花に酔う

ハリネズミ

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もう一度 S

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番を失ってしまった喪失感から僕はベッドから起き上がる事ができなくなっていた。
死別したわけでも番を解消されたけでもなかった。
だけど、自分から番に別れを告げた事が心に思ったより大きく負担をかけた。

日に日に弱っていく僕の姿に両親は悲しそうな顔で物言いたげに見ていた。


*****
あれから数日の後の夕食時、何も食べられないでいると両親が僕に話がしたいと言ってきた。

「三年前のあの日、私たちが家に帰ると上田くんは意識のないお前を獣のように蹂躙していた。お前の項からは血が流れシーツを真っ赤に染めていた。だと思ったよ。もっと私たちが注意を払っていたらよかったと後悔した。お前たちはまだ幼く自分たちの性も知らずに突然来たヒートで番になってしまった。どっちに非があるとかそういう事ではなく、ただ可愛い我が子を守りたかった。お前はあの後記憶を失っていたから、上田くんとは仲が良かったが番にはなりたくなかったのだと思ったんだ」

「そんな事…!」

「ああ、そうだね。全ては私たちの勘違いだったんだね。でも、だったらどうして記憶がなくなったんだろうか…?」

「――それは…。僕がΩの武器を使って…未来を無理やり縛って…しまった、から。僕はそんな事……そんな卑怯なまねはしたくなかった…!僕は未来の事が本当に好きなんだ…っ!自分たちの事αとβだって思ってた時だって無理なのに番になれたらって思ってたっ!未来と番になりたかった…っ!なのに…っ未来はそんな事望んでなんかなかったのにっ!あんなのは……ひっくひっく…っ」

「――そうか…そうだったんだな…」

父さんと母さんは優しく僕の事を抱きしめてくれた。

「父さんたちが悪かった…。父さんたちの間違った判断でこんなにも拗らせてしまった。お前たちは愛し合って番になったんだ。それなのに事故だったと決めつけて――上田くんにもひどい事を言ってしまった…。すまない上田くん。こういうわけなんだ。愚かな私たちと愚息の事を許してくれるかい?」

父さんが振り向くと、ドアを開けて未来が入って来た。
ドアの外で僕たちの話を聞いていた?

未来が僕に近づいてきて、交代とばかりに両親が部屋から出て行った。


「―――未来…。何で…?僕酷い事言った……」

「静流、俺は静流がいないとダメなんだ。いくらお前が俺の事いらないって言っても俺にはお前が必要だし、離れる事なんてできやしない。好きだよ。愛してる。番でも番じゃなくても最初から俺はお前しかいらないんだ」

未来の瞳が不安気に揺れる。

「ふぇ……ひっく…っ僕もっ……好き…っ」

僕のこんな幼い返事でも嬉しそうに未来は笑って、「もう一度…ここ噛んでいい?」

そう言うと、3年前に刻まれた番の印に指でそっと触れた。

「――うん…。未来に噛んで欲しい…っ。僕を未来の番にして?」

つぷりと項に埋められる未来の牙。

ああ……!

僕たちは既に番だからこの行為に何の意味もない。
だけど、僕たちはフェロモンに浮かされたわけでもなくちゃんとお互い同意の上で項を噛んだ。そして番になったんだ。


甘い香りと爽やかな香りがふわりと交じり合う。
二つの香りが合わさって初めて一つの香りが生まれた。
心を満たす美しく優しい世界で一つの花の香り。

二人は生涯この花の香りに酔い続ける。



-終-
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