31 / 90
第31話 仲間との出会いです
しおりを挟む
港町オルトレマーナ・・・
王国の南方に位置するこの街は、交易の中心地として栄えている商業都市だ。
行き交う人々の数は王国一とも言われ、とても活気に溢れていた。
「ナーデ、あれ海だよね?見に行って良い?」
初めて見る海にマユミはテンションが上がっていた・・・放っておいたら海まで駆けて行ってしまうのではないかと思い、エレスナーデは彼女の腕をしっかりと掴む。
「待ちなさい、ここの領主への挨拶が先よ」
「レマーナ伯爵だっけ、しばらくお世話になるんだよね」
(変な人じゃないといいけど・・・)
マユミが知る爵位を持った人物は侯爵だけなので、妙な先入観が付き纏ってしまう。
エレスナーデから聞いた限りでは真面目な好人物らしいが・・・
「うちの家とレマーナ伯爵家は昔から懇意にしているの、おかげで今回も色々と便宜を図ってもらえたわ」
特に伯爵の屋敷に寝泊りさせてもらえるのは大きい、侯爵領に比べて治安が悪いという話を聞いているし、身の回りの安全が保障されているのは安心感があった。
「ここは賑やかな街だね」
「王都を始め主要な各都市と繋がっていますから、人も物も溢れているんです・・・マユミ殿の、吟遊詩人の仕事にも都合が良いのでないかと思われます」
「うん、後で先生がよく歌ってたっていうお店でやってみるつもりだけど・・・」
「出来れば今夜は伯爵の屋敷でゆっくりお休みになって、明日の昼にでも・・・」
この街の夜の治安を考慮すれば、吟遊詩人の仕事は昼に留めてもらいたいと願うゲオルグであった。
大通りに近付くにつれて行き交う人の数が増えてくる。
何か催しでもやっているのだろうか・・・大通りは人でごった返していた。
『椋鳥一座の新作公演!今宵、新たな伝説の目撃者に君もなってみないか?』
「一座の公演?演劇かな、演劇かな、どこかに舞台みたいなのがあるのかな?」
どうやら旅芸人の一座が宣伝の為にパレードをしているようだ、煽情的な格好をした美女を先頭に個性豊かな団員達が続く・・・マユミは興味津々といった様子でこのパレードを眺めていた。
伯爵の屋敷へはこの大通りを通っていく必要があるのだが・・・これだけの人々の流れに逆らって進むのはかなり大変そうだ。
「回り道が出来れば良かったんだけど・・・マユミ、ここははぐれないように・・・ってマユミ?!」
振り返った先にさっきまでそこにいたマユミの姿はなく・・・その姿は人混みの中で、流されていた。
どうやらパレードに気をとられ過ぎたらしい、その姿がどんどん遠ざかっていく・・・
慌てて追いかけようとするが、人混みの中を進むのは困難で・・・マユミはすぐに見えなくなってしまった。
「ゲオルグ、あなたは荷物を持って先に伯爵の屋敷へ、マユミは私が見つけて連れていくわ」
「わかりました、荷物を置いたら私も迎えに出ます」
・・・こうして到着早々から3人はバラバラに動くことになったのである。
「あれ、ナーデ?ゲオルグさん?どこ?」
マユミが気付いた時には、もう完全に二人とはぐれていた。
周囲を見回してみたが、見覚えがない場所だ・・・どうやらずいぶんと流されてしまったらしい。
(うわ、見知らぬ土地で迷子だこれ・・・)
ここでおとなしく待っていればそのうちエレスナーデが見つけてくれるかも知れないが・・・マユミはじっとしていられる性格ではない。
とりあえずマユミは現在値を中心に辺りを探索してみる事にした。
この辺りは街の入り口付近なのだろうか・・・おそらく宿と思われる大きな建物が多い。
高い所から見下ろせば色々わかるのではないかと、その中から高さのある建物に近付くと、そこでマユミの耳に『声』が聞こえた。
その『声』が聞こえた方・・・建物の裏側へと回ると、そこは広場になっており・・・一人の幼い少女が佇んでいた。
その少女は、マユミより年下だろうか・・・金髪のふわふわとした巻き毛と整った顔立ちがどこか幻想的な・・・妖精のような雰囲気を醸し出していた。
少女はマユミに気付いた様子もなく、それでいて一人で何事かを喋っているようだった。
・・・その様子を見たマユミはすぐに気付いた。
(これ、お芝居の練習だ・・・)
