飼い主じゃなくて

ハリネズミ

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飼い主じゃなくて

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 翌日約束通り十一時少し前に〇〇駅に着いた。
 源三郎はまだ来ていなかったようなのでぼんやりと外を見ていると、みつけてしまった。
 霧島と源三郎が楽しそうに話しながらこっちへ歩いて来るのを。
 源三郎が霧島より先に俺をみつけて走ってきて俺に抱き着いた。

「お、おい」

 ぎゅーっと抱き着いてくる源三郎を俺はため息をつくと頭を撫でてやった。
 全身で甘えてくる源三郎が俺は憎めない。霧島と恋人であっても俺は弟がかわいいのだ。
 そんなことを考えているといきなり源三郎をはがし俺を抱き込む腕があった。

「え?」

 見ると怖い顔で俺を睨む霧島だった。

「――どういう……事です……か?」

 それはとてもとても低い声で、いつもの霧島とはちがっていた。
 そんなに睨むなよ。お前の恋人に手なんか出さないし、それに俺たち兄弟だぜ? 源三郎はお前のだ。

「先輩……今日ははずせない用事があるって……言った! これがそうなんですか……? ――ふたりは……付き合って――?」

 怖い顔だったのに段々眉根を寄せて泣くような顔になっていった。
 声も心なしか震えている気がした。

「は? 何言って……? 源三郎は俺の弟だ。お前知らなかったのか?」

俺の言葉を聞いて霧島はきょとんという顔をした。

「源三郎……? 弟……、弟っ?」

「えっと……兄ちゃん霧島さんと知り合い?」

 俺はいまだ霧島に抱きしめられている格好になっている事に気づき慌てて離れようとした。
 だけど霧島の力は強くてぜんぜん振りほどけなかった。

「おいっ霧島っ離れろっ」

「嫌です」

 きっぱりとそう言い切ると俺の肩に顔を埋めて、頭をぐりぐりと押し付けている。
 地味に痛い。
 やめろ、離れろお前は源三郎の恋人なんだろう?
 恋人の前で何やってるんだ!

 困り顔の源三郎の後ろから背の高い男が現れた。

「源どうした? お兄さんには会えたのか?」

「あ、リュウ会えたんだけど――。何かよく分からないことになってる」

 新たな人物の登場に俺はプチパニックを起こし霧島と源三郎とリュウと呼ばれる青年を見比べた。

「兄ちゃん、兄ちゃんに紹介したかったリュウだよ」

 リュウ君はぺこりと頭を下げた。

「え? 源三郎お前の恋人ってそっちの……そのリュウ……君か?」

 俺の『恋人』という言葉に源三郎は顔を真っ赤にさせて慌てていた。

「こい……こい……こいびとって……っ!」

 ばれているとは思っていなかったのだろうひどく源三郎は真っ赤になって慌てている。
 リュウ君はそんな俺たちを見て、「ここでは目立ちますので移動しませんか?」と促してきた。

 俺たちは四人で連れだって源三郎とリュウ君のアパートに向かった。
 その間霧島は「うーうー」と小さくうなりながら俺から離れようとはしなかった。

 何でこんな事になってるんだっけ……?
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