英雄じゃなくて声優です!

榛名

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第60話 伝説のライブです

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マユミの目の前を埋め尽くす大勢の観客達・・・
それは人気声優のトークショーやライブを思わせた。

「皆さん!今日は私たちの為に、こんなにたくさん集まってくれて、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」

口下手なミーアにはMCは難しいだろう・・・
彼女の分を補うように場を盛り上げる事に意識を集中する。
だが、観客達も負けてはいなかった。

「むっちゃ楽しみにしてたぜマユミちゃん!」
「ミーアちゃんも期待してるぞ!」
「がんばれー!」

「がんばるー!」

声援に必死に答えるミーアの姿は観客に受けたようだ。
どうやらマユミが心配する必要はないらしい。

「ではそろそろ始めようと思います、しっかり聞いて行ってくださいね!」


歓声が二人を包み込む・・・
その声に負けないように、マユミは大きな声で語り始めるのだった。

・・・・・・


・・・観客の最後列では、誘導を終えた傭兵達が観客に加わっていた。

「くぅぅ・・・やっぱりこっからじゃ全然見えないっすね」
「声は聞こえるんだ、しっかり聞いていこう」

さすがにこの場所からはマユミ達の姿は全く見えない。
しかしマユミ達の声量はしっかりとここまで届いてくる。
彼らも、周りの客達も耳に意識を集中していた・・・そこへ・・・

「ふふふ・・・どうやら間に合ったようだね」

美少女画家パンプル・ムゥスがそこにいた・・・たくさんのキャンバスを台車に乗せて・・・
彼女は台車から絵を取り出して掲げる。
・・・それはマユミ達の練習を見ていた時に思い浮かんだ想像を描いたものだった。

もちろん、マユミとミーアの二人をモデルにして描かれている。
最後列の観客達はすぐに気が付いたようで、その絵に釘付けになった。

パンプルは、シーンに合わせて次々と絵を取り替える・・・とても短期間で描いたとは思えない枚数だ。

やがて彼女の周りに人だかりが出来ていく。
・・・遠すぎて見えない本人よりも美しい絵を見ながら声を聞く事を選んだ観客達だ。
ここにきてマユミはようやく声優の本懐を遂げたと言えるのだが・・・残念な事に、マユミの位置からはこの様子は見えなかった。


そして話は進み、歌姫達が互いの歌声を耳にする時がやって来た・・・

妹の歌声に姉が気付くシーン・・・マユミのソロだ。
・・・大丈夫、歌詞はしっかり覚えている・・・


風よ 運べ この歌を 時に 忘れられた 森の歌を

「この歌は・・・故郷の村の・・・まさか・・・そこにいるの?」

優しい その声を 運べ 時間を 超えて

「姉は気付きました、妹の歌声に・・・」

マユミが歌に専念する為、ミーアは姉からナレーションへと・・・一人で切り替える必要がある。
ミーアは声の幅が広い、うまく切り替えることが出来たようだ。

そして次は姉の歌声に妹が気付くシーン・・・ミーアのソロだ。
・・・ミーアの綺麗な歌声が響く・・・


水よ 届けて この想い 私の 大切な 思い出達

「この歌声は・・・忘れもしない・・・お姉ちゃん!」

小さな その夢を 届けて 運命を 越えて

「・・・妹は気付きました、姉の歌声に・・・」

やはりマユミもここで声を切り替えねばならない。
マユミはここの切り替えの為に妹を露骨なロリ声で作っている・・・その声を引きずらないように、少し間をあけてナレーションに入った。


そして互いの歌声を頼りに二人の歌姫が近付いていく。
・・・マユミとミーアも、実際に近づいていった。


「お姉ちゃん!会いたかった・・・会いたかったよ!」

再会を果たした姉妹がしっかりと抱きしめ合うこのシーンだが・・・


最後列では、ここぞとばかりにパンプルが百合百合しい絵を掲げたのだった。
パンプル・ムゥス渾身の一枚だ、普通に素晴らしい絵画でもあったが・・・

「これは・・・尊い!」
「なんなんだ・・・この胸の熱さは・・・」

その絵を見た人々の一部が何かに目覚めていった。

(ああ・・・ボクはなんと罪作りな絵を描いてしまったのだ・・・)

彼女はどこか悲痛な、それでいて満足げな表情で、堕ちていく人々を見つめていた。


そしてマユミとミーアの歌が合わさる・・・物語も大詰めだ。


ミーアは練習の日々を思い出していた・・・

マユミと一緒にがんばった、大きな舞台で成し遂げた・・・ミーアの頬を涙が伝う・・・


マユミも練習の日々を思い出していた・・・

ここは特に難しかった、ミーアに何度も怒られた、下手だと言われた・・・マユミの頬を涙が伝う・・・


二人の歌姫が涙を流して再会を喜び、一緒に歌を歌う・・・

そんな感動的な光景のまま物語は終焉を迎えたのだった・・・



「ナーデ、君の友達はすごいな」
「当り前よ、私の最高のお友達ですもの」

多くの観客達の歓声に包まれるマユミ達を眺めながら・・・
美形の兄妹が、互いによく似た満足げな表情を浮かべていた。

「この盛況振りなら、諸経費も賄えるだろうね、一安心だ」
「まぁ、もしうまくいかなかったらお兄様はどうするおつもりでしたの?」
「経費が侯爵家の負債になって、私はミラストルにこってり絞られただろうね」

そう言って肩をすくめてみせる兄だった。

「カイル兄様、今回は助かりました、ありがとうございます」
「どういたしまして、私としてもいいものを見せてもらえたし、妹にも良い格好が出来た」
「お兄様・・・」
「しかしマユミさんか・・・彼女はおもしろいね、一度ゆっくり話がしたいものだ」
「それはダメです」

その申し出にはきっぱりと断るエレスナーデだった。
・・・この美形兄にマユミを取られるわけにはいかない。

「ではナーデ、彼女は君がしっかり護ってあげてくれ・・・少し面倒な事が起こりそうだからね」
「そんなの当り前です」
「ふふっ・・・それは心強いな、頼んだよ」

そう言って彼はその場を後にする・・・事後処理の仕事がかなりありそうだ。


その場に一人残されたエレスナーデに不安がよぎる。
・・・あの兄が心配するような面倒事とはいったい・・・

「ナーデ!」

その声に振り替えると、マユミ達が駆け寄って来るところだった。

自分に何が出来るのか、考えねばならないのかも知れない・・・この笑顔を護るために・・・

とりあえず今は、精一杯の労いを・・・この愛すべき大切な二人に。


・・・しかし、すっかり疲れ切った二人は屋敷に帰ると糸が切れたように眠ってしまうのであった。

「しょうがないわね・・・」

エレスナーデは二人を自分のベッドに寝かしつける。
・・・マユミが気に入っていたこの「ふかふかベッド」が二人を癒すことを祈って・・・

「すやすやすや・・・」
「すやすやすや・・・」

二人は仲良くすやすやと寝息をたてながら眠っていた。
しばらくその寝顔を愛しそうに眺めていたエレスナーデだが・・・

「ふゎぁ・・・」

二人に釣られたのか自分も眠くなってきた・・・

「すやすやすや・・・」

たまには三人で一緒に寝るのも悪くない。
・・・そんな事を思いながら、彼女はまどろみに落ちて行った・・・
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