男子高校生たちの

ハリネズミ

文字の大きさ
27 / 35

(2)

しおりを挟む
それからも俺はコンビニを訪れる成願寺になにかにつけて声をけるようになった。
失恋した傷ついた心につけこむような大人の卑怯なやり方だった。
純粋なキミに汚い俺。
それでも俺はキミの事が好きだから、キミの優しさにつけこむしかないんだ。


そしてあの日、コンビニでバイト中に大学の友人の桂山かつらやまに突然後ろから抱き着かれた。

突然の事に驚いて振りほどく事もせずそのまま話す。
「――一ノ瀬、俺お前の事好きなんだ」
「ごめん。俺…他に好きな子がいる。正直その子の事で頭がいっぱいで、他の事考える余裕ないんだ」
「―――そっか…」
たったそれだけのやり取りだった。
自分の事を好きだと言ってくれる友人に対してもう少し何かなかったのか、と思う。
でも、何をどう取り繕って言ったところで結果は同じならこれでいいのかもしれない。
俺が好きなのは成願寺だけなのだから。

ドスンという鈍い音がして、音がした方を振り向くと成願寺が走り去る後ろ姿が見えた。

―――え。泣いて……?

俺はもう何も考えられなかった。
恋の駆け引きがどうとか、大人の余裕だとか。
そんな事よりも泣いているキミをひとりぼっちにはさせたくなかった。
必死に追いかけておいかけて、あの土手にたどり着いた。

「圭くんっ!」
「…っ」
俺が呼びかけると再び逃げようとするキミ。
俺は堪らず捕まえて、もう逃がすもんかと抱きしめた。

「――んで逃げるの」
「………」
キミは何も言わずただ首を左右に振るだけだった。

あの日のキミは友人を想って泣いていた。
今日のキミは何を想って泣いているの?
もし、もしも俺の事なら……泣く必要なんてこれっぽっちもないのに。

キミが泣く理由が自分で分からないなら俺がその答えをあげるよ。

「ねぇ、なんで泣いてるの?」
「…から…ない。分からない……。一ノ瀬さんは…なんで追いかけてきてくれたの?なんで…抱きしめて…くれるの?」

「あの日、俺は恋を捨てたはずだった。だけど…捨てる事なんてできなかったんだ。キミが…圭くんの事が……好きだから…」

やっと口にできたキミへの想い。
俺の声は少し震えていたかもしれない。

「え?」
「ごめんね…。言うつもりはなかった。だけど、キミに誤解されたままにはしておきたくなかったし、キミが涙する理由も知りたかった…」

ごめんね。綺麗な部分しかキミに見せてあげる事はできないよ。
キミに嫌われたくないから。

「――あの人…は?」
遠慮がちにさっきの事を訊いてくるキミが愛しい。
早く、早くキミの気持ちを聞かせて?

「―――俺の事好きだって告白された。でも、断ったよ。俺には好きな子がいるからって。圭くん、好きだよ。付き合えとか俺の事好きになれとか言うつもりはないけど、キミが一人で泣いているのは辛いんだ。だから、こうやって抱きしめて慰める事を許してくれないかな?」

嘘と本音が混ざり合う。
キミが一人で泣いているのは想像しただけでも辛い。
本当はキミに好きだと言いたかった。
本当はキミと付き合いたかった。
本当はキミを俺の物にしてしまいたいたかった。

キミが好き、キミしかいらない。

そんな気持ちが少しでもキミに伝わるように抱きしめる腕に力を込めた。

「―――好き…」
そっと呟かれるキミの『好き』

その続きを早く聞かせて?キミの好きは誰の物…?

おずおずと背中に回されるキミの腕。
あぁ…!

「一ノ瀬さん、好きです。俺と付き合って下さい」

その瞬間、キラキラと水面が輝きだして、キミが輝きだして。
俺たちは見つめ合い、そして笑った。


やっとキミを手に入れた。




-終-
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...