英雄じゃなくて声優です!

榛名

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第32話 北の辺境伯と南の伯爵です

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マユミ達が港町オルトレマーナに到着したちょうどその頃・・・
グリュモール侯爵領、主都グリューエンでは領民達を騒然とさせる事態が起きていた。


街の北門・・・東西の街道に比べて往来の少ない北方への街道に繋がるこの門の前に整列するのは、白銀の鎧を身に纏った完全武装の騎馬が30騎・・・
この侯爵領に住まう者達にとって初めて見るその威容は・・・しかし噂話として、少なからずの人々に知られていた・・・

王国の北部から西側へと連なる山岳地帯・・・そこに住まうとされるドワーフ族が造りしその武具は、白銀の輝きを放つと言われている・・・
その白銀の武具を身に纏いしは、王国最強の誉れ高き銀の騎士団。
その盾に描かれしは三つ葉を思わせる三つのハート・・・王国北方の守護者、ヴァルトゥーン辺境伯直属の証である。

そしてその30騎を従えし壮年の人物こそが、おそらくは・・・

「ヴァルトゥーン辺境伯デュバンナムである!先触れなく申し訳ないが、グリュモール侯爵にお目通り願いたい!」

よく通るその力強い声は正しく彼の風格を感じさせた。
初めのうちは呆然と様子を伺っていた衛兵達だったが、その声を聞いて慌てて駆けていく・・・

「ふん・・・ずいぶんと練度の低い兵だな」
「言ってやるなセルビウスよ・・・それだけここが平和に統治されているという事でもあるのだからな」

隊の中でも歳若いセルビウスが呆れたようにそう口にするのを辺境伯が嗜める。
平和なはずの後方の兵士が常に気を張っていなければいけない状況というのも困るというものだ。
それから待つことしばし・・・グリュモール侯爵が自ら、彼らを出迎えに現れた。

「久しいなデュバンナム・・・いや辺境伯殿よ、もうかれこれ20年は経つか・・・あの鼻たれ坊主がずいぶんと立派になったものだ」
「恐縮です、侯爵殿の方こそ、ご健勝なようで安心致しました」
「儂に気を使う必要はないぞ、もう引退間際の老いぼれに過ぎんのでな・・・では屋敷に案内しよう」

侯爵と辺境伯が轡を並べ、銀の騎士たちが後に続く・・・
その光景を目撃した町の住民達の間では、様々な憶測や噂が飛び交ったという。


「さて辺境伯殿、お主がわざわざこんな所にまでやったきた用件を伺う前に申し訳ないが・・・」

侯爵の書斎・・・ジーブスに言って人払いはもう済ませてある・・・
辺境伯がその話題を口にする前に、侯爵は話を切り出した。

「・・・異世界の英雄殿はここにはおらんぞ?」
「さすが、お見通しでしたか・・・」

そう、辺境伯は異世界の少女マユミの事を聞きつけてやってきたのだ・・・
しかし辺境伯も予め予想が出来ていたのか、それを知らされても動じた様子はなかった。

「まぁ、ここで本人に会えないのは残念だが、彼女について、話くらいは聞かせていただこうか」

・・・マユミ達の知らない間に、事態は少しずつ動き始めていた。

・・・・・・

・・・

一方、マユミ達は無事に伯爵の屋敷へと辿り着いていた。
だがその建物は、屋敷と言うよりも・・・

「うわ・・・お城だ・・・お城だよナーデ!」
「そうやってはしゃいでるとまた迷子になるわよ」
「う・・・」

エレスナーデのその一言で固まるマユミ。
まさに物語の世界と言わんばかりのお城に舞い上がっていたが、確かに気を付けていないと迷いそうだ。
さすがに続けて二回も迷子になるのは、中身だけは大人のつもりでいるマユミとしては避けたい。

「・・・元々この街は城塞都市だったと言われているよ、この城はその名残なんだ」

やはりお城が建つにはそれなりの理由があるらしい・・・マユミは解説してくれた親切な人にお礼を・・・言おうとして、相手の身なりに気付いた。

(ひょっとして・・・この人がここの領主の・・・)

「レマーナ伯爵!遅くなって申し訳ありません」
「この街を楽しんで貰えているなら構わないさ、観光が目的だと聞いているしね」

気付いたエレスナーデが到着の遅れを謝罪する・・・やはりマユミが思った通りだ。
彼こそがこの街一帯の領主、レマーナ伯ベアリード・・・やさしそうな雰囲気の人物だった。

「しばらくぶりですが、美しくなったね・・・お父上もさぞ鼻が高いことだろう」
「まぁ、お上手な事で・・・レマーナ伯爵は少し、お痩せになられましたか?」
「ああ、政務の方が忙しくてね・・・」

痩せた、と言うよりもやつれた、といったニュアンスを感じた。
仕事熱心なのか領主としての責任感からなのか・・・どちらにせよ真面目な人物なのだろう。
ちょっと昔の自分を思い出して、いたたまれなくなるマユミだった。

「そこは我が父にも見習ってほしいくらいですけれど・・・あまり無理はなさらないでくださいね」
「ありがとう、滞在中はここを我が家と思ってくつろいでもらいたい・・・そちらのお友達もね」
「えっ・・・あ、はい、ええと・・・マユミと申します、お世話になります」

マユミの事は一応付き添いの侍女、という事で話を通していたはずだったが・・・どうやらエレスナーデの態度から推察したらしい。
・・・突然話を振られたのでどう答えたらいいかわからず、ペコペコと頭を下げるマユミだった。


二人に用意されたのはなかなかの広さを持った一室だった。
エレスナーデ用の部屋に世話役としてマユミが同席するという形だったはずだが、やはりマユミの事も配慮してくれているらしい。
二人で使うのに十分な広さ、窓からは海が見える・・・そして・・・

(こ、このベッドは・・・)

部屋には天蓋付きの大きなベッドが一つ・・・マユミが恐る恐る触れてみると、エレスナーデの部屋にあった物と同程度のふかふか具合だった。

「あー、なんかきゅうにたびのつかれがー」

わざとらしくそう言いながらベットに飛び込むマユミ。
どうやら疲れがあったのも事実だったようで・・・ふかふかのおふとんに包まれるとすぐに眠気がやって来た。

「すやすやすや・・・」
「もう、しょうがない子ね・・・ふぁ・・・」

瞬く間に寝息を立て始めたマユミの寝顔を見ていたら自分も眠くなってきたエレスナーデ。
やはり客人扱いで隣の部屋を用意されたゲオルグに今日はもう休むからと後を任せ、マユミの隣に横になる・・・
やはり彼女も疲れていたのだろう・・・マユミに引けを取らない寝つきの良さで眠りにつくのだった・・・
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