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第8話 金髪碧眼の侯爵令嬢です
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結局、マユミは侯爵の招きに応じる事にした・・・
家もなければ金もなく、この世界の常識もわかっていない異世界人だ、しかも弱い。
このままでは生存すら危ぶまれる。
ゲオルグの案内で森を抜け、馬で駆けることしばらく・・・時計がないので時間はよくわからない。
やがて、いかにも中世風といった街並みが見えてきた。
石レンガを積みあげた建物の数々が幻想的だ・・・森が近いせいか木造の建築物もそこそこあるようだ。
「うわぁ・・・」
日本に居ては決して見られない光景にマユミは感動を覚えた。
「ここが我が侯爵領の中心地、グリューエンの街です」
隣の馬から得意げな侯爵の声。
侯爵は馬の扱いが得意ではないらしく、マユミはゲオルグの馬に同乗させてもらっていた。
・・・騎士だけあってゲオルグは馬の扱いが上手く、マユミを丁寧に扱ってくれてはいたが、マユミにとって乗馬は初めての上、ここまでなかなかの速度で駆けてきたのだ、身体のあちこちが痛かった。
だがこの街はマユミにとって初めて目にするものばかり、身体の痛みよりも好奇心が勝ったようだ。
「ゲオルグさん、あれは何ですか?」
「宿屋です、街の入り口付近とあって、このあたりは宿屋が多く建っています」
どの宿屋も大きく、大勢の宿泊客が泊まれそうだ。
この街は結構栄えているらしい、人通りも多く活気を感じた。
やがて、街の中心地だろうか・・・商店が建ち並ぶエリアに差し掛かる。
食料品や衣料、剣や槍などの武具、日用雑貨などざまざま物が売られている。
その中でもマユミの目を引いたのは・・・
「ゲオルグさん、あれは?」
「あれは、紙屋と言いまして・・・」
「紙?ひょっとして羊皮紙じゃない紙?」
植物繊維で作られた紙であった。
画用紙ほどの大きさの和紙のような紙が大雑把に紐で纏められて店先に並んでいる。
「あれに目をつけるとはさすがはマユミ殿!
この紙はここの特産品ですが、かつて異世界の英雄がもたらしたとの伝承がありますぞ」
マユミのその反応を見てか侯爵が解説してきた。
なるほど、中世ヨーロッパ風の世界に紙があるのも納得できる。
「かつて最強の戦士と言われた剣聖ノブツナは、その剣の一振りで木から紙を削り出す事が出来た、という話もあります」
ゲオルグも話に乗ってきた、一人の戦士として最強と名高い人物に憧れるものがあるのだろう。
・・・さすがに実話とは思いがたい話ではあったが・・・
しかし、マユミにはもっと別の事が引っかかった。
(ノブツナ?・・・織田信長とかその辺の時代の人かな)
どう見ても日本を感じる名前だ。
その後もしばらくマユミの質問攻めは続いたが、その一つ一つをゲオルグが・・・英雄に関するエピソードがあるものは侯爵が・・・丁寧に説明してくれた。
そして3人は、大きな屋敷へとたどり着いた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
屋敷の主の帰りを数人の使用人達が整列して出迎える。
(うわ、お屋敷だ、執事だ、メイドさんは・・・いないのかな)
お屋敷の定番ともいうべきそれらだが、メイドの姿は見当たらなかった。
さすが侯爵家と言うべきか、とても大きなお屋敷なので、ここからは見えない場所で仕事中なのだろう。
「じい、客人用に部屋を用意せよ、大事な客人だ、丁重にな」
「畏まりました、お食事はいかがいたしましょうか?」
「うむ、今宵は歓迎の宴とする、良いものを頼むぞ・・・何か余興もあった方がいいな・・・」
「や、そんなおかまいなく・・・普通のでお願いします・・・って余興?!」
豪華絢爛な貴族のパーティがマユミの脳裏をよぎる・・・あんなことをされても困る。
「侯爵、吟遊詩人を招いてはどうでしょうか?マユミ殿の参考になるかと・・・」
「英雄譚か、それはいい!過去の英雄の活躍はマユミ殿の今後の参考になるだろう・・・よし、さっそく手配せよ」
「だから私は英雄なんかじゃ・・・」
やはりまだ英雄扱いらしい、理解してもらうには時間がかかりそうだ・・・
うんざりするマユミだったが、思わぬ返答が返ってきた。
「声優、でありましょう?マユミ殿の話を聞き、吟遊詩人はそれに近いのではないかと・・・」
「あ・・・たしかに」
なるほど、さすがにゲオルグは彼なりに理解してくれているようだ。
マユミは少し、気が楽になった。
「ささ、マユミ殿、応接間まで案内しますぞ」
屋敷の主自らの案内で応接間に向かう。
・・・その道すがら・・・
「お帰りなさいませお父様、ゲオルグ・・・あら、その娘はなんですの?」
金髪碧眼の少女・・・だろうか、美少女と言って差し支えない整った顔立ちだ。
少女の年齢よりも少し大人びたその表情が訝しげに歪む。
「エレスナーデお嬢様、彼女は・・・」
「おおエレスナーデ!よく聞くのだ、彼女こそ我ら侯爵家が長年待ち望んだ伝説の英雄!その名はマユミ殿である!」
無難な紹介をしようとしたゲオルグを押しのけ、侯爵が力いっぱいにマユミを紹介した。
「・・・はぁ?」
(・・・ですよねー)
当然の反応である。
極めて常識的なリアクションに、この人はまともだと安心したマユミだが、この状況はあまりよろしくない。
マユミを見る令嬢の瞳は冷たく・・・まるで冷気を帯びているかのように感じられた。