よく見ると少女の足元には台本と思しき紙の束が転がっていた。
・・・ひょっとしたら先程の一座の子なのかも知れない。
マユミは少女の練習の邪魔にならないように静かに近付いて、その芝居を観察する事にした。
「お願いです・・・私などの為にあなたが傷つくところをもう見たくないのです」
(うわ・・・綺麗な声)
悲恋物のヒロイン役だろうか・・・少女の幼い見た目に反して、大人の雰囲気を纏った美しい声・・・基本が高音ロリ声のマユミには出せない音域だ。
(いい声だなぁ・・・羨ましいな・・・)
そう思いながらマユミが見ていると・・・台詞に詰まったのか、少女は台本を拾い上げ・・・そこでマユミと目が合った。
「え・・・」
「あ・・・」
・・・二人の声が微妙な不協和音を奏でた。
「ご、ごめんなさい、邪魔をするつもりはなかったの・・・ちょっとお芝居に興味があって見てたというか・・・その・・・」
しどろもどろになっているマユミの元へ少女は近付いていき・・・そして・・・
「あなたも・・・やってみる?」
・・・そう言って少女は、台本を差し出した。
「えっ、いいの?」
・・・こくり。
どうやら少女は練習相手を欲していたらしい。
マユミに自分の相手役をあてがい、先程の役で芝居を続ける。
(ああ・・・なんか楽しい)
苦手な男役に加えて初見の台本ということもあり、マユミの演技はぎこちないものがあったが、相手役がいる状態での演技、所謂「掛け合い」はすごく久しぶりで・・・とても楽しかった。
それは目の前の少女にとっても同じらしく・・・先程一人で演じていた時よりも、いきいきとやっているのが伝わってくる・・・
時間が経つのも忘れて二人が芝居に夢中になっていると・・・
「マユミ、こんな所にいたのね・・・探したわよ」
「あ、ナーデ」
あちこちマユミを探し回っていたエレスナーデがようやく見つけたマユミの元へ駆け寄ってくる。
「だれ?」
「この子はナーデっていう・・・私の友達なんだ・・・ああそうそう、私はマユミ、よろしくね」
少女にエレスナーデを紹介しつつ、自分が名乗ってもいなかったことを思い出したマユミ。
「マユミ、この子は・・・」
「ええと・・・君はなんて名前なのかな?」
「ミーア・・・」
「ミーアちゃんだって、この子小さいのにすごく上手いんだよ」
「小さいのはあなたも一緒でしょ、ほら行くわよ」
なにげに酷い事を言われた気がするが、迷子をやっていた自分に文句を言う資格はない。
「ごめんねミーアちゃん、私もう行かなきゃいけないんだ・・・今日はありがとう、楽しかったよ」
「うん・・・私も・・・楽しかっ・・・」
「マユミ、早くしないと日が暮れてしまうわ」
「うん、またね、ミーアちゃん」
慌ててエレスナーデを追いかけるマユミ・・・その姿が見えなくなるまで少女、ミーアは見つめていた。
「マユミ・・・か・・・」
またね、と言っていた・・・しかし本当にまた会えるかどうかはわからないあの少女の事を忘れないように、その名前をしっかりと心に刻み付けるミーア。
やがて、台本を手に再び練習を始めるミーアだったが・・・
「おいミーア、なんだその芝居は・・・」
「座長・・・みんな・・・」
パレードを終えた一座の面々が戻ってきたのだ・・・彼ら一座はここの宿に宿泊し、この広場を舞台に公演をする予定である。
「お前にはもっと客に媚びた芝居をしろって言ってるだろ!愛想の欠片もない声出しやがって・・・」
「でも・・・この役にそういうのは・・・」
「あん?見た目しか取り柄がないガキのくせに、口だけは一人前だな」
「座長~、やっぱり今度のヒロインは~、私の方が良いんじゃないですか?」
パレードの先頭にいた美女が座長にしなだれかかりながら甘い声を出す。
「それもありだが・・・しかしこいつにも金が掛かってるからな・・・もっと使えるかと思ったんだが」
「座長、もうここらで売っちまえば良いんじゃないっすか?」
少女本人の前だというのに彼らは平気でそんな話をしている・・・誰も気にする様子はなかった。
「まぁ今回の公演次第だな、お前も売られるのが嫌なら気張れよ」
そう言い残して、彼らは宿の方へ歩いて行った・・・
