出されたと聞いて最初は、俺みたいに穢れたΩはダメだと反対されるのかと不安でたまらなかった。
一星に連れて行かれた先は大きく綺麗なマンションの最上階。
誠さんは席を外していて七星くん一人だった。Ωである俺に気を遣ってくれたようだ。
同じ学校の同学年であるのに初めて会った七星くん。
全身で愛されてるって感じで輝いて見えた。
きっとひどい目になんて合っていないんだろうなと想像できて、同じΩなのに自分との違いに仄暗い感情に囚われそうになる。
だけど七星くんは会うなり俺の事を抱きしめてわんわん大泣きしたんだ。
何をどこまで知っているのかは分からない。だけど七星くんは俺の為に泣いてくれた。それがくすぐったくて、とても嬉しかったんだ。
この人が一星のお兄さん。一星の温かさと同じでとても温かい。
俺たちが打ち解けてしばらくして姿を現した誠さん。
見るからに上位のαだった。ワンクッション置いてくれて正解だ。
最初に会っていたなら俺は色んな事がフラッシュバックして二度とここへは来られなかったかもしれない。
今は誠さんの優しい微笑みと七星くんへの強い愛情に自分の理想を見ているようで嬉しくなる。だけど羨ましくなんかはない。
だって、俺にも隣りにはこんなに俺の事を愛してくれる一星がいるから。
今なら二人を前にしても胸を張って言えるよ。俺は惨めなんかじゃない。俺は幸せだ。
一星はよく義兄さんのような立派なαになるからって言うけど、俺は一星は一星のままがいいな。二人の事は憧れるけど、でも違うんだ。俺は他の誰かの幸せの真似なんかじゃなくて、一星と俺たちだけの幸せがいいんだ。
俺は辛い事があったとしても一星と現実を生きたい。
朝が来ても覚める事がない現実を。
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七星くんと誠さんには本当にお世話になった。
一星と番になって家を出る時、実は少し両親と揉めたんだ。
両親は家の為に高校を卒業したら金持ちのエロ親父に愛人として売るつもりだったようだ。両親にとって自分はお荷物でしかないって事は分かっていたはずなのに、その事実を知った時は辛かった。だけど、一星や七星くんや誠さんがいたから俺は壊れずに済んだんだ。俺の事を心から愛してくれる存在、俺の家族。
それから誠さんがエロ親父から両親に払われるはずだったお金の10倍もの金額を両親に支払ってくれた。
次々と運び込まれる現金の入ったアタッシュケース。
驚き目を見開く両親の顔がおかしくて、笑いたいのに涙が零れそうになった。
そんな俺の手をぎゅっと強く一星が握ってくれて、俺は泣かずに済んだんだ。
そして、最後に誠さんが言ってくれた言葉。
「そんなはした金がいちか君の価値なわけないだろう? これでも足らないくらいだ。これ以上うちのいちかを貶めるような事をするなら全力で潰してやるから覚えておけ」
そう言い放った誠さん。普段は温厚でいつも笑顔なのにこの時ばかりは上位のαって感じで少しだけ怖かった。だけど目が合うといつものように笑ってくれたので、強張っていた身体からすぐに力が抜けた。
本当に恰好よくて頼りになる義兄さんだ。
誠さんを見つめていたら一星が焼きもちを焼いたようだったけど、そんな事心配する必要なんて少しもないのに。
俺にはキミだけなんだ。だから少しの心配もいらないんだよ。
そんな想いを込めて一星に心からの笑顔を贈る。赤く染まっていく一星の頬。
心の片隅にあった小さな光がキラキラと輝き溢れていく。
ああ、なんていとおしい。俺の番。俺だけのα。俺は自分がΩである事を初めて受け入れられた気がした。
後で誠さんが俺の事を物扱いして申し訳なかったと謝ってくれたけど、ちゃんと誠さんの気持ちは分かってる。誠さんにも七星くんにも一星にも感謝しかない。
無事に両親と縁を切った俺は、正式に登戸の籍にも入れてもらい星野いちかから登戸いちかになった。
一星と二人で頑張って働いてマンションのお金とこの時の手切れ金を少しずつでも返すんだ。
誠さんたちはいらないって言ってくれたけど、甘えてばかりじゃダメだと思うから。一星と二人でなら頑張れるから。
*****
あれから10年、少しずつお金は返している。
子どもも男女一人ずつの二人を授かった。
贅沢はできないけど俺たちは幸せだ。
この子たちの二次性はまだ分からない。だけど、αでもβでもΩでも何でもいい。
この愛しい存在たちを俺は一星と一緒に愛して守って生きていく。
「ただいま」
そう言って出会った頃と同じ笑顔でキミが笑うから、俺も精一杯気持ちを込めて笑って応えるんだ。
「おかえり」
キミは夜空に輝く一等星だから。
俺は……俺たちは闇夜に怯える事なく歩いて行けるんだ。迷子にならずに済むんだ。
キミに出会えた奇跡に感謝を。
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