(あ・・・すごく嫌な予感がする)
「この娘を、つまみ出しなさい!」
家もなければ金もなく、この世界の常識もわかっていない異世界人だ、しかも弱い。
このままでは生存すら危ぶまれる。
ゲオルグの案内で森を抜け、馬で駆けることしばらく・・・時計がないので時間はよくわからない。
やがて、いかにも中世風といった街並みが見えてきた。
石レンガを積みあげた建物の数々が幻想的だ・・・森が近いせいか木造の建築物もそこそこあるようだ。
「うわぁ・・・」
日本に居ては決して見られない光景にマユミは感動を覚えた。
「ここが我が侯爵領の中心地、グリューエンの街です」
隣の馬から得意げな侯爵の声。
侯爵は馬の扱いが得意ではないらしく、マユミはゲオルグの馬に同乗させてもらっていた。
・・・騎士だけあってゲオルグは馬の扱いが上手く、マユミを丁寧に扱ってくれてはいたが、マユミにとって乗馬は初めての上、ここまでなかなかの速度で駆けてきたのだ、身体のあちこちが痛かった。
だがこの街はマユミにとって初めて目にするものばかり、身体の痛みよりも好奇心が勝ったようだ。
「ゲオルグさん、あれは何ですか?」
「宿屋です、街の入り口付近とあって、このあたりは宿屋が多く建っています」
どの宿屋も大きく、大勢の宿泊客が泊まれそうだ。
この街は結構栄えているらしい、人通りも多く活気を感じた。
やがて、街の中心地だろうか・・・商店が建ち並ぶエリアに差し掛かる。
食料品や衣料、剣や槍などの武具、日用雑貨などざまざま物が売られている。
その中でもマユミの目を引いたのは・・・
「ゲオルグさん、あれは?」
「あれは、紙屋と言いまして・・・」
「紙?ひょっとして羊皮紙じゃない紙?」
植物繊維で作られた紙であった。
画用紙ほどの大きさの和紙のような紙が大雑把に紐で纏められて店先に並んでいる。
「あれに目をつけるとはさすがはマユミ殿!
この紙はここの特産品ですが、かつて異世界の英雄がもたらしたとの伝承がありますぞ」
マユミのその反応を見てか侯爵が解説してきた。
なるほど、中世ヨーロッパ風の世界に紙があるのも納得できる。
「かつて最強の戦士と言われた剣聖ノブツナは、その剣の一振りで木から紙を削り出す事が出来た、という話もあります」
ゲオルグも話に乗ってきた、一人の戦士として最強と名高い人物に憧れるものがあるのだろう。
・・・さすがに実話とは思いがたい話ではあったが・・・
しかし、マユミにはもっと別の事が引っかかった。
(ノブツナ?・・・織田信長とかその辺の時代の人かな)
どう見ても日本を感じる名前だ。
その後もしばらくマユミの質問攻めは続いたが、その一つ一つをゲオルグが・・・英雄に関するエピソードがあるものは侯爵が・・・丁寧に説明してくれた。
そして3人は、大きな屋敷へとたどり着いた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
屋敷の主の帰りを数人の使用人達が整列して出迎える。
(うわ、お屋敷だ、執事だ、メイドさんは・・・いないのかな)
お屋敷の定番ともいうべきそれらだが、メイドの姿は見当たらなかった。
さすが侯爵家と言うべきか、とても大きなお屋敷なので、ここからは見えない場所で仕事中なのだろう。
「じい、客人用に部屋を用意せよ、大事な客人だ、丁重にな」
「畏まりました、お食事はいかがいたしましょうか?」
「うむ、今宵は歓迎の宴とする、良いものを頼むぞ・・・何か余興もあった方がいいな・・・」
「や、そんなおかまいなく・・・普通のでお願いします・・・って余興?!」
豪華絢爛な貴族のパーティがマユミの脳裏をよぎる・・・あんなことをされても困る。
「侯爵、吟遊詩人を招いてはどうでしょうか?マユミ殿の参考になるかと・・・」
「英雄譚か、それはいい!過去の英雄の活躍はマユミ殿の今後の参考になるだろう・・・よし、さっそく手配せよ」
「だから私は英雄なんかじゃ・・・」
やはりまだ英雄扱いらしい、理解してもらうには時間がかかりそうだ・・・
うんざりするマユミだったが、思わぬ返答が返ってきた。
「声優、でありましょう?マユミ殿の話を聞き、吟遊詩人はそれに近いのではないかと・・・」
「あ・・・たしかに」
なるほど、さすがにゲオルグは彼なりに理解してくれているようだ。
マユミは少し、気が楽になった。
「ささ、マユミ殿、応接間まで案内しますぞ」
屋敷の主自らの案内で応接間に向かう。
・・・その道すがら・・・
「お帰りなさいませお父様、ゲオルグ・・・あら、その娘はなんですの?」
金髪碧眼の少女・・・だろうか、美少女と言って差し支えない整った顔立ちだ。
少女の年齢よりも少し大人びたその表情が訝しげに歪む。
「エレスナーデお嬢様、彼女は・・・」
「おおエレスナーデ!よく聞くのだ、彼女こそ我ら侯爵家が長年待ち望んだ伝説の英雄!その名はマユミ殿である!」
無難な紹介をしようとしたゲオルグを押しのけ、侯爵が力いっぱいにマユミを紹介した。
「・・・はぁ?」
(・・・ですよねー)
当然の反応である。
極めて常識的なリアクションに、この人はまともだと安心したマユミだが、この状況はあまりよろしくない。
マユミを見る令嬢の瞳は冷たく・・・まるで冷気を帯びているかのように感じられた。
(あ・・・すごく嫌な予感がする)
「この娘を、つまみ出しなさい!」
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