王国の南方に位置するこの街は、交易の中心地として栄えている商業都市だ。
行き交う人々の数は王国一とも言われ、とても活気に溢れていた。
「ナーデ、あれ海だよね?見に行って良い?」
初めて見る海にマユミはテンションが上がっていた・・・放っておいたら海まで駆けて行ってしまうのではないかと思い、エレスナーデは彼女の腕をしっかりと掴む。
「待ちなさい、ここの領主への挨拶が先よ」
「レマーナ伯爵だっけ、しばらくお世話になるんだよね」
(変な人じゃないといいけど・・・)
マユミが知る爵位を持った人物は侯爵だけなので、妙な先入観が付き纏ってしまう。
エレスナーデから聞いた限りでは真面目な好人物らしいが・・・
「うちの家とレマーナ伯爵家は昔から懇意にしているの、おかげで今回も色々と便宜を図ってもらえたわ」
特に伯爵の屋敷に寝泊りさせてもらえるのは大きい、侯爵領に比べて治安が悪いという話を聞いているし、身の回りの安全が保障されているのは安心感があった。
「ここは賑やかな街だね」
「王都を始め主要な各都市と繋がっていますから、人も物も溢れているんです・・・マユミ殿の、吟遊詩人の仕事にも都合が良いのでないかと思われます」
「うん、後で先生がよく歌ってたっていうお店でやってみるつもりだけど・・・」
「出来れば今夜は伯爵の屋敷でゆっくりお休みになって、明日の昼にでも・・・」
この街の夜の治安を考慮すれば、吟遊詩人の仕事は昼に留めてもらいたいと願うゲオルグであった。
大通りに近付くにつれて行き交う人の数が増えてくる。
何か催しでもやっているのだろうか・・・大通りは人でごった返していた。
『椋鳥一座の新作公演!今宵、新たな伝説の目撃者に君もなってみないか?』
「一座の公演?演劇かな、演劇かな、どこかに舞台みたいなのがあるのかな?」
どうやら旅芸人の一座が宣伝の為にパレードをしているようだ、煽情的な格好をした美女を先頭に個性豊かな団員達が続く・・・マユミは興味津々といった様子でこのパレードを眺めていた。
伯爵の屋敷へはこの大通りを通っていく必要があるのだが・・・これだけの人々の流れに逆らって進むのはかなり大変そうだ。
「回り道が出来れば良かったんだけど・・・マユミ、ここははぐれないように・・・ってマユミ?!」
振り返った先にさっきまでそこにいたマユミの姿はなく・・・その姿は人混みの中で、流されていた。
どうやらパレードに気をとられ過ぎたらしい、その姿がどんどん遠ざかっていく・・・
慌てて追いかけようとするが、人混みの中を進むのは困難で・・・マユミはすぐに見えなくなってしまった。
「ゲオルグ、あなたは荷物を持って先に伯爵の屋敷へ、マユミは私が見つけて連れていくわ」
「わかりました、荷物を置いたら私も迎えに出ます」
・・・こうして到着早々から3人はバラバラに動くことになったのである。
「あれ、ナーデ?ゲオルグさん?どこ?」
マユミが気付いた時には、もう完全に二人とはぐれていた。
周囲を見回してみたが、見覚えがない場所だ・・・どうやらずいぶんと流されてしまったらしい。
(うわ、見知らぬ土地で迷子だこれ・・・)
ここでおとなしく待っていればそのうちエレスナーデが見つけてくれるかも知れないが・・・マユミはじっとしていられる性格ではない。
とりあえずマユミは現在値を中心に辺りを探索してみる事にした。
この辺りは街の入り口付近なのだろうか・・・おそらく宿と思われる大きな建物が多い。
高い所から見下ろせば色々わかるのではないかと、その中から高さのある建物に近付くと、そこでマユミの耳に『声』が聞こえた。
その『声』が聞こえた方・・・建物の裏側へと回ると、そこは広場になっており・・・一人の幼い少女が佇んでいた。
その少女は、マユミより年下だろうか・・・金髪のふわふわとした巻き毛と整った顔立ちがどこか幻想的な・・・妖精のような雰囲気を醸し出していた。
少女はマユミに気付いた様子もなく、それでいて一人で何事かを喋っているようだった。
・・・その様子を見たマユミはすぐに気付いた。
(これ、お芝居の練習だ・・・)
よく見ると少女の足元には台本と思しき紙の束が転がっていた。
・・・ひょっとしたら先程の一座の子なのかも知れない。
マユミは少女の練習の邪魔にならないように静かに近付いて、その芝居を観察する事にした。
「お願いです・・・私などの為にあなたが傷つくところをもう見たくないのです」
(うわ・・・綺麗な声)
悲恋物のヒロイン役だろうか・・・少女の幼い見た目に反して、大人の雰囲気を纏った美しい声・・・基本が高音ロリ声のマユミには出せない音域だ。
(いい声だなぁ・・・羨ましいな・・・)
そう思いながらマユミが見ていると・・・台詞に詰まったのか、少女は台本を拾い上げ・・・そこでマユミと目が合った。
「え・・・」
「あ・・・」
・・・二人の声が微妙な不協和音を奏でた。
「ご、ごめんなさい、邪魔をするつもりはなかったの・・・ちょっとお芝居に興味があって見てたというか・・・その・・・」
しどろもどろになっているマユミの元へ少女は近付いていき・・・そして・・・
「あなたも・・・やってみる?」
・・・そう言って少女は、台本を差し出した。
「えっ、いいの?」
・・・こくり。
どうやら少女は練習相手を欲していたらしい。
マユミに自分の相手役をあてがい、先程の役で芝居を続ける。
(ああ・・・なんか楽しい)
苦手な男役に加えて初見の台本ということもあり、マユミの演技はぎこちないものがあったが、相手役がいる状態での演技、所謂「掛け合い」はすごく久しぶりで・・・とても楽しかった。
それは目の前の少女にとっても同じらしく・・・先程一人で演じていた時よりも、いきいきとやっているのが伝わってくる・・・
時間が経つのも忘れて二人が芝居に夢中になっていると・・・
「マユミ、こんな所にいたのね・・・探したわよ」
「あ、ナーデ」
あちこちマユミを探し回っていたエレスナーデがようやく見つけたマユミの元へ駆け寄ってくる。
「だれ?」
「この子はナーデっていう・・・私の友達なんだ・・・ああそうそう、私はマユミ、よろしくね」
少女にエレスナーデを紹介しつつ、自分が名乗ってもいなかったことを思い出したマユミ。
「マユミ、この子は・・・」
「ええと・・・君はなんて名前なのかな?」
「ミーア・・・」
「ミーアちゃんだって、この子小さいのにすごく上手いんだよ」
「小さいのはあなたも一緒でしょ、ほら行くわよ」
なにげに酷い事を言われた気がするが、迷子をやっていた自分に文句を言う資格はない。
「ごめんねミーアちゃん、私もう行かなきゃいけないんだ・・・今日はありがとう、楽しかったよ」
「うん・・・私も・・・楽しかっ・・・」
「マユミ、早くしないと日が暮れてしまうわ」
「うん、またね、ミーアちゃん」
慌ててエレスナーデを追いかけるマユミ・・・その姿が見えなくなるまで少女、ミーアは見つめていた。
「マユミ・・・か・・・」
またね、と言っていた・・・しかし本当にまた会えるかどうかはわからないあの少女の事を忘れないように、その名前をしっかりと心に刻み付けるミーア。
やがて、台本を手に再び練習を始めるミーアだったが・・・
「おいミーア、なんだその芝居は・・・」
「座長・・・みんな・・・」
パレードを終えた一座の面々が戻ってきたのだ・・・彼ら一座はここの宿に宿泊し、この広場を舞台に公演をする予定である。
「お前にはもっと客に媚びた芝居をしろって言ってるだろ!愛想の欠片もない声出しやがって・・・」
「でも・・・この役にそういうのは・・・」
「あん?見た目しか取り柄がないガキのくせに、口だけは一人前だな」
「座長~、やっぱり今度のヒロインは~、私の方が良いんじゃないですか?」
パレードの先頭にいた美女が座長にしなだれかかりながら甘い声を出す。
「それもありだが・・・しかしこいつにも金が掛かってるからな・・・もっと使えるかと思ったんだが」
「座長、もうここらで売っちまえば良いんじゃないっすか?」
少女本人の前だというのに彼らは平気でそんな話をしている・・・誰も気にする様子はなかった。
「まぁ今回の公演次第だな、お前も売られるのが嫌なら気張れよ」
そう言い残して、彼らは宿の方へ歩いて行った・・・
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる