花に酔う

ハリネズミ

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僕は決めなくてはいけない。

このまま気づかないフリで未来と友人として過ごすか。
番になった事を思い出した事を告げ、未来を僕に縛り続けるか。
それとも―――――。
未だ混乱の中にいて、上手く考えがまとまらない。


*****
部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「はい」

ドアが開いて入って来たのは未来だった。

番を意識してしまえば、いつも以上に気持ちを隠す事ができない。

未来が好き。未来しかいらない。未来の全てが欲しい。

未来の姿を瞳に映した途端、広がる多幸感。
僕は自分の気持ちが零れ出てしまわないようにそっと視線を逸らし尋ねた。

「―――未来…。もう…大丈夫?」

「俺は――大丈夫だ。静流の方こそ―――」

未来は僕の顔をみるなり走り寄り少しの躊躇いの後、そっと目じりを親指ですりっと擦った。

「―――泣いた…のか?」

辛そうにそう訊ねる未来の声は少し掠れていて、ぞくりと僕の中の一番深い部分を刺激する。

やっぱり誤魔化せない。誤魔化しちゃいけない。
僕は未来の事が好きだから…未来の事が大事だから……だから僕から解放してあげなきゃ……。

じわりと浮かぶ涙たち。
僕は泣いちゃダメなのに、ずるい僕に泣く資格なんかないのに…。
零れてしまわないようにぐっと奥歯を噛みしめる。

「静流……」

抱きしめようと伸ばされた未来の腕をやんわりと払う。
そして、気づかれないようにそっと瞳に残る涙を拭った。

「―――自分の事αだと思ってたのにΩだなんて笑っちゃうよね?あんな事故・・で番っちゃうとかさ―――。僕は未来の事親友だとは思ってたけど番とかそんな風に思った事なかったから、思い出してびっくりしちゃった」

未来の驚愕し見開かれた瞳。
バレてしまった、という顔。
すぐに苦痛に歪む。

―――――あーあ……。
そんな顔見たくなかったな…。

「――――だからさ、無かった事にしよ?僕たちは親友、それでいいじゃない」

僕は自分で思う限りで一番の笑顔で未来に言った。



*****
未来は呆然とその場に立ち尽くしていた。
それからあまり時間をおかず連絡を受けた未来の両親が迎えに来て、僕たちはそれ以上会話を交わす事はなかった。

両親に支えられるようにして帰って行く未来の姿を笑顔で見送る。

これで僕たちは元通り。
僕がΩで未来がαだったとしてもそれは変わらない。
僕たちはずっと親友で、この先も一緒にいる事ができる―――。

―――――本当に?

いや、自分でも分かっていた。
未来のあの顔――――。
もう僕たちは元になんか戻れやしない。
なかった事になんてできやしないんだ。
それだけの事を僕は未来にしてしまったのだから………。

下唇を噛み必死に耐えようとした。
静まり返る部屋に一人。微かに残る未来の香りに胸がズキリと痛んだ。

――――もう限界だった。
ぽろぽろぽろぽろと後から後から涙が溢れてきて止まらない。


こんなに…こんなに好きなのに……どうして僕はあんな卑怯な事をしてしまったんだろう…。

二次性の結果がもっと早く分かってたら、僕のヒートがあんなに早くこなかったら、あの時二人きりで部屋にいなかったら―――。
たらたらたら―――――。
今更そんな仮定の話を考えてみても仕方がない事だった。
でも、考えずにはいられなかった。
αとβだって思っていたから番う事は諦めてた。
だけど僕たちはαとΩで愛を乞う事ができたのに。番う事だってできたのに。
普通に告白してなんとか受け入れてもらって、番になって……。
ずっとずっと未来の傍で幸せでいられたのに……。
そんなだってあり得たかもしれなかったのに――――。

未来、未来、好き…好きだよ…。
僕なんかが好きになっちゃってごめんね……。
僕みたいな卑怯なΩが未来の事好きになっちゃって、巻き込んじゃってごめんね――――。

「うっ…うぅっ……」

僕は声を殺し一晩中泣き続けた。
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