英雄じゃなくて声優です!

榛名

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第87話 アニメ制作会議です

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「アニメって・・・無理に決まってるでしょ!あんた馬鹿なの?!」

反射的にミズキが叫ぶ。
マユミのその言葉を正確に理解出来たのは彼女だけだった。
他の3人は何事かと首をかしげる・・・この世界に存在しないのだから当然の反応だ。

「ミズキ・・・マユミを馬鹿にするなら・・・許さないよ?」

ミーアの周りで魔力が渦巻く・・・
アニメはわからなくても、ミズキの発言は理解出来た。
不穏なその気配に、慌ててマユミがフォローに入る。

「ミーアちゃん?!今のは私が悪いから、落ち着いて・・・」
「マユミは何も悪くない・・・だいたいミズキはいつもマユミに気安い・・・」
「ちょ・・・やめてってば!ほらミーアちゃん、落ち着こう?」

マユミが後ろからぎゅっと抱きしめる形でミーアを押さえつけ、頭を撫でる。
周囲の魔力が霧散するのを見て、ミズキは言葉を続けた。

「・・・あっちの世界でもアニメを作るのがどれだけ大変か・・・私でもわかるわよ?」

現実世界でもアニメを一本作るのには大勢の人間の血の滲むような労力が求められる。
ましてこの異世界でアニメを作ろうなど・・・無理と切り捨てられるのも仕方ない話だ。

「うん・・・まぁそうなんだけど・・・皆の力でなんとかならないかなって・・・」
「そうは言ってもねぇ・・・」

周囲の人物を見回す・・・台本はミズキが書くとして、絵は?まさかパンプル一人で?
よしんば描けるとして、撮影機材もマイクも放送設備もテレビもない。

「やっぱり無理でしょ・・・」
「そうかな・・・」

暗く沈み込む二人だが、他の3人はまだ状況がわからずにいた。

「ねぇマユミ・・・そのアニメというのは、いったいどんなものなの?」
「そうだね、それがわからないとボクも何とも言えないよ」
「大丈夫、マユミならきっとできる」

ミーアはマユミを信じるだけだ。
これまでもマユミは彼女達と色々な事をやり遂げてきた・・・出来ない事などないはずだ。

「ありがとうミーアちゃん、でもこれは私もダメ元ではあるんだ・・・」
「マユミ・・・」
「ええと、アニメっていうのはね、異世界の物語の一種なんだけど・・・」

アニメについて、ミズキが説明する。
幸い紙があったので、絵を動かす事の説明がしやすかった。

「なるほど、絵を動かすというのは面白い発想だね」

絵の話という事もあってパンプルは興味を持ったようだ。
試しに簡単な絵を数枚描いてパラパラとめくる・・・相変わらず仕事が早い。

(うわ・・・この人こんなに早いんだ)

その速度にミズキは少し考えを改めた、絵は何とかなるのかも知れない、と・・・
となると次の問題は・・・

「どのくらいの人に見せたいか・・・ね、わかってるだろうけど大陸中に放送とかは土台無理よ?」
「うん、わたしもそこまでは・・・希望としては劇場でやれたらいいなって・・・」
「まぁそれくらいはやりたいわよね・・・」

ただ作って満足なら、その場で絵をめくりながら声を当てるだけでいい。
だがやるからには観客に見せたい、出来るだけ多く・・・
マユミ達の公演の事も踏まえて、劇場でやれるのが理想的だ。

「劇場の観客に見せるとなると・・・ずいぶんな大きさが必要なのかな?」
「そんな大きい絵をパラパラめくるのは無理でしょ・・・」
「たしかに・・・」
「そもそもパラパラめくるっていうのが無理なんだけどね、枚数的に・・・」

アニメでは一秒間に何十枚もの絵を使う、最小限の枚数で済ますにしても10枚は欲しい。
それでも1分あたり600枚だ、パラパラめくれる枚数ではなかった。

「だから専用の機械があったり、フィルムにしたりするんだけど・・・」
「フィルムというのは?」
「ひたすら長い透明の紙みたいな物よ、それをこう巻いて・・・この辺に光を当てて絵を映すの」

手元の紙の両端を巻いてフィルムの形を再現する。
不格好だが、言わんとしている事は伝わったらしい。

「ここが回転して片側に巻き取られる事で、めくるのと同じ効果をもたらすってわけよ」
「つまり、そのフィルムっていうのがあればいいのね?」
「そう・・・なるかな・・・巻き取るのとかはなんとか出来そうだもんね」

光を当てて投影したり、フィルムを巻き取ることは魔術を駆使すれば何とかなるだろう。
そこに直接絵を描くという事を考えると、この場合要求されるのはフィルム以上に面倒な代物だが・・・

「透明で、絵が描けて、ある程度の量が確保出来る物・・・」

はたしてそんな物が存在するのだろうか・・・
少なくとも現実世界で入手できるような素材には該当出来る物がない。
ミスリル、オリハルコン・・・ファンタジー世界特有の不思議素材に期待するしかない。

「・・・残念だけどこれといった都合のいい素材はないわね」
「だよね・・・」

実際多くの物が集まる港町で買い物をした時もそんな物を見た覚えがない。
もしあったとしても希少な物質で大量入手などは出来ないだろう。

「一応聞くけど・・・薄い紙を使うのはどう?」

実際に大量に紙を消費してきたミズキが問いかける。
製紙技術は存在しているのだ、透明度を持たせられるまで薄くした紙ならあるいは・・・
紙ならば産地も程近く、量の確保も簡単だ、良いアイディアかと思われたが・・・

「あまり薄い紙だと絵を描く時に破けてしまうよ」
「・・・ですよねー」

・・・絵描きにそう言われては諦めるしかなかった。
そうでなくてもこの世界の技術では紙の耐久度には難がある、投影中に破ける可能性もあった。

「魔術でなんとかなったりは・・・しないよね」

そう言いかけて・・・引っ込めるマユミ。
さすがにそれは都合が良すぎる話というものだろう。

「そうね・・・そんな枚数を長時間維持するような魔術なんて・・・想像もつかないわ」

この場にはエレスナーデとミーアという魔力の高い人物が二人もいるが・・・
とてもアニメの上映に耐えられるとは思えなかった。

「ああ・・・こんな事なら魔術で絵を描く練習もしておくんだった」

魔術で直接空間に絵を描く・・・パンプルならばあるいは出来たのかも知れない。
しかし彼女はなまじ普通に描く速度が速いのもあって、そんな魔術に興味を持つこともなかったのだ。
今から習得するにしても、彼女の魔力と才能ではいつになるかわからない。

「・・・」

重たい静寂が部屋を支配する・・・これ以上の良い案は出て来なそうだった。
皆が絶望感に捕らわれる中、ミズキが意を決して口を開いた。

「・・・となると、もう絵からは離れた方がいいわね」
「絵から・・・離れる?」
「ん、優秀な絵描きがいる所もったいないけど、絵を描いて動かすってやり方は捨てましょ」
「でもそれじゃ・・・」
「待って、何か他に方法があるのね?」

そこで表情を変えたのはエレスナーデだった。
諦めきれない様子で食い下がろうとするマユミを抑え、話の続きを促す。

(さすがに鋭いわね・・・)

彼女の察しの良さに関心しながらミズキは説明を続けた。

「美麗作画によるアニメってのは、私も憧れるものがあるけど・・・マユミ様」
「?」

突然自分に話を振られて困惑するマユミへ、ミズキは問いかける。

「別にアニメが出来るなら、絵のクオリティは最低レベルでも文句ないわよね?」
「え・・・まぁ・・・私もそんなハイレベルなのは求めてないけど・・・」

質問の意図がよくわからないまま、マユミは答えた。
確かに、世の中には絵が綺麗じゃないとアニメじゃないという人々もいるらしいが・・・
マユミにはそんなこだわりはない、だがそれが何だというのか・・・

だがミズキはマユミの返答に満足げな表情を浮かべ、話を続けた。

「なら決まりね、影絵でいきましょ」
「影絵?」
「そうか、影絵を動かすのか!」
「あ、ミーアちゃん影絵っていうのはね・・・実物を見せた方がいっか」

影絵というものをわかっていないミーアに、マユミーアで使った光る宝玉を出して説明する。
とりあえずマユミは手を使ってキツネを作って動かしてみせた。

「ほら、キツネに見えるでしょ?コンコン」
「うん、キツネに見える・・・すごい」
「・・・これを人形とか使ってやるわけよ、人形を動かすくらいは魔術でやれるわよね?」
「影だけでいいなら、人形である必要もないわね・・・」
「土くれで形を作って動かすくらいならボクでもすぐに出来そうだ」

パンプルが実際にその場で試してみる・・・
複雑な形をした土が形成され、想像以上の美しい影絵を生み出していた。

「うんいける・・・これならいけるよ、ありがとう!」
「ふふふ、さすが天才ミズキちゃんと褒め称えるが良いわ」

影絵を採用することで難易度は大幅に下がったようだ、これなら実現も可能だろう。
自分のおかげだとばかりに得意げに胸を張るミズキだったが・・・

「さすがパンプルさんだね、弘法筆を選ばずっていうけど、こんな事まで出来るなんて・・・」
「ちょ・・・私も褒めなさいよ」
「はいはい、ミズキちゃんもすごいよ、ありがとう」
「むー」

子供のようにマユミに撫でられながら、不満そうな顔をするミズキだった。

「こうぼう?何のことだろう・・・」

工房・・・アトリエの事だろうか・・・
マユミの言った言葉がわからず、一人首をかしげるパンプルだった。


「それじゃあ次は、やるお話を決めないと・・・」

目途がついた所で会議は内容に話へ移る、脚本担当といえばミズキだが・・・

「そんなのアレしかないでしょ、山田真弓さん・・・」
「え・・・まさか・・・」

あえて現実世界でのフルネームでマユミを呼んだミズキ・・・とても嫌な予感がした。

「この水樹ダイアナ先生の傑作にして、声優山田真弓のデビュー作、アレ以外の選択肢なんてないわよ」
「マユミのデビュー作?」
「それはぜひ見てみたいわ」
「すごく興味があるね」
「や・・・みんな、ちょっと待って・・・アレは・・・」

マユミは止めようとしたがもう遅い。
『マユミのデビュー作』と聞いて皆興味津々になっていた。
とてもやりたくないなどとは言えない雰囲気が出来上がってしまっている。

「安心しなさい、マユミ様の役はそのままでいくから・・・皆もそれでいいわよね?」

その問いかけに・・・マユミを除いた全員が頷いた。

「ううぅ・・・」

『異世界ではロリ婚は合法です』・・・通称『ロリ婚』
まさかこの異世界でそのアニメを演じる事になろうとは・・・
マユミの周囲では、全員が期待に満ちた目でマユミを見つめていた。

「わ、わかったわよ!私の本気の演技を見せてあげるわ!」

観念したマユミがやけくそ気味に叫ぶと、4人が拍手で応えるのだった。